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〈川中島《バルティモア》里美〉

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合衆国海軍重巡洋艦〈川中島《バルティモア》里美〉

合衆国海軍軽巡洋艦〈諏訪《クリーブランド》奈津子〉

元ネタ:オーガスト「バイナリィ・ポット」川中島里美 諏訪奈津子

合衆国海軍軽空母〈《サイパン》サトミ〉

合衆国海軍軽空母〈《インディペンデンス》ナツコ〉

元ネタ:オーガスト「バイナリィ・ポット」サトミ ナツコ

概要

 合衆国海軍のポスト隆山条約型巡洋艦。魚雷兵装を廃し、砲撃戦と防空戦を主眼に置いた他、条約型巡洋艦では不可能だった、自艦の砲撃に耐えられる対応防御を採用した設計を特徴としている。特筆すべきはその建造数で、〈川中島《バルティモア》里美〉は12隻、〈諏訪《クリーブランド》奈津子〉は20隻もの大量建造が行われた。また、その船体は正規空母の補助となる高速軽空母にも転用され、それぞれ〈《 サイパン》サトミ〉級と〈《インディペンデンス》ナツコ〉級として就役。数の少ない正規空母群を助けて転戦した。さらに一部は指揮通信艦や揚陸指揮艦などの特務艦にも改造されている。


特徴

 1938年、隆山条約の有効期間切れと同時に、合衆国海軍は大規模な建艦計画を発動させた。その中には防空巡洋艦〈アトランタ〉級と合わせ、実に40隻以上と言う巡洋艦の新造も含まれている。
条約時代、合衆国は〈沢村《ブルックリン》有希〉級軽巡洋艦の船体を流用して次世代巡洋艦のモデルシップとなる〈ウィチタ〉を建造していたが、新型巡洋艦の建造にはその経験がたっぷりと盛り込まれた。高角砲は全て新型の半自動5インチ両用砲、Mk-38を採用。似たような形の丈高い箱型艦橋の前後に一基ずつ、舷側に二基ずつの六基装備が標準で、まるで制服のように共通感漂うデザインとなっていた。
主砲の配備は〈川中島《バルティモア》里美〉が8インチ三連装三基9門、〈諏訪《クリーブランド》奈津子〉級が6インチ三連装四基12門。いずれも発射速度の高い新型砲である。両用砲と合わせて敵に絶えず砲撃を浴びせる事で、短時間にその戦闘力を奪い取るのがそのコンセプトだった。
 これは仮想敵国である日英の巡洋艦を研究して導き出されたコンセプトである。日本巡洋艦は強力な雷装を有するため、その射程に突入される前に撃破するには手数で勝負するのがセオリーとなる。
 また、英国巡洋艦は多くの植民地を警備するために航続力を重視し、武装や装甲は弱い。この2隻の強武装を持ってすれば完全に圧倒できる相手だった。


訓練

 ネームシップの竣工は対日戦直前の1941年半ばである。先に竣工し、実戦配備されたのは〈諏訪《クリーブランド》奈津子〉であったが、〈川中島《バルティモア》里美〉も3ヶ月ほど遅れて配備された。
 2隻の訓練における戦い振りは見事なものであり、共に敵巡洋艦及び水雷戦隊の撃滅を目的とはしていたが、それぞれの特性に合わせて違う戦い方を見せた。
〈諏訪《クリーブランド》奈津子〉は相手が射程内に入ってくるまでは積極的なアクションを起こさず、いざ決戦距離となれば短時間に大量の命中弾を叩き込み、相手を美味しい料理を食べて感動のあまり言葉も出ない客のように沈黙させた。
 これに対し、〈川中島《バルティモア》里美〉は積極的に相手に向かって突撃し、主砲を釣瓶撃ちした。大威力の8インチ砲弾を食らった標的は、まるで毒でも食べさせられたように震えながら沈黙する。
 この対照的な戦法は、〈諏訪《クリーブランド》奈津子〉が厨房にこもって相手のオーダーに合わせて戦う料理人型、〈川中島《バルティモア》里美〉が積極的に相手の懐に飛び込んでいくウェイトレス型と称された。この戦い方にあわせたのかどうかは不明だが、〈諏訪《クリーブランド》奈津子〉の食事は合衆国軍でも指折りの美味さで知られ、反面〈川中島《バルティモア》里美〉のそれは泣く子も黙る不味さで恐れられた(注1)。
 もちろん、得意な戦法があるに越した事はないが、両方の戦い方が出来るようになれば運用にも柔軟性が出る。合衆国巡洋艦隊の訓練は果てしも無く続く事になった。

