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〈高屋敷《Fa223》末莉〉

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〈高屋敷《Fa223》末莉〉

(元ネタ 高屋敷 末利/家族計画/D.O.)

「ただ生きるだけで、そうしてこんな嫌な思いをしないといけないのかって、いつも思っていた」―――“高屋敷 司”(D.O.「家族計画」)

■プロローグ

 「こんな兵器…いったい、どうしろというんだ?」
 ソ連、ゴーリキー市。ツポレフ航空製作所の会議室。そこには、ソ連軍の軍人と政治将校たちが集まっていた。彼らの機嫌は皆悪い。昨日、モスクワの陥落がソ連中に伝わったばかりだった。なお、それ以外にも参加者はいる。
 「どうしろと言われましても…ありていにいってどうしようとも出来るといえます。」黒板に貼られた写真を指しながら、ツポレフの技術者は困った顔で言った。
 「垂直に離着陸が出来、さらには空中で停止することすら可能なのですから、それはもういかなる用途にも・策敵、弾着観測、兵員の輸送、果ては対戦車戦。なりこそ小さいですが、いかなる任務にも適した存在と言えます」
 「そういうことをいってるんじゃないんだけどな…」
 空軍士官の1人が言った。
 「?」
 「つまりさ…これを俺たちに見せてどうするの?」
 技術者は唖然とした。これは完全な売り込みであるにもかかわらず、目前の人物はそれを理解できていないのか?
 だが、彼の考えは違っていた。
 「こんなわけのわからない兵器、戦時に量産できるはずないじゃないか」
 「な……」技術者は再び唖然とした。「そんな、この兵器は多様性に優れ…」
 「“多様性”があるだけだ。逆にいえば、それだけ数多くの部門に配備するためのあれやこれやが必要となる。たとえば、偵察機の代わりに飛ばすとしても、乗組員の教育をしなければならない。機体の整備部員や、工場の疎開も、戦争には間に合いはしないよ。革新性はあるが現実味はかけらもないね」
 空軍士官はそう言って言葉を区切ると、皮肉な口調で言った。「ま、もっとも、陸さんはどうかしらんが。政治将校さんたちには役立つんじゃないのか?これがあればスターリングラードだって救えたかもしれない」
 軍人側に失笑が起こった。スターリングラードでは数ヶ月前、フルシチョフの支離滅裂な指導によってソ連軍一個軍団が撤退に取り残されて包囲下で全滅していた。
 「なんだと…」政治将校の者達から怒声が上がった。モスクワの陥落はNKVDの崩壊を意味し、そしてそれは政治将校たちの運命の終焉を表していた。彼らは絶望感で血圧を上げていた。「貴様らこそドニエプルにこれを配置しておけば、ハリコフを失わずにすんだんだ!この共産主義も信じていない帝国主義者どもめ!」
 「ふざけるな!デミヤンスク・ポケットでは貴様らの督戦のおかげで、いったいどれだけの人間が“溺死”したと思っている!モスクワだって貴様らがいい加減な指揮を行わなければ……」
 「戦車を見ればすぐに逃げ、果てはウラソフに逃げられるような貴様らの責任だろ!こんなわけのわからない機体の装備、俺たちは認めん!貴様らにくれてやる!」
 「こっちだって願い下げだ!こんな“いらんっ子”など、あんた達が大嫌いな帝国主義者の日帝にでも渡してやればいい!」
 「そっちこそあの不甲斐ないイギリス海軍にでも渡してやれ!」
 会議はすでに崩壊していた。政治将校と軍人の組織対立はモスクワの敗戦によって更に助長されていた。怒声の応酬が30分間続いた後、両者は喧嘩別れそのものの勢いで退室した。彼らの全員が、会議の本題を数日以内に忘れた。彼らはウラルの向こうへの撤退のことで頭が一杯だった。ソ連は今、断末魔の悲鳴を上げていた。
 会議室にはツポレフの技術者と1人の少女だけが残っていただけだった。技術者は頭を抱えていた。クルスクで手に入れた鹵獲兵器、そのコピー品の売り込みは完全に失敗した。すでに30機ほどを見切り発車で生産してしまっていた。なんとかしなければ、この30機は無駄になってしまう。技術者は頭をかきながら退室した。少女がそこにいないかのように。
 ついに部屋には少女1人となった。彼女は泣きそうになりながらも写真を片付け、床に散らかった書類を拾い、誰か帰ってくるのをまった。帰ってこなければ、彼女の居場所はもうここにはなかった。一時間たっても誰もこなかった。崩壊した部隊からいい加減な経緯でドイツ製鹵獲兵器ごとつれてこられた彼女は、頼るべきものを失ったことを部屋の静けさに宣告された。
 「生きていくのって、こんなに辛かったけな……」
 旧ソ連魔女飛行隊のユダヤ人少女は、ひざを抱えてすすり泣いた。彼女はぼやけた目で写真を眺めた。そこには誰もが言ったとおり「なにに使えば良いかもわからない」奇怪な、そして小さな飛行物体があった。彼女達が鹵獲した兵器だった。
 ドイツ製兵器〈河原《Fa223》末莉〉。ドイツが生み出した世界初の実用ヘリコプター。
 東部戦線で彼女達に鹵獲されツポレフでコピー量産されてしまったこの兵器は、ソ連軍部の組織対立によって、ついに住むべき家を失ったのだ。これからどうなるのか、少女は全くわからなかった。彼女はひざを抱え、写真を見つめながら思った。
 もう一度、私は居場所を見つけられるのかな……。
 彼女のその思いは正しかった。何故ならば、彼女とFa223が居場所を失うのは、これが最後ではなかったのだから。

