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〈彩坂《ラプター》愛美〉

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マクダネル・ダグラスF-22〈彩坂《ラプター》愛美〉

元ネタ:Ripe「Nonfiction〜題名のないラブストーリー〜」 彩坂愛美

序章

 1992年のネヴァダ州グレーム・レイク空軍基地。ここで、激しい「空中戦」が行われていた。逃げ回る機体−無線操縦の標的機に対し、後方にぴったりと張り付いた戦闘機が「私たち、もう終わりにしましょう」とばかりにミサイルを放つ。それは狙いを過たず相手を吹き飛ばした。その瞬間、「ブラボー!」の歓声が空戦を見守っていた人々の間から上がった。模擬空戦を終え、着陸して来た機体にテストスタッフが群がる。その機体は、従来の戦闘機とは明らかに異なるデザインを持っていた。一風変わった、しかし流麗かつ未来的なそのラインは、これから伸び盛りの女優を連想させた。
 彼女の名前はマクダネル・ダグラスXF-22〈桜《スーパースター》彩美〉。正式採用後はF-22〈彩坂《ラプター》愛美〉の名で合衆国空軍史上最強の主力戦闘機となる運命を背負う機体であった。

概要

 長年新型機受注から遠ざかってきたマクダネル・ダグラス社が社運を賭けて開発・投入したステルス制空戦闘機。21世紀の北米の空を支配する戦闘機として大いに期待され、デビュー時からその圧倒的な高性能で注目された。第四次世界大戦では開戦時に42機が完成しているのみであったが、序盤の航空撃滅戦では10対1以上の驚異的なキル・レシオをマークして連合軍を圧倒。このため、ドイツはルフトヴァッフェの切り札、Da631A〈鷺澤《ウーフー》頼子(美咲)〉を送り込んで航空戦力の崩壊を食い止めねばならないほどだった。「スタイルばかりで実力が伴わない」などの悪評を受けていた合衆国航空産業の底力を示した機体として知られる。

第一幕…開発の経緯

 そもそも彼女の開発が開始されたのは、初飛行から15年近くをさかのぼる1970年代後半の事である。当時、マクドネル・ダグラス社はXF-15計画において宿敵ノースアメリカン・ロックウェル社に敗れ、当面新型機開発の仕事が回ってこないと言う状況にあった。
 幸い、ベストセラーとなったF-4〈簗瀬《ファントム》籐子〉やA-4〈スカイホーク〉と言った従来の機体の生産、改良、ミサイルの生産などで経営が極端な不振に陥る事は避けられたが、大きなビジネスチャンスを逃した事に変わりはない。
 そこへ、一機の戦闘機が公表された事が、マクダネル・ダグラス社執行部、そして設計陣を唖然とさせる事になった。その機体とは、ルフトヴァッフェ…ドイツ空軍が採用を決定した次期主力戦闘機、メッサーシュミットMe280〈白河《アドラー》ことり〉。その外見はもちろん、コンセプトもまたXF-15のマクダネル・ダグラス案とそっくりだったのである。
 追い討ちをかけるように、Me-280に脅威を覚えた合衆国空軍がノースアメリカン・ロックウェル社に対してXF-15の空戦性能強化型を発注した事が明らかになり、マクダネル・ダグラス社の当惑は怒りへと転化した。それならば、最初から当社の機体を採用していれば良かったのだ。と言うか、あのメッサーシュミットの機体は何だ!?
 無論、メッサーシュミットがマクダネル・ダグラスの設計案を流用した…と言う証拠はない。しかし、マクダネル・ダグラスはそう信じた。そして、執行部は一つの重大な決断を下すのである。 最強の機体を作る。最強の戦闘機を生み出し、宿敵ノースアメリカン・ロックウェルから制空戦闘機メーカーの地位を奪い取り、そしてメッサーシュミットの機体をこの大空から駆逐し尽くしてくれる。かくして、最強戦闘機開発計画はスタートしたのである。

