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〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧

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〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧

D.O.「家族計画」高屋敷 真純

概要


 英国陸軍の歩兵戦車(Infantry Tank)の第一号。第二次世界大戦勃発当時の戦車としては破格の重装甲を生かして、歩兵達の「母」としてヨーロッパ大陸と英本土で活躍した。

 1929年、英国陸軍は機械化推進をおこなうべく歩兵2個旅団とカーデン・ロイドMk.叉ヾ惱同身村屬濃邯海魴り返し、戦車が攻撃の先頭にたって敵防御陣地に突破口をうがつことが可能であると知った。これによって導き出された必要となる戦車の特性は、速度は遅くとも接近戦での敵砲火に耐えうる重装甲を備えるというものだった。
 1934年、歩兵支援専用の戦車開発が決定された。歩兵戦車には、機関重装備の小型戦車とカノン砲装備の大型戦車との二案があったが、兵器総監のサー・ヒュー・エリス大将は平時における予算の制約から小型戦車の開発を優先させたのである。
 これがA11〈板倉《マチルダ機嫂申磧咾涼太犬里いさつであった。

 製作依頼は老舗ヴィッカース・アームストロング社に出された。開発にあたってはコスト低減につとめることが絶対条件だった。英国の守護者として潤沢な予算を割り当てられている海軍に比べ、陸軍は「パート勤めで子供を育てている母親」のようなものであったからだ。さらに5年前のニューヨーク・ウォール街での株式暴落に端を発する大不況が影響していた時期でもあった。まさに貧乏な家庭そのものだったが、将来を見越して娘を大学へ行かせ、結婚資金をしっかり積み立てて置かねばならないのだ。
 ヴィッカースは期待に応えた。エンジンはフォードV型8気筒。自動車用の70馬力エンジンで、大量に生産されているのでバーゲン価格である。ブレーキはヴィッカース軽戦車のものを流用し、サスペンションはドラゴンMk.乎羞針な璽肇薀ターから転用された。装甲は前面で65ミリもあったがリベット結合。ただし砲塔は鋳造で、ヴィッカース7.7ミリ機銃を1丁搭載した。
 既製部品を流用しまくってできた戦車は、まったく猛々しさを感じさせないものだった。低く幅の狭い車体に小さな砲塔が載せられ、履帯はむき出し、サスペンションはボギー式のリーフ・スプリングを使用していた。自走機関銃としか言い様のない姿は、どことなくぽややんとして主体性に欠ける女性を、お披露目の席に居並ぶお歴々に連想させた。
 ともあれ、〈板倉《マチルダ機嫂申磧咾浪ξ戦車連隊(RTR)に配備された。日本式に言い換えれば、大学を卒業して大企業の秘書室勤務となったのである。

試練を越えて


 〈板倉《マチルダ機嫂申磧咾琉豬欧川のほとりに並んでいた。グラスゴーを経て大西洋に注ぐクライド河の上流。川の水の色は泥炭層を通過しているためビール色をしていた。
「国王陛下、皇后陛下、先立つ不幸をお許し下さい」
 連隊長をつとめるボード少佐自らが頭を垂れて許しを請うた。彼が許しを請うた国王ジョージ6世とメリー皇后はすでにカナダへ脱出していた。
 戦車兵を始め、整備員達も一斉に頭を垂れる。そしてしずしずと連隊長を先頭に〈板倉《マチルダ機嫂申磧咾瓦函入水していった。
「あら?」
 川は浅かった。しかし水量は豊かなため戻ることもままならない。あと30分位はエンジンを吹かしたままでいられそうだった。大陸で渡河の経験があるからだ。しかし、それ以上は無理である。「た〜す〜け〜て〜」
 …助けは来そうになかった。

