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〈神尾《イラストリアス》観鈴〉

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大英帝国海軍航空母艦〈神尾《イラストリアス》観鈴〉Illustriousu Class,RN

 Key「AIR」神尾観鈴

解説

 一九三七年に失効した隆山条約の制限から解放されて作られたイギリス最初の装甲空母。ただし,二番艦以降は大規模な改設計が加えられたため,級名はあるものの姉妹艦は存在しない。
 条約期間内に完成した〈アーク・ロイヤル〉級の運用実績を踏まえてカタパルトを就役時から備えた上,始めて飛行甲板上に装甲を備えた本格空母として活躍する――はずであった。
 だが,排水量が二万九〇〇〇tと中途半端だったことが災いし,より大型化することになった後継艦に資材が先に使われ,三九年の対独開戦と同時に建造順位は更に落とされた。進水したのは四二年に入ってからとなり,就役に至ってはその年の七月までずれ込んだ。これでは活躍の仕様も無い。

 〈神尾《イラストリアス》観鈴〉最初の戦いは英本土脱出作戦であったが,この時,沈没寸前の〈《イリジスティブル》神奈〉(※一)から発艦したジェット機を回収し,偶然にも世界初のジェット機が(実験以外で)着艦した空母,という栄誉を担うこととなった。
 だが,それ以来,〈神尾《イラストリアス》観鈴〉の陰には不吉な影が付きまとうこととなる。

 英本土脱出作戦に続く次の戦闘の場は,四三年,〈スフィー〉〈リアン〉等と共に行われた第二次タラント奇襲作戦である。奇襲作戦その物には何ら問題は無かったが,その後のイタリア艦隊による追撃戦――第二次マパタン岬沖開戦の裏で事件が起こった。
 イタリア水上艦隊の襲撃を察知した司令部は空母を分離,一足先にアレキサンドリアへ返そうとしたのだが,その帰路,〈神尾《イラストリアス》観鈴〉の機関が暴走を起こした。止まってくれたのならばまだ手の打ちようもあるのだが,暴走である。何とか曳航しようとして〈川口《レナウン〉が手を尽くしたが,逆に衝突しかける始末。つに,さじを投げ出しかけた所で〈神尾《インコンパラブル》晴子〉が合流,今度は機関の暴走も止まって曳航に成功し,アレキサンドリアに辿り着いた。

 この年の末,英本土陥落に伴うイギリスの国家体制に関する大規模組織改変が行われ,オーストラリア・カナダ・ニュージーランド等による連邦国家に再編,〈橘《インフレクシブル》郁美〉〈橘《インディファティガブル》敬介〉と共に〈神尾《イラストリアス》観鈴〉もオーストラリア海軍に配属されることとなった。
 だが,四五年,更に運命は二転三転する。ドイツ軍のカナダ侵攻である。前々からその兆候が現れていたにもかかわらず,中途半端な兵力しか置いていなかった英連邦軍は〈アークロイヤル〉(カナダ海軍),〈橘《インフレクシブル》郁美〉を損失。ドイツ・フランス連合軍のカナダへの上陸を許した。 この時,〈橘《インフレクシブル》郁美〉以外の主力艦を展開させていなかったオーストラリア海軍に対してカナダ政府が不信を抱いたため,話がややこしくなった。両国間の関係は急速に悪化したため,窮余の策として連邦は大型艦は原則として英本国艦隊(※二)に配備する,という事にしてけりをつけようとした。
 オーストラリアからは強硬な抵抗が予想されたが,〈橘《インディファティガブル》敬介〉の特例のみであっさり引き下がった。オーストラリア政府も,わけのわからない機関の不調ばかり起こす〈神尾《イラストリアス》観鈴〉をもてあましていたからである。
 これで〈神尾《イラストリアス》観鈴〉は英本国艦隊所属という事になり,まず真っ先に行われたことは機関の不調の原因調査も含めた大改装だった。
 第三次世界大戦開戦後の四八年末に完了したそれで排水量はほぼ二割増となり,アングルドデッキも備えられた本格空母となったが,それでも原因は不明であり,有力艦にもかかわらず戦争の大半の期間を後方で過ごすことになった(※三)。しかしながら,船団護衛などでは活躍し,大型艦の友達にこそ恵まれなかったものの,連邦国内だけではなく近隣諸国(※四)の商船からも評判は良かった。