(注1) 彼女の料理を食べた〈芦原《ウェンデル・L・ウィルキー》洋一〉艦長が、とんでもない料理を作る事で知られる子供向け料理番組の名を叫びながら昏倒したのは有名な話である。


空母化

 同級艦の建造が進行するにつれ、合衆国海軍では一つの問題が持ち上がっていた。それは、正規空母の不足である。合衆国海軍の保有する空母は〈鳴瀬《ヨークタウン》真奈美〉級3隻、〈河野《コンコード》朝奈〉級軽空母2隻、航空巡洋艦〈伊藤《ワスプ》正樹〉、それに客船改装の軽空母〈エディフェル〉の7隻。仮想敵である日英同盟軍の保有空母数はこの3倍にもおよび、特に日本海軍は70機近い艦載機を有する戦時量産型空母、〈森川《雲龍》由綺〉級の建造を進めている。
 これに対して合衆国軍の新規建造は戦艦に集中し、20隻以上の量産が計画されている新鋭大型空母〈橋本《エセックス》まさし〉級の建造は1942年までずれ込んでいた。
 この空母戦力の劣勢を補うべく、〈川中島《バルティモア》里美〉〈諏訪《クリーブランド》奈津子〉ともに船体を流用しての軽空母化計画が進められ、それぞれ〈《サイパン》サトミ〉級と〈《インディペンデンス》ナツコ〉級の2クラスの軽空母が建造された。
 搭載機数は〈《サイパン》サトミ〉級が50機、〈《インディペンデンス》ナツコ〉級が45機と排水量の割には多く、大量建造によって十分に正規空母の穴を埋めることが可能なものと見込まれていた。発注数はそれぞれ6隻づつを予定していた。
 しかし、搭載機数の面で不満の多かった〈《サイパン》サトミ〉級は3隻のみの建造にとどまり、代わって〈《インディペンデンス》ナツコ〉級が10隻生産された。
しかし、この2種類の軽空母は「自分たちだって正規空母に負けない働きができるはず」という意識が強すぎたのか、他の艦との強調意識が薄くどんな戦域にも先陣切って突入しようとするため、さまざまなトラブルを引き起こすことになる。