 王立戦車連隊に配備された〈板倉《マチルダ機嫂申磧咾藁派に歩兵戦車としての年期を勤め上げ、後身の〈マチルダ・シニア〉に役目を譲って寿退社した。その筈だった。
 しかし不実な男(つまりヒトラー)は彼女の思惑を破って開戦し、ポーランドに続いて低地諸国とフランスを蹂躙しにかかった。西方電撃戦である。
 1940年5月21日、英国大陸派遣軍(ゴート)はアラスで攻勢に出、戦車回廊を南方へ突破せんとした。その先頭は主力歩兵戦車の〈板倉《マチルダ機嫂申磧咫65ミリに達する前面装甲はドイツ第7装甲師団(ロンメル)の3.7センチPAK35/36をはねかえし、対戦車砲陣地を蹂躙する事に成功した。けれども8.8センチFLAK18の水平射撃に屈し、撤退のやむなきに至ったのである。
 このアラス戦がヒトラーに与えた影響は深甚であった。A軍団が形成した戦車回廊は極めて薄いものであり、そこを英軍戦車部隊が突破しかけた事実はヒトラーの危機感を増幅させた。ここは装甲部隊の突進を抑えて増援を待たせるべきではあるまいか。ヒトラーは「パンツァー・ハルト」の命令を下した。これにより英仏連合軍は殲滅の運命をまぬがれ、ダンケルクの30万将兵の大脱出へと至る。英国陸軍はその保有する精鋭部隊を失わずに済んだのだ。

ここが彼女の幸せの絶頂だった。以後は転落し続けた。

 ダンケルク撤退では大陸に放棄され、英本土攻防戦においてもさしたる活躍はなかった。7.7ミリ機銃のみの武装では、戦車に撃破されることはなくとも撃破することもないといった案配で、不実な婚約者のために金策に走る女性のように歩兵の盾になるよりなかったのである。そして不実な婚約者は形勢が不利とみるや、〈板倉《マチルダ機嫂申磧咾鯀粟に置き捨てて行方をくらました。
 白馬の王子様はどこにもいない。残された彼女は自己破産する以外になかった。
 そして母たる英国陸軍は、ドイツ軍が巻き起こす鋼鉄の奔流の前に瓦解した。

 『家族計画』。各兵器が抱える問題を「家族」のような形態をとることにより敵を各個撃破する相互互助計画。
 〈板倉《マチルダ機嫂申磧咾「家族計画」に参加したのは、彼女が一人では生きていけないからだった。単独では敵軍を撃破するどころか、雰囲気に流されて撃破されてしまう。彼女には誰か自分を必要としてくれる人が必要だった。
 だから、クライド川からすくい上げてくれた正体不明な人物達にくっついていって、若いブルークビレッジ空軍大尉に邪険にされつつも計画に参加したのである。

 ハイ・マンション基地における日々は〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧にとって安寧の日々だった。家長をつとめるワイド大佐の奇行は見ていて厭きず、他の者達が辟易した〈高屋敷《デファイアント》青葉〉の気位の高さにも困惑することもなく、手間のかかって仕方がない娘に対するように世話している。
 他にも、とっつきの悪い日本人の装甲車部隊。偽悪的だけれども責任感の強いRAF士官。正体不明の渡航者と奇怪な偵察機。周囲が困るほどにがんばる試製回転翼機部隊。
 誰かのためにがんばれること、誰かに必要とされることは、〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧のポテンシャルを十二分に発揮させた。味方の群をかきわけて物資を獲得することは朝飯前、食事、洗濯、掃除、整備などなど日々おかんスキルを発揮するばかりでなく、友軍と組んでの「賭博」的作戦では強気で押し通して「天然の勝負師」ぶりを発揮して活躍したのである。
 とはいえ、混成戦闘団「ハイ・マンション・ファミリー」の中ではひときわ年式の古いことに悩んだり、無線機が無いために戦車の尻を振ることで信号を送って叱られたり、燃料の予備を持っていくことを忘れて偵察先で立ち往生することは再三、と抜けまくってもいた。それも迷惑をかけるのは決まってブルークビレッジ大尉であった。
 彼は主体性の無い〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧に苛立っていたのだが、ブルークビレッジこそが「ハイ・マンション・ファミリー」のカナメと冷静に指摘し、また事件を一所懸命にフォローする〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧のボード少佐達を徐々に見直していったのである。
 そしてボード少佐も、ブルークビレッジを人物と見込んでいた。だからこそ、「母の遺産」である補給物資の目録を彼に預けた。「銀行」という符丁で呼ばれる場所に隠匿された補給物資は冬のスコットランド南部、ボーダーズとダンフリース・アンド・ギャロウェイで、絶望的な遅滞戦闘を繰り広げる英軍をなお数ヶ月養うに足るものであった。
 とんでもない目録を見たブルークビレッジ大尉は、盗ってしまおうかと考えた、と正直にボード少佐に告白した。そういう彼だからこそ信頼できるのだ。

