〈高瀬“大和”瑞希〉

長谷部“高千穂”彩〉、〈新城“穂高”さおり〉と、ポスト条約型戦艦を模索してきた大日本帝国海軍が建造した、ポスト隆山条約型の戦艦。当時海軍における定説となっていたエクストリーム理論を体現すべく、重武装、高防御、高速力の3点を高いレベルで融合させた傑作艦である。
 なお、空母戦力の増強を図った結果、〈武蔵〉と命名される予定だった2番艦用の資材は戦時急造型空母〈森川“雲竜”由綺〉級の建造に回されており、3番艦だったはずの〈澤田“信濃”真紀子〉が2番艦として就役している。

■〈高瀬“大和”瑞希〉の武装
〈高瀬“大和”瑞希〉に搭載された94式45口径40センチ砲は、周知の通り主砲口径の秘匿を狙った名称であり、実際の口径は46センチ50口径砲である。本砲は〈宮内“伊吹”レミイ〉の第二状態――実際には計画通りの状態――のために開発されていた三年式46センチ砲の改良型である。改良点は主に威力の増強を狙った、砲身延長と砲弾重量の増加、そして薬装の強化であり、その威力は、合衆国で開発され、〈ケンタッキー〉級に装備されたMk.1/43 457ミリ砲に比べて二回り上の威力を持っていた。
本級で特徴的であるのは、〈長谷部“高千穂”彩〉などでも検討されていた副砲の全廃が決行されたことにある。巡洋艦クラスの主砲と同口径の副砲という存在は、その存在理由――敵水雷戦隊の排除から考えるならばあまりにも中途半端であり、場合によっては防御面でのネックになる可能性もあった。そこで設計陣は高角砲を増強、その弾幕で敵駆逐艦を阻止するという思想を採用した(もちろんそこには、94式長10センチ砲という、優れた両用砲の実用化も影響している)。
当初は軍令部から「用兵に口を出すな」と非難された副砲廃止だったが、意外にも運用面では何ら問題なく――もちろんそこには大規模な水雷戦隊の襲撃が太平洋、大西洋ともに存在しなかったという事実もあったのだが――、現場での評価は悪いものでなかったと言う。
ただし、竣工当初からしばらくの間は長10センチ高角砲の生産が間に合わず、仕方なく右舷のみ長10センチを搭載、左舷側は旧式の八九式12.7センチ高角砲を搭載していた。

■〈高瀬“大和”瑞希〉の機関
 〈高瀬“大和”瑞希〉の機関は、〈長谷部“高千穂”彩〉、〈新城“穂高”さおり〉で経験を積んだ高温高圧缶を採用している。この結果、7万トンを超える巨体を最大33ノットで航行させることが可能になっている。また、〈長谷部“高千穂”彩〉で導入された大型の舶用ディーゼルも併用、その航続距離はこれまでにない長大なものになっている。また、〈長谷部“高千穂”彩〉建造時に比べ、大出力ディーゼル機関の信頼性も向上しており、〈長谷部“高千穂”彩〉の様に、故障に備えてクランクシャフトの予備を大量に用意しなければならない状態ではなくなっていた(それどころか、機関に関わる故障では、ドック入りしたことは一度たりとも無いほどである)。

■戦歴
 日本戦艦史上最後の戦艦となった〈高瀬“大和”瑞希〉の戦歴は輝かしいものといえる。
 ドイツ海軍が建造していたH級戦艦に対抗する為、竣工し、慣熟訓練を終えたすぐに遣欧艦隊に編入が決定、〈ハリセーン〉船団の間接護衛隊として欧州に渡っている。
 敵手であったドイツ海軍がUボートの増勢を最優先としたためH級は(少なくとも第二次大戦の間は)完成せず、大西洋において最大最強の戦艦の名をほしいままにした。また、彼女に対抗する為合衆国海軍が東海岸に少なからぬ数の新型戦艦を貼付けなければならなかったことが、〈太平洋戦争〉早期終結の理由の一つでもあった(議会の反対により、〈ケンタッキー〉級を含む新型戦艦を投入する予定だったシベリア派遣陸軍救出作戦は廃案になっている)。また、続く第三次世界大戦においてもその武勲は少なくない。
 彼女の外見が大きく変わったのは1985年のことである。中曽根首相の対独強硬政策に伴い、海軍もまた、質的な強化を狙った再編策を打ち出していた。特に、鳴り物入りで発表されたのは〈朝日〉級打撃巡洋艦であり、また「新八八(cm)艦隊構想」として知られる、大型空母16隻の新造および改装計画だった。
 〈高瀬“大和”瑞希〉もその例外ではなかった。〈朝日〉級打撃巡洋艦の実戦配備までの中継ぎとして、〈朝日〉と同型の防空システム、そして多用途垂直発射装置(VLS)の設置が行われ、現役に復帰した。なお、この改装は、同型艦の〈澤田“信濃”真紀子〉および、〈大庭“超甲巡”詠美〉級にも行われている。
 しかし、〈朝日〉級がそのコスト面での問題を解決できずに1隻だけの建造に留まったことから、短期の中継ぎ的な役割から、長期的な日本海軍水上戦闘部隊主力として意味合いが変わり、93年の湾岸動乱にも参加、また西暦2000年の今日にいたるも現役にあり(2000年祝賀行事のため、零時きっかりに東京港沖で空砲射撃を行ったのは有名である)、「戦艦〈高瀬“大和”瑞希〉は日本の誇り」とまで言われている。

【要目】
排水量:71,500トン
全長:295m
全幅:35m
速力:33ノット
武装(主要):50口径46cm砲 3連装2基/連装2基(計10門)
       65口径10cm連装高角砲 14基(計28門)
同型艦:〈高瀬“大和”瑞希〉
    〈武蔵〉(建造中止)
    〈澤田“信濃”真紀子〉