 そして一年後。
 ……英空軍地上将校のブルークビレッジ大尉は暗闇をのそのそと歩いていた。場所は「誰もいなさそうな」英国ハイ・マンション基地。彼は川で「拾ってしまった」〈板倉《マチルダ機嫂申磧喟鐚崑發函∧竸(既知○)のワイド大佐、そして〈王《Bv237》春花〉とそのパイロットを引き連れ、この基地を一時のねぐらにしようと忍び込んでいた。ドイツ軍がロンドンにハーケンクロイツを翻してからというものの、英本土では色々とわけのわからない行動が可能となっていた。
 だが、そこで彼は異様なものを目にしてしまった。月明かりに照らされる飛行機のようで飛行機ではない物体。なんだ、これは?もしかしてこの基地の者か?
 「あれ?あなたがたは……」
 声が聞こえた。1人の少女の声だった。他にも数名いる。大尉は直感した。こいつは「先客」……つまり同じ境遇のものだ。大尉は自分達の正体を明かすと、その少女達は事情を明かし始めた。
 少女達はもとはソ連空軍の魔女飛行隊、そのなかでも最年少の少女達だった。ユダヤ人だった彼女らはゲシュタポの魔の手を逃れてこのイギリスへと亡命し……そして様々な事情でそこから逃亡、このハイ・マンション基地に辿り付いたというわけだった。
 「それじゃ、仲間って訳ですね、私達は!」
 少女達は目を輝かせながら言った。
 「いや違う。同じ境遇の他人だ」大尉は言下に否定した。彼はこれ以上面倒を増やしたくなかった。
 だが、彼らは数日後には仲間となる運命にあった。ワイド大佐はハイ・マンション基地の所持者であった〈高屋敷《デファイアント》青葉〉飛行隊と大尉の知り合いの〈大河原《九四式軽装甲車》景〉部隊とを集め、お互いの不利を補いあってドイツ軍に対抗する「家族計画」を提唱したからだ。
 この計画に大尉は猛反対した。彼はこれまでの経験によって、他人を無条件に信頼することをやめていた。
 「こんな、なにもできない寄せ集めの部隊で、なにか出来るはずがない!」
 その言葉にもっとも反対したのが、〈河原《Fa223》末莉〉部隊の少女達だった。彼女達は、自分達を必要そする居場所を欲していた。そして自分達を保護してくれる場所も。{{br}} 「出来ます!みんなで力を合わせれば、きっとドイツ軍を追い出せます!」
 結局、最後に少女達が自分もろとも〈河原《Fa223》末莉〉を崖から突き落とそうとする脅迫まで行うことにより、大尉はワイド大佐の考えにしぶいしぶ同意。彼らは独立混成航空戦闘団「High mansion family」を名乗ることによって、この英本土の破局に立ち向かうことになったのである。
 かくして、様々な問題を内包したまま、「家族計画は」発動した。

