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〈白瀬《エディンバラ》憂〉

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大英帝国王立海軍軽巡洋艦〈白瀬《エディンバラ》憂〉(HMS”Edinburgh”/RN)

Xuse【純米】「Floralia」シリーズ 白瀬憂

巡洋艦というもの

 大洋の向こうに出向くだけでいい合衆国海軍や、やってくる敵を待っていれば事足りる日本海軍と違い、英国海軍には世界中に散らばる植民地を守る使命があった。食料一つ自給できない英本国がパックス・ブリタニカを現出できたのはひとえに植民地から生み出される資源であり、権益である。そして植民地と本国を結ぶ貿易路を守ること、それが王立海軍巡洋艦に課せられた使命だった。
 だから英国にとっては合衆国や日本の建艦競争など本音では「バカは勝手にやってろ」のレベルであり、現に「戦艦を全廃しよう」と本気で各国に呼びかけたことさえあったのだから。
 第一次大戦まで警備にあたっていた装甲巡洋艦は既に無く、貿易路を護るフネは自動的に巡洋艦が勤めるしかない。そして世界中に散らばる植民地を護るために必要な数はなんと70隻。それだけの数をそろえるにはどうしても小型化して予算を節減する必要がある。
 だがそうやって小型化し、数をそろえた巡洋艦達は人の台所事情を全く考えない日本の〈相田《最上》響子〉級や合衆国の〈沢村《ブルックリン》有希〉級の建造着手によって呆気なく崩れ去った。小型で兵装が貧弱な英国巡洋艦は重兵装の合衆国巡洋艦を前にしてははそれこそたこ焼きのようにぱくぱくついばまれてしまうだろう。結局、不本意ではあろうが英国は量より質への道に向かうしかなく、ちゃんとした攻防力をもった正統派の大型軽巡洋艦を建造することとなった。これが艦名に都市名を冠したタウン・グループであり、この中でも隆山条約期限切れを計算して1936年計画で建造されたのが最終型の〈白瀬《エディンバラ》憂〉級である。


大型巡洋艦

 合衆国の次の巡洋艦を意識し、防御範囲を前後に拡大するとともに甲板防御も強化。対空兵器も連装6基に増強された高角砲と新型の2ポンド・8連装ポンポン砲。これは水冷式の40口径40ミリ機銃で発射速度は毎分200発という性能だが最大射高が4000m弱しかなく、戦時ではドイツの急降下爆撃に苦しめられることになる。
 主砲は当初攻撃力増加のために4連装砲塔を搭載する計画であったが、機構が複雑過ぎてとても開発が間に合いそうもないため断念、他の軽巡と同じMkXXIII(マーク23)を搭載することとなった。 中央の砲身だけがバックした独特の構造を持つ三連装砲塔に収められたこの砲は50.8kgの砲弾を841m/sの初速で最大23,300m先へと飛ばし、発射速度は分あたり7発である。
 最大仰角は45度で基本的には水上戦闘用にしか使えないがそもそも弾と発射薬が分離した嚢砲(発射薬が袋入り)なので対空戦をやろうしても無駄であろう。
 速力は当初日英の大型軽巡洋艦に対抗するため35ノットが要求されたが機関の手配と航続力との折り合いがつかず、〈サウザンプトン〉級のものを出力を上げて搭載。既に型式統一されていた海軍省型の水管ボイラーと英国発祥・本家本元のパーソンス・タービンを4基づづ搭載、これで8万馬力・32ノットを発揮した。
 その機関は間接防御を強化するためシフト配置を採用、煤煙の艦橋への逆流防止のために後退させた前部煙突と広がった艦橋との間のスペースに横向きカタパルトを搭載、両煙突間には魚雷発射管とボート甲板を配置。 航空施設によって6基の高角砲も第一煙突と第二煙突の間に綺麗に並べられたおかけで反対側への射撃を可能にして対空射撃能力を高めたが、弾火薬庫は前の方にあったので高角砲を撃つには弾丸を延々33メートルも運ばないとならないというドジな結果を招いてしまった。
 艦形としては〈サウザンプトン〉級や〈マンチェスター〉級の流れを汲むものであり、艦橋構造物は全く同一であったが、前述のとおり煙突配置が変わり、後部の2砲塔も一段高い位置に持ち上げられたためかなり印象が異なり、前2級の重厚さに比して軽快さの方が表に出てきたような感じを周囲に持たせている。