 安寧の日々は長く続かなかった。正体不明の渡航者と奇怪な偵察機を狙って「不死身のマフィア」オットー・スコルツェニーがハイ・マンション基地へ襲撃をかけてきた。スコルツェニーのSSコマンドは、ワイド大佐が東洋の格闘技「アブクンフー」を駆使して撃退している。そして友軍が近在にいたが、味方とは言えなかった。
 〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧隊のボード少佐に声をかけてきたのは、大陸以来の仲のソーエダーズ少佐である。大陸派遣当時は精鋭の名に恥じない少壮の士官であったが、ダンケルク撤退、本土攻防戦と続く苦難は、彼をこらえ性の無い人物へと変えていた。彼が率いる部隊は歩兵戦車に頼り切り、戦況が悪化すれば置いて逃げるのも苦にしなくなっていた。そして援護が欲しくなると〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧に無心する。〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧の性格を知り尽くした上でのことであるから完全に確信犯だった。
 一度はブルークビレッジとワイド大佐とで協力し、どこでどう知ったのかハイ・マンションへ電話をかけてきたソーエダーズを撃退している。

「(過去の男+気弱)×悪戯電話=?答えは調教生写真だっ!」鼻息の荒いワイド大佐。
「だから何なんだ、あんたは」とブルークビレッジ。
「スレイブフォトグラファー・〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧!おおう!」
 戦車をロープで縛り上げた写真を想像しては激しくクネクネするワイドであった。
 でもって、ある夜、ハイ・マンションへ野戦電話がかかってきた。
「何よあなた!こんなところにまで電話をかけてくるなんて!しつこいのよ、しつこいの!あんまりしつこいと、自慢のアンデス空手でプチ殺してあげるんだからあっ!…だってもダンテもないのよこのデビル野郎!あなたの靴の裏で叩きつぶしたゴキブリのような顔も見たくないし、靴の裏で叩きつぶすときの音みたいな声も聞きたくないのよっ!…黙って、黙ってよこのフニャチン!わたしが言いたいのはただ一つ、あなたみたいなケツの穴ファシストなんて大嫌いってことよ!…変わった?そうよ!わたしは変わったのよ!未知の宇宙エネルギー・マグネトライトロンの聖光をを浴びて超越天国世界への扉をくぐる資格を得たのが二つ前の冬至の日のことよ!そら変わるっちゅうねん!…そうよわたしはさそり座の女になったの!いい、わかった!?わかったならあなたが撮った写真とネガを全部返しなさい!そうしないとあなたの自慢のケツの穴に2ポンド砲弾ぶちこんでやるんだから!…ふぁっきゅーめーん!」
 それは見事な、ワイド大佐によるボード少佐の声帯模写だった。変態は変態をもって制す、とブルークビレッジはワイドに撃退を依頼していたのである。

 しかし、それでもしつこく誘ってくる男を〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧とボード少佐は助けるために走り回った。
 ブルークビレッジは深情けを見せる〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧を主体性が無い、愚鈍、と罵り、激しく苛立った。
 暗雲が立ちこめる中、「ケツの穴ファシスト…」もといドイツ軍がグラスゴーへの進撃路を切り開くべく攻勢をかける兆候があった。威力偵察に出たワイド大佐が血塗れになって担ぎ込まれたのと時期を同じくして、カーライルに司令部を置いたドイツ軍が、ダンフリース、ホーイック、ジェドバラ、ケルソを次々に落としたのである。いずれの町もスコットランド南部の要衝。ドイツ軍は、細々と機能している脱出港グラスゴーを死守する英軍を最終的に締め上げにかかったのだ。その前面にハイ・マンション基地はある。
 冬枯れのなだらかな丘陵が広がるスコットランド南部に、鋼鉄の暴風が吹き荒れようとしていた。

