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ファンディ湾海戦

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ファンディ湾海戦(欧州側呼称:ノバスコシア南西沖海戦)

(元ネタ:「ねがぽじ〜お兄ちゃんと呼ばないでっ!!」よりプエルタの戦い)

 第三次世界大戦海戦直後の1948年5月17日深夜〜翌日早朝にかけて、ファンディ湾で戦われたアメリカ合衆国海軍大西洋艦隊と、欧州連合艦隊(ドイツ北米艦隊、ヴィシー・フランス艦隊)の艦隊決戦。

1.開戦

 ドイツ北米総軍が〈ヴァレンシュタイン〉作戦に基づき合衆国に侵攻、第三次世界大戦が勃発したのは1948年5月13日である。この戦争の初頭、ドイツ軍は合衆国首都ワシントンD.C及び、大西洋艦隊の根拠地であるフィラデルフィアに核弾頭を装備したA10中距離弾道弾を撃ち込むと言う方法により、合衆国軍の指揮系統を完全に崩壊させ、初動における優位を確立した。
 合衆国陸軍は、対日戦、対南部戦の2度の戦争で豊富な実戦経験を積み、装備のレベルもけっしてドイツ北米総軍に劣るものではなかったが、首都を壊滅させられた事による指揮系統崩壊の影響は余りにも大きく、前線に立った部隊は他の部隊との統制も取れないまま、各個に包囲され、撃破されていった。
 例えるなら、平和な学校に突如異分子が乱入してきたような、こうした混乱の中で、反撃の切り札とみなされたのは、ノーフォーク軍港に配備されていた艦隊だった。同港には5月18日に予定されていた観艦式に備え、太平洋艦隊から〈桜庭《ミズーリ》香澄〉、〈遠場《ニュージャージー》透〉の2戦艦と軽空母〈広場《プリンストン》ひなた〉の3隻が回航されてきており、フィラデルフィア部隊の壊滅後も強力な戦力を擁していたのである。同部隊に大きな期待が掛けられたのは無理もない事だった。
 国防総省の組織も壊滅し、デマや不確かな噂が飛び交う中、ノーフォーク部隊に対し一つの作戦命令書が届く。作戦名は〈リターリエイト(報復)〉。ニューヨーク州を席巻しつつあるドイツ北米総軍中央軍集団の策源地となっているカナダ・ファンディ湾岸の港湾都市、セント・ジョンを叩く事でドイツ軍の行動を遅滞させようとするものだった。
 これに対し、ノーフォーク部隊司令部では反対論が多かった。彼らはむしろ、先の大戦で英国商船団が壊滅した結果、貧弱になった欧州連合の海上輸送力を叩く事の方が効果的な反撃になると考えていたからである。また、セント・ジョン周辺に欧州連合の主力艦隊が遊弋しているのは確実視されており、互角以上の戦力を有する敵に、悪戯に決戦を挑むような作戦は危険な賭けに過ぎた。太平洋艦隊司令部からも「増援到着まで積極的行動を起こすのは得策ではない」との意見が届けられていた。
 しかし、結局〈リターリエイト〉作戦は発動する事が決せられる。理由は政治的なものだった。陸軍が苦戦している横で海軍が何の行動も起こさないと言うのは外聞が悪い上、欧州連合艦隊を撃破する事による政治的宣伝効果、味方の士気高揚は確かに大きなものがあるからだ。
 こうした中、〈遠場《ニュージャージー》透〉艦長は「劣勢の我が軍にはそれなりの準備が必要だな」と言いながらどこかに電話をしており、〈桜庭《ミズーリ》香澄〉艦長は何故かゴルフクラブを振りかざして補給物資を強引に搭載させていた。

2・抜錨

 5月15日午後、大西洋艦隊は〈リターリエイト〉作戦を発動。駆逐艦〈ベッドフォード〉以下10隻が航路警戒の為先行する中、戦艦4、重巡4からなる水上打撃戦部隊が出港した。そして、〈広場《プリンストン》ひなた〉に続いて正規空母〈ボクサー〉が出港しようとしたその瞬間に悲劇は発生した。
 突如、〈ボクサー〉の右舷に4本の水柱が立つ。雷撃である。
 これは、開戦直後からチェサピーク湾内に侵入していた南部連合亡命政権軍所属の潜水艦によるものだった。ノーフォークはもとはと言えば勝って知ったる彼らの港である。密かに潜り込む事は容易な事だった。
 そして、被害は余りに甚大だった。右舷側のスクリューを吹き飛ばされ、爆圧に舵を歪められた〈ボクサー〉は航路を塞ぐようにして着底し、後続の正規空母群や水雷戦隊は港内に封鎖されてしまったのである。
 悲報は更に続く。〈七瀬《ハワイ》留美〉などの有力艦艇が在泊していたニューヨークが敷設潜水艦の散布した機雷によって封鎖され、現地の部隊が出動不能になったのだ。
 これにより、大西洋艦隊の実働戦力は戦艦4、重巡4、軽空母1、駆逐艦10にまで激減したのである。だが、作戦は中止される事なく継続された。政治的理由が作戦の動機になっているだけに、不利だからと言って中止する事ができなかったのだ。

