マーシャル沖海戦(1941年12月24日)  (八八艦隊物語/徳間書店,雫・ToHeart・コミックパーティー/Leaf)

 第2次世界大戦における最大の海戦の一つ。
 23日,ハルゼー率いる合衆国空母部隊は全力をあげて日本第1艦隊(戦艦12隻主力)を空撃するも,空母艦載機を全て戦闘機で固めるという戦術の前に敗北。

 翌24日,戦艦部隊同士の砲撃戦が始まる。
 ダニエルズプラン戦艦12隻に加え,最新のアラバマ級2隻と旧式戦艦4隻で数に勝る米太平洋艦隊は第1・第2任務部隊全艦で日本第1艦隊を挟撃する体制を取る。これに対し,日本艦隊は戦艦キラーの切り札――<千堂>級,<長谷部>級各2隻を始めとする第3艦隊での戦局逆転を狙う。
 日本艦隊の突撃に対し,合衆国は第2任務部隊から旗艦<レキシントン>と<ハワイ>級装甲巡洋艦2隻を分派,残存艦をキンメルにあずけて時間稼ぎ作戦に出る。これに対し,<千堂>級2隻は沈黙を守る。<千堂>艦長は攻撃を進言したが,第8戦隊(通称ブラザー2)長を兼任する<九品仏>艦長の「我等の野望(合衆国艦隊撃滅)を忘れたのか」の前に引き下がざるを得なくなる。
 結局,<アウトラルバスターズ>の戦闘加入により,<レキシントン><ハワイ>撃沈,<オアフ>を大破させ,米艦隊への血路を開くが,それまでに貴重な時間が失われていた。

 一方,米戦艦17隻に囲まれることになった日本第1艦隊には被害が続出。対峙状況は<伊吹>級4隻対<レキシントン>級5隻,<長門>等4隻対旧式戦艦4隻+アラバマ級2隻,<紀伊>級4隻対<サウスダコダ>級6隻。
 制空権こそ握っている物の,錬度と数の差(砲戦練度は弾着観測機が使える状態でもややマシ,といったレベルに過ぎなかった)に押しきられ,<アラバマ>と<加賀>がほぼ相打ちになる形で両艦戦闘不能,<土佐>は<アリゾナ>を爆沈させるという大戦果と引き換えに残り4隻の集中攻撃を受け大破,あわてて援護に駆けつけた<近江><駿河>も背後から<サウスダコダ>等の追撃を受け大破した。
 この劣勢の中,隆山条約期間中GFの中では比較的連度の高かった<伊吹>級は<レキシントン>級5隻を相手に奮戦を続け,1隻を撃沈し,<長門><天城>は4隻を相手に互角以上の勝負を繰り広げていたものの,隆山条約による補助艦不足――更に欧州派遣が追い討ちをかけた――により,合衆国水雷戦隊の突撃を許し,決定的な打撃を与えられずにこちらにも被弾が相次いだ。15年前議論された<エクストリーム理論>は,最悪の形で証明されようとしていた。

 この段階で日本側の損害は戦艦<加賀>が戦線を離脱し,<近江><土佐>が大破炎上。<駿河>も戦闘不能の一歩手前だった。合衆国側は<レキシントン>,<コンステレーション>,<アリゾナ>を失っている。残りの日本艦にも砲力が四割減となった<尾張>を始めとして損傷が相次ぎ,このまま行けば押しきれる――合衆国将兵の誰もがそう思った。
 それが破られたのはただ1発の砲弾で充分だった。36ノットの全力で突撃をしてくる<千堂>級2隻に対し,健在な<サウスダコダ>級6隻のうち,2隻がその砲を彼等に向けた。装甲巡洋艦ごとき,これらの戦力に加えて水雷戦隊で充分――そういうわけだ。
 しかしながら,それは間違っていた。第3艦隊旗艦<白根>からの指示は「ポチ1号(<千堂>級)は戦艦を,ポチ2号(<長谷部>級)・3号(第3水雷戦隊)は護衛部隊を!」という単純な物だった。地中海で酸素魚雷の欠点――鋭敏過ぎる信管――の教訓を得ていた<長谷部>級と水雷戦隊の突撃により護衛部隊を片付けた直後,<千堂>の最初にはなったゲルリッヒ砲弾が旗艦<サウスダコダ>に命中し,轟沈させた。
 この段階ですみやかに指揮権が委譲されれば,米太平洋艦隊はこの後の惨劇を避けることが出来たであろう。いや,体制を立て直し,再び逆襲を挑むことが出来たかもしれない。
 しかし,ここに来て遂に<アストラルバスターズ>の<月島(U)>がその真価を発揮した。戦場一帯に毒電波を放ち,全ての通信・レーダーを使用不能にしたのである。
 後は一方的な殺戮となった。<千堂>級2隻は集中砲火を浴びながらも砲身命数が尽きるまでに6隻を撃沈・大破させ,<伊吹>級4隻と<紀伊><長門><天城>の3隻は追撃をかけて大破した艦に止めを刺し,更に2隻を海底へのゲストに送りこんだ。

 全滅の危機にある合衆国艦隊を救ったのはスプールアンス提督率いる巡洋艦部隊である。最後の力を振り絞って追撃を続行し続ける<伊吹>級等に対し,巧みに全力走行・停止を繰り返すことにより翻弄。全力走行のつもりで放った砲弾は弾着する頃には停止目標になっているのだから,命中率はゼロだった。そうこうしているうちに,燃料不足――特に欧州に大艦隊を送りこんでいるためのタンカー不足の影響が大きい――より引き返さざるを得なくなり,ここにマーシャル沖海戦は終結した。

 合衆国の被害は<アラバマ>級2,<サウスダコダ>級3,<ネヴァダ>級2,ペンシルヴェニア級2,<レキシントン>級2隻の計11隻を失うという膨大な物であり,司令長官キンメル提督も帰らぬ人となった。離脱に成功した艦の損傷が少なかったことがせめてもの救いであった。
 一方,大戦果を上げた日本艦隊も,<加賀><土佐><近江>が結局放棄せざるを得ないほどの損害を受け(<加賀>は艦種変更に),<駿河>は一年,<尾張>は半年のドック入りを余儀なくされ,近距離射撃の集中砲火を浴びた<千堂><九品仏>は以後一年半に渡って復帰することは出来なかった。また,嶋田GF長官も旗艦<近江>艦橋で戦死した(死後,元帥)。

 この損害に恐怖した日本海軍は短期決戦で矛を収めるべく「誰も研究したことの無かった」攻勢作戦を泥縄式に設立し,HMX−12事件の大戦果で(実行可能と判断され)承認されたミッドウェー・ハワイ侵攻作戦を行うこととなる。

 海戦終了後の両軍残存戦艦
日本側
無傷・軽微な損傷の艦:<長門><天城><紀伊><伊吹><阿蘇><戸隠><穂高><白根>
半年以上のドック入居:<尾張><駿河><鞍馬><千堂><九品仏>
沈没もしくは除籍の艦:<加賀><土佐><近江>

合衆国側
無傷・軽微な損傷の艦:レキシントン級4
半年以上のドック入居:サウスダコダ級3
沈没もしくは除籍の艦:アラバマ級<アラバマ><イリノイ>,レキシントン級<レキシントン><コンステレーション>,サウスダコダ級<サウスダコダ><モンタナ><インディアナ>
                 ペンシルヴェニア級<ペンシルヴェニア><アリゾナ>,ネヴァダ級<ネヴァダ><オクラホマ>,ハワイ級<ハワイ><オアフ>