どんな状況でも

 竣工早々、第七巡洋艦戦隊旗艦となった〈白瀬《エディンバラ》憂〉は大英帝国海軍最新・最強の巡洋艦としてスカパ・フローにあり、開戦とともに意気揚々、スカパ・フローを出撃した。
 ・・・が、出港してほんの数分。彼女全体に物凄い衝撃が走り艦内はてんやわんやの状況に陥った。艦内そこら中の備品があっちこっちに吹っ飛び、人間様も壁やら天井に叩きつけられて手のつけられない騒動を引き起こす。慌てふためいて手をばたばたさせている乗員を落ち着かせながら(まだ冷静な)乗員が艦内を調べると艦底に大穴が開いて海水が遠慮容赦なく流れ込んでいる。
 ・・・機雷だった。開戦日に〈U21〉がバラ撒いていた機雷を思いっきり踏んづけていたのだ。じたばたしても始まらない。なんとも情けないことに〈白瀬《エディンバラ》憂〉は初出撃も何もいきなりドック入りする羽目になってしまった。ドジな彼女の幸運な人生はこうして始まったのである。
 41年5月までの修理の間に新型レーダーとバルジを取り付けた〈白瀬《エディンバラ》憂〉は援ソ船団の護衛として北極の寒い寒い海に駆り出された。
 寒い海、誰もこんなところに行きたくはない。だがドイツに押されまくっているソ連を助けなければ次は自分(英国)がやられる。日本からも(無い袖を振って)軍需品を送ってはいるが戦場までは余りにも遠い。そして貰う方のソ連海軍はというと物の役に立たない。
苦労するのはフネと物資を出す英日だけで受け取るものが来なければ文句を言う。
 そんな丸損な状況の中でもロイアル・ネイビーは戦った。(本望ではないが)ドイツも空軍、Uボート、駆逐艦、そして〈春原《リュッツオウ》七瀬〉や〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉といった艦艇を繰り出して妨害に走り、ついには虎の子の大戦艦〈テルピッツ〉まで送り込んで妨害に精を出す。
 これらの妨害を潜り抜け、報われない相手のためにロイアル・ルイビーは酷寒の海を駆け回った。既に〈トリニダード〉は沈み、僚艦〈ベルファスト〉もまた絶望的な状況の中斃れていった。
 そんな中、〈白瀬《エディンバラ》憂〉は大改装を受けて「若返ったとしか思えない」〈白瀬《ロンドン》和〉や駆逐艦とともにPQ16船団の護衛に就く。〈白瀬《ロンドン》和〉は条約型(カウンティー型)重巡だがつい最近の大改装で新型装備とモダンな箱型艦橋へと見違えるような改装を受けて戦闘力は極めて高かった。
 そこに〈春原《リュッツオウ》七瀬〉と〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉を中心とするドイツ艦隊が接近。両者ともレーダーを働かせていたとはいえ天候が良いことなどロクにないこのバレンツ海。気づいた時には彼女達は接近状態での砲撃戦に入っていた。
 護衛部隊旗艦である〈白瀬《ロンドン》和〉が〈ナイジェリア〉を引き連れて〈春原《リュッツオウ》七瀬〉を相手取る間、後ろからついてきた〈白瀬《エディンバラ》憂〉〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉との勝負に挑む。恐ろしく冷静に「背筋が寒くなる」とまで言われた〈春原《リュッツオウ》七瀬〉に命中弾を与える彼女と違って〈白瀬《エディンバラ》憂〉の戦い方は・・・とにかく「うぃ〜」とばかり砲身を振り回してはやたらに撃ちまくる素人っぽい戦い方。しかしこれが功を奏した。
 威力は劣るが発射弾数は〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉のほぼ倍。しかも〈白瀬《エディンバラ》憂〉がとにかく撃ちまくるのに対し、向こうがお嬢様らしくレーダーを頼りに優雅に精密に撃とうとするから弾数の差は更に開く。
 ついでに言えば接近しているから適当に撃っても実は当たる。結果ものの10分もしないうちに〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉は浸水したのだろうか傾きながらよたよたと逃げていった。お嬢様は日光どころか吹雪にも弱いらしい。
 もっとも〈白瀬《ロンドン》和〉の方はというと一発も喰らわずに〈春原《リュッツオウ》七瀬〉に命中弾多数を与えて追い払っているのだからその実力恐るべし。さすがは条約型から現在までの巡洋艦の「母」たる存在だけはある。
 結局援ソ船団は42年半ばまで続いたが、〈テルピッツ〉の出撃によって空中分解。その後のドイツ海空軍の攻撃によってほぼ全滅したPQ17船団を最後に援ソ船団は中止される。それはソ連の寿命を確かに延ばすことには成功したが、代価として多数の艦船を失い。英国自身の寿命を縮めてしまう結果となってしまった。