 ハイ・マンション基地は紅蓮の炎の中に崩れ落ちた。狂気の世界から戻ったワイド大佐の解散宣言を受けてメンバーが散り散りとなり、それでも残ったメンバーがSSコマンドの最終襲撃に抵抗したのだが保ちきれなかったのである。
 グラスゴーへ敗走する中でも〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧とボード少佐は笑みを失わなかった。その彼女達、生き残りの戦車は、難民のトランクを背負ったり、引っ張ったり、蹴飛ばしたり、苦心惨憺していた。車体には火災の傷跡が生々しく残っている。基地内に取り残された難民を救うために、火災の危険を省みずに瓦礫を取り除いて救助にあたったのだ。
 自分を必要とする誰かを救うことができた。それは〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧の誇りだった。
 そして、ブルークビレッジ大尉は〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧を見直していた。美しいのは心根だった。敗走に次ぐ敗走、苦労や後悔や絶望という試練を乗り越えて、彼女は純真に守るべき人々のことを考えている。友軍が、自暴自棄とプライドを守るためだけに絶望的な戦闘をしている最中でも。彼の目には火傷の痕が神々しく映った。
 そんな時でも、どこをどうやって探し出したのか、ソーエダーズが部隊を率いて姿を現した。〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧をつれていく意図だった。ブルークビレッジ大尉は立ち会ったものの、自分が話をするというボード少佐が心配だった。これまでのことを考えれば、主体性の無さにかけてはクラゲの左にちょっと位置するくらいでしかない。
「今まであなたが私に対してしたことの全部を許します。けど、もう二度と私の前にあらわれないでください」
 補給物資の目録を渡しながら、言い切った。ソーエダーズは目録を抱えて、雑音をつぶやきながら姿を消した。
 残る作業は一つだけ。駆逐艦、スループ、フリゲイト、商船、漁船、ありとあらゆる艦艇船舶を使い、激しい空襲の合間を縫ってグラスゴーからカナダへの脱出は続けられている。難民をグラスゴーに送り届けたとき、〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧の残存車両全てが力尽きた。
 生産車両、全損。これが彼女の戦歴の果て。
 しかし、小さいけれども、確実な幸せを作り出したのである。

燕がはこんだ幸せ


 第3次世界大戦が終結し、ハイ・マンンション基地もいつのまにか再建された。社会不適合な兵器ばかりで編成された混成戦闘団「ハイ・マンション・ファミリー」は、時代を経て伝説的な勇名を馳せていた。
 そして、本日は「家族サービスの日」。かつて戦場をかけぬけた兵器が一般公開されていた。
 〈高屋敷《デファイアント》青葉〉のパイロットの性格は苛烈さを増している。自分達がいかに理不尽な扱いを受けたかを誰かしらに訴えていた。「呪う呪ってやる」…相変わらずであった。
 〈高屋敷《94式装甲車》準〉は寡黙ではあっても、「便利屋」だけに収まらない存在感を放っている。誰からも見捨てられかけていた孤児院の救助に向かったことを、今では誰もが知っていた。
 〈高屋敷《Bv237》春花〉。左右非対称の謎の偵察機。B+V社では後継機(やはり非対称)を開発したのだが、さすがにドイツ空軍でも制式採用はしなかった。その彼女を、RAFは「魔法の紙切れ(購入契約書)」で英本土に連れ帰っていた。
 〈高屋敷《試製回転翼機》末莉〉は大発展を遂げた。今では軍民を問わずに彼女の子孫が、いろんな用途に用いられている。
 そんな彼女らを、ブルークビレッジは客に説明して回っていた。
「家族サービスもせずにごろごろしているだけの下司野郎に成り下がった」と、〈高屋敷《デファイアント》青葉〉のパイロットに毒づかれていたりする。まったく、苦笑するよりなかった。
 そして、〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧。彼女の娘である〈高屋敷《チャーチル》マキ〉が展示されている。
 歩兵を守り、共に戦う。大陸と英本土では、大勢の犠牲者が出た。そして新大陸でも。今では写真でしか逢えない人々。泣けてきても挫けずに一途に戦った。
 歩兵戦車として「幸せ」を求め続けた姿勢は、彼女以後の英国戦車にも連綿とつながっている。
 それは、とても幸せなことなのだろう。

【要目】

  • 全長 4.85m
  • 車体長 4.85m
  • 全高 1.86m
  • 全幅 2.28m
  • 戦闘重量 11トン
  • 発動機
    • フォードV型8気筒水冷ガソリン・エンジン
    • 出力 70hp
  • 最高速度 13km/h
  • 懸架方式 トーションバー
  • 装甲 10〜65mm
  • 武装 7.7ミリ機関銃×1
  • 乗員 2名