しけたた戦力調査部長・作

5月 ロング大統領、大統領命令42号を発令。選挙対策のために南洋と日本本土を分断するマリアナ攻略を下令する。
   オタワの英国政府やワシントンからの情報により作戦計画は日本に筒抜け(米領満州から同時に爆撃をかけるために計画書を届ける筈の飛行機が択捉島に墜落)
   1機艦(山口)、パラオに集結(米軍では硫黄島から小笠原にいると思いこんでいた)
6月 米軍、マリアナへ来寇
   サイパンの1AF、全力防御で制空権を確保し続ける
   米軍、サイパン上陸開始
   日本艦隊、行動開始 インガソル、ハルゼーとスプルーアンスに迎撃を命じる
   TF17、北方へ向かうが、パラオ方面からの艦隊を発見とアルバコアより情報が入る(旗艦とおぼしき空母を雷撃したという)
   TF17は北方はスプルーアンス、南方はハルゼー、と戦力を分断してしまう
   ハルゼーの旗艦エセックス、伊23の雷撃で爆発 ワスプ2を旗艦に変更

   戦力が減少したハルゼー、先制攻撃を開始、結果大消耗を引き起こす(稼働機数は50機未満)
   スプルーアンス、硫黄島航空隊(飛燕4型が主力)と交戦 こちらも戦力消耗(稼働機数は100程度)

   スプルーアンスとハルゼー、合流
   1機艦、攻撃開始 月島、TF17に接近 マリアナより042空の管制機雪見(ランカスター改造)発進、誘導を開始
   月島、毒電波を放射(バラージ・ジャミング)、米軍は直援機と通信できず大混乱に陥る
   雪見の統一指揮の下、攻撃隊が突入 外郭陣地をくずして空母へむかう
   TF17の空母、エンタープライズを残して壊滅(1機艦からは4波、マリアナからは2波の攻撃)
   TF17撤退開始するが、ハルゼーは護衛の巡洋艦に移乗して突撃開始
   1機艦と護衛の第1艦隊、分離 第1艦隊はサイパンへ

   1機艦とハルゼーの水上夜戦が発生 1機艦はなんとか振り払うことに成功
   航空戦の結果を受けてTF2は突撃を開始
   第1艦隊とTF2、夜戦で激突(第2次マリアナ沖海戦)
   インガソル、「I do.」の言を残して、TF2残余の撤退を援護しつつ旗艦とともに没する
   逃げ遅れた米上陸軍、降伏


マリアナ沖海戦記(1944.6.20〜) (Tactics作品/Leaf作品/とらいあんぐるハート 他)

■アームド・エアクラフト・キャリア
 1944年3月、竣工なった<長森“大鳳”瑞佳>は、直ちに第1機動艦隊(山口)に編入された。そしてパラオに移動して訓練にいそしむ予定であったが、航海途中で軽空母<折原“吉野”浩平>との間にトラブルが起きてしまう。着艦訓練中の戦闘機が誤って<折原“吉野”浩平>の甲板に着艦してしまい、他の機体と衝突炎上してしまったのである。<折原“吉野”浩平>艦長K大佐に怒鳴り込まれ、艦長と飛行長とで平謝りに謝ったものの、以後<折原“吉野”浩平>の「報復」に悩まされることになる。遂には<長森“大鳳”瑞佳>と<折原“吉野”浩平>は揃って機関故障を起こしてしまい、横須賀へ戻ることになってしまった。
 これが<折原“吉野”浩平>との「腐れ縁」の始まりであるが、それでも<折原“吉野”浩平>との友誼(?)が壊れなかったのは<長森“大鳳”瑞佳>艦長の人徳であろう。温厚ではあっても言うべきことは言い返す<長森“大鳳”瑞佳>艦長は、奇人というべき<折原“吉野”浩平>艦長K大佐を宥めるに打ってつけの人物だったのである。
集団行動をぶち壊しかねない<折原“吉野”浩平>を艦隊の枠にとどめ、貴重な戦力の一翼を担わせ続けたのは大きな功績と言うべきである。けれども「いたずら」や「からかい」に巻き込まれる方はたまったものではなく、<折原“吉野”浩平>が何かをしでかす度に<長森“大鳳”瑞佳>艦長は、「はあ〜っ」と溜息をつくのであった。
 そして機関の修理後、再度パラオへの進出を行ったが、今度は防空軽巡<七瀬>と<折原“吉野”浩平>の衝突事故に巻き込まれてしまい、機関が停止してしまった<七瀬>を曳航してパラオへ駆け込むことになってしまう。どこまでも<折原“吉野”浩平>の面倒を見る羽目になるのであった。
 パラオ着後、<長森“大鳳”瑞佳>は第1航空戦隊及び第1機動艦隊の旗艦として山口多聞中将の将旗を、その檣頭に掲げた。