東太平洋海戦:航空戦パート

 1942年5月に太平洋戦争が勃発すると、〈川中島《バルティモア》里美〉〈諏訪《クリーブランド》奈津子〉〈《サイパン》サトミ〉〈《インディペンデンス》ナツコ〉は太平洋艦隊の中核兵力として出撃した。日本側の戦略的後退により、緒戦のミッドウェイ海戦と北太平洋のいくつかの海戦を除けば大規模な戦闘が発生しなかった太平洋ではあったが、12月の日本軍によるハワイ強襲により一挙に情勢は緊迫。ついに1月末になって両軍は全面的な艦隊決戦へと突入した。いわゆる東太平洋海戦である。
 戦いの第一段階は、空母機動部隊による航空戦から開始された。合衆国軍の戦力は正規空母6、軽空母4の合計10隻(770機)。一方、日本海軍は正規空母10、軽空母2の計12隻(940機)。
 戦闘開始後、搭載機数で170機勝る日本軍は空母部隊と平行して戦艦部隊にも攻撃隊を振り向け、戦艦3隻を脱落させる殊勲を上げた。しかしこの時、戦艦をエスコートする〈川中島《バルティモア》里美〉〈諏訪《クリーブランド》奈津子〉の両級は熾烈な対空砲火を打ち上げ、日本軍攻撃隊に未帰還率7割に達する大打撃を与えている。
 一方、空母部隊では〈《サイパン》サトミ〉〈《インディペンデンス》ナツコ〉が苦戦していた。搭載機数が少ないため、2隻には戦闘機のみが搭載され、艦隊防空に専念するよう指示が出ていたのである。この辺が一人前の空母たる正規空母とは異なり、まだ半人前レベルの辛さであった。しかも、日本軍攻撃隊に随伴する護衛戦闘機隊のレベルは高く、直衛戦闘機隊は次々に撃墜されていた。
 戦闘機の減少と共に攻撃成功率も向上し、まず〈橋本《エセックス》まさし〉級の〈《タイコンディロガ》祥子〉、続いて〈《ヴェラ・ガルフ》香澄〉が相次いで撃沈された。同じ第31任務群に配備されていた〈伊藤《エンタープライズ》乃絵美〉に攻撃が集中されたため、巻き添えを食らったのである。また、同任務群に配備されていた〈《サイパン》サトミ〉級の〈ライト〉も爆弾3発を受けて大破炎上後、味方の砲撃により処分された。
 もう一つの第32任務群はもう少し幸運だったが、それでも〈《インディペンデンス》ナツコ〉級の〈サン・ジャシント〉を雷撃によって撃沈されており、日没と同時に航空戦が終了したとき、〈《サイパン》サトミ〉〈《インディペンデンス》ナツコ〉に配備されていた計90機のF6F〈ヘルキャット〉艦戦は41機に激減していた。これは、撃沈された他の空母の機体を収容したものを含めての数であり、艦固有の搭載機の帰還率は4割を切るという戦慄的な数字を記録している。
 合衆国軍も奮戦し、少なくとも日本空母部隊に同等の打撃は与えたものと推測されていたが、彼らは結局日本戦艦部隊に手を触れることはできなかったのだ。逆にこちらの艦隊は傷つき、当初圧倒的に有利とされていた戦力差も縮まっている。
 それでも、空母部隊は全てを水上戦闘部隊に託すしかなかった。


東太平洋海戦:夜戦パート

 空母部隊の航空戦と、その後のハルゼーの突出によるエスコート艦隊同士による第一次夜戦終結後、日本と合衆国、両国の誇る合計41隻の戦艦同士による最後の決戦…第二次夜戦が始まろうとしていた。
 〈川中島《バルティモア》里美〉〈諏訪《クリーブランド》奈津子〉両級を主力とする合衆国海軍巡洋艦隊の戦力は、〈川中島《バルティモア》里美〉級×6、〈ウィチタ〉、〈諏訪《クリーブランド》奈津子〉級×4、〈沢村《ブルックリン》有希〉級×2の重巡7、軽巡6の合計13隻。砲門数は8インチ砲63門+6インチ砲78門、これに両用砲の5インチ砲が120門加わり、優勢な日本海軍水雷戦隊の突撃に対して圧倒的な弾幕射撃によりこれを粉砕しうるものと期待がかかっていた。
 果たして、戦闘開始直後はその弾幕阻止射撃は有効に作用した。突撃を図った日本水雷戦隊は文字通りの弾雨を叩き付けられ、次々に火を噴いていく。これなら勝てる、と巡洋艦隊を率いるフィッチ中将は考えたが、次の瞬間にそれは暗転した。
 まず、レーダーがすべてホワイトアウトした。日本の特務部隊「アストラル・バスターズ」による広域電波妨害が開始されたのだ。
 さらに、そこへ3隻の日本巡洋艦が猛烈な突撃を加えてきた。
「ぱぎゅうぅ〜〜〜っ!!」
 突然、奇妙な砲声と共に〈セントポール〉〈コロンバス〉が炎を噴き上げる。戦闘力を喪失した2隻の向こうに、炎の照り返しを受けて浮かび上がる一隻の日本重巡。
 日本海軍の最新鋭艦〈御影〉である。スマートな船体に連装6基12門もの主砲を搭載した彼女は、この場にいる両軍巡洋艦群の中でも最大の砲戦能力を誇っていた。その12門が斉射する時の砲声が一続きに「ぱぎゅうぅ〜〜〜っ!」と響き渡るたびに、合衆国軍巡洋艦は次から次へと大打撃を受け始めた。
 さらに、2隻の大型軽巡…〈柳川〉〈柏木〉も続き、あわせて27門の6インチ砲を撃ちまくる。この2隻、スペック的には〈諏訪《クリーブランド》奈津子〉級、〈沢村《ブルックリン》有希〉級と似ているのだが、防御力が高く魚雷も持っている。反撃に転じた〈ピッツバーグ〉が鬼の爪のような雷撃を食らって轟沈すると、これに勢いを得たのか〈高瀬〉を初めとする他の日本巡洋艦も一挙に攻勢に出てきた。
 3隻の規格外れの巡洋艦に圧され、隊列の混乱していた合衆国巡洋艦群は、これによって完全な劣勢に陥った。押し寄せる性質の悪い客のような攻勢を必死にしのぐ〈川中島《バルティモア》里美〉〈諏訪《クリーブランド》奈津子〉。しかし、建造年度が新しくレーダーに頼った戦い方しか知らない彼女たちはどんどん追い詰められていった。
 巡洋艦隊の苦境を救ったのは、皮肉にも彼女たちが守るはずの戦艦だった。所属する任務群が壊滅し、単艦戦闘を続けていた〈羽根井《コロラド》優希〉が駆けつけてきたのである。彼女の放った16インチ砲弾が運の悪い日本艦を直撃して一撃で粉砕すると、ようやく日本側も撤収していった。
 先輩の手助けでようやく苦境を脱した巡洋艦隊であったが、戦力の3分の1を失い、残った半分も大破して組織だった戦闘能力は皆無の状態となっていた。
 結局、この海戦はわずかな数的優位は高い質的優位を覆すには至らない事を証明する。合衆国軍の諸艦艇はスペックでは日本艦隊に勝り、数でも10〜15パーセントは有利だったが、欧州戦線で積み重ねられた日本海軍将兵の「錬度」には敵わなかったのである。