地中海戦線

 一九五一年。戦局の焦点は地中海に移っていた。三月にマルタ島の奪回に成功,六月にパレンテリア島を陥落させた日英軍は次の目標をシチリアに定めた。シチリアを落とすことで地中海航路を安定化させ,英本土作戦の弾みをつけようというものだった。だが,作戦を急ぐ余り,空母の集結が遅れていたこと,そして同時並行でジブラルタルも落とそうとしたことが後の悲劇に繋がることになる。
 同年七月,防空戦艦〈国崎《デューク・オブ・ヨーク》往人〉(※五)は,マルタ近海で立ち往生に陥っていた。……早い話が,燃料不足である(補給予定の油槽船が撃沈されたため)。目先の利く,シチリアの現地海上交通組合(※六)が燃料の融通を申し出なかったら,マルタまで辿り着けたかどうかは微妙なラインであった。
 翌日,出迎えにきた〈神尾《イラストリアス》観鈴〉と合流。同艦から燃料の供給が申し出られたが……何を考えていたのか,供給しようとしたのは航空燃料であった。もちろんの事ながらこれは退けられ(当たり前だ),同日夕刻,とりあえずマルタ島に入港し,燃料の再補給を受けることになった。
 入港後,シチリア東部戦線の作戦支援中の〈神尾《インコンパラブル》晴子〉(※七)が補給の為に一時帰港。帰港するなり同艦艦長曰く,「却下」の一言で片付けられた。まあ,当時,一時的に地中海艦隊に燃料の余裕が余りなかったことは事実ではあるが。まあ,色々あった末に同艦に代わって〈神尾《イラストリアス》観鈴〉の護衛任務を引きうける,という条件で補給が許された。
 それから数日の間は特に何事もなかった。〈国崎《デューク・オブ・ヨーク》往人〉の本来の任務――艦隊防空の任務を果たそうにも,独伊軍機が飛んでこない(本土防空だけですでに手一杯だった)のだから商売になるわけがない。そのため,二一日にはバイトがてらに(門数は少ないとはいえ)その主砲の力を利用してシチリア東部戦線の支援を行っている。
 二五日。これまでも何度か機関の不調を繰り返してきた〈神尾《イラストリアス》観鈴〉であったが,今度は本格的な不調を訴え出した。今までは舵の効きが悪いだの速力が二七ノットしか出ないだので済んでいたが,今度はわずか一八ノット,しかも舵が動かない。例によって原因は不明であった。これを受け,ジブラルタル攻略作戦への参加は見送られた。
 同日。〈神尾《インコンパラブル》晴子〉は〈神尾《イラストリアス》観鈴〉の代わりとしてジブラルタルに向けて出港した。ジブラルタル攻略作戦は日英合同作戦であるため,英の都合だけで艦を勝手に減らすわけにはいかなかったのだ(それに,もう一つ理由があった)。
 二八日。状況は更に悪化した。護衛空母群の大半がバルチェロナ方面へと引きぬかれてしまったのだ。拠点を迂回して上陸,一気にシチリア攻略を計ろうとしたのだが,これが完全に裏目に出た。ちょうど撤退中のドイツ装甲師団にぶつかってしまったのである。
 二九日。マルタ守備部隊はこの危機的状況に対して,シチリア北部の艦隊を呼び戻そうとした。軍事的には妥当な判断である。多数の護衛空母と,インド共和国海軍戦艦(旧英名〈セント・デイビッド〉等)二隻,旧式化したとはいえ,それでもないよりはマシの大韓民国巡洋戦艦〈川口《レナウン》〉等が主力である。これらが合流すれば,たとえタラントの伊艦隊が全力出撃してもなんとかなるであろう。そう思い,〈国崎《デューク・オブ・ヨーク》往人〉は現地の合同艦隊の旗艦である〈川口《レナウン》〉に連絡を取った。
 この当時,編成されたばかりの旧イギリス植民地海軍では,たいてい士官の訓練不足から英連邦軍人が「顧問」として乗り組んでいた。それは〈川口《レナウン》〉でも同じであり,かつてのダートマスでの同級生なのだから,こっちの話を聞いてくれるだろう,そう思ったのだ。