第二幕…開発開始

 さて、開発にあたり一番問題となったのは、何を持って「最強」とするかである。ただ単純に現用のありとあらゆる戦闘機を上回るスペックを持たせればそれで最強と呼べるのか?いや、そうではない。最強の戦闘機とは、相手を撃墜し、自らは撃墜されない。ただこれだけに尽きる。
 言葉にすれば簡単で、しかし実際には実現不可能ともいえるこの命題をクリアするには、いったいどのような手段をとればよいか。開発チームはまず、ここから考えなければならなかった。
 現代の空戦においては、ミサイルによる遠距離からの攻撃がその主体となる。もちろん、最終的には機銃によるドッグ・ファイトによって決着をつけるとしても、実際にはミサイル戦闘で空戦の帰趨は決せられるのだ。ならば、相手を撃墜するには確実に相手を撃破できるミサイルが何より重要である。しかし、マクダネル・ダグラス社は航空機メーカーではあってもミサイルメーカではないから、これを実現するにはいろいろと無理がある。ならば、まずは相手に撃墜されない…すなわち、ミサイルを受けない事を最優先としよう。
 これを達成するには、ミサイルの用いる索敵システム…レーダー・ホーミングと赤外線ホーミングの二つを無効化する、つまり、レーダーに映らず熱も出さない戦闘機である。
 それは、当時の技術では不可能と言うより絵空事。無数の新技術を開発せねばならず、マクダネル・ダグラス一社の力では如何ともし難い。まさに、たかが大学の演劇サークルのメンバーがいきなりプロの女優を目指すのにも等しい暴挙である。しかし、マクダネル・ダグラス執行部の意思は固かった。さすがにエンジンなどはGEに頼むにしても、それらを自力で開発し、同社を虚仮にした空軍やルフトヴァッフェに一泡吹かせてやると考えていたのである。
 こうした執行部の怨念は別として、開発現場は若手を集めた考え方の柔軟なメンバーを集めて和気藹々と作業をしていた。その様子はまるで大学のサークルのようだった。彼らはさまざまなアイデアを持ち寄り、可能性のありそうなものはすぐに試してみた。
 この時、開発チームのメンバーが残したラフなアイデアスケッチが何かの拍子で外部に漏れたことがある。このスケッチが「謎の未来戦闘機」として様々な憶測を呼び、幻の戦闘機「F-19」としてあちこちの模型メーカーからキットが発売される騒ぎになったのだが、それは余談である。
 そうした外部の騒ぎを余所に、開発チームは次第に一つの形を作り上げていた。将来の新技術に頼らず、機体の形状を可能な限りレーダーに反射しにくいように構成し、さらに兵装は可能な限り機体内部に収納すると言う工夫も行った。1987年、チームは実機の4分の1スケールのグライダーを飛ばし、それが極めてレーダーに映りにくい機体である事を確認した。