■オペレーション「ディープ・ストライク」
 1944年5月、合衆国軍はマリアナ諸島を占領する、「ディープ・ストライク」作戦を発動していた(注4)。しかし米国の内政上の問題から反ロング大統領派の政治家にも作戦の概略が説明されたことから情報が漏れ、さらに計画書を積んで米領満州に向かった飛行艇がエトロフ島に墜落したことと、日本の敗北を懸念したオタワの英国政府からの情報提供もあって、合衆国軍の作戦計画の全ては日本軍に知られていたのである。
 日本ではマリアナ諸島へ密かに増援部隊を送ると同時に(注5)、電子戦能力に優れた<アストラルバスターズ>による大々的な欺瞞作戦が展開された。そのため合衆国軍では日本艦隊が硫黄島泊地とリンガ泊地にいるものと思いこんでいた。しかし日本艦隊主力の第1機動艦隊はパラオ諸島に身を隠していたのである。

 6月15日。合衆国艦隊はマリアナ諸島へ押し寄せた。補助部隊に位置づけられている第17任務群(ハルゼー)はサイパン、テニアン、ロタ、グアムの各島嶼に大空襲をかけたが、不思議なことに日本軍(第11航空艦隊)は防空戦に徹していた。日本側の戦闘機を駆逐するために、空母艦載機は消耗を余儀なくされた。
 合衆国軍は、まずサイパン島を陥としにかかった。主力部隊のTF2が大規模な艦砲射撃を行い、侵攻船団より上陸艇が進発してビーチを埋め尽くした。海兵隊第1師団(ヴァンデクリフト)は上陸を果たしたのだが、予想されていた水際での戦闘はなく、拍子抜けしながらも橋頭堡を確保した。第31軍を率いる牛島司令は発砲を許さず、サイパン守備隊の第29師団は島内中央の山岳地帯へと撤退していった。
 海兵隊は日本軍を追っていき、山岳地帯で初めて日本軍の頑強な抵抗に遭う。山岳地帯は強固な要塞と化していたのだ。

 6月16日。パラオの機動部隊とトラック島の水上砲戦部隊はマリアナ諸島へ向けて北上していった。両艦隊は途中で合流し、山口中将が統一指揮を執った。先任順位ならば第1艦隊をひきいる近藤中将であるが、航空戦が主体になることから山口提督に指揮権を委譲したのである。斯くして<長森“大鳳”瑞佳>は総旗艦となり、<折原“吉野”浩平>が白墨をポキポキと折りまくるような面倒事を起こす傍らで、こまごまとGF主力の面倒を見るのであった。
 東カロリン諸島を空にした、この作戦をGF司令部(小沢)は「あ号作戦」と命名した。マーシャル沖海戦に次ぐ、Z旗が掲げられた戦いである。