第二次南北戦争

 合衆国海軍が、軍が国民に対してミリタリー・サービスを提供する上で人と言う要素を重視するにいたり、それを鍛え上げる事ができたのは、皮肉にも同じアメリカ人を相手にした大規模な内戦…第二次南北戦争の勃発があったからだ。
 テキサス湾岸油田から産出する膨大な石油を日英西に売却して近代化に邁進し、さらにその燃料で思う存分訓練を積んできた南部連合海軍は、錬度という点ではある意味日英以上の強敵であった。そして、それをより顕著なものとしたのが、主戦場であるカリブ海の「狭さ」である。
 狭い内海であるカリブ海・メキシコ湾は陸上の監視網によって隙間無く覆われ、島には相互に支援し合える形で航空基地要塞が構築されていた。この敵意に満ちた海を、合衆国海軍は一歩一歩突破していかねばならなかったのだ。
〈川中島《バルティモア》里美〉〈諏訪《クリーブランド》奈津子〉の両級は戦艦や空母の運動に適さないこの海に主力として投入され、海峡で、水道で、湾内で、南部連合巡洋艦戦隊とそれこそ舷側がこすれあうほどの距離で激闘を繰り広げた。これに比べれば東太平洋海戦ですら温いものに感じられたであろう。
 まさに、昼休みの修羅場状態のカフェにも匹敵する激戦の時間帯であり、合衆国軍の巡洋艦乗りはこの戦いを通じて鋼鉄のように練磨された。このときの経験が生き、合衆国巡洋艦隊は第三次世界大戦中盤のカリブ海の死闘で、狭い海域での乱戦に不慣れな同盟軍を助けて大活躍を見せている。
 一方、〈《サイパン》サトミ〉〈《インディペンデンス》ナツコ〉らの軽空母群も戦っていた。航空基地の密度が濃く、どこから敵機が襲ってくるかわからないという状況のため、軽空母や護衛空母は文字通り主力のアシスタントとして活躍した。多くの艦がこの時点で戦いの厳しさを知り、世界(ワールド)から退場していく中で、〈《サイパン》サトミ〉〈《インディペンデンス》ナツコ〉は試練をかいくぐって生き残った。特に〈《サイパン》サトミ〉は明らかにムチャな行動を何度も取り、ベテランの正規空母群や戦艦の艦長から何度も叱責されている。幸いにも南北戦争で彼女が大打撃を受けることは無く、無事に戦争を生き延びる事ができたが、多くのものはいつか彼女が痛い目を見るのではないか、と危惧していた。


