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〈菜乃花《ベアルン》恵理〉

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〈菜乃花《ベアルン》恵理〉 Porte-avions “Bearn”

F&C・フェアリーテール「PALETTE」菜乃花恵理

隆山条約の落とし子


 本来はフランス初の巡洋戦艦〈斎藤《ノルマンディー》倫子〉級の5番艦。隆山条約の保有制限を越えてしまうため英国の〈八百比丘尼《フューリアス》〉〈カレイジアス〉〈エンジェリック・ドール《グローリアス》〉同様、条項(*注1)を適用して改装、フランス初の空母となった。
 元々巡洋戦艦、しかも空母化で戦艦時の装甲を外したためにスマートな艦隊空母として完成、当時世界最大の空母として各国の注目を集めた。
 まず右舷中部に配置された艦橋は煙突と一体化し、トップに触角のような航空機管制アンテナを載せた二層式で、その下部を膨らませて30個の吸気口を設け、そこから取り入れた空気を排煙と混合することにより着艦の邪魔になる煙を薄くしている。
 一段の格納庫内部はアスベスト製の防火シャッターにより内部を隔てるともに火災時の延焼を押さえ、邪魔なボートを格納庫への外釣りにしたため必要ならば格納庫側壁を大きく開放することもできる。
 飛行甲板はカタパルトこそないものの、横ワイヤーを使用するシュナイダー・フュー式着艦拘束装置を装備、英国の縦ワイヤー方式に比較すると合理的かつ効率がよく、日本海軍も購入して〈HMX−12《鳳翔》マルチ〉に装備、後に改良型を萱場式として国産化している。
 甲板上に埋め込まれたエレベーターは3基。上昇時にはエレベーター横の飛行甲板が立ちあがって遮風柵を兼ね、横風を防いで飛行甲板上での安全性を高める凝った構造を持つなど、多彩な新機軸を備えた先進的な空母だった。
 その割には飛行甲板前方を発艦が難しい下り坂にしてみたり、わざわざ搭載機を分解搭載して常用機数を減らしてみたりとよく判らないことをやっているところが良くも悪くもフランスらしいが、これらの新機軸は空母技術史上に一里塚を築いている。
 備砲は巡洋戦艦として完成した4隻の13.9センチではなく15.5センチに強化、これを前部と後部舷側にケースメイト式に3基づつ(計12門)装備、他に7.5センチ高角砲をスポンソンに配置、さらにはなぜか魚雷発射管(しかも水中固定式)まで持っている。しかし笑ってはいけない。この頃は空母が水上砲戦に巻き込まれる可能性が真剣に危惧されていたのだし、後に本当に使用する事態を迎えるのだから。
 機関は巡洋戦艦時代と同じで石炭混焼だが28ノットを発揮し、巡洋戦艦や巡洋艦といった高速部隊に充分追随できたのは実に大きく、後に続く空母達(特に欧州組)の「システム」は彼女から始まっているというのも言いすぎではないだろう。

幼馴染


 〈菜乃花《ベアルン》恵理〉の空母化が決定し、儀装が進められていく中で載せる航空機をどうするかという問題が挙がった。第一次大戦時には2000機以上にも及ぶ大航空部隊を擁していたフランス海軍だが、戦後独立した空軍に全部取り上げられてしまった。だから空母はあっても載せる飛行機は1機もないのだ。
 空軍の航空機を載せるか?冗談じゃない、海が怖い空軍機のために救助機が倍必要だぞ、それに食堂も司令部も海空軍別々になるぞ。よせやい、世界の恥だ。結局交渉の結果英国式の「艦載機と水上機、飛行艇等は海軍所属」と決定し〈菜乃花《ベアルン》恵理〉の儀装工事と並行してすぐ隣の飛行場で訓練。引渡し式では見事に着艦を決めてフランス海軍航空部隊の「究極の幼馴染」として就役した。
 就役後は艦載機としてルバスール社のPLシリーズを搭載したが艦載機の運用をするたびに組み立てたり、分解したりと整備兵を困らせ、挙句繁盛しているレストランのように搭乗員の行列が出来るという何か間違っている光景が繰り広げられる有様、手作り機レベルに近いPLシリーズの低性能と合わせて実質的戦力はその見た目よりもかなり低かった。
 そういう内部事情はあるものの、彼女の存在は地味な戦艦よりも常に目立っていた。本国艦隊旗艦〈鳩羽《リヨン》翠〉と戦隊を組んでも速度のせいか常に前を航行し、一般向け写真でも彼女を押しのけて目立つような状態。そのせいか本来は戦艦と行動する「ダブル・ヒロイン」としての用法のはずがいつしか単独機動をも考慮した「航空機搭載偵察巡洋艦」として各国では推測されていた。フランスを仮想敵としたドイツの〈グラフ・ツェッペリン〉級がもろに彼女の影響を受けたのは当然の結果といえよう。
 ・・・まあ、当のフランスがそこまで考えていたかどうかは不明だが。