※マリアナ沖海戦時の両軍の編成
 【日本軍】
 第1機動艦隊(1st Mobile Fleet)
 第1航空艦隊(1AF)
  第1航空戦隊……正規空母<長森“大鳳”瑞佳>
               軽空母<折原“吉野”浩平><氷室“八雲”シュン>
  第9航空戦隊……軽空母<野々村“龍驤”小鳥>
               重巡<千堂“鳥海”瞳><鷹城“摩耶”唯子><相川“古鷹”慎一郎>
  第1戦隊…………戦艦<高瀬“大和”瑞希><長谷部“高千穂”彩>
  第2戦隊…………戦艦<来栖川“紀伊”綾香><坂下“尾張”好恵>
                 <HMX-13“駿河”セリオ><来栖川“長門”芹香>
 第2航空艦隊(2AF)
  第2航空戦隊……正規空母<緒方“瑞鶴”理奈><芳賀“翔鶴”玲子>
  第3航空戦隊……正規空母<森川“雲龍”由紀><蟠龍>
  第3戦隊…………戦艦<宮内“伊吹”レミイ><宮内“鞍馬”ジョージ>
                 <宮内“阿蘇”あやめ><宮内“戸隠”シンディ>
  第5戦隊…………戦艦<篠塚“金剛”弥生><榛名>
 第3航空艦隊(3AF)
  第4航空戦隊……正規空母<千鶴(二代目)>
  第5航空戦隊……航空巡洋艦<藤田><佐藤>
  第4戦隊…………戦艦<保科“天城”智子><岡田“赤城”><松本“愛宕”>
  第9戦隊…………航空巡洋艦<相田“最上”響子><三隈>
 第4航空艦隊(4AF)
  第6航空戦隊……改装空母<飛鷹><隼鷹>
  第7航空戦隊……航空戦艦<山城>
             水上機母艦<千歳><千代田>
  第10戦隊………重巡<大庭><高瀬>

 第1遊撃艦隊(アストラルバスターズ)
  戦艦………………<新城“穂高”さおり>
  航空電波戦艦……<月島(U)>
  正規空母…………<瑞穂>

【合衆国軍】
 TF17.1 正規空母<エセックス><ホーネット(U)><キアサージ>
          軽空母<インデペンデンス>
            重巡<ミネアポリス><アストリア><クインシー><ヴィンセンズ>
 TF17.2 正規空母<エンタープライズ><ヨークタウン(U)>
          軽空母<プリンストン><カウペンス>
           重巡<ニューオーリンズ><サンフランシスコ><ウィチタ>

■トーピード
 6月18日。日本艦隊出動の報に接し、合衆国軍のTF17は侵攻部隊から離れて迎撃に向かった。旗艦は装甲空母<エセックス>。合衆国期待の最新鋭空母であった。
 <エセックス>は本来ならば1942年末に竣工する予定であった。しかし設計変更により予定時期は1年以上も大きくずれ込んでしまっていた。北太平洋の荒海での活動で、解放式格納庫の欠陥が現れたためである。巨大な波浪が装甲シャッターを破って格納庫に進入してしまい転覆しかねない事態を引き起こしたのだ。事実、<インデペンデンス>級軽空母の<ベローウッド>は波浪に揉まれてキスカ島沖で沈没している。さらに波浪に叩かれて損傷する航空機の数が相当量にのぼった。日本軍と戦って失われる数よりも、波浪による損失が多い場合すらあった。
 その経験と現場の司令官達の報告を汲み上げて、<エセックス>級空母は大きく設計を変更されて完成した。解放式から閉鎖式に改めた格納庫、舷側エレベータの廃止、飛行甲板にも装甲が張られた。日本の降爆隊が250キロ爆弾から500キロ爆弾に更新した、との戦訓が入ったためだった。基準排水量は3万5千トン。搭載機数は<アンティータム>級より大きく減り、80機となっている。マリアナ戦時は飛行甲板に航空機を係留して100機を搭載していた。日本の<長森“大鳳”瑞佳>のライバルというべき存在であったが、しかしライバルと異なり儚い寿命であった。
 TF17.1は<エセックス>、<ホーネット(U)>、<キアサージ>と同級艦3隻。軽空母<インデペンデンス>が1隻である。
 TF17.2は<ヨークタウン>級の生き残り<エンタープライズ>と、<エセックス>級の<ヨークタウン(U)>、<インデペンデンス>級軽空母の<プリンストン>と<カウペンス>の計4隻であった。
 合計8隻。これら空母の戦力を集中すれば、日本機動艦隊と互角以上に戦えるはずである。