第三幕…デビュー

 そして、この実験は軍の目にもとまった。実はこの頃、合衆国空軍もUSA(United Space and Aerotech=連合航空宇宙開発公社)の秘密設計班と共同でステルス技術の研究を行っていたのである。その成果が、XF-117と呼ばれる機体であった。実用機と言うよりは実験機的な要素の強いこの機体は、ステルス性を除けば至って平凡な性能の機体で、速度は音速以下、搭載量は並み、航続距離も余り長いわけではない。 しかし、その機体には低音排気エンジン、レーダー吸収塗料、炭素繊維系素材など、マクダネル・ダグラス社が必要とする技術がふんだんに使われていたのである。そして、USA社は嫌味もなくこれらの技術的ノウハウをマクダネル・ダグラスに提供することを申し出てきた。驚くマクダネル・ダグラスの担当者を見ながらUSA社の担当は語った。合衆国航空産業が再び世界の頂点に立つこと、これは貴社だけでなくわが社の夢でもあります。そのためなら協力は惜しみません、と。
 こうして、XF-117はマクダネル・ダグラスの夢を支える機体となったのである。XF-117からの応援…技術的フィードバックを受け、XF-22の開発は急激に進行。1989年、ついに試作1号機が完成した。まだ新型エンジンが間に合わず、F-15E〈深海《ストライク・イーグル》理緒〉と同型のエンジンを装備してではあったが、遂に彼女が空に飛ぶ時が来たのだ。
 このテスト飛行で、XF-22は素晴らしい性能のその一端を披露した。地上のレーダーは必死になって彼女を追いかけたが、地上に駐機しているときの、あの一見平凡な機体の印象はどこにもなかった。何しろ、レーダー上ではXF-22はゴルフボール程度の大きさにしか映らなかったのである。最初、レーダー管制官はその影がXF-22のものだとは信じなかったくらいだ。時速1000キロ以上で飛ぶゴルフボールが無いと判っていなければ、最後まで信じられなかったかもしれない。
 他にも、戦闘機として必要な旋回性能、失速速度、様々な試験が行われた。新技術を採用した事に伴う様々な欠陥はいろいろあったが、それは改善すればいいだけの話である。試験の監督役を務める空軍の担当者はXF-22を褒めちぎった。
 マクダネル・ダグラスはその高い評価に逆に戸惑いを感じるほどだった。自分たちは本当にやってしまった…と。一方、技術協力したUSAの要員たちは当然だと我が事の様に誇らしかった。自分たちがそのデビューを後押しした機体が、見事に才能を花開かせようとしていたのだから、感無量のものがあった。 その後も、5機の試作機が作られ、様々なテストが行われたが、1991年、ついにエンジン担当のGE社が彼女に新たなステージを目指すための新型エンジンを完成させた。圧倒的な高出力により、アフターバーナーを作動させなくとも超音速で巡航させる能力を与え、推力偏向式の二次元ノズルは従来の戦闘機には及びもつかない機動性をもたらす。
 試作6号機はこの新型エンジンを搭載し、計画通りの形で完成した。そして、それは文字通り彼女の「天才性」を完全な形で開花させることになったのである。彼女はマッハ1.4の速度で巡航飛行することに成功し、さらにチャイナ・レイクとヒューズが共同開発した新鋭空対空ミサイルAMRAAMの発射にも成功。また、さすがに日本の三十七式戦闘機〈鳴風《晨風》みなも〉が使う「シンカイ・ハブ」のような離れ業はできないものの、従来機とは次元の違う機動性を発揮して見せた。
 最後の模擬戦でF-16〈御陵《ファイティング・ファルコン》明里〉、F-15〈深海《イーグル》未緒〉、海軍のアグレッサー部隊が装備する北崎〈Air2〉等と対戦し、ことごとく圧勝してのけたXF-22は93年初頭、遂に正式採用を勝ち取った。これにより、正式名称もF−22〈彩坂《ラプター》愛美〉と決定する。「ラプター」とは猛禽類全般を指す名称である。〈イーグル〉も〈ファルコン〉も及ばない、これ以上の戦闘機はない、と言う強烈な自負の顕れであった。
 もちろん彼女の存在は厳重な機密のヴェールに包まれており、まるで芸能人のプライヴェートを覆い隠すような警戒の厳しさだった。このため、「謎の合衆国空軍新鋭戦闘機」としての彼女は、世間には試作機時代の「芸名」である〈桜《スーパースター》彩美〉の方が流布していた。
 さて、この間に彼女の応援…ステルス機のデータ取りだけの存在で終わるはずだったXF-117が〈井上《ナイトホーク》光輝〉として正式採用された。〈彩坂《ラプター》愛美〉は制空戦闘から対地攻撃まで、与えられた「配役」を見事にこなしてのける天才女優ではあったが、彼女がその力を発揮するには雑用をこなす役、いわばマネージャが必要だ。飛行性能は凡庸でも、ことステルス性に関しては〈彩坂《ラプター》愛美〉を上回る〈井上《ナイトホーク》光輝〉はその役にうってつけだった。すなわち、邪魔な防空網を事前に隠密侵攻して破壊。彼女の活躍をお膳立てするのがその職務である。
 こうして主力制空戦闘機と裏方の攻撃機と言う二機種がステルス機化されたわけであるが、開発の経緯を知る両機の装備部隊は非常に良好な仲を保っており、いっしょに飛行訓練をしたり合同戦技研究会を開いたりして技を磨いていた。
 さらに、超敏腕マネージャとも言うべき最新鋭早期警戒管制機、ボーイングE-767〈大崎《アウルネスト》玲奈〉が二機の上についてくれているのは極めて心強いものだった。彼女の的確な管制能力により、二機はそれぞれの職務を万全にこなせるようになっていたからである。