3.空襲

 5月17日、北上を続ける大西洋艦隊は空からの攻撃に曝される。既にメイン・ニューヨークなどの各州はほぼドイツ北米総軍に席巻されており、野戦飛行場だけでなく、占領された合衆国軍の航空基地の幾つかもドイツ空軍によって運用され始めていた。
 こうした中で、沖合いを通過する大西洋艦隊に対して攻撃命令が下されたが、それは大きな効果を上げる事はできなかった。空軍の大半は陸上戦の直協に振り向けられており、対艦攻撃力を持つ機体も少なかったからである。それでも、総計200機近い攻撃隊が4波に別れて来襲した。
 これを迎撃したのが唯一行動可能な軽空母〈広場《プリンストン》ひなた〉の艦載制空隊である。もともとこの艦は防空任務専任艦であり、対潜哨戒用に数機のTDF〈アヴェンジャー〉が搭載されている以外はほとんどがF8F〈ベアキャット〉で編制されていた。ルフトヴァッフェには洋上の敵艦隊を攻撃可能な航続力を持つジェット機は存在せず、攻撃隊の殆どは比較的航続力の長いFw190の戦闘雷撃型やJu88などの双発戦術爆撃機によって編制されていたが、こうした機体はF8Fで十分排除可能だった。結局、この日の空襲では旗艦〈カンザス〉が爆弾一発を受けて損傷したものの損害は軽微であり、ルフトヴァッフェは40機近くを失って敗退している。
 一方、〈広場《プリンストン》ひなた〉も、数で押すドイツ軍の前に16機を失い、20機が損傷した為に、最後の空襲が終わった時には艦載戦闘機隊は作戦能力を喪失していた。彼女は護衛の駆逐艦2隻を付けて後退し、大西洋艦隊の戦力は戦艦4、重巡4、駆逐艦8に低下した。

 5月17日2330時、昼間の空襲を撥ね退けた大西洋艦隊はファンディ湾口に接近しつつあった。この時点での大西洋艦隊(スコット中将)の戦力は次の通りである。

  • 戦艦
    • 〈カンザス〉(旗艦)
    • 〈夕凪《ミネソタ》美奈萌〉
    • 〈桜庭《ミズーリ》香澄〉
    • 〈遠場《ニュージャージー》透〉
  • 重巡
    • 〈ペンサコラ〉
    • 〈クインシー〉
    • 〈ルイスヴィル〉
    • 〈ミネアポリス〉
  • 駆逐艦
    • 〈ベッドフォード〉他7隻

4.ドイツ北米艦隊 一方、ファンディ湾内のドイツ北米艦隊(ハンスマイヤー少将)は以下の艦艇を擁していた。

  • 駆逐艦4隻

 戦艦・巡洋戦艦合計7隻と言う戦力はまさに脅威であったが、補助艦艇が少なく、ややバランスを欠いた編制である。というのもハンスマイヤー少将は本来の指揮官ではなく、正規の指揮官(ハイエ中将)が着任するまでの代理であり、補助艦艇や空母機動部隊も後から到着する予定だったためである。
 この時、ハンスマイヤー少将は湾口付近に2隻のUボートを配置してピケット任務に就かせ、自らは戦艦部隊を率いて湾内をジグザグに航行しながら警戒に当たっていた。この日、北米艦隊は各艦の呼出し符丁として天使の名を用いていた為、〈天使艦隊〉とも呼ばれている。