成長のために

 単艦となった〈白瀬《エディンバラ》憂〉は本国撤退船団を護衛しつつカナダに到着。そして大戦終結後、日本に回航されて近代化改装を受けている。本国を失った王立海軍のフネ達はオーストラリアやインド、カナダ等に住所を変えたが本格的な改装となると日本に頼るしかなかったのである。
 この近代化改装によって電子兵装とそれを支えるマストの強化、艦橋構造の拡大を行い、主砲も日本との共同開発となった水冷式自動砲であるMk26(呼称法が変わって砲架番号を使う)に換装。砲門数は減ったが射撃速度が飛躍的に向上したため戦闘力はかえって向上している。
 この他、高角砲を未成駆逐艦〈バトル〉型用だったMk6・11.4cm連装砲へと換装、ポムポム砲からボフォース機銃への変更、代償として航空装備の撤去が行われたが、魚雷発射管だけはなぜか残された。これは日本巡洋艦が魚雷発射管を残して誘導魚雷を搭載する傾向に合わせたもので、防空力を強化してもやはり巡洋艦は対艦戦闘をすべきだという意見の産物であろう。
 再びの大戦に入ると彼女は太平洋や大西洋。インド洋の船団護衛、そしてスエズ奪回戦へと転戦した。かつては「向日葵すら枯らせる」ほど下手だった射撃や護衛の腕前も向上し、それどころか巡洋艦隊の中軸として最新鋭の〈ホーク〉級(日本の〈黒部〉級の英国仕様版)や〈コンコード〉級を率いて戦う「委員長」へと成長していた。


対決〜マルタ沖

 1951年夏、〈白瀬《エディンバラ》憂〉は第三巡洋艦戦隊旗艦として残り少ない英艦隊の中核を勤めていた。彼女が竣工した時には65隻もいた英国巡洋艦も今や20隻にも満たない。英本土陥落までに11隻を追加しても損害はそれを遙かに上回り、櫛の歯の抜けるように数は減っていった。今では応援に駆けつけた日本第二艦隊の巡洋艦達の方がよっぽど大きくて強くて数が多い。1万トンクラスの〈白瀬《エディンバラ》憂〉よりも遙かに巨大な「巡洋艦」達が世界中を闊歩する。そんな時代になっていた。
 地中海に入った英日米枢軸艦隊はイタリア艦隊を追い詰め、マルタへ、そしてシチリアへと軍を進めていく。これに対してダ・ザーラ大将はイタリア残存艦隊を結集して最後の賭けに出た。マルタ沖海戦である。
 本来は英日米の三国艦隊が合流してからイタリア艦隊と戦う予定だったのだが、英国艦隊上層部による「マルタを見捨てられない」という判断から単独突出、戦力が揃いきらないうちに海戦をする羽目に陥った。
 この時〈白瀬《エディンバラ》憂〉〈チェスター〉〈ニューカッスル〉の三隻はグランサム中将に率いられて戦艦部隊の後に続くはず・・・しかしその戦艦部隊は時代錯誤の「ネルソン・タッチ」(逆丁字砲戦!)を挑んで5分と持たず大破。数に劣るはずのイタリア艦隊が各個突入状態になった英日艦隊を叩きかねない状況になっていた。
 〈白瀬《エディンバラ》憂〉達が進んで行くと前方からスクラップと化した巡洋艦が漂流してくる、どこの国(少なくとも味方だが)かは判らないが、前方の砲火からすると大変な敵と戦っているようだ。速力を上げてさらに接近するとすぐ前方で日本駆逐艦が火達磨と化す。多分雷撃に突っ込んで返り討ちに遭ったのだろう。瞬時に魚雷に被弾して巨大な火柱を衝き上げて沈没していく。その火柱に隠れるように〈白瀬《エディンバラ》憂〉は進む。そして艦長や乗員に緊張が走った。

