〈桜《M-113》弓音〉
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合衆国陸軍装甲兵員輸送車 〈桜《M-113》弓音〉
(元ネタ:エスクード「ラブリー・ラブドール」桜弓音)
解説
合衆国陸軍が太平洋戦争・第二次南北戦争の血の教訓から開発した装甲兵員輸送車(APC)。日本の6式歩兵輸送車などと並ぶこのカテゴリーのはしりとも言うべき存在である。後継車種のM-1〈アイリ〉IFV〈ブレザー〉などが登場した後も、改良に継ぐ改良で依然として多くの部隊で使用されている。歩兵部隊にとっては付き合いの長い幼馴染み兼妹的な車輌である。
開発の経緯
1940年代前半の二つの戦争を戦い抜いた合衆国陸軍は、南北統一により大幅に縮小される事になった。しかし、戦力を保持するためにも、残る部隊の可能な限りの近代化を進めることになった。その一つが、自動車化歩兵の防御力向上である。
戦争中、自動車化歩兵の主力はM2ハーフトラックだった。M2は優れた車輌ではあったが、元がトラックだけに防御力は低く、野戦重砲の至近弾でも食らえば瞬時に横転。そうでなくとも、キャンバストップの荷台には弾片を防ぐような防御力などなかった。結果、多くの歩兵が戦場での機動で、トラックの荷台上を死に場所とする悲惨な運命を辿っている。
そこで、合衆国陸軍は45年に次のような歩兵輸送車を開発するよう各社に命じた。
・ 12.7mm機銃弾をストップできる防御力
・ 戦車に追随可能な機動力
・ 簡便で量産に適した構造
これらの要求を受け、FMC(現ユナイテッド・ディフェンス)社が47年に提案したのが、前面を傾斜させて被弾径始を考慮した箱型の車体を持つ車輌だった。歩兵は車輌後部のランプ・ドアから出入りし、車体上部にはM-2重機関銃を設置して火力支援を行う事もできる。
また、車体後部には長い無線機のアンテナが取り付けられ、非常に感度の良い通信を行う事が可能だった。そのクリアな会話は電話で話しているのかと錯覚させるほどで、メールのやり取りをするように部隊間の状況を把握する事ができた。
この実用的な性能を持った車輌に陸軍は満足し、制式採用を決定。〈桜《M-113》弓音〉と命名し、直ちに量産に入るよう命じた。
ここで合衆国陸軍にとって幸いだったのは、将来の対日戦をにらみ、生産の本拠を西海岸に置くよう指導した事だった。ユナイテッド・ディフェンス社ではこれを受けてカリフォルニアに新工場を建設し、生産に移っている。これがある意味〈桜《M-113》弓音〉の命運を救った。なぜなら…
大戦勃発
1948年5月、欧州連合軍の奇襲により幕を開けた第三次世界大戦は、短期間に欧州軍が五大湖沿岸から東海岸にかけての工業地帯を占領下に置いた事で、合衆国軍の圧倒的不利に推移していた。
陸軍にとって不幸だったのは、主力戦車のM-48〈弓塚《スーパー・パーシング》さつき〉を生産していた工場群が失われた事である。戦車の供給を断たれた陸軍はずるずると敗退を余儀なくされた。
そうした中、生産本拠が西海岸にあったために、補充が途切れなかったのが〈桜《M-113》弓音〉である。このため、合衆国軍は機動性だけは欧州軍に負けないものを確保でき、撤退する部隊が包囲殲滅される事例を防ぐ事ができただけでなく、時にはゲリラ的に敵補給線への奇襲すら可能になった。
しかし、所詮は軽装甲のAPCに過ぎず、犠牲も決して少なくはなかった。特に、欧州軍が三号戦車などの快速戦車を投入して補給部隊襲撃に使うようになると、その損害は急増するようになった。
これに対し、合衆国軍ではバズーカ砲を装備した歩兵を乗車させるなどして対機甲戦闘能力の確保に努めたが、戦車砲とバズーカではアウトレンジで撃ち負けることが多く、根本的解決にはなり得なかった。
そこで急遽開発されたのが、オープントップに改造して75mm対戦車砲を搭載した戦車駆逐車仕様のM-117である。意外にも機動力はノーマルとほとんど変わらず、テニスのスマッシュをたたきつけるような強烈な一撃を見舞って敵戦車を撃破した。オープントップのために防御力はミニスカートの少女並みに無防備であったが、貴重な機動対戦車兵力として活躍した。
この他、車体後部をオープンデッキにして120mm迫撃砲を搭載した型や、105mm榴弾砲を搭載した型なども開発され、主に歩兵の火力支援に重宝された。
一方、通常型の〈桜《M-113》弓音〉も新装備を手に入れていた。対戦車戦用にT-34〈カリオペ〉多連装ロケット用の砲弾を改造した4.6インチ成型炸薬弾を使用するT-35〈ガァーコ〉対戦車無反動砲である。直撃すれば主力戦車すら破壊し、砲座などの制圧にも使えるこの兵器は、その独特の飛翔音から「凶暴アヒル」として恐れられた。一方の〈桜《M-113》弓音〉側からすれば、これほど頼もしく可愛いペットのような兵器もなかった。ちなみに、この〈ガァーコ〉はその後、TOW対戦車ミサイルに至る対戦車ロケット兵器の基礎となる。
当時合衆国軍の総指揮を執っていたアイゼンハウアー大将は〈桜《M-113》弓音〉の事を評して
「〈桜《M-113》弓音〉がいなければ、我々は戦線の整理も、残存部隊の救出も、補給の確保も、何もできなかった。独身男性の生活が乱雑になりがちなようにね。彼女はだらしのない恋人の生活を面倒見てくれる気立てのいい女の子のようなものだ」
