〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉
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〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉 Schwere Kreuzer Shirakawa-ADMIRAL HIPPER-Sayaka,KM
Circus「水夏〜SUIKA〜」白河 さやか
解説
第二次大戦前にドイツが就役させた、隆山条約準拠の重巡洋艦である。
優美可憐で「お嬢様」な外見から人気は高く、今に至るまで記念切手や様々な出版物では彼女が表紙を飾り、ドイツ海軍の王道にしてメインヒロイン的な役割を果たし続けている。
建造に至るまで
第一次世界大戦開戦時におけるドイツ巡洋艦の勢力は、大型巡洋艦が十五隻(装甲巡九隻、防護巡六隻)、小型巡洋艦が三十五隻という一大勢力であり、さらに小巡十二隻が建造中であった。
そして装甲巡は六隻が戦没し、残る三隻は戦争中に解役されて戦後に解体された。防護巡は初期に解役されたために喪失は無く、戦後に五隻が解体、一隻が商船に改造されている。小巡は十九隻を失い、十四隻が就役、終戦時に三十隻が残っていたが、うち十一隻は老朽による係留状態だった。まさにドイツ巡洋艦は勇者の如く戦い、壊滅しさったのである。
ヴェルサイユ平和条約で定められた巡洋艦保有量は、現役艦六隻、予備艦二隻の合計八隻のみ。それも一九〇〇年計画の〈ガツェレ〉級小型巡洋艦(満載排水量三〇〇〇トン)六隻と、その後に建造された〈ブレーメン〉級(満載排水量三七〇〇トン)二隻だった。どちらも前世紀に計画された艦で、日露戦争時ならば最新鋭と呼ばれるだろう代物である。これらは艦齢が二十年になると、基準排水量六千トン以内、備砲は十五.二センチ以下の条件で代替艦の建造が許可された。建造が許可された場合でも、連合国監視委員会の干渉、圧力を甘んじて受けねばならなかった。 かくして、ドイツ海軍の牙を抜いたと信じたフランスは安んじてイタリア相手の建艦競争に興じることができたのだ。
しかるに、戦後のドイツはポーランドとその同盟国であるフランスを仮想敵と見なしており、海軍の任務はドイツ本土とオストプロイセンとの海上交通路の確保とされていた。とはいえ、ソ連とは秘密の同盟を結び、またポーランドの海軍兵力は微弱であることから、ドイツにとっての最大の脅威はフランスによる沿岸封鎖だったのである。
そのフランスは主力艦の代艦の建造を進めていたが、主力艦の稼働率は低く押さえられ、巡洋艦以下の艦艇の整備に力を注いでいた。艦隊決戦にしか使えない主力艦よりも、植民地警備に必要な軽艦艇を整備する方が有益だったからである。さらに陸上ではマジノ線の建設が進められており資金はいくらあっても足りない。となれば金食い虫の主力艦が港に停泊したままなのは当然の事態だった。
であれば、ドイツ海軍が対抗すべきフランス海軍の艦艇は隆山条約の課した制限内の新型巡洋艦ということになる。
その具体化した姿が「ポケット戦艦」こと装甲艦〈春原《ドイッチュラント》七瀬〉である。外洋での通商破壊作戦によって、フランス海軍の兵力を引きつけることを狙ったのである。〈春原《ドイッチュラント》七瀬〉級は、火力は隆山条約によって口径八インチ以下と制限された巡洋艦を圧倒し、速力では鈍足のフランス戦艦との交戦を回避して離脱できる(注1)。
ドイツ海軍の主任務は沿岸防御と通商破壊の二本立てとなり、それに対応しうる海上兵力の建設を鋭意進め、その中核となる巡洋艦の新造に努力を払った。
その結果が前記老朽艦の代替としての、〈エムデン〉、〈ケーニヒスベルク〉級三隻、〈ライプチヒ〉、〈ニュルンベルク〉の六隻である。〈エムデン〉こそ第一次世界大戦時の巡洋艦と大差ない戦力価値の艦として新造せざるを得なかったが、〈ケーニヒスベルク〉級以下の五隻は通商破壊戦への使用を念頭に置いた偵察巡洋艦として建造された(注2)。