5.戦闘開始

 17日2345時、合衆国艦隊はファンディ湾への突入を開始した。この動きは湾口で哨戒に当たっていたU−4779に捉えられ、急報が飛んだ。
 これを受け、ドイツ艦隊は進路を変更。合衆国大西洋艦隊への衝突コースに乗った。第三次世界大戦最初の大規模艦隊決戦の幕は、今まさに切って落されようとしていた。 日付の変わった18日0023時、両軍はお互いをレーダーで確認できる距離にまで接近した。この時点で砲門数は合衆国大西洋艦隊の16インチ砲36門に対し、ドイツ北米艦隊が16インチ砲16門、15インチ砲35門と優位に立っていた。逆に、エスコート艦艇は合衆国艦隊の重巡4、駆逐艦8に対してドイツは駆逐艦4と合衆国が優勢だった。スコットはエスコート艦艇群に敵主力のうち巡洋戦艦隊への突撃を命じ、揮下の4戦艦には〈ロイテン〉〈ロスバッハ〉〈日野森《ビスマルク》あずさ〉〈前田《クロン・プリンツ》耕治〉を攻撃する事を指示した。
 0032時、セント・ジョンへの航路を塞ぐようにT時を描いて転舵するドイツ北米艦隊に対し、合衆国大西洋艦隊も同航戦を挑む形で進路を変更。数分後、両者はほぼ同時に砲撃戦の火蓋を切った。
〈カンザス〉は〈ロイテン〉を、〈夕凪《ミネソタ》美奈萌〉は〈ロスバッハ〉を、〈桜庭《ミズーリ》香澄〉は〈日野森《ビスマルク》あずさ〉を、〈遠場《ニュージャージー》透〉は〈前田《クロン・プリンツ》耕治〉をそれぞれ相手取って砲撃を加える。その後方では、3隻の巡洋戦艦に合衆国艦隊のエスコート艦艇群がまとわりつこうとしていた。
 最初に命中弾を得たのは、対日戦で鍛え上げられた〈桜庭《ミズーリ》香澄〉〈遠場《ニュージャージー》透〉の2隻だった。しかし、〈日野森《ビスマルク》あずさ〉〈前田《クロン・プリンツ》耕治〉も負けじと撃ち返す。とりわけ、〈桜庭《ミズーリ》香澄〉と〈日野森《ビスマルク》あずさ〉の殴り合いは凄まじかった。両艦とも、自他共に認める〈ヒロイン〉である。激しい撃ち合いはいつ果てるともなく続くかに見えた。
 しかし、戦闘開始から15分後、0049時。竣工から半年にも満たない〈横蔵院《フリードリヒ・デア・グロッセ》蔕麿〉級の2隻は経験不足が祟り、6〜7発の命中弾を受け、かなりの損傷を被っていた。ラッキーヒットに近い一発が水中弾となって〈夕凪《ミネソタ》美奈萌〉の下腹部に損傷を与えて後落させる事には成功したが、旗艦〈カンザス〉はほぼ無傷。また、〈遠場《ニュージャージー》透〉と交戦した〈前田《クロン・プリンツ》耕治〉はほとんど一方的なメッタ撃ちに合い、1番砲塔は旋回不能。2、3番砲塔を叩き割られ、煙突は吹き飛ばされて落伍していた。〈桜庭《ミズーリ》香澄〉と撃ち合った〈日野森《ビスマルク》あずさ〉は、相手に互角の命中弾数を与えたものの、機関に損害を受けて速力が低下。後退を余儀なくされる。
 そして、主力の脱落を決定付けたのは、〈前田《クロン・プリンツ》耕治〉を無力化したと判断して目標をハンスマイヤーの旗艦〈ロスバッハ〉に変更した〈遠場《ニュージャージー》透〉の一撃だった。この砲撃が〈ロスバッハ〉に与えた損害は物理的には軽微なものだったが、指揮系統と言う面では深刻だった。集中攻撃を受ける事を恐れたハンスマイヤー少将は慌てて退避を命じ、2番艦の〈ロイテン〉もこれに続いた。