 午前8時。サイパン沖より合衆国機動部隊を追聶していた<伊23>(後の水中高速潜とは別)が<ホーネット(U)>へ雷撃を行った。しかし魚雷はねらいを外れ、<ホーネット(U)>の向こうにいた、第17任務群(ハルゼー)の旗艦<エセックス>に命中したのである。
 装甲空母<エセックス>は魚雷の一発程度ではびくともしなかった。これに気をよくしたハルゼーは下品な冗談をレイトン参謀長に披露している。硫黄島に終結している日本機動部隊に奇襲を掛けられるはずであった。ヤマグチは硫黄島より南下してマリアナ攻略部隊に奇襲を掛けるつもりだろうが、そうはいかない。あべこべに奇襲を仕掛けてくれる。ハルゼーは勝利を確信して上機嫌だった。
 しかし<エセックス>の艦内では航空燃料タンクから漏れだしたガソリンが気化し始めていたのである。被雷の衝撃でタンクに亀裂が発生していたのだ。前部格納庫では目を開けていられないほどにガソリンが充満してしまった。
 夕刻、必死の排出作業のさなか、遂に引火した。<エセックス>は内部より大爆発を起こし、ダメージコントロールに優れた合衆国軍でも救いようがなくなってしまった。ハルゼーは<ホーネット(U)>に乗り換えざるを得なかった。
 決戦前に旗艦を喪失したことで、合衆国軍の将兵は先行きへの暗い予感を感じ始めていた。そして、TF17司令部の判断を迷わせる情報が飛び込んできた。<ガトー>級潜水艦<アルバコア>がパラオより北上する艦隊を発見し、旗艦とおぼしき空母を雷撃したのである(注6)。
 司令部は紛糾した。紛糾の原因は新たに発見された空母の数と戦艦の存在であった。<アルバコア>は空母3隻(第1航空艦隊のことだった。ひときわ小さな<野々村“龍驤”小鳥>を見落としたらしい)と戦艦多数と報じている。追加報告はない。北方海域には電波発信の数量と密度から判断して6隻から8隻の空母がいるはずである。現在判明している日本の正規空母の数量からみれば、どちらかは軽空母主体の艦隊のはずだった。
 分散して先制すべきか、待ち受けるべきか。先制攻撃を主張したのはハルゼーだった。7隻に減ってしまったからこそ先制して主導権を確保すべき、という主張であった。TF17.2の指揮官スプルーアンスは空母を集中させて相手に先制させるべきと主張した。日本軍は包囲殲滅を図ろうとしているが、現状はただの分進状態である。どのみち日本軍は攻勢をかけてくるのであり、しのぎきればこちらの勝利だ。結果から言えばスプルーアンスの主張が正しかったといえる。
 討論の結果、ハルゼーの主張が通った。基地航空隊との交戦で艦載機が減少しており、さらに北方の空母群と交戦している内に南方から突き上げてきた空母を含む戦艦群がマリアナに突入してしまうことが計算の結果判明したからだ。TF2に属している<ボーグ>級護衛空母では空母戦を戦えはしないし、マリアナ基地航空隊を押さえ込むだけで精一杯であった。制空権を取られたところで艦隊決戦が生起しては勝敗がどうなるか、はなはだ不分明となる。ならば何が何でも主導権を握らなければならない。
 空母4隻のTF17.2が北方に向かって、敵主力を拘束する。TF17.1は南方の空母群を速やかに撃破した後、北方へ反転してTF17.2と合流する。しかる後、敵主力空母群を殲滅する。巧緻な作戦を好むインガソルらしい作戦であった。
 斯くして、合衆国太平洋艦隊は決定的な時期に戦力を分散させてしまったのだ。

■ターキー・シュート
 6月19日、先制攻撃を掛けたのは、空母3隻に数を減じた第17.1任務群である。グラマン/ハインケルF5F<エビルキャット>、カーチスSB2C<ヘルダイバー>、グラマンTBF<アヴェンジャー>ら、二波に分かれた戦爆連合250機。本来ならばスプルーアンスの第17.2任務群と合同で攻撃にかかる筈だった。そうであれば、空母7隻からの600機になんなんとする大戦力で攻撃できた。しかし第17.2任務群は硫黄島付近海面に所在の判明した「主力空母部隊」への攻撃に向かっている。
 ところが北方にいる「主力空母機動部隊」は欺瞞電波による偽物であった。硫黄島海域にいたのは「アストラルバスターズ」だったのだ。合衆国軍は未だ気づいていない。
 ハルゼーの放った攻撃隊は断雲に悩まされながらも、索敵機の報じた方位へ向けて進撃していった。大量の搭乗員養成能力をもつ合衆国といえども、アリューシャンとシベリアでの消耗から回復しきっていたわけではない。攻撃隊の大半は開戦当初のレベルからすれば「ターキー(日本ではジャクと呼んでいた)」と言われる新米揃いなのだった。