*注1:「1万トンを超え、2万7千トンを超えないもの、ただし2隻だけは3万3千トンを建造できる」この例外条項からすると合衆国は〈レキシントン〉級を空母化することも考えていたらしい。

運命の大激動


 そして第二次大戦開戦後、〈菜乃花《ベアルン》恵理〉〈三好《ダンケルク》育〉と組んで(L部隊)、ドイツ通商破壊艦、特にポケット戦艦を追跡したが空振りに終わった。
 そして年が明けた1940年、〈菜乃花《ベアルン》恵理〉は合衆国から飛行機を購入するために駆逐艦を護衛に連れて大西洋を渡った。フランスの「平和ボケ」のツケはあまりにも重く規格も生産効率も悲惨な状態。こうなったら恥もプライドも捨てて中立の合衆国から輸入するしかない。そういう理由から〈菜乃花《ベアルン》恵理〉が輸送に駆り出されたのだ。この手のお使いに空母や水上機母艦をやらせるのはどこの国でも一緒なのだ。いちいち分解して箱詰しなくて済むし、直接基地近くから飛ばす芸当も出来る。
 しかし3往復目でマルティニーク島に到着した時に本国が降伏、同地にいたアンティル諸島部隊旗艦〈エミール・ベルタン〉、それと〈菜乃花《ベアルン》恵理〉に一緒についてきた練習巡洋艦〈ジャンヌ・ダルク〉や駆逐艦もろとも出港禁止になってしまった。
 こんなとこで日干しになるのは御免だ。早く出せ。この〈菜乃花《ベアルン》恵理〉が恩知らずのアルビオンをのしてやる(メル・エル・ケビル事件後の言葉)。
 艦長がそうわめいても国際法上(合衆国は中立)の問題がある上に同地司令官のジョルジュ・ロベール大将が極め付きの日和見主義者でヴィシー側に付くか自由フランス側に付くかあいまいな態度に終始する有様。どちらにつくか、煮え切らないロベール(アンティル諸島の高等弁務官を兼任)とドミノ倒しに自由フランス側についていく植民地の現況を見たヴィシー側は41年1月、潜水艦で密かに新しい高等弁務官を送りこんだ。日和見主義者は尻を叩くに限る。そして上陸した高等弁務官にまくし立てられたロベールは呆気なく行政権を引き渡し、ここにアンティル諸島はヴィシー側についた。これが8年後に大きな火種となるのだがそれは別の話。今は近い話をするべきだ。