 だが,交渉は難航した。当たり前だろう。「顧問」ならば,雇われ先――現在の家族の意向にこそ拘束されければならない。
 しかも,よりにもよって交渉中に身内から反対意見が出た。〈神尾《イラストリアス》観鈴〉艦長だった。
 「本艦の為に,迷惑をかけることは出来ない――」
 現在,シチリア北部でドイツ軍と死闘を繰り広げているのは,インド共和国陸軍である。それを「見捨て」れば――少なくてもそのように疑念を抱かせる行動を取れば――インドが協力を渋るかもしれない。そんなことになったら――英本土奪回は夢のまた夢になってしまう。すでに,陸上兵力のかなりはインドが供出しているのだから。そして,万が一マルタを守りきれない事態になったら……本艦を見捨てて逃げろ。そういうことだった。
 そして,恐れていた物が現実となった。この日,タラントを偵察した機は,昨日までいた軍艦が全艦消えているのを確認した。迎撃機も出てこない。もしや……。戦慄が走った。アドリア海に退避したのならば問題ない。だがこの状況は……。マルタ島へ緊急連絡が打たれた。
 同時刻。イタリア海空軍の最後の反撃作戦はすでに始まっていた。一つはマルタ上空で,もう一つはその近海で。半ば本土防空を投げ捨ててまで行われたマルタ上空での航空戦は,キルレシオこそ防空側の英が有利だったものの,機数の差に押しきられ,マルタの飛行場は一時的に使用不能になった。もう一つは,地中海における最後の空母決戦である。英側は正規空母二隻,しかも内一隻は半身不随,それに対して伊側は三隻である。不利は分っていた。だがやるしかない。
 三〇日。マルタ近海には更に三隻のフネが沈んでいた。オーストラリア空母〈メルボルン〉,伊空母が二隻である。〈神尾《イラストリアス》観鈴〉は,〈国崎《デューク・オブ・ヨーク》往人〉の必死の護衛の甲斐もあり,伊軍の総攻撃に耐えぬき,戦術的勝利を挙げた。だが,それだけであった。後数日はとても動けそうになかった。
 状況は最悪だった。マルタ飛行場は依然として使えない。シチリア北部に行ってしまった護衛空母群は空襲を繰り返しているが,対艦攻撃を想定していなかったため,補助艦艇には損害を与えているものの,戦艦にはほとんどダメージを与えていなかった。残りの日英空母はジブラルタルか,未だにスエズを出た所に過ぎない。航空攻撃で阻止する術は失われたのだ。そして,逆に〈国崎《デューク・オブ・ヨーク》往人〉を始めとする諸艦艇にも被害が出始めていた(本艦に限って言えば,まだ一部高角砲損傷だけであったが)。
 艦隊司令部は重苦しい空気に包まれていた。たまたまマルタを訪れていた英第一海軍卿,トーマス・フィップス提督は決断を迫られた。彼の手駒は〈キング・ジョージ后咾函匚餾蝓團妊紂璽・オブ・ヨーク》往人〉の二隻の戦艦。それにたまたま近海にいた〈レパルス〉と〈リシリュー〉も英連邦艦ではないが,数に加えて良いだろう。
 しかしながら,敵は一七インチ砲戦艦を含む五隻である。このままマルタ島,そして増援船団と,〈神尾《イラストリアス》観鈴〉と心中するか?それとも撤退――つまり逃げるか?
 大勢は撤退論に傾きかけた。当たり前である。勇気と無謀は違うのだから。何より,明日の朝まで待てば,ジブラルタルからも,スエズからも空母がやってくる。正規空母だけで六隻以上。アドリア海の制海権すら掌握できる兵力である。ここは一旦引くべきだ――誰もがそう考えていた。
 その流れが変わったのは,〈国崎《デューク・オブ・ヨーク》往人〉艦長の一言だった。