 北と南に戦力分散を行ってしまった合衆国軍に対して、第1機動艦隊は大型空母8隻(と軽空母3隻)の戦力すべてを挙げて決戦に望んだ。ハルゼーの空母戦力は3隻のみ。山口多聞は全力迎撃を命じた。
 そして、この日の航空戦で勝利したのは先手を取られたはずの日本軍だった。日英軍は大西洋でドイツ機動部隊の猛威を味わったことから戦訓を引き出し、対抗方法の研究を進めていたのである。機動部隊の防空輪型陣、電波式近接信管、フォッケウルフFw190に勝てる戦闘機(中島/来栖川三式艦戦<綾火>21型)、ユンカースJu87以上の強大な攻撃力を有する艦上攻撃機(愛知三式艦攻<流星>)などが開発されていった。それらハードウェアだけでなく戦闘指揮所の設置や直衛戦闘機の誘導などのソフトウェア面でも研究が進んだ。その努力は、ここに結実する。

 合衆国軍機の来襲は、ピケット艦として艦隊前面40海里の位置に突出していた<澪月>と<柚月>がまず本隊へ通報した。本隊の空母群は戦闘機を次々と発艦させる。三式艦戦<綾火>が300機余り。<綾火>は総旗艦<長森“大鳳”瑞佳>の戦闘指揮所からの指示に従い、合衆国軍機の来襲する方向の上空へ遷移していった。
 合衆国軍機の小編隊は対空捜索レーダーにかかり、さらに射撃管制レーダーの探知範囲内に入った。戦闘指揮所に詰めていた防空参謀は迎撃開始を全艦隊に命じた。突如、マリアナの空に活火山のような砲火が炸裂した。
 合衆国軍の攻撃隊が気づいたときには<綾火>の急降下を喰らい、個々に分断され、さらに防空護衛艦から放たれる近接信管の嵐のまっただ中に追い込まれてしまった。往路では雲に悩まされていたが、皮肉なことに日本艦隊上空は快晴であり、身を隠せる雲は一つもなかったのだ。
 第1艦隊の戦艦群も主砲と高角砲に機銃を総動員して迎撃した。<高瀬“大和”瑞希>に至っては46センチ主砲より近接信管付き三式弾を放ち、一撃で十数機を落としている。
 攻撃隊が戦闘機をかわし、さらに高角砲の弾幕を突破すると、彼らの行く手にはボフォース40ミリ機関砲、ホッチキス25ミリ機銃、エリコン20ミリ機銃の濃密な弾幕が待ちかまえていた。
 攻撃隊は数を減じながらも果敢に突撃を繰り返し、日本軍はアメリカン・ボーイズを殺戮し続けた。合衆国では中小編隊による空襲を戦法としていたことが事態を悪化させた。戦場空域には、日本の輪形陣が対処不可能になるだけの数の機数が存在しなかったのだ。五月雨式に後続の編隊が来る頃には、先鋒隊が壊滅していた。マリアナの空は、黒雲のような弾幕と墜ちていく合衆国軍機で満たされていった。
 それでも勇気に欠けることのない合衆国軍である。日本艦の中には対応の限界に追い込まれていた艦もあったのだ。給油艦<住井>の艦長が「何が悲しくて空襲受けるのに限界に挑戦しなくちゃいけないんだぁぁっ…」と叫んだのは、この日の空戦である。合衆国の戦闘記録に依れば、飛行甲板を有する<住井>を空母と誤認したためらしい。さらに<折原“吉野”浩平>の航空隊が<住井>のいるあたりに合衆国軍機を押し込んだ為でもあった。<住井>への攻撃は結局のところ、至近弾が一発で済んでいる。<住井>艦長が胸をなで下ろしたのは言うまでもない。
 結局この日は戦艦<高瀬“大和”瑞希>に500ポンド爆弾の命中弾が一発、空母では<長森“大鳳”瑞佳>に至近弾が一発、<飛鷹>が至近弾三発を受けて飛行甲板を損傷した。しかし発着艦に影響はない。僅かな戦果に対して合衆国軍機の損害は200機以上にもなった。未帰還率は70%以上にのぼる。母艦にたどり着いた機体もあったが、再使用に耐える物はほとんどなかった。死亡したと見られた搭乗士官の数は恐ろしいほどのものとなった。<アヴェンジャー>雷撃機の小隊を率いていたジョージ・W・ブッシュ中尉を始め、合衆国の次代を担うべき大学生出身の有為の人材なのだ。その彼らは「永遠」に消えてしまった。合衆国の戦後50年にのぼる低迷は、アリューシャンからマリアナ、ハワイにおける航空戦での人材の消耗が原因とする説まであるほどである。
 対して日本側の損害は味方撃ちによるものを含めて、わずかに30機のみ。日本の戦史には「マリアナの鴨撃ち」と記された。