英本土沖にて


 42年春、〈菜乃花《ベアルン》恵理〉は合衆国で儀装、竣工したばかりの〈メイフェア《ジョッフル》〉を連れ、ドイツに引き渡された「元」合衆国戦艦達を護衛して戻ってきた。アンティル諸島がヴィシー側についたためにマルティニークでの抑留はすでに解けていた。合衆国はドイツの同盟国ヴィシー・フランスを承認する。書類一つで話は片付くどころか、ついでに〈メイフェア《ジョッフル》〉まで儀装してくれた。当の合衆国海軍のキング司令長官は英国は敗北すると予想していた。だが英国艦隊に止めを刺すのはドイツあたりでよい。合衆国の手を汚さずに済むのなら旧式戦艦程度大したことはない。どうせ相打ちに近い結果になるのだから。ドイツがこの戦いから立ち直る頃には既に合衆国は遥か手の届かない所。最後に勝つのは我が合衆国だよ。せいぜい頑張ってくれたまえ。
 キングのはからいはともかく、これは正規空母を空軍に分捕られ、か弱い改装空母でやりくりをしているドイツ航空艦隊にとってはありがたすぎる援軍だった。搭載機も戦闘機はグラマンF4F〈マートレット〉、攻撃機がTBD〈デバステーター〉に改変され、ようやく低性能の複葉機から近代的な単翼機に進化し、列強諸国の艦載機にもひけをとらないものとなっていた。
 そして9月7日、〈菜乃花《ベアルン》恵理〉は〈メイフェア《ジョッフル》〉、及びドイツ航空艦隊の〈愛沢《シャルンホルスト》ともみ〉、〈三剣《エルベ》大介〉、〈イエーデ〉は集結、海峡西部に入った。海峡をわらわら渡る上陸船団や側面を守るフランス大西洋艦隊の支援にあたるためだ。フランス側の護衛はマルティニークからついてきた〈エミール・ベルタン〉と第7駆逐隊の〈エーグル〉〈ヴォートゥール〉〈ジェルフォー〉、これに第11駆逐隊の〈ミラン〉〈エペルヴィエ〉からなる。全艦とも主砲が平射砲のために対空防御には向かなかったが、他にいないのだからしょうがない。ドイツ側の〈神塚《Z25》ユキ〉〈志摩《Z20》紀子〉〈Z26〉〈Z27〉にしたって同様なのだから。
 共同行動にしても〈三剣《エルベ》大介〉(同艦にはドイツ至上主義者が多かった)が露骨にフランス空母(というか、フランス人)と組むのを露骨に嫌がり、ライスベルガーがなんとか説得する場面を見るように実際うまく行くのか半信半疑だった。もっともノルトマンあたりは楽観視していたようだが。
 西暦1942年9月8日0400分00秒。ドイツ人は時間に正確だ。1秒の狂いもなく艦砲射撃部隊はドーバー地区に砲撃を開始。長い長い一日が始まった。先陣を切る降下猟兵、曳航されるグライダー。その中に少数ながらLeO451やコードロンC445、更には地中海から駆け付けたSM82、P108Cといった一際目を引く機体も混ざっていた。ドイツだけでは既に艦船どころか輸送機すら足りない。
 0800分、英国沿岸航空軍は空母部隊に突っかかってきた。あれだけ叩かれても飛行機を引っ張り出し、更には攻撃隊を繰り出せるとはさすが大英帝国。
 これに対しドイツ側からF5F、フランス側からはF4Fが発艦する、特にF4Fが飛行甲板を斜めに滑走しつつ発艦していく〈メイフェア《ジョッフル》〉の一種異様な光景はドイツ人ならずとも目を見張る。ただ5空母合わせても約180機。その3分の2に戦闘機を当てているがそれでも沿岸航空隊の相手をするにはかなりの技量が必要だった。
 幸いにもこの技量を発揮できる人材が艦には揃っていた。格闘戦を挑むハリケーンに対してはマルセイユ達の足の速いF5Fが振り落とし、しゃにむに突っ込むボーフォートにはログロアン達の運動性に優れたF4Fがひらりひらりとあしらう。これをラダール・ゲレートと信号との組み合わせでノルトマン達が勝利への絵画を描いていく。
 フランス側で空母を預かるモーリス・ルリュック少将は苦虫を噛み潰したような航空参謀ベリル・ジャルディン、黙々と指示を出す航海参謀のトルペリア・オルベリスの両少佐を眺めながら思っていた。この二人が艦長になる時代、果たして我がフランスはドイツと仲良くやっていけるだろうか。今はこうして半占領の身分だが・・・。
 ダルランの参謀長を勤めた彼が後に大将になった時、その答えはすでに出ていたのだが。そこにドイツ側からの提案(ラインスベルガーよりもルリュックの方が卒業年次が上、だから命令とはいかない)が入った。攻撃隊で敵水雷戦隊を叩きたいがいかが?