復活の途を歩みつつあるとはいえ、新造の軽巡だけでは有事の際にフランス巡洋艦勢力に対して劣勢になることは明白だった。フランスには重巡が三クラス7隻、軽巡だけでも十一隻がある。 そのためドイツ海軍は一九三〇年代初期から密かに重巡洋艦の検討に着手していた。フランス重巡〈アルジェリー〉に対抗可能で、戦艦〈三好《ダンケルク》育〉級より優速、かつ大西洋での作戦が可能な航続力を持つ重巡洋艦である。
一九三五年にドイツはヴェルサイユ条約の破棄と再軍備を宣言し、続いて海軍兵力の保有量を対英三五パーセントに抑える英独海軍協定を締結した。ここに重巡洋艦〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉の建造が公然と可能になったのだ。
注1:三〇ノット近い高速を誇る〈斉藤《ノルマンディー》倫子〉級は高速艦艇をそろえるイタリアに対抗するため地中海方面に配置されていた。
注2:偵察と通商破壊の両任務では後方の敵との交戦が多いと見られたために、前部一基、後部二基の砲配置とされた。
建造および概要
一九三五年七月ハンブルクのブローム・ウント・フォスで〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉は起工され、一九三九年三月一三日に竣工した。僚艦〈ブリュッヒャー〉は一九三六年八月にキールのドイチェ・ヴェルケで起工し、一九三九年九月の竣工である。竣工時、艦首は垂直型のアップライト・ステムだったが、凌波性を改善するためにクリッパー型へと改められた。
艦容は塔型構造物、1本煙突、高い後部マストを備えて、巡洋戦艦〈木ノ下《シャルンホルスト》留美〉や戦艦〈日野森《ビスマルク》あずさ〉らと共通するデザインとなっている。海上で遠方から視認する際に、特に夜間の場合は大きさが不明確になるため、相手方を迷わす狙いがあったと言われている。事実、主砲が小振りな本級をF級戦艦と誤認する事例が発生していた。
主砲は二〇.三センチSKC/34を連装四基、前後に振り分けて搭載している。この砲は各国の条約型二〇センチ砲の中ではもっとも遅く開発されただけあり、砲身は最長の六〇口径、射程は仰角三七度で三三〇〇〇メートルに達する。日英米各国では二九〇〇〇前後が最大射程である。また、薬室への装填は被弾時の誘爆防止の観点から薬莢式で、油圧式の水平鎖栓方式である。発射間隔は十二秒を実現しているが、「成績上の落第生」であることからどうやら実戦では実行できなかった模様である。
高角砲一〇.五センチSKC/33は内筒交換式、垂直鎖栓式の砲で、一五キロの砲弾を初速九〇〇m/sで発射する。砲塔の旋回速度と俯仰速度は毎秒一〇度と遅く、発射速度は毎分一五〜一八発と堅実な設計である。
水雷兵器はドイツ海軍の重視するところで、五三.三センチ三連装を四基、甲板上に装備している。また、直径一.一メートル、炸薬三〇〇キロのEMC機雷を九六個搭載している。このEMC機雷をばばばっとばらまく〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉の「いたずら」に引っかかる英艦艇は多く、「よい子はこんなことをしちゃ駄目だぞ♪」とからかいの電文を送ったりしている。
装甲は舷側八三ミリ、砲塔一五九ミリと装甲艦よりも強化されていたが、二〇.三センチ砲に耐えられるものではなく、ちょっとした傷が絶えなかった(注3)。
機関は巡航に必要な出力を得られるディーゼル機関が無かったため、すでに商船で試みられていた高温高圧タービンの使用によって航続力を確保することになった。作動蒸気は摂氏四五〇度に達し、圧力は平方センチメートルあたり八五キログラムになる。主機は超高圧蒸気に対応して、高圧、中圧、低圧、巡航の各タービンと一段減速歯車で構成され、三基装備の三軸推進、一三二〇〇〇馬力で三二ノット余の速力を得た。しかしながら、本級の高温高圧タービンはトラブルが頻発し、燃費低減も期待を下回っているので成功したとは言い難い。そのためか「肌が日光に弱いお嬢様」と言われているのである。
注3:1940年のノルウェー侵攻作戦「ヴェーゼル演習」では、英駆逐艦〈グローワーム〉の体当たりを喰らって小破した。バレンツ海でも英重巡らとの撃ち合いですぐに浸水を起こしている。