             「また,見捨てるのですか?」

 彼は続けた。「我々はかつて,このマルタを失い,そして未だに本土すら失ったままです。しかし,このマルタの住民は我々を歓迎してくれました。我々は軍の本分を守れませんでした。しかし,まだここには我々を信じてくれる人々が居ます。この,信じてくれる人々を守れずにして,一体,何の為に我々が存在するというのですかっ!」
 もちろん,誰もが気付いていた。それは建前論に過ぎない。軍隊とは「国家」という組織を守るために存在する物であるし,無謀な敵と戦って全滅したら犬死に過ぎないということも。しかしながら,その言葉は誰もが持っていた負い目――本土損失,という点を痛いほど刺激した。
「どうやら決まった様だな」フィップス提督は決定を下した。「在マルタ艦隊は総力を上げて決戦を挑む――我らが国民の笑顔を守るために。この部隊の指揮は――私が執る」

 七月三〇日夜。地中海最後の艦隊決戦が始まった。――そして,それは,かつて七つの海を制したイギリス戦艦部隊,その最後の末裔によるイギリス海軍最後の対艦砲撃戦の開始でもあった。
 先手を打ったのは英側だった。距離四万で放たれた二四発の対艦誘導弾――「手も触れずに動き出し」敵に向かって突入する〈国崎《デューク・オブ・ヨーク》往人〉の最終兵器――の攻撃で幕を上げた。試作品であるがゆえに高い信頼性を持つそれは,二〇発が無事に北崎の保証した通りの性能を発揮し,すでに補助艦艇が大幅に減少していたことがあだとなり,一二発が防空網を突破して命中した。
 この攻撃により,戦艦の沈没こそ無かったものの,一部の艦はレーダーその他の構造物には無視できない損害を受けたイタリア艦隊は旧式艦部隊と新鋭艦部隊の二手に分かれてイギリス側の防御ライン突破を図った。これに対抗してイギリス側も〈KG后啜蕕良隊と〈レパルス〉〈リシリュー〉の他国籍の部隊に分割,翌朝までの時間稼ぎのために徹底交戦の構えをとり,こうして最後の艦隊決戦の幕が上がった。(※八)

 八月四日。とりあえずの応急修理を受けた〈神尾《イラストリアス》観鈴〉は,一人寂しくアレキサンドリアへの航海を続けていた。だが,そこに近づいてくる大型艦の影があった。〈神尾《インコンパラブル》晴子〉であった。ようやく合同作戦から解放されて戻ってきたのだ。一〇ノットも出ない〈神尾《イラストリアス》観鈴〉を曳航して二隻はシンガポールへと回航していった。
 だが,シンガポールで待っていたのは,オーストラリアからの〈神尾《イラストリアス》観鈴〉引渡し要求であった。昨年に軽空母〈シドニー〉を失った上,更に〈メルボルン〉まで失ったことで,英連邦最大の資金拠出国であるオーストラリアの不満が溜まっていたのだ。
 当然の事ながら,本国艦隊のほうも長い間使ってきた空母をはいそうですか,と言って渡すことは出来ない。この件は本土を脱出してきた「本国人」と,その他の旧ドミニオンの住民との対立にまで発展しかけた(※九)。
 この混乱を収束させるべく,連邦海軍の上層部は決断を行った。〈神尾《イラストリアス》観鈴〉の乗組員に決めさせる,というものであった。
 この決断を聞き,〈橘《インディファティガブル》敬介〉艦長はほくそえんだ。すでに本土陥落から一〇年近くが過ぎ,(士官はともかく)水兵は大半がオーストラリアやカナダの兵士に代わっている。ならば,〈神尾《イラストリアス》観鈴〉を取り戻せる。そう思ったのだ。
 だが。結果は圧倒的多数で本国艦隊に残留となった。同じ釜の飯を食べてきた,という連帯感が,同じ国であるという血縁関係を上回ったのだった。