 そして同じ頃、スプルーアンスの攻撃隊は硫黄島基地より発進した陸軍要撃機部隊の伏撃にあい大損害を受けた。小編隊による五月雨式の襲撃を行う合衆国軍機を、<柏木“飛燕四型”初音>主体の要撃部隊は難なく片づけていった。本土要撃戦を戦い抜くために築かれた要撃管制システムが威力を発揮したのである。
 さらにアストラルバスターズの<月島(U)>がジャミングをかけたことで攻撃隊は大機動部隊など存在しないことを通報できなかったのだ。<新城“穂高”さおり>に至っては、「火の玉スパイク」と称して編隊の中に近接信管付き三式弾を撃ち込み、かなりの撃墜数を稼ぎ出している。
 スプルーアンスは第1次攻撃隊が帰還しないことから、第2次攻撃隊の発進を取りやめさせた。この決断により、6月20日の合衆国軍の反撃が可能となる。
 しかし、スプルーアンスが護衛戦闘機を多めに付けたことから結果としてファイター・スイープになった。スプルーアンスの使える戦闘機の数は100機程度にまで減少してしまっていたのだ。

■クラッシュ
 6月20日、第1機動艦隊は、合流したTF17に向けて攻撃を開始した。日本の、6月時点で稼働可能な大型空母8隻と航空機搭載特務艦の戦力全てを叩きつけた攻撃だった。
 早朝のマリアナを発進した042空の航空管制機<雪見>(船引大佐が座乗)が攻撃隊を目標に向けて誘導していく。これまでに磨き上げてきた管制指揮能力が試されるのだ。「アストラルバスターズ」もTF17へ接近していった。そして<月島(U)>は強力な「毒電波」を放射した。
 戦闘機のみならず攻撃機をも対雷撃機用にあげて、なんとか110機ほどの迎撃態勢をととのえたTF17は大混乱に陥った。CICと護衛艦、直援機との通話が不可能になってしまっていたのだ。さらに高空にいるらしい機体に欺瞞紙まで撒かれてしまった。通信ができず、レーダーも無効化された。これでは効率的な迎撃態勢はとれない。混乱したままで敵を向かえるよりもと、ハルゼーとスプルーアンスは各個の判断に基づく迎撃を指示した。
 混乱に陥っているTF17へ日本の第1次攻撃隊が殴りかかる。小編隊で飛行していた日本軍は、瞬く間に大編隊に編隊を組み直してしまった。
 <綾火>21型からなる前衛隊が進路を切り開き、護衛隊はガードを固める。F5F<エビルキャット>は攻撃隊に近寄ることができなかった。母艦の誘導がないため小隊毎の判断と行動に頼らなければならなかったためだった。イニシアティブは攻撃側が握り続けた。
 最初の投弾は防空輪型陣を構成する駆逐艦に対して為された。<彗星(Kanon)改>が急降下爆撃で落とした50番の一撃で駆逐艦の対空砲火は沈黙してしまった。そして防空輪型陣に空いた穴から雷撃隊が一挙に雪崩れ込む。
 これら一連の攻撃の指揮は<雪見>より行われていた。その的確な指揮・管制能力は「さすが演劇部部長」と評されるものであった。
 的確な統一指揮の下に突入してくる日本軍機に対して、合衆国の迎撃態勢は毒電波のために崩壊し、個人と個艦レベルの勇気に頼らねばならなかった。戦艦を防空担当艦にまでした第1機動艦隊と異なって合衆国機動艦隊に戦艦は随伴せず、防空護衛艦の不足から輪形陣のスペースも日本軍よりも広かった。日本軍の数十機単位での同時突入・飽和攻撃に、第17任務群は対処の術を失っていった。