と賞賛している。
戦後と派生型の誕生
第三次世界大戦でその有効性を示した〈桜《M-113》弓音〉は、その後も合衆国陸軍歩兵部隊の主力として運用され、多くの派生形も作られている。その種類は自走対空ミサイル、自走対空機関砲、前線指揮車など数多く、〈桜《M-113》弓音〉は陸軍のよき妹役として活躍した。
唯一の失敗作となったのは野戦給食車仕様で、搭載したバーナーの火力が何故か全く安定せず、生煮えのスープや黒焦げのハンバーグなどを作り出してしまい、試食した陸軍首脳部を昏倒させている。この欠陥はどうしても改善する事ができず、結局野戦給食車仕様は数台が試作されただけでお蔵入りとなった。
こうしたわずかな失敗を除けば、派生型も含む〈桜《M-113》弓音〉シリーズは極めて良好な運用実績を示し、総計5000両以上が生産される大ベストセラーとなった。
70年代に入り、歩兵車輌に求められる能力がAPCからIFVに変化してくると、多くの企業が正式なものからプライヴェート・ベンチャーまで様々な武装強化案を発表し、〈桜《M-113》弓音〉の近代化と延命を図った。
中でも、FMC社の提案したAIFVと呼ばれるプランはポリウレタンを充填した追加装甲とガン・ポートの装備、それにブッシュマスター25mm機関砲とTOWランチャーを装備した2名用砲塔を追加し、安価で手軽に歩兵戦闘車へと改造できるプランで、これが〈桜《M-113》弓音〉近代化計画として制式採用されている。AIFV改装を受けた〈桜《M-113》弓音〉はあののっぺりした外見からはだいぶ変化して、少し大人の女性に近づいたような印象を受けた。
その〈桜《M-113》弓音〉の前に登場した強敵が、M-1〈アイリ〉IFVタイプだった。機動性こそ〈桜《M-113》弓音〉に劣るものの、武装、防御力、搭載量共に大きく勝るM-1〈アイリ〉IFVはGETTO軍の〈《マルダー》レン〉などに十分対抗可能な強力な歩兵戦闘車だった。陸軍は次期主力IFVとして早速〈アイリ〉IFVの採用を決定する。ちなみに、〈アイリ〉IFVの砲塔は〈桜《M-113》弓音〉 IFVLと同じもので、関係者によれば「同じ制服を着てるようなもの」であった。
しかし、陸軍内では〈アイリ〉IFVの採用に否定的な声も大きかった。その理由は〈アイリ〉IFVが高価であること、浮航能力がなく、ミシシッピー渡河作戦には使用できないことなどである。
これらの声に対し、陸軍上層部の決定は、精鋭の打撃部隊は〈アイリ〉IFV、その他の部隊は〈桜《M-113》弓音〉 AIFVを主力とするハイ・ロー・ミックスの構成を取る、というものだった。この決定を聞いて、〈桜《M-113》弓音〉 AIFV推進派の反応は「3Pか!?」とか、「戦車が元の歩兵戦闘車もどきも一緒か!」と言う憤慨したものだった。逆に〈アイリ〉IFV派は大人しい。戦車仕様開発時に散々諸外国に同じような悪罵を浴びたので慣れていたようだ。
もっとも、兵器の価格高騰に伴い、ハイ・ロー・ミックスはどこの国でも一般的に行われるようになっていたから、合衆国陸軍の決定は十分に健全だったとも言える。そのうち、〈桜《M-113》弓音〉 AIFV推進派も、彼らには無理なハードな作戦をこなせる〈アイリ〉IFVの良い所を知って、和解している。
後の第四次大戦では、前線で〈アイリ〉IFVが支えている後ろから〈桜《M-113》弓音〉 AIFVが駆けつけて盛り返し、ついにはミシシッピーを越えて東部連合領にまで進出した部隊もいる。その活躍は十分認められ、21世紀に入っても〈桜《M-113》弓音〉 AIFVは合衆国軍の自動車化歩兵戦力の一角を担う存在として、合衆国陸軍機甲戦力の「妹」として、いつも味方のそばにありつづける存在となっている。
要目
初期生産型
- 全長: 4.864m
- 全幅: 2.6861m
- 全高: 2.496m
- 全備重量: 10.4t
- 乗員: 2名
- 兵員: 11名
- エンジン: クライスラー75M 4ストロークV型8気筒液冷ガソリン
- 最大出力: 215hp/4,000rpm
- 最大速度: 64.4km/h(浮航 5.64km/h)
- 航続距離: 322km
- 武装: 12.7mm重機関銃M2×1 (2,000発)
AIVF改造型
- 全長: 5.258m
- 全幅: 2.819m
- 全高: 2.64m
- 全備重量: 14.225kg
- 乗員: 3名+兵員7名
- エンジン: USオートモービル6V-53T 2ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
- 最大出力: 275hp/2,800rpm
- 最大速度: 61.2km/h(浮航 6.3km/h)
- 航続距離: 490km
- 武装:
- ブッシュマスター25mm機関砲×1(350発)
- 12.7mm機銃M-1×1(1,850発)
- TOW対戦車ミサイルランチャー×2(6発)
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