6.第二ラウンド

 ドイツ北米艦隊主隊が全艦脱落した時、後方では〈桜塚《シュリーフェン》恋〉艦長、オットー・フォン・レヴィンスキー大佐が先任艦長として統率する巡洋戦艦隊が合衆国エスコート艦艇群を蹴散らしていた。肉薄砲雷撃を試みた合衆国側であったが、発射速度の高い独巡洋戦艦の15インチ主砲の猛打を浴び、重巡4隻は最後尾にいていち早く離脱できた〈ミネアポリス〉を除く3隻が叩き潰されるようにして沈没。駆逐艦戦隊も副砲・高角砲と駆逐艦の阻止射撃により次々に撃破されていた。
 エスコート艦艇群の脅威を除いたレヴィンスキーは脱落した主隊に代わり、合衆国戦艦群と交戦すべく全速突撃を命じる。レヴィンスキーは、主隊の敗退は合衆国戦艦が得意とする遠距離砲戦のレンジで戦った事が理由であると見抜いていた。ハンスマイヤーの消極的態度が招いた事態である。怒りに燃えるレヴィンスキーは近距離射撃戦に持ち込み、合衆国戦艦の優位を崩す事を決めていた。
 これに対し、迎え撃つ合衆国戦艦部隊は〈夕凪《ミネソタ》美奈萌〉が損傷して脱落したものの、旗艦〈カンザス〉て砲戦力が低下していたが、ドイツ巡洋戦艦群を叩くには十分な打撃力を有していた。しかし、28ノットの〈カンザス〉に合わせた為に、33ノットの〈遠場《ニュージャージー》透〉〈桜庭《ミズーリ》香澄〉が足を引っ張られ、優位な砲戦距離を保持する事ができないまま独巡洋戦艦群の突撃を迎え撃つ事になる。 34ノットの最高速で突進するレヴィンスキー隊は主砲の照準を旗艦〈カンザス〉に据えた。一方、合衆国艦隊はセオリー通り一隻が一隻を相手取って砲撃を開始する。24門の16インチ砲と18門の15インチ砲が火を噴いた。
 しかし、今度の戦いは数字の上ほどの優位を合衆国艦隊にはもたらさなかった。既に砲戦距離は合衆国戦艦の放つSHS(大重量砲弾)の有効射程を割り込んでおり、逆にドイツ艦隊の砲撃は精度を増して行った。スコットの旗艦〈カンザス〉は15インチ砲弾多数の命中を受け、たちまち上部構造物を破砕されて全艦炎の海と言う惨状を呈する。
 スコットの戦意を失わせたのは、いったんは離脱していたハンスマイヤーの〈ロスバッハ〉〈ロイテン〉の復帰だった。巡洋戦艦隊の奮戦を知ったハンスマイヤーが戦意を回復して戻って来たのである。2隻の16インチ砲弾が降り注いだ時点でスコットは作戦中止、撤退を命じ、合衆国艦隊は反転を開始した。

7.遅滞戦闘

 嵩にかかって追撃してくる北米艦隊に対し、スコットは大破した〈カンザス〉〈夕凪《ミネソタ》美奈萌〉と半壊したエスコート艦群を避退させる一方で、〈遠場《ニュージャージー》透〉〈桜庭《ミズーリ》香澄〉に撤退援護を命じる。一見無茶な命令であったが、これは2隻の艦長の志願であった。それに、〈遠場《ニュージャージー》透〉には成算もあった。彼はメイン州北部のファンディ湾に面した漁師街の出身であり、海軍入りするまでは家業の手伝いをしてこの湾の地理を熟知していたのである。さらに万一に備えて用意しておいた「仕込み」も十分だった。
 まず、追撃する北米艦隊の前に現れたのは、なんと機雷原だった。慌てて回避するも、間に合わず接触する。しかし、それはドラム缶を利用したダミーだった。その間にも逃走する合衆国艦隊。騙された事に怒り、追撃しようとした〈木ノ下《シャルンホルスト》留美〉の艦腹に水柱が立ち昇る。一発だけ本物が混ぜてあったのだ。
 実はこれは合衆国艦隊が仕掛けたものではなく、地元の漁師達が自発的に結成し始めていた対独抵抗組織の仕業だった。〈遠場《ニュージャージー》透〉艦長が昔の縁をたどって連絡を取り、協力を要請していたのである。
この触雷で混乱した北米艦隊に向け、「お前の運命は定まった」とばかりに〈遠場《ニュージャージー》透〉の主砲が火を噴き、〈ロスバッハ〉を直撃した。この一撃で電路が切断し、漏電によって機関室の要員が昏倒、更にショックで艦橋後方の巨大な地図パネルが外れて落下し、ハンスマイヤー少将を下敷きにすると言った事態を生じた〈ロスバッハ〉は速力を落し、隊列を外れ始めた。さすがのレヴィンスキーもこの状態ではうかつな追撃はできず、遠ざかる合衆国艦隊を歯噛みして見守る事になった。