 そして4度の、マリアナ基地航空隊からの攻撃を併せて6度にわたる攻撃の末、<ヨークタウン(U)>、<ホーネット(U)>、<キアサージ>、<インデペンデンス>、<プリンストン>、<カウペンス>の空母6隻を撃沈または大破炎上という戦果を得ている。<エンタープライズ>1隻だけが飛行甲板を破壊されながらも生き残った。
 日本軍も楽に勝った訳ではない。<エセックス>級のあまりの堅さに、対戦艦攻撃爆弾<鬼殺し>を持ち出してトドメを刺さざるを得なかったのだ。高性能を誇る<流星>といえども1000キロ爆弾を積んでは高空に上がるのも一苦労であった。
 ハルゼーは旗艦を護衛の巡洋艦<ミネアポリス>に移し、スプルーアンスの空母群もまた旗艦<エンタープライズ>をのぞいて壊滅した。ここに太平洋の制空権は日本軍の手に帰した。日本側の損害は、第17任務群が最後にはなった攻撃隊が低空進入したことによる<飛鷹>の沈没と月島の大破である。
 電波発信源を辿った降爆隊が<月島>に襲いかかり、そのアンテナ群を1000ポンド爆弾で薙払ったのだ。<月島>の損害は大破と判定された。電子機器の延焼が酷く復旧の見通しはつかない。
 母艦を失った<飛鷹>の航空隊は<長森“大鳳”瑞佳>で引き受けた。

注3:航空機総数は600機に上る。ちなみに三式艦戦<綾火>は外翼を後方に折り畳むことができるため、零式艦戦よりも大型化しているにもかかわらず搭載機数は1.5倍にもなった。
注4:「ディープ・ストライク」作戦は、ヒューイ・ロング米大統領が1944年の大統領選挙に不安を抱き、早急な戦果を求めたPD42号(大統領指令42号)により立案、発動された。このため作戦目的の不明確、兵力の過度集中・分散使用、情報収集の不備といった問題を引き起こした。別働隊(2個任務群)が北千島、マーシャル諸島で活動して、日本本土とトラック駐留部隊の耳目を引きつけている間に主隊がマリアナを攻略する、という基本計画だった。
注5:陸海軍は56口径88ミリ砲装備の<三式中戦車チハヤ>を送り込んでいる。合衆国軍のM4シャーマンをアウトレンジで撃破して、合衆国軍の侵攻を防ぐ原動力となった。
注6:米潜水艦<アルバコア>が<長森“大鳳”瑞佳>に雷撃を加えたと米側戦史は記録している。しかし<長森“大鳳”瑞佳>の戦闘詳報では雷撃を受けた事実はない、とにべもなく否定している。互いの記憶が食い違っていることは多い。

■ブルズ・ラン
「俺にはまだ護衛艦があるじゃねぇか!」
というわけで海戦2日目、反転し避退するかと見せかけて日本空母群に突撃を開始、スプルーアンス部隊の護衛艦群もかっぱらい、夜戦に持ち込もうとする。
  前衛(TF17.2)
   <ニューオーリンズ><サンフランシスコ><ウィチタ>
  本隊(ハルゼー直卒)
   <ミネアポリス><アストリア><クインシー><ヴィンセンズ>
  3個駆逐隊をもちいて突撃
重巡部隊で敵砲戦部隊を引きつけて2個駆逐隊を空母群へ突入させる
<篠塚“金剛”弥生>は、例えるなら氷の如き冷静きわまりない指揮により探照灯照射を行い、<榛名><千堂“鳥海”瞳><鷹城“摩耶”唯子>で重巡部隊を撃破する。
危機に陥る空母部隊。この手のストリート・ファイトに強い「剣道部」は第1艦隊に付けられてしまっている。
快速の<瑞鶴>や<雲龍>が先行し、重装甲のために行き足の鈍い<長森“大鳳”瑞佳>と鈍足の<隼鷹>が取り残され始める。駆逐艦と撃ち合う。
<新城“穂高”さおり>が駆けつけて「火の玉スパイク」で駆逐艦を一掃。
<ミネアポリス>は危機に陥るが逃走に成功した。