ドラッグルートを追え

 第三次世界大戦が始まり、合衆国がその国土の大半を占領されてから2年近くが過ぎていた。いまや占領地には新生アメリカ連合国(東部連合)が成立し、合衆国軍と連合軍の間で再びアメリカ人同士の凄惨な戦いが始まっていた。
 海の上でも例外ではない。いまだ東海岸で鹵獲された大型艦はドイツより返還されていない東部連合海軍であったが、魚雷艇などの小型艦艇部隊や旧南部の海軍特殊部隊を再編し、カリブ海の各地で特殊作戦を仕掛けて枢軸軍を悩ませていた。
 この東部連合海軍破壊工作隊には正規の軍人ばかりでなく、カリブ一帯に根を張る海上マフィアや海賊あがりのゲリラ集団も混じっていたため、その手口は荒っぽいものだった。ただの特殊工作だけでなく、誘拐や麻薬密売など犯罪行為としか言えないものにまで手を染めている。
 これに対抗するため、枢軸軍は合衆国海軍特殊部隊(シールズ)、日本の特務陸戦隊、英国特殊空挺部隊など腕利きの「ハンター」たちを選抜してカリブ海へ派遣し、さらに小型艦艇狩りのために空母まで投入していた。
〈《サイパン》サトミ〉〈《インディペンデンス》ナツコ〉はジェット機を搭載して機動部隊同士の殴り合いをする事はできなくとも、小型艦艇を狩るためのレシプロ攻撃機の母艦としては適していたため、この特務部隊に派遣される事となった。
 これまで先輩空母たちのサポートに徹してきた〈《サイパン》サトミ〉〈《インディペンデンス》ナツコ〉にとっては攻撃任務まで含む初の作戦であり、特に〈《サイパン》サトミ〉の張り切りようは尋常ではなかった。合衆国隊の指揮官である〈芦原《ウェンデル・L・ウィルキー》洋一〉艦長は彼女の暴走ぶりを知る一人で、彼女が何か大失敗をしでかしやしないかと先行きが不安だった。
 さて、合衆国軍がメインに叩こうとしていたのは、北米戦線全域で急速に蔓延しつつある麻薬の流入ルートの破壊だった。陸軍では同胞と戦うと言う心理的ストレスに耐え切れず、麻薬に逃避する兵士が増えており、そのルートはコロンビアなどの南米北部から海上を通って北米に通じていると考えられていたのである。殊に、〈ミューズEX〉と称される新型コカインの被害は甚大なものになっていた。
 カリブ海では全域で戦闘が続くと共に、地元住民の海上交通も戦闘に巻き込まれる危険を考えて途絶気味になっており、特務部隊は危険を承知で航海中の船舶に的を絞って臨検を行った。しかし、麻薬は見つかっても、船を運用しているのは雇われた地元住民ばかりであり、東部連合の工作員はなかなか尻尾をつかませない。
〈《サイパン》サトミ〉〈川中島《バルティモア》里美〉は搭載機による空からの捜索を行う一方、成果を求めてあえて東部連合領に近い危険海域にまで踏み込んでいった。そして…ある日唐突に消息を絶ったのである。