第四幕…大戦勃発

 1995年、太平洋条約機構と欧州連合の対立は遂に第四次世界大戦に発展した。北米戦線ではミズーリ州に連合軍主力が侵攻。激戦が展開された。連合軍は北米に展開した膨大な航空兵力を一気に叩きつけ、航空優勢の確保を狙った。
 その主力となったのは、あのMe280〈白河《アドラー》ことり〉である。スリーサーフェス化等の改造を経てその戦闘力を格段に増した彼女は合衆国空軍の主力、F-15〈深海《イーグル》未緒〉やF-16E〈御陵《アジャイル・ファルコン》明里〉に対して優位に立ち、北米における制空権を奪おうとしていた。 ところが、一騎当千の〈アドラー・ファーラー〉たちを驚愕させる事態が発生した。突然、何もない空間からロックオンを受け、訳もわからないうちに撃墜される〈白河《アドラー》ことり〉が相次いだのである。第一撃で一挙に編隊の半数以上を撃墜され、周囲を必死に見渡す編隊長機に、暗色を主体に塗られた見知らぬ戦闘機が襲い掛かってきた。その戦闘機は目では見えるのにレーダーには映らず、圧倒的な機動性を駆使して次々に生き残った〈白河《アドラー》ことり〉を屠っていく。まるで、犯人を逮捕すべく襲い掛かる女刑事を演じているかのような敏捷きわまる動きだった。
 これには見覚えがある、そう、Da631Aと…あの〈鷺澤《ウーフー》頼子(美咲)〉と模擬戦をした時のような…とそこまで考えた時、20ミリバルカンの弾幕が編隊長機を粉砕した。
〈彩坂《ラプター》愛美〉の初の実戦投入となったこの95年のメンフィス航空戦で、16機の〈彩坂《ラプター》愛美〉は28機の〈白河《アドラー》ことり〉を一方的に撃滅した。この当時完成していた〈彩坂《ラプター》愛美〉はわずか42機。極めて高価な機体であるがために、配備開始から年20機前後のスローペースでしか生産されていなかった彼女であるが、その戦闘能力はまさに圧倒的なものだった。芸能人に例えれば、「アイドル」よりも「女優」の方がヒエラルキーが高いことを証明して見せたのである。これ以降本格的参戦を開始した彼女の活躍により、制空権の天秤は一挙に太平洋条約機構軍に傾こうとしていた。
 その前に立ちはだかったのが、東部連合の誇る広域制空戦闘機、グラマンF-14〈剣《ジャガーII》充〉であった。東部連合の作品としては珍しく政治臭抜きで撮影された映画「トップガン」の主役メカを勤めたこの大型戦闘機は、可変後退翼の採用によるスマートでいながらマッシヴなボディ、レイセオン社のAIM-54〈フェニックス〉長距離対空ミサイルと高度な火器管制システムを組み合わせた同時多目標捕捉・攻撃能力を持つ、恐るべき戦闘機である。
 どう言う訳か、レーダーに映らないはずの〈彩坂《ラプター》愛美〉を捕捉できているらしい〈剣《ジャガーII》充〉がアウトレンジから〈フェニックス〉ミサイルを放つ。これに撃墜されるような〈彩坂《ラプター》愛美〉ではなかったが、〈剣《ジャガーII》充〉の粘着質ともいえるしつこい攻撃は、彼女に他に対応する余裕を失わせた。連合軍は息を吹き返し、再び戦線はじりじりと西へ向かい始めた。