夏の夜の夢
〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉は第2次世界大戦ではノルウェー侵攻作戦を始め、北海、北大西洋、バレンツ海で活動し、英日両国の海軍が「魔女」と呼んで彼女を忌み嫌うほどの「通商破壊の天才」振りを発揮した。もっとも直接の戦果自体は極小であるので、通商システムを撹乱するという「戦果」にとどまっている(注4)。
その「戦果」は、彼女に開戦当初に装備された水上捜索電探がもたらしたものだった。白いレースの帽子を思わせるFuMO〈ゼータクト〉レーダーにより、〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉は船団の所在をつかむことが出来、また敵対する者の存在を早期に読みとることが出来たのである。ために英海軍は彼女に振り回され続け、消耗していくことになる。
とはいえ、バレンツ海でのPQ16船団襲撃作戦「レッセルシュプルング」では〈白瀬《ロンドン》和〉と〈白瀬《エディンバラ》憂〉の親子に振り回されたあげく、〈白瀬《エディンバラ》憂〉によって命中弾を与えられて後退せざるを得なくなっている。期末テストならぬ実戦では道徳の時間のように「じっと座っていれば良い点をくれる」という訳にはいかないのであるから、後年にアメリカ連合海軍の〈オレゴン・シティ〉級重巡〈上代《ロチェスター》蒼司〉による家庭教師が必要なのもむべなるかな、と言えよう。
一九四四年には、日英軍のクレタ島撤退を襲撃して発起したクレタ島沖海戦で〈日野森《ビスマルク》あずさ〉と〈木ノ下《シャルンホルスト》留美〉が大中破したことから、一時的に高海艦隊旗艦の座に着いている。その後は長く高海艦隊に属し、レーダーを新型のFuMO65〈ラピュタB〉に変更したり、高角砲射撃指揮系統を改めたりしたが、大きくは改装されないでいる。
一九四九年、〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉は北米艦隊カリブ海支隊への増援としてハバナに派遣された。そしてキューバ中部の、バハマ側に数珠のように連なるカマグウェイ諸島ロマノ島沖で、彼女は生涯最大の危機を迎えた。
中部大西洋海戦が生起しようとしている傍ら、キューバ南部に侵攻した枢軸軍を追い落とそうとしている第一七軍団(フィールハイト中将)への支援砲撃に従事したのだが、合衆国海軍の駆逐艦部隊〈バッド・ボーイズ〉の襲撃を受けたのである。
それは闇夜の強襲であった。〈バッド・ボーイズ〉は以前に見目麗しい〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉を白昼襲撃しようとして、旧式戦艦〈白河《プロイセン》律〉(旧艦名〈オクラホマ〉)の相手の運動方向を読み切った砲撃によって撃退されたことを恨み、執拗に襲撃の機会を伺っていたのだ。相手は単独行動。いつもくっついている面倒な奴、〈上代《ロチェスター》蒼司〉の姿は見えない。砲撃に熱中している今ならば、銀に光る刃物ならぬ魚雷で存分にいたぶる事が出来る。
〈バッド・ボーイズ〉の一撃を〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉は避けたものの右舷に砲弾が命中し、折悪しく機関室に飛び込んで右舷推進軸が回転しなくなってしまった。
燃料タンクも破損して重油を流す彼女を嬲ろうと〈バッド・ボーイズ〉がさらに接近したところに、〈上代《ロチェスター》蒼司〉が一気に飛び込んで追い散らした。〈バッド・ボーイズ〉が苦し紛れにはなった魚雷が命中したために〈上代《ロチェスター》蒼司〉はしばらく入渠する羽目になったのだが、とにかく〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉は生き延びたのである(注5)。
右舷推進軸を破損した〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉は、巡洋艦としての能力をほぼ失ってしまった。ニューヨーク海軍工廠の見立てでも完治の目処は無い、ということであった。