囚われの美姫

 報告を受けた〈芦原《ウェンデル・L・ウィルキー》洋一〉艦長は直ちに捜索を命じた。枢軸各国も協力して捜索を行った結果、2隻は住民が避難して無人になっていたメキシコ湾内の島に回航されていることが判明した。どうやら、ここが東部連合海上工作部隊のアジトになっているらしい。しかし、発見した〈芦原《ウェンデル・L・ウィルキー》洋一〉、〈《インディペンデンス》ナツコ〉の偵察機は、無残に破壊された2隻の惨状に言葉を失った。
 〈《サイパン》サトミ〉の艦橋は焼け焦げ、消火剤の白い泡にまみれた飛行甲板上で、おそらく乗っ取り犯と思われる連中が酒盛りをしている。〈川中島《バルティモア》里美〉は魚雷でも受けたのか、漏れ出した燃料で艦体が汚れていた。この様子に、偵察機パイロットは機銃掃射でもかけてやりたい衝動に駆られつつ、何とか自制して母艦に情報を持ち帰った。
 情報を受けた〈芦原《ウェンデル・L・ウィルキー》洋一〉艦長は救出作戦を練った。2隻は並んで港の桟橋に横付けされ、内側になっている〈川中島《バルティモア》里美〉は先に〈《サイパン》サトミ〉を動かさない限り救出できない。
 そこで、艦載ヘリに特殊部隊が分乗して〈《サイパン》サトミ〉の飛行甲板に着艦、強襲して艦を奪還、〈《サイパン》サトミ〉を動かした後に〈川中島《バルティモア》里美〉〈諏訪《クリーブランド》奈津子〉が曳航して脱出させる事になった。
 夜間、5機のヘリに分乗した20名のシールズ・レコン合同奪還チームが敵のアジトを強襲、多数を射殺または捕縛して制圧し、2隻と乗組員の救出に成功した。
 事件の真相は単純なもので、漁船の臨検中、その漁船が伝えた不審船の情報を受けて捜索に行った2隻が、島影から突如出現した敵強襲部隊の攻撃を受けたのである。〈川中島《バルティモア》里美〉は魚雷を受けて発電機が停止し、〈《サイパン》サトミ〉は艦橋に麻酔ガス弾を打ち込まれて指揮系統が麻痺したところを、乗り込んできた強襲部隊の攻撃で制圧され、島まで曳航されて行ったのだった。
 あまりの未熟さに艦長を叱責しようとした〈芦原《ウェンデル・L・ウィルキー》洋一〉艦長であったが、その憔悴ぶりに何も言えず、結局処分保留としている。彼には他にやらねばならない事があった。


逆襲の〈《サイパン》サトミ〉

 それは、敵組織の完全な撃滅である。この一件は、特務部隊の感情を著しく逆撫でした。不幸中の幸いと言うべきか、多数の捕虜が得られたため、仮借ない尋問によって東部連合海上工作部隊の全容はほぼ解明される事になった。
 その結果、敵の司令本部は住民が疎開したキューバ北部の別荘地にあることが判明した。今は東部連合の高官になっている旧南部連合首脳の個人的な別荘である。制空権も定まらない危険地帯であったが、〈芦原《ウェンデル・L・ウィルキー》洋一〉艦長は敵が逃亡する前にここを攻撃する事を決断。特殊部隊だけでなく、乗艦勤務海兵隊をも含めた部隊の陸戦兵力の総力をあげたドラッグルート壊滅作戦を決行した。
 戦いは短時間だが激しいものとなった。別荘地を舞台に銃撃戦が展開され、無力化ガス弾が飛び交う。しかし、本部となっていた建物からは資料や薬物が発見されない。その時、〈《インディペンデンス》ナツコ〉海兵隊長が、少し離れたところに怪しい別荘があることに気が付き、〈芦原《ウェンデル・L・ウィルキー》洋一〉海兵隊長と共に攻撃を加えた。
 予想通り、そこは組織の責任者の住居で、本当の司令本部だった。指令は全て、ここからさっき攻撃したダミーの本部を通じて発せられていたのである。短時間の激戦の末、敵司令は〈《インディペンデンス》ナツコ〉海兵隊長に撃たれて捕縛された。
 組織を追い詰めたかに見えたその時、隠してあった自爆装置が作動。本部は炎に包まれた。猛火の中、引火した麻薬が有毒ガスまで発生させ、〈芦原《ウェンデル・L・ウィルキー》洋一〉と〈《インディペンデンス》ナツコ〉の海兵隊長は絶体絶命の危地に追い込まれた。
 しかし、そこへ予想もしない救いの手が現れた。〈《サイパン》サトミ〉海兵隊長である。先日は艦を乗っ取られると言う醜態をさらし、名誉の回復を望んでいた〈《サイパン》サトミ〉幹部たちは持ち前の行動力を発揮して艦を修理し、味方の窮地に駆けつけてきたのだ。彼らの活躍で館の火事も最小限に食い止められ、機密文書や〈ミューズEX〉のサンプルはほぼ回収された。
 この作戦の結果、東部連合軍のドラッグルートは壊滅し、少なくとも大戦中に復活する事はなかった。特務部隊の任務は達成されたのである。