■バトルワゴン
20日夕刻、日本艦隊は空母群(スプルーアンス隊の反撃を受け、戦力減少)と前衛の戦艦群(第1戦隊から第4戦隊までの戦艦13隻)を分離し、サイパンの米軍に止めをさすべく進撃していた。

その中には、<七瀬>率いる「剣道部」もいる。何故か軽空母<折原“吉野”浩平>まで。
 「モドッタラ キムチ ラーメン ヲ オゴル」(発光信号にて)
 「………」
 「モット キムチ ガ ヒツヨウナリヤ?」
 「コノ ボケ!」あまりの情けなさに涙を禁じ得ない<七瀬>艦長であった。

だが、戦艦群指揮官近藤中将に夜間、突如として緊急伝が入る。
「空母群、敵水上艦艇と交戦中」
近藤は迷った。このままサイパンを目指し、陥落を防ぐべきか?空母群を救援すべきか?彼は決断した。
「目標、サイパン島! 敵上陸部隊と支援艦隊を撃滅する!」
空母群には十分な護衛を持たせてある。マリアナの基地群からは空母群救援の夜間攻撃隊を発進させた。そして明日以降の空母群の支援が期待できない(可能性がある)以上、今を逃せばサイパンから敵軍を追い落とすことは不可能だ。
いっぽうの合衆国戦艦群(インガソル)も、ハルゼー突撃の報を聞いて、自身の戦艦群も突撃を開始した。空母群を失った以上、自身で敵艦隊を撃滅しなければ勝機はない。
両軍ともに航空支援が不可能。そして指揮官両者が大艦巨砲主義者。この事実が艦隊決戦を誘発させた。あるいは、没落の一途をたどる戦艦に最後の晴れ舞台を用意したかっただけなのかもしれない。
「敵艦隊発見! 夜間砲戦用意!!」
・・・こうして、「史上最大の夜戦」とよばれる、第二次マリアナ沖夜戦が発生した。
勝者はいずれか・・・・・。

「I do.(私がやる)」と明言して自ら後退戦闘を指揮した太平洋艦隊司令長官インガソルは旗艦と共に沈んだ。
 

■ アフター・ザ・カーニバル
海軍三顕職の会談。塚原軍令部総長、井上海軍大臣、小沢連合艦隊司令長官の三人。
「とにもかくにも大勝利は納めた」
「左様です、総長。敵には当分内南洋方面に攻勢をかけられるだけの力はありません。今のところ、すべて計算通りの展開です」
「そろそろ講話を考えるべき時期だ---ということか?」
「勝ちすぎました」
「永野さんや宮様の派閥か。米独討つべしを呼号するものが中枢に根を張っている状態だ」
「人事の面はこちらの管轄です」
海軍の憑き物落としを井上は始めた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

※憑き物落とし(ゴミ)
ぱぱらぱ〜。赤煉瓦の建物に響きわたるラッパの音。
「どこだ、どこだ」
「あ、あそこだ!」
「な、何者!」
「わははははははは。そうだ。私が海軍大臣、井上だ。反乱部隊の諸君、おとなしく縛につきたまえ!」
「黙れ黙れ」
だがしかし、赤煉瓦の上にたたずむ怪人物の眼光に押されて短銃を撃つことができない。
ガーン!
「ああっ」
ぽとりと短銃がおちる。
「安心したまえ、今のは峰打ちだ!いでよ!横須賀鎮守府陸戦隊の諸君!」
ざざっ。
海軍省への突入を図った反乱部隊は陸戦隊に包囲されてしまった。