〈河原《Fa223》末莉〉(二式回転翼機)
『ドイツが開発した軍事ヘリコプター
 第二次世界大戦当時、垂直離着陸(VTOL)が可能な回転翼機の開発に最も先行していたのがドイツ軍だった。フォッケ博士の指揮のもと、独自の開発機関が研究を続けていた結果である。
 Fa223はある意味、そこの研究の絶頂だった。1940年に初飛行したこの回転翼機は、第二次世界大戦における最大にして最良の回転翼機だったからだ。3枚ブレードの並列ダブルローター型式で、T型尾翼を特徴とするこの機体は良好な操縦性と安定性、そして多種多様な任務に活用できる機外&機内ペイロードのおかげで、様々な任務に活用できた。ドイツ空軍はこのFa223の良好な使用実績を見て、さらに巨大な発展型Fa264を開発することになる。
 なお、このFa223には亜種が存在している。それはイギリスの〈高屋敷《Fa223》末莉〉である。
 この機体は〈河原《Fa223》末莉〉のコピーそのものであり、性能的にはFa223に見劣ることのないものだった。しかし、理由は不明だが、ソ連軍はこの機体に全く興味を示さず、42年末にイギリスへと先行試作機30機を売り払ってしまっている。(政治将校と軍人の直情的な権力闘争の結末だという、情けない噂もある)。
 この30機のその後の詳細は不明であるが、ある資料によれば、様々な経緯のすえ、第二次世界大戦末期に編成された英混成航空団「High mansion family」に送られたという記述があり、この正体が余り知られていない部隊に関しての今後の研究が待たれるところである。』
―――隆山出版社『宇宙の艦艇』2030年12月号付録より抜粋