8.仏艦隊強襲

 虎口を脱出したかに見えた合衆国艦隊だったが、夜は終わっていなかった。〈遠場《ニュージャージー》透〉艦長の下にレジスタンスのメンバー〈早口テセラ〉〈丸顔レノン〉から緊急電が入る。それを聞いた〈遠場《ニュージャージー》透〉艦長の顔色が変わった。同時に、レーダー手がノバスコシア半島の先端を回って現れた敵影を捕捉する。
 ケベック防衛のため、ノーサンバランド海峡にいるはずのヴィシー・フランス艦隊だった。欧州最強戦艦〈篠宮《アルザス》悠〉を筆頭に戦艦3隻を有する強力な艦隊である。レジスタンスの報せとは彼らの来襲だった。合衆国艦隊の目的地がファンディ湾と確定された為、北米艦隊の後詰めに来たのである。大西洋艦隊にとっては極め付けの悪夢だった。
 迎撃体制を取るより早く、〈篠宮《アルザス》悠〉の18インチ砲が火を吐いた。その射撃は3斉射で〈桜庭《ミズーリ》香澄〉を捉え、2発が直撃。後部艦橋とスクリューの半分を粉砕された〈桜庭《ミズーリ》香澄〉は副長が戦死し、指揮系統の混乱と速力の低下で、脳震盪でも起こしたようにふらふらと航行する。さらに、〈篠宮《アルザス》悠〉に続航する〈《ルミラ》ジャン・バール〉〈佐伯《クレマンソー》玲奈〉も射撃を開始し、砲弾の雨が降り注ぎ始めた。
さすがの〈遠場《ニュージャージー》透〉艦長の顔も青ざめ、もはや駄目かと思ったその瞬間、救いの手がやってきた。

9・〈広場《バンカーヒル》まひる〉来援

 突如、夜空を白い閃光が切り裂くように無数の機影が出現した。それを見た〈遠場《ニュージャージー》透〉〈桜庭《ミズーリ》香澄〉の両艦長は叫ぶ。「あれは、〈広場《バンカーヒル》まひる〉の機だ」と。
 それはまさしく、大西洋艦隊出動の報を受け、急遽演習地のフロリダ沖から全速で北上してきた〈広場《バンカーヒル》まひる〉から発進した攻撃隊だった。主翼下にぶら下げた〈アイアン・クロー〉空対艦ロケットランチャーから白い噴射炎の尾を引いて弾体が飛び出していく。対空砲火潰しに使う程度の威力しかないこの兵器も、夜間では極めて有効な心理兵器として作用した。狙われた艦内では、着弾のたびに「首根っこを掴んで壁に叩き付けられる」ような衝撃が走り、艦長は慌てて回避行動を命じた。しかし、その隙を突いて飛び込んだ攻撃機が2発の魚雷を〈佐伯《クレマンソー》玲奈〉に向けて発射。この魚雷はカウンターパンチのように艦首に命中し、〈佐伯《クレマンソー》玲奈〉は壁に正面衝突したように停止を余儀なくされた。
 さらに、いったんは後退していた〈広場《プリンストン》ひなた〉も対潜哨戒用のTDF〈アヴェンジャー〉に魚雷を積んで投入、駆逐艦1隻を仕留めている。
 この空襲により、ヴィシー・フランス艦隊の混乱は収拾の付かないものとなってしまった。合衆国艦隊は欧州連合側に追撃の余力無しと見て、損傷艦を守っての整然とした退却に移る。不幸な事に、旗艦〈カンザス〉は帰還の途上でU-4779の雷撃により止めを刺されたが、艦隊の主力はフロリダへの退避に成功したのだった。

10.総括

 最終的な両軍の損害は次の通りである。

合衆国海軍大西洋艦隊

  • 沈没
    • 戦艦 〈カンザス〉
    • 重巡 〈ペンサコラ〉〈ルイスヴィル〉〈クインシー〉
    • 駆逐艦 5隻
  • 大破
    • 戦艦 〈桜庭《ミズーリ》香澄〉〈夕凪《ミネソタ》美奈萌〉
  • 中破
    • 重巡 〈ミネアポリス〉

戦死 司令長官スコット中将以下6702名


欧州連合艦隊

  • 沈没
    • 駆逐艦 4隻
  • 大破
    • 戦艦 〈前田《クロン・プリンツ》耕治〉〈ロスバッハ〉〈佐伯《クレマンソー》玲奈〉

戦死 1403名

 戦略・戦術両面において欧州連合の勝利であった。セント・ジョン防衛に成功したのみならず、大西洋艦隊の実働兵力を大きく減少させた欧州連合軍は大西洋の制海覇権を確保し、その後の補給を容易なものとした。逆に艦隊戦力の大半が損傷・作戦不能になった合衆国大西洋艦隊は、潜水艦などで輸送路破壊作戦を継続するもののジリ貧となり、結局大西洋放棄を余儀なくされる。
 もっとも、多数の敵艦に損傷を与えた事で、大型巡洋艦〈七瀬《ハワイ》留美〉や戦艦〈小野崎《インディアナ》清香〉が敵包囲下から脱出する時間を稼いだ事は後の戦局に与えた影響を考えると、合衆国が上げた唯一のポイントかもしれない。
 ともあれ、ファンディ湾海戦は第三次世界大戦における合衆国の分裂を決定付けたという点でもきわめて歴史的意義の高い戦闘と言えよう。