『対艦噴進粘性焼夷弾』
 
 12cm28連対空噴進砲のコンポーネントを流用し、小型軽量な対艦兵器を製作しようとした過程で生まれた噴進砲用の弾頭。
 比較的小口径かつ装甲貫徹力が小さい(ロケット推進のため、弾速が遅い)ため、破壊力を求める替わりに弾頭に焼夷材を封入し、敵艦に火災を発生させる弾頭である。
 命中率は多連装で散布界を広く取ることで対処する。そのような発想の兵器であった。
 原型が25mm3連機銃用の砲架を流用している12cm28連対空噴進砲であるため、小型艦にも搭載が可能である。
 数度、駆逐艦等の小型艦艇に搭載されて実験が行なわれたが、「射程が短すぎる」ため対艦兵器としては不採用となった。
 
 弾頭の粘性焼夷材は数種あり、安定性の良い「赤色」の焼夷材が好評であった。
 一方で「毒々しい橙色(制式名称:”邪”号弾)」の焼夷材は、ちょっとした衝撃で発火してしまい、「運用試験中の火災事故」が多発し、極めて不評であった。

 対艦噴進粘性焼夷弾の運用試験を行なった艦は駆逐艦「名雪」「宮月」他、数隻である。
 「橙色」の焼夷材については、運用試験を行なったほぼ全艦で火災事故が発生している。
 運用試験以外にも、合衆国潜水艦「スウィートフィッシュ」が誤射を受け火災事故発生。
 また、公式記録には残っていないが、イタリア海軍遠洋偵察艦「カリオ・ラ・ミーサ」が戦闘中、日本駆逐艦からのロケット弾攻撃を受けて火災が発生したとの当時の乗員の証言がある。

 揚陸指揮艦<水瀬>では、「”邪”号弾」が好んで搭載された。
 不思議なことに、揚陸指揮艦<水瀬>においては、他の運用試験艦で多発した火災事故が一度も発生していない・・・・