■茨のような安らぎの日々
  

 〈高屋敷《Fa223》末莉〉飛行隊の「High mansion family」での戦いが始まった。すでにドイツ軍はロンドンを包囲し、英本土の中枢を支配下においている。なすべきことは山とあった。基地の防衛、補給物資の配分、任務の分担。出撃……そして各々の意志の疎通。
 「High mansion family」の者達にとって、最後のそれがもっとも苦しめられた。言語的なものではない。考え方、モノの見方、そういった人間を構成する基本的なものが、彼らは部隊ごとに全く違っていた。だが、彼らのほとんどは、現時点での戦闘団が一時的なものと了解していた。だから彼らは耐えた。まるで他人同士が、偽りの家族を演じるように。彼らは最貧部隊であったが、「部隊」という単位を維持する能力も(そして部分的には意志も)最貧だった。〈高屋敷《Fa223》末莉〉飛行隊だけがそうではなかった。
 彼女達は幼かった。そして愛情を欲していた。当然ともいえる。そしてそれは、未知であるがゆえに捨てられた〈高屋敷《Fa223》末莉〉も同様だった。
 だから、彼女達は〈高屋敷《Fa223》末莉〉を駆って、文字通りあらゆる状況下で戦場を駆けずり回った。自らが「そこにいる」に足る存在であることを証明するために。
 彼女達の努力は(空回りすることも多かったが)報われた。〈高屋敷《Fa223》末莉〉は何時いかなる戦場でも、さまざまな用途に役立ったからだ。物資輸送、人員救助、索敵、そして攻撃。朝早くそして夜遅くまで〈高屋敷《Fa223》末莉〉は自分にでき得る限り――いや、それ以上の活躍をおこなった出撃過多によって逆に稼動率の低下を招いてしまったほどだ。(この時ブルークビレッジ大尉は、自ら〈高屋敷《Fa223》末莉〉の整備を行わなければならなかった)。
 そして戦闘団の他の部隊も、徐々にではあるが、彼女を頼れる仲間と認識し始めた。〈高屋敷《Fa223》末莉〉の多様性は、誰の目で見ても明らかなほど、戦闘団の戦術に変化をもたらし、幾度も危地を乗り越えることが出来たからだ。
 まず〈高屋敷《Bv237》春花〉。この機体の操縦士たち(……さすがにドイツから乗ってきたアヤシイおっさん(ルドルフ・ヘス)は戦いに参加しなかった)は、お互いがイロモノの兵器であることによって意気投合し、〈高屋敷《Fa223》末莉〉と最も多く共同作戦を展開した部隊となった。ある村の収穫祭を襲ったドイツ空軍爆撃機を、互いの連携によって見事撃退した。
 〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧も同様だった。彼女は陸上戦において〈高屋敷《Fa223》末莉〉と臨時の小規模戦闘団を編成、歩兵を用いたヘリボーンと機甲突進の連携という新たな戦術を身に付けたのだ。この後の〈高屋敷《Fa223》末莉〉の樹形図をを考えるならば、まさに〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧は戦場における母親のような存在だったと言える。事実、〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧の中のある女性戦車兵は、見事に少女達の母親役を務め、さまざまな、――そう、殿方に言えぬようなものも含めて――悩みを打ち明ける相談役を買って出ていた。{{br} この他にも〈高屋敷《九四式軽装甲車》準〉の隊員は〈高屋敷《Fa223》末莉〉の少女達と株を運用して(英本土戦の末期に!)基地の資材を多少なりとも増強させ、奇人変人のワイド大佐は、少女達のよき指揮官にして父として振舞った。そして、この状況に翻弄されながらも、ようやくのことでこの戦闘団を自分達の居場所として認めたブルークビレッジ大尉も、頼れる兄のような指揮官として。〈高屋敷《Fa223》末莉〉飛行隊は、この寄せ集めの最貧部隊の中で、ついに自らの価値を他の者達に認識させたのである。
 ―――ただ1部隊、〈高屋敷《デファイアント》青葉〉飛行隊を除いては。

■脱走

 ハイ・マンション基地の持ち主にして孤立主義者の部隊(なにしろ、機体が機体だ)である〈高屋敷《デファイアント》青葉〉飛行隊では、〈高屋敷《Fa223》末莉〉の少女達といえども容赦はしなかった。愛くるしく(言い方を悪くすれば馴れ馴れしく)作戦や私生活に介入してくる彼女達へ、何の飾りもない毒舌で当たった。
 それは少女達にとって未知の攻撃だった。自らの存在価値の否定でもあり、それ以上のものでもあった。彼女達が〈高屋敷《デファイアント》青葉〉に叱責されたことは一度ではなかった。
 そのことが、〈高屋敷《Fa223》末莉〉の転機のきっかけとなった。
 ある日、「High mansion family」戦闘団は、いつものようにドイツ軍の侵攻を阻止すべく出撃した。その日の戦闘団の戦術は、〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧得意の陣地防御を、〈高屋敷《Fa223》末莉〉の航空支援で補強するものだった(この次期の英空軍に、もはや組織的な地上支援は不可能だった)。彼女達に不幸が襲い掛かったのは、そこに〈高屋敷《デファイアント》青葉〉が投弾のために奇襲のごとく加わってしまったことだった。
 突如とも言える投弾。その爆撃は成功し、数量のドイツ戦車を引き千切った。しかし〈高屋敷《Fa223》末莉〉は目前に現れた奇妙な軍用機を敵と誤認。地上支援用に装備していた機銃を放ってしまい――そしてそれは、〈高屋敷《デファイアント》青葉〉の一機に命中した。同士撃ち。それ以外解釈の仕様がなかった。
 幸い、命中弾を受けた〈高屋敷《デファイアント》青葉〉の損傷は軽く、修理工場に送ることによって辛くも損失を免れた。〈高屋敷《デファイアント》青葉〉の乗組員も事故――不意の事故に腹を立てなかった。戦争とはそういうものだ。
 だが、〈高屋敷《Fa223》末莉〉飛行体はそう受け取りはしなかった。過剰なほどの自己責任感を持つ彼女達は、〈高屋敷《デファイアント》青葉〉に詫びを入れることさえも出来なかった。彼女達は自分を責めた。自分がいるからこの部隊は……。
 そして翌日。
 30機の〈高屋敷《Fa223》末莉〉は、少女たちと共に姿を消した。まるでそこにいるのが、間違いであったかのように。
 相互互助を目指した「家族計画」が音を立てて軋み始めた、その瞬間だった。