 「敵前方、大型巡洋艦〈柴崎《ルクレツィア・ロマーニ》彩音〉級、おそらく二番艦〈麻生《ルチア・エドワルド》鈴音〉」

 敵だ、本能的に感じた。戦艦並の巨艦。梯型配置の中部主砲。V字型煙突。間違いない。〈麻生《ルチア・エドワルド》鈴音〉(一番艦とはマストのトップ等が違う)。
 迫力が違う。大人な彼女に対して自分のいかに小さなことが。だが逃げない。逃げる訳にはいかない。どんなことがあっても貫き通す。
 〈白瀬《エディンバラ》憂〉は文字通り真正面から凝視し、そして挑みかかった。彼女に勝たねばならない。それが運命だから。
 4基のMk26連装砲が旋回し、20000mから射撃を開始した。後ろからついてくる〈チェスター〉〈ニューカッスル〉も撃つ。だがいつしか砲撃戦は一対一になっていた。いつからだろう。〈チェスター〉〈ニューカッスル〉は脱落したのだろうか。そんなことを考える暇などなかった。ただ眼前の彼女・・・〈麻生《ルチア・エドワルド》鈴音〉を凝視し、一歩も引かずに射撃を続ける。彼女に勝たなければならない。それが〈白瀬《エディンバラ》憂〉の運命なのかも知れない。
 命中弾は数えるだけ無駄だった。端正だった上部構造物は無茶苦茶な状態。あちこちに火災が発生し、砲弾が揚げる水柱で消されてはまた発生する。それでも4基8門の砲は一分間に20発近くの砲弾を相手に送り続けた。
 どのくらい凝視し続けただろう。舵取機室に飛び込んだ砲弾によってまっすぐ進まなくなった〈白瀬《エディンバラ》憂〉は〈麻生《ルチア・エドワルド》鈴音〉と徐々に距離が離れていく。
 見えなくなる直前、通信機にラテン訛りの英語通信が入ってきた。弱くて小さな呟きのような声だがはっきりと判る。
 「・・・貴艦はイギリスにはもったいないよ」
 マルタは見捨てられなかった。そして英国艦隊は逃げなかった。それは彼女や彼女と共に戦った日本や合衆国の名も忘れがちな艦の力だった。


輝く時

 第三次世界大戦の死闘の末、英国は本土を奪回し、修理を終えた〈白瀬《エディンバラ》憂〉もまたスカパ・フローでの観閲式に参列した後、一組の若い夫婦を乗せて日本への航海へ旅立った。夫が自らの名前にちなみ、そして勝利をもたらしたこの艦で是非という理由で。その夫の名はエディンバラ公爵フィリップ。妻の名はクイーン・エリザベス。
 王室ヨットもかくあらんかというウエディングドレスを思わせる白塗装に身を包んだ〈白瀬《エディンバラ》憂〉。平凡と言われた彼女が戦いの末に掴んだものは輝くような姿であった。
 日本各地で大歓迎を受けた「新婚旅行」の後、しばらく極東艦隊や地中海艦隊でつつましく活動していた〈白瀬《エディンバラ》憂〉。71年からは〈村上《ユリシーズ》若菜〉とちょうど対岸(バッキンガム宮殿に近い方)に同じように記念艦として保存されている。
 海洋国家大英帝国。その力の源を守った巡洋艦達。その目的として最後の存在であり、最後まで守り抜こうとした〈白瀬《エディンバラ》憂〉。それを保存することは海洋国家としての英国は永遠に終わらない。そう言いたいのではないだろうか。

要目

  • 基準排水量 10400t 
  • 常備排水量 13400t
  • 全長 186.99m 
  • 全幅 19.30m 
  • 喫水 5.30m
  • 主機 パーソンス式ギアードタービン4基/4軸
  • 主缶 アドミラルティ3胴式水管缶4基
  • 出力 80,000馬力
  • 速力 32.5ノット
  • 航続力 12ノットで12,200海里
  • 燃料搭載量 2,250t
  • 兵装(新造時) 
    • Mk.XXIII・50口径15.2cm3連装砲4基
    • MkXVI・45口径10.2cm連装高角砲6基
    • 2ポンド・8連装ポンポン砲2基 
    • 12.7mm4連装機銃2基
    • 53.3cm三連装魚雷発射管2基(水上)
  • カタパルト1基
  • 水上機3機

(1952年)

    • Mk26・50口径15.2cm連装砲4基
    • Mk6・45口径11.4cm連装両用砲6基
    • ボフォース40mm4連装機銃6基
    • 53.3cm三連装魚雷発射管2基(水上)
  • 装甲 
    • 水線舷側114mm
    • 甲板38mm(水平)
    • 114mm(弾火薬庫上面)、
    • 砲塔102mm(正面)/51mm(側面)

  

同型艦

  • 〈白瀬《エディンバラ》憂〉 Edinburgh スワン・ハンター社 1939年8月9日竣工 1971年記念艦となる
  • 〈ベルファスト〉 Belfast ハーランド&ウォルフ社 1939年8月3日竣工 1942年5月2日沈没