ゴール

 翌年一月。英本土奪回作戦〈アーク・エンジェル〉が動き出した。だが,信じ難いことに英連邦海軍主力は地中海での陽動作戦を指示された。確かに,自国の本土奪回をほおって置いてまで行う作戦が陽動であるとは普通は思わないだろうが,それで納得できるわけがない。しかし,大戦後は日本からの援助無しでは冬には餓死者や凍死者が出る,という暗い予測が出ている状態では文句を言うわけにもいかない(カナダは対独交戦中だし,オーストラリアに全ての負担を押し付けるわけにもいかない。彼等にも生活はあるのだ)。
 完全修復状態には程遠い(※一〇)〈神尾《イラストリアス》観鈴〉に,イギリス国民にとって最大の「祭」となる英本土作戦の支援命令が下ったのはそういう訳であった。

 しかし,運命は徹底的に〈神尾《イラストリアス》観鈴〉に対して非情であった。同月,アイルランド西方でドイツの試製攻撃型反応動力潜水艦の襲撃を受けることになったのである。
 この人類に課せられた「核の呪い」に対して巡洋戦艦である〈神尾《インコンパラブル》晴子〉は全くの無力であった。しかも,折りからの雨天で〈神尾《イラストリアス》観鈴〉の艦載機は使えない。誰もが諦めかけた。
 だが,その時雨天を突いて対潜機が飛んできた。ジブラルタル作戦等での〈神尾《インコンパラブル》晴子〉等の艦による英海軍の支援が認められて日本から供与された,〈安土〉級空母の搭載機であった。「まるでぬいぐるみのようだ」と酷評されるほどの小型艦ではあったが,その搭載機は(たとえ反応動力潜といえども)潜水艦を追い払う程度の力は持っていた。〈神尾《イラストリアス》観鈴〉は危うい所で難を逃れることが出来た――この瞬間は。

 翌日。すっかり晴れあがった空の下,〈神尾《イラストリアス》観鈴〉は北アイルランドへ緊急入港しようとしていた。もちろん,中立国アイルランドの保証占領下にあるから拘留は避けられないが,それでも間もなく終わるであろう戦争が終結すれば帰って来れる。そして何より,すでにそこは英本国――彼女の帰るべき家なのだ(※一一)。
 アイルランドを目前にして〈神尾《インコンパラブル》晴子〉は〈神尾《イラストリアス》観鈴〉の曳航索を切り離した。このまま〈神尾《インコンパラブル》晴子〉も入港すれば問題がややこしくなる,という〈神尾《イラストリアス》観鈴〉艦長からの意見を受けてであったが,その直後,遂に〈神尾《イラストリアス》観鈴〉に限界が訪れた。今までの姿が嘘のように急速に沈み始めたのである。
 そんな,ここまで来て――もう,本土は目の前じゃないか,頑張ってくれ――僚艦等の願いもむなしく急速に喫水線を下げて行く〈神尾《イラストリアス》観鈴〉。彼女が沈没したのはそのわずか三〇分後であった。