■奪回戦

 〈高屋敷《Fa223》末莉〉飛行隊が失踪した後、ハイ・マンション基地はこれまでになく苦しい状況に追い込まれ始めた。スコルツェニー率いるSS第600降下猟兵大隊の幾度となる襲撃。部隊同士の衝突の再開。そして、迫り来るドイツ・ブリテン方面軍。
 その全ては、〈高屋敷《Fa223》末莉〉飛行隊の離反から始まったといってよかった。彼女達の消息は程なくつかめたが、彼らが向かった先は彼女達がハイ・マンション基地へとたどり着く前。――つまり、そこへと“逃げ出す”以前にいたある英空軍飛行隊であり、ブルークビレッジ大尉は、彼女達の境遇が気にかかっていた。少なくとも、彼女達が「High mansion family」戦闘団でのような立場で接されてはいないことは確実だった。彼女達は無線でハイ・マンション・基地の者達と連絡を交わしてはいたが――そこから語られる楽しげな日常と戦果はどうしようもなく偽りに満ちていた。
 スコットランドへと侵攻しつつある独軍。日に日に激しくなるスコルツェニーの魔の手。低下す戦闘団の士気。そして〈高屋敷《Fa223》末莉〉飛行隊の安否。大尉はこれまでにない危機感を感じていた。どうにかしなければならない。もう一度この最貧戦闘団を建て直さなければ、彼らに明日はない。そのためには―――
 「……あいつらを、俺達のような最低の部隊にしちゃいけない」
 大尉は決意した。あとは、行動だけだった。

 それは完全な威圧だった。
 「囚われ」の〈高屋敷《Fa223》末莉〉がいるはずの飛行場を取り囲むように、ブルークビレッジ大尉は指揮下の兵士達(歩兵式に完全武装させた整備員達)を配置した。そして乗り込む。彼はそこで信じられないような光景を見た。〈高屋敷《Fa223》末莉〉はまともに整備もされないまま放置されており、数々のロシア人とユダヤ人に対する罵倒が書かれていた。さらに少女達はそこにいた少年飛行兵たちに、性的虐待を強要されようとしていた。
 すかさず彼らの胸倉をつかんだブルークビレッジ大尉は言った。「本当に……貴様らを殺しかねない」。少年達が負け犬のように退散した後、少女達は救援に来た兵士達に抱きついた。もう、こんな場所はいやだとと……。
 そして現実との対面。ブルークビレッジ大尉は少女達のいた基地の司令と、女性士官をハイ・マンションへと呼び出した。彼は(完全に正気モードの)ワイド大佐とともに、彼らに少女達を自分達の完全な指揮系統に置くことを申し出た。日本軍から預かった大切な部隊だから無理だと、〈高屋敷《Fa223》末莉〉に対する卑猥な言葉とともに拒絶する。共産主義斜度もがコピーした珍兵器。ウォッカに酔ったロシア人が作った部隊。友軍に面倒を押し付けるだけの多様性。ユダヤ教徒たちの悪辣さ。それは常軌を逸した――それでいて断末魔の英空軍、そのゆがみを端的に現した言葉の羅列だった。
 ブルークビレッジ大尉は、そんな彼らに〈高屋敷《マチルダ機嫂申磧が保持していた多くの補給物資――その一部の目録を投げ出した。顎でそれを示す。彼らはその内容の豊富さに指揮官は嬉々とするも、これだけでは足りない――陰湿な声でそういった。
 それが限界だった。
 「死んでしまえ」ブルークビレッジ大尉は言い放った。「あなたがたが下衆野郎であると申しております」〈高屋敷《デファイアント》青葉〉飛行隊の1人が相変わらずの毒舌を突き刺した。崩壊寸前の英国で、自らの利益のためだけに行動し――〈高屋敷《Fa223》末莉〉飛行隊を傷つけた彼らが大尉は許せなかった。それは大尉が過去に受けた仕打ちそのものだったからだ。そして大尉の脅しにも似た交渉は成功し、〈高屋敷《Fa223》末莉〉飛行隊は“公式”に、大尉の指揮下の部隊となった。
 「私達……他人じゃないですよね」少女達は〈高屋敷《Fa223》末莉〉を眺めながら、大尉に語りかけた。大尉は静かに頷いた。そして彼女は、自分達の故郷――母にして父たるロシアに対する愛着を語り、すすり泣いた。
〈高屋敷《Fa223》末莉〉の復帰によって、「High mansion family」戦闘団は、再びその士気を復活させた。それは、ドイツ軍がグラスゴーへの攻勢を開始する、その数日前のことだった。