第五幕…ずれる気持ち

 この事態を打開すべく動いていたのは、F-117〈井上《ナイトホーク》光輝〉の部隊だった。主に夜間の敵陣地に対するピンポイント攻撃に当たっていた彼らだが、〈剣《ジャガーII》充〉をどうにかして〈彩坂《ラプター》愛美〉から引き離すべく囮になったのである。目標の〈彩坂《ラプター》愛美〉を墜とそうとしても、その前をちょろちょろして邪魔をする〈井上《ナイトホーク》光輝〉によほどムカついたのか、〈剣《ジャガーII》充〉は失せろとばかりに〈フェニックス〉を連射した。
 権力を振りかざして弱い者をいたぶるかのような理不尽な攻撃に、〈井上《ナイトホーク》光輝〉は必死になって耐えながら、何とか〈彩坂《ラプター》愛美〉に制空任務に集中してもらおうとした。しかし、〈彩坂《ラプター》愛美〉の方では自分のために無茶をする〈井上《ナイトホーク》光輝〉のことを心配していた。
 さらに、空軍司令部は〈井上《ナイトホーク》光輝〉の勝手な行動が前線に混乱を招いているとして、必要以外の出撃を禁じる命令を出した。〈大崎《アウルネスト》玲奈〉に座乗する前線航空統制官は可能な限り〈井上《ナイトホーク》光輝〉を弁護したのだが、決定は覆らない。
 その間、前線ではますます〈剣《ジャガーII》充〉が傍若無人の限りを尽くしていた。〈彩坂《ラプター》愛美〉に手を出す一方で、味方に対しても戦域区分を無視して欧州連合軍の担当空域に侵攻したり、勝手に基地に着陸して燃料を強引に補給して行ったりとやりたい放題であった。しかし、最強の主演女優である〈彩坂《ラプター》愛美〉に対抗しうる唯一の俳優だけに、連合軍の合同空軍司令部も強い態度に出られない。北米航空戦の優位は、〈剣《ジャガーII》充〉のもとで連合軍の優勢へと再び傾こうとしていた。

第六幕…告白

 前線からの報告が不利なものばかりになっていた頃、出撃禁止を命じられて痺れを切らしていた〈井上《ナイトホーク》光輝〉飛行隊長はついに命令違反を犯して前線へ向けて飛び立った。そこで見た戦況はひどいものだった。〈彩坂《ラプター》愛美〉の戦い振りは精彩を欠き、〈剣《ジャガーII》充〉や〈白河《アドラー》ことり〉どころか、格下の〈朝倉《ファルケ》音夢〉にまで追いまわされる状態である。 助けに入ろうとした〈井上《ナイトホーク》光輝〉を諌止したのは〈大崎《アウルネスト》玲奈〉だった。座乗する前線航空統制官は〈井上《ナイトホーク》光輝〉を自分が本拠にしている基地に導き、目立たないように普段は〈大崎《アウルネスト》玲奈〉専用になっている格納庫を提供すると、飛行隊長を自室に招いた。そして、驚くべきことを告白したのである。東部連合軍に〈彩坂《ラプター》愛美〉の位置情報を提供したのは自分だ、と。
 当惑し、理由の説明を求める飛行隊長に対し、前線航空統制官は自分がアメリカ統一を望むアメリカ統一協会のメンバーであることを明かした上で事情を説明した。
 アメリカが東西に分断され、対立している背景には、統一アメリカの存在を望まない諸外国…主に日独の存在がある。彼らの影響力を廃し、アメリカ統一問題をアメリカ人自身の意思で決定できるようにするため、この戦いで二つのアメリカ…合衆国と東部連合がそれぞれの主役を務めるようにすること。それが統一協会の意思である。
 それには、東部連合機はもちろん欧州戦闘機に対しても圧倒的優位を持つ〈彩坂《ラプター》愛美〉は逆に邪魔な存在だったのだ。前線航空統制官は〈大崎《アウルネスト》玲奈〉から密かに東部連合の軍用ネットワークにアクセスし、情報を流していた。性能面では〈彩坂《ラプター》愛美〉に及ばないはずの〈剣《ジャガーII》充〉だけが彼女を捕捉し、攻撃しえた真相がこれだったのである。
 しかし、と前線航空統制官は続けた。まずはお互いに主役を握るはずの東部連合が裏切った。彼らは自分たちだけが主導権を握り、一方的に合衆国を併合するために事前の協定を超えて動き出したのである。この裏切りを悟った前線航空統制官は苦悩した。そして、自分の行った売国的行為を告白することを決断したのである。
 告白を終え、いかようにも自分を処断してくれて構わない、と言う前線航空統制官に対し、飛行隊長は一つの決意を固めていた。そして、その協力を前線航空統制官に依頼すると、〈彩坂《ラプター》愛美〉隊のいる基地に向かったのである。