しかしながら〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉は挫けてなどいなかった。難しい顔で悔やむ〈上代“ロチェスター”蒼司〉に対して、巡洋艦の役目は太陽を駆けめぐっての戦闘ばかりではないことを示したのである。海上交通路の保護、沿岸防御もまた巡洋艦の任務である。絵筆をふるうことは出来なくても、文字を書くことには支障がないのだ(注6)。
以後、激しい戦闘の正面には出ることの無くなった〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉だが、彼女の隣には必ず〈上代《ロチェスター》蒼司〉の姿がある。ライバルでもあるM級軽巡〈若林《ドレスデン》美絵〉や、〈クリーブラント〉級軽巡〈上代《リトル・ロック》萌〉との確執もあるのだが、〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉は気にしていない。というか確執があることに気づいてもいない。一人苦労するのは〈上代《ロチェスター》蒼司〉の役目であった。
第三次大戦が終戦を迎えたとき、〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉はドイツ北米艦隊の旗艦であった。以後も象徴的な役目を続け、AS+改装で近代化を施すなどメインヒロインであり続けている。
注4:一九四〇年十一月には哨戒線を突破して大西洋に出たものの、さっぱり獲物に出会えなかった。聖夜にようやく船団を発見して「ぼんじゅーるお昼ご飯」と打電して突入しようとしたが、その船団は北アフリカへの軍事船団WS5Aであり、重巡〈ベルウィック〉と軽巡〈ボナヴェンチュア〉に追いかけられる羽目となった。リベンジを期して、翌年二月十二日にジブラルタル船団HG53を発見し「さのばびっち晩ご飯」と突撃したが、U37とFw200が先に大半を仕留めてしまっていた。通商破壊作戦「お裾分け」の大半は失敗に終わったが、英日の海軍は〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉の所在をつかめず混乱を重ねていた。一方では、英日のその混乱を生かして、合衆国義勇艦隊が着々と戦果を挙げていたのである。
注5:ほぼ同時刻、〈白河《プロイセン》律〉が沈んでいる。探照灯を煌々と付けての艦砲射撃をおこなったために地上からの反撃を受けたのである。この支援砲撃作戦はいろいろと錯綜しており、〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉と〈白河《プロイセン》律〉のどちらが主力で陽動なのかがハッキリしていない。
注6:〈上代“ロチェスター”蒼司〉に云わせると「先輩(〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉のこと)と一緒にいると、モノの表現の幅が広がりますよね」ということらしい。「おてんこ娘」の面目躍如といったところか。
要目
- 全長 205.9メートル
- 全幅 21.3メートル
- 主機 ブローム・ウント・フォス式ギヤード・タービン3基3軸
- 主缶 ラ・モント缶(強制還流型)12基
- 機関出力 132000馬力
- 最大速力 32.6ノット
- 基準排水量 14475トン
- 満載排水量 18200トン
兵装
- 主 砲 20.3センチ連装砲4基
- 高角砲 10.5センチ連装砲6基
- 機銃
- 37ミリ連装機銃6基
- 20ミリ連装機銃8基
- 雷装
- 53.3センチ魚雷発射管3連装4基
- EMC機雷96個
- 航空 水上偵察機3機
装甲
- 舷側 83ミリ
- 甲板 32ミリ
- 主砲 159ミリ
- 司令塔 150ミリ
同級艦
- 〈白河《アドミラル・ヒッパー》さやか〉
- 〈ブリュッヒャー〉
- 〈日野森《プリンツ・オイゲン》美奈〉
- 〈ザイドリッツ〉 軽空母〈七城《ヴェーゼル》柚子〉として完成
- 〈リュッツォウ〉 建造中止後、ソ連へ譲渡 独ソ戦にともない破壊
会議室を出る