 すぐにTBDデバステーターが発艦。しかし〈メイフェア《ジョッフル》〉は最新鋭空母の分際で格納庫の天井が低いので新型のTBFアヴェンジャーが入らない。これで「最新鋭」なのだから・・・ジャルディンがうめくのも無理はないか。戻ったらなんとかしなければな。ルリュックはそう思った。これらの機体が大暴れしている英巡洋艦や駆逐隊に空軍対艦攻撃部隊と共に突撃をかけて半壊させ、ジャンスールの仏大西洋艦隊が英艦隊に振り回されているその時、今度は空母部隊が振りまわされる番がやってきた。
 そう、英軍の魚雷艇が襲撃してきたのだ。みゅーみゅーとエンジンを唸らせながら突撃する〈椎名《MTB》繭〉隊。しかも空には相変わらずの英攻撃隊。こうなると乱戦状態。 快速を自慢とする〈エミール・ベルタン〉が〈椎名《MTB》繭〉を追いぬいて射撃、横にはなぜか〈神塚《Z25》ユキ〉がついてきている。万一戦艦が突っ込んできたら〈エミール・ベルタン〉が独仏駆逐艦を束ねて突撃する手はずになっていたのだ。万一だが。 それでも突っ込む連中に対しては〈菜乃花《ベアルン》恵理〉の15.5センチ単装砲が射撃を開始した。12門あるから砲戦能力は巡洋艦に近い。
 後ろからついてくる〈メイフェア《ジョッフル》〉も13.5センチ両用砲で〈椎名《MTB》繭〉と攻撃隊を交互に狙い打つ。こちらは分/11発の半自動砲だから巡洋艦の真似事すら可能。いつのまにか〈菜乃花《ベアルン》恵理〉と〈メイフェア《ジョッフル》〉が〈愛沢《シャルンホルスト》ともみ〉達の左右をガードするような陣形になってしまった。すでにこの乱戦で最初離れていた独仏機動部隊は一つの陣形を築いていた。不思議なものである。
 そしてジャンスールがようやく〈結城《ヴァリアント》貴之〉を沈め、残存部隊の追撃に移った時、戦いの流れが明らかに英国の手を離れていったことに衆目は気づいた。グランド・フリートは〈前田《プリンス・オブ・ウェールズ》耕治〉と〈結城《ヴァリアント》貴之〉、巡洋艦4隻、駆逐艦9隻を失った。それは大英帝国海軍の勢力からすればまだまだ大したことはない、そう思えた。だが一度傾いた流れはそういう損害を遥かに凌ぐ。
 英国海軍首脳の頭の中には常に「本土脱出後」、つまり「撤退」があったのだ。英国は「未来」を考えすぎて「現在」を捨てる羽目になってしまった。それが決定的な差だった。
 〈菜乃花《ベアルン》恵理〉を始めとするフランス空母部隊がブレストに戻った時、一緒に戻ったジャンスール艦隊が〈フランドル〉を失い、〈ブルゴーニュ〉が大破、〈三好《ダンケルク》育〉がへたっている状態を見ると自分たちは幸運だと思った。上からみるだけでも何か間違ったとしか思えない戦艦達と戦っていたのだから。
 そしてジャンスールはルリュック達やドイツ側の制止を振り切り、残存部隊を率いて出撃、英脱出部隊との戦闘で文字通り消滅してしまう。メル・エル・ケビル事件以来常に復讐と自戒に挟まれていた彼は死に場所を求めていたのだろうか?だが消滅してしまった人間に問い掛けても永久にその答えは返ってこない。
 ドイツ航空艦隊もまたへたり込んでいた。たった一日でこれほどの戦いが起こり、これほどの展開になるとは。だがその横を〈菜乃花《ベアルン》恵理〉は残存搭載機を出して平然と哨戒している。〈愛沢《シャルンホルスト》ともみ〉はこの戦いによってメイン・ヒロインの地位に上った。だがフランス唯一の母艦航空隊である第一空母航空団〈フィオリ〉(なぜイタリア語なのかは不明)を擁する〈菜乃花《ベアルン》恵理〉は開戦前からのメイン・ヒロインだ。その地位に10年以上遅れてドイツはたどり着いた。そしてこれから追いぬこうとしているのだ。追いぬけるかどうかは別にして。

要目

  • 基準排水量 26500トン
  • 常備排水量 30250トン
  • 全長 210.3メートル
  • 全幅 27.0メートル
  • 喫水 9.3メートル
  • 飛行甲板 211.2メートル×35.0メートル(最大幅)
  • 格納庫/1段:135×22×5.8メートル(長さ×幅×天井高)
  • 主機 パーソンス・タービン4基/4軸
  • 主缶 ギヨ・ド・タンブル缶22基(混焼式)
  • 出力 86000馬力
  • 速力 28ノット
  • 航続力 15ノットで7000海里
  • 兵装
    • 55口径15.5センチ単装砲12基
    • 60口径7.5センチ高角砲8基
    • 60口径37ミリ連装機銃10基
    • 55センチ水中固定魚雷発射管6基
  • 装甲
    • 舷側90ミリ
    • 甲板25ミリ
  • 搭載機 45機(分解機含む、常用は20機程度だったらしい)

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