第七幕…決着

 操縦桿を操りながら、〈井上《ナイトホーク》光輝〉飛行隊長は己の甘さを悔いていた。いくら〈彩坂《ラプター》愛美〉が大事だったとは言え、私情に任せて彼女の護衛をすると言う戦闘機の真似事をし、逆に〈彩坂《ラプター》愛美〉に迷惑をかけていたこと、そして、それにより作戦全体に大きな影響を与えていたこと…どれも悔やんでも余りある事ばかりだ。
 基地についた〈井上《ナイトホーク》光輝〉飛行隊長は〈彩坂《ラプター》愛美〉隊長に面会し、これまでのことを謝罪すると共に、これからは自分にできることで戦いを支えていくことを誓った。〈彩坂《ラプター》愛美〉隊長も謝罪を受け入れると共に、心配をかけたことを詫び、気持ちを一新して共に戦うことを約束した。こうして、絆は深まったのである。
 翌日、前線航空統制官の提言によって前線に復帰した〈井上《ナイトホーク》光輝〉隊は東部連合の軍用ネットワークの中枢を探り出しては猛爆を加え、これをズタズタに寸断した。一方、〈彩坂《ラプター》愛美〉も生気を取り戻し、開戦直後に勝る勢いで連合軍を叩きのめし始めた。その戦闘力は文字通り伝説を作るほどのものであり、一時優位を確保しかけていた欧州連合の制空権は大きく後退した。
 一方、「マネージャ」としての任務に復帰した〈井上《ナイトホーク》光輝〉であったが、一つだけやっておくことがあった。ある日、彼らは誘導爆弾の代わりに対空ミサイルを装備して出撃。前線へ向かった。そこでは、相変わらず〈剣《ジャガーII》充〉が傍若無人に振舞っていたが、〈大崎《アウルネスト》玲奈〉からの情報が得られなくなった今の〈剣《ジャガーII》充〉には、ステルスを捕捉する能力はなかった。
 堂々と空戦域に侵入した〈井上《ナイトホーク》光輝〉は、周囲の驚愕も省みず対空ミサイルを発射。不意を討たれた〈剣《ジャガーII》充〉はなす術もなく、横っ面を張り倒されたように粉砕された。煙を鼻血のように撒き散らして大地に叩きつけられた〈剣《ジャガーII》充〉を後目に、〈井上《ナイトホーク》光輝〉は悠々と戦場を後にした。
 いかにステルス機とは言え、たかが攻撃機に撃墜される戦闘機…と〈剣《ジャガーII》充〉の評判は地に墜ちた。この瞬間、東部連合の野望も粉砕され、一つの決着を迎えたのである。