 〈神尾《イラストリアス》観鈴〉。彼女は本人の預かり知らない「核の呪い」(※一二)を受けてアイリッシュ海に沈んでいった。
 本国艦隊の将兵は呆然とした。――後一歩という所で,何故,と。だが,彼等にはずっと悲しみに明け暮れているような余裕は無かった。悲願の祖国復帰作戦は始まっているのだ。
 その年の六月,〈アークエンジェル〉第二段階作戦である,英本土南部上陸作戦〈コロネット〉が発動。同時にロンドン市内での市民蜂起が発生,その六日後にはヒトラーのロンドン市街の徹底破壊命令を無視してロンドン駐留ドイツ軍は降伏,事実上英本土攻防戦は終結した。
 ロンドンへと凱旋する国王やチャーチル首相等の上空を,〈クロウ〉(※一三)以下残存英正規空母群の艦載機が舞っていた。
 英本土の空が敵の手から解放された瞬間であった。

 一九五二年八月一五日,長きに渡った大戦争は事実上終結した。
 だが,この星が,核戦争無しに幸せな記憶――生物の楽園――を保ったままでいられるかどうかはまだ定かではない。


要目 (カッコ内は大改装後)   

  • 基準排水量 二万九〇〇〇t(三万五五〇〇t)
  • 全長       二三八m   (二四五m)
  • 全幅        三二m    (三四m)
  • 搭載機       五七機    (七二機)
  • 速力        三三ノット

準姉妹艦 

  • 〈遠野《フォーミダウル》(母)〉
  • 〈遠野《ヴィクトリアス》美凪〉  
  • 〈遠野《インドミダウル》みちる〉 (一九四二年,英本土脱出に失敗,ドイツに鹵獲される)

※〇一;なお,同艦は〈《フッド》柳也〉〈《ユニコーン》裏葉〉等と共に核物質を積み込んで英本土脱出中の〈《フューリアス》八百比丘尼〉の護衛にあたっていた。
※〇二;もちろん,この時期における英本国艦隊とは連邦軍と同義である。
※〇三;なお,例外的に五〇年九月のスエズ奪回作戦には参加予定であったが,またしても故障で途中で離脱することになった。
※〇四;韓国は四九年に,インドは五〇年に連邦「外」の国家として独立(ただし,同盟関係)。
※〇五;以前に〈霧島《ローマ》佳乃〉との戦闘を行った際に近距離で第三砲塔に直撃弾を受け,砲身が「天高く吹き飛ばされ」,その後砲塔を撤去,「翼を持つ者」空母を守る防空戦艦になった。
※〇六;早い話がシチリア島のマフィアである。一体どうやって大量の燃料(一説によれば,当時の伊海軍の保有量より多いとも言われる)を隠していたのかは謎である。
※〇七;当時,シチリア攻略部隊旗艦。ちなみに,シチリア島自体は,チャネル諸島と引き換えに戦後イタリア統治下に復帰した。
※〇八;海戦の結果は本題とは外れるので明記しないが,この戦いで英伊戦艦群は共に壊滅,以後両国とも戦艦による対戦艦作戦を大なう力を損失した。
※〇九;特に〈神尾《インコンパラブル》晴子〉艦長の,〈橘《インディファティガブル》敬介〉艦長との「議論」は,控えめに言っても「殺気に満ち溢れた物」というほど白熱した。
※一〇;短期間での修理が要求されたため,その修復作業は荒っぽい物となった。アングルドデッキの修復は中止され,速力もわずか二七ノットに低下。排水量も小さくなり,昔の子供の頃に戻ったようであった。
※一一;なお,北アイルランドは戦後に迂曲左折を経て結局イギリス統治下に戻ることになった。
※一二;なお,戦後も日本統合航空軍が核装備のまま多数英本土に駐留することになり,イギリスにおける「核の呪い」はまだしばらくの間続くことになる。最も,基地の提供の代償として渡された援助金が本土復興の足しになったとは,何とも皮肉である。
※一三;〈フェニックス〉級空母二番艦。二万三〇〇〇t,五五機搭載,二八ノット(一九五一年,日本本土で就役)。