その後

 作戦終了後、参加艦艇は新設の地中海艦隊に引き抜かれ、カリブ海を後にした。損傷し、搭載機のほとんどを失った〈《サイパン》サトミ〉は飛行甲板上に無数のアンテナを林立させた指揮統制艦に改装され、艦隊旗艦として30隻を超える艦隊を切り回した。見習い空母だった彼女は、一人前の艦艇として独り立ちしたのだ。
〈《インディペンデンス》ナツコ〉は〈芦原《ウェンデル・L・ウィルキー》洋一〉を補佐する護衛対潜空母として、後継の制海艦が就役するまでそばに付き添う事になる。
〈川中島《バルティモア》里美〉は修理完了後もなお有力な水上打撃部隊の一員として戦い続け、戦後は砲塔をミサイル発射器に換装。主にカリブ海艦隊の一員として南の海を駆け回っていく。
〈諏訪《クリーブランド》奈津子〉も同様に戦後はミサイル巡洋艦となり、幾次の改装を重ねて長期にわたり合衆国海軍の中核を成した。彼女たちの一部には、実に1995年の第四次世界大戦にいたるまでの戦歴を有する艦も存在し、地味ながらも記憶に残る活躍をする事になる。
 彼女たち、合衆国海軍のポスト隆山条約第一世代の補助艦群たちが、後の日本や欧州列強が建造した怪物的進化を遂げた同種の艦たちに比して、いささか目立たない、地味な存在になってしまった事は否めない事実(注2)である。しかし、その貢献度は決して劣るものではなく、合衆国海軍を支える存在でありつづけたのだった。

(注2) 別に巡洋艦に限った話ではないと言う意見もある。

要目

〈川中島《バルティモア》里美〉級重巡洋艦

  • 基準排水量 13.600t  
  • 全長 205.7m
  • 幅 21.6m
  • 主機 蒸気タービン 4軸
  • 出力 120.000馬力
  • 速力 33kt
  • 兵装
    • 主砲 8インチ三連装砲3基 
    • 両用砲 Mk-38連装5インチ砲6基 
    • 機関砲 ボフォース40ミリ機関砲48門
  • 搭載機数 4機
  • 同型艦 12隻


〈諏訪《クリーブランド》奈津子〉級軽巡洋艦

  • 基準排水量  10.800t
  • 全長 186.0m
  • 全幅 20.3m
  • 主機 蒸気タービン 4軸
  • 出力 100.000馬力
  • 速力 33kt
  • 兵装
    • 主砲 6インチ三連装砲4基 
    • 両用砲 Mk-38連装5インチ砲6基 
    • 機関砲 ボフォース40ミリ機関砲24門
  • 搭載機数 4機
  • 同型艦 20隻



〈《サイパン》サトミ〉級軽空母

  • 基準排水量 14.500t
  • 全長 208.35m
  • 最大幅 32.91m
  • 速力 33.0kt
  • 主機 蒸気タービン 4軸
  • 出力 120.000馬力
  • 兵装
    • ボフォース40mm機関砲 4連装5基 連装10基
    • 20mm機銃16基
  • 搭載機数 50機
  • 同型艦 3隻


〈《インディペンデンス》ナツコ〉級軽空母

  • 基準排水量  11.000t
  • 全長 189.9m
  • 全幅 33.3m
  • 主機 蒸気タービン 4軸
  • 出力 100.000馬力
  • 速力 31.6kt
  • 兵装
    • ボフォース40mm機関砲 4連装2基 連装8基
    • 20mm機銃22基
  • 搭載機数 45機
  • 同型艦 10隻