最終幕…それからの二人

 その後、完全に攻勢に転じた合衆国空軍は〈彩坂《ラプター》愛美〉を先頭にミシシッピーを越え、最大でアパラチア山脈周辺にまでその制空権を拡大した。こうなると、戦略空軍の活動も俄然活発となり、連日巡航ミサイルを抱いたB-47〈南条《ストラトジェット》紗也香〉が東部連合領空へ侵入してミサイルを発射。デトロイト、ピッツバーグ、ノーフォーク、チャールストンなどの重要拠点に連日猛攻が加えられた。
 危機感を抱いたドイツはルフトヴァッフェの切り札、Da631A〈鷺澤《ウーフー》頼子(美咲)〉を派遣した。最高の女優VS最高のメイドと言う対決を制したのは〈鷺澤《ウーフー》頼子(美咲)〉である。〈彩坂《ラプター》愛美〉は性能では遜色なかったが、広い戦場正面に散っていたために各個撃破を許してしまったのである。8日に及ぶ連合側の逆攻勢によって〈彩坂《ラプター》愛美〉7機が撃墜され、戦場空域は再びミシシッピー上空まで後退した。もっとも、再編成を終えた〈彩坂《ラプター》愛美〉隊はそこからは〈鷺澤《ウーフー》頼子(美咲)〉相手に1インチの前進も許さなかったのであるが。
 結局、戦争が終わった時、アメリカは再び統一のチャンスを逃すことになった。合衆国のブッシュ大統領と、東部連合のゴア大統領の相性が悪すぎたのである。夢(統一)をつかむための歩みは、まだまだ続いていくことになった。
 第四次世界大戦における〈彩坂《ラプター》愛美〉の戦績は、被撃墜17機(総生産数56機/戦前42機+戦中14機)に対し、撃墜183機。キル・レシオにおいて10対1以上と言う驚異的なものだった。もちろん、合衆国空軍は彼女をその後も主演女優として使いつづける予定であり、今後400機以上の導入が決定されている。一方、パートナーの〈井上《ナイトホーク》光輝〉は総生産機数こそ56機にとどまっているが、ステルス性を生かした「レポーター」…強行偵察機としても活用され、国内外で紛争の抑止にその役割を果たしている。
 この二機が合衆国空軍の最新の主人公として、今後しばらく活躍を続けるのは疑いのないところである。

要目

マクダネル・ダグラスF-22〈彩坂《ラプター》愛美〉

  • 全長:20.8m
  • 全幅:13.8m
  • 全高:5.4m
  • 自重:12.377kg
  • 全備重量:22.569kg
  • エンジン:GE−F119−GE−100(15.250kg)×2
  • 最大速度:マッハ2.4
  • 武装
    • M-61 20ミリバルカン砲
    • AAM 最大10発
    • 最大爆弾搭載量:11.000kg

USA(連合航空宇宙開発公社)F-117〈井上《ナイトホーク》光輝〉

  • 全長:20.09m
  • 全幅:13.21m
  • 全高:3.78m
  • 自重:13.380kg
  • 全備重量:23.814kg
  • エンジン:GE−F404−GE−F1D2(4.900kg)×2
  • 最大速度:1.040km/h
  • 最大爆弾搭載量:2.268kg

ボーイングE-767〈大崎《アウルネスト》玲奈〉

  • 全長:47.57m
  • 全幅:48.51m
  • 全高:15.85m
  • 総重量:171.255kg
  • エンジン:GE−CF6−80C2(27.675kg)×2
  • 最大速度:805km/h

グラマンF-14〈剣《ジャガーII》充〉(空軍用D型)

  • 全長:19.10m
  • 全幅:19.54m(最大時)
  • 全高:4.88m
  • 自重:16.240kg
  • 全備重量:27.983kg
  • エンジン:P&W−F100−PW−220(10.637kg)×2
  • 最大速度:マッハ2.3
  • 武装
    • マウザーBK27 27mm機関砲×1
    • レイセオンAIM-54〈フェニックス〉×4
    • 短距離AAM×4