■つかぬまのアンチテーゼ

 「遅すぎ、少なすぎ」。この言葉(パウル・カレルの名著『グスタフ作戦』からの引用)こそ、当時の英本土を端的に示している言葉はなかった。残存している兵力は少なく、造園は常に(様々な要因によって)遅すぎた頃に到着する。末期戦の代名詞。その呪縛は「High mansion family」戦闘団を例外とはしなかった。
〈高屋敷《Fa223》末莉〉飛行隊の復帰によって、戦闘団の戦いはほんの少しの落ち着きを取り戻した。〈高屋敷《Fa223》末莉〉飛行隊は、そこまで強大な要素となっていたのである。
 だが、確実に限界は近づきつつあった。〈高屋敷《Fa223》末莉〉飛行隊の戦場への再起があったにもかかわらず、つかぬまの急速を経て、再び戦場にハーケンクロイツの猛威が吹き荒れ始めた。グラスゴーへの防衛線は、英軍の果敢な抵抗にもかかわらず崩壊し、それを押しとどめるすべはなかったからだ。弱小戦闘団である「High mansion family」戦闘団には無論のこと。
 そして、彼らのハイ・マンション基地もマフィアのようなスコルツェニー特殊部隊の本格的な襲撃を受けるに至り、ついにワイド大佐は相互互助計画の停止を宣言、「家族計画」は終焉を迎えた。その言葉に驚愕とする〈高屋敷《Fa223》末莉〉飛行隊の少女達。もはや彼女達は仮の親元である英空軍にも帰ることが出来る立場ではない。だが、「High mansion family」戦闘団は、そんな彼女を捨てようとした。
 「他人じゃないって、同じ部隊だって言ったじゃないですか!」ブルークビレッジ大尉に対し少女達はそう叫んだ。彼女達は自らの補給物資と〈高屋敷《Fa223》末莉〉の装備そのものすら投げ打つ決意で彼に残留を迫った。だが、大尉は少女たちをはねつけた。悲鳴のように咽びながら、少女達は〈高屋敷《Fa223》末莉〉とともに格納庫に引きこもった。
 結局、〈高屋敷《Fa223》末莉〉飛行隊は、正気に戻ったワイド大佐の手引きにとって日本海軍へと引き渡され、エジンバラにおいて必死の脱出援護を行っていた第602航空隊に引き渡された。
 この後、ハイ・マンション基地はスコルツェニーとの激闘で完全に破壊され、ブルークビレッジ大尉と〈高屋敷《Bv237》春花〉パイロットたちは、様々な思惑が交錯した末に辛くも生き残った。
 だが、彼らの戦いは終わっていなかった。
 ちりぢりとなった「High mansion family」戦闘団の構成員達は、断末魔の英本土で、最後の死闘を繰り広げていたのだから。

■紅蓮の中で

 エジンバラの湾口は無数の沈没船で埋め尽くされていた。市街は炎上し、黒煙が全てを覆う。砲火は全方位から降り注ぎ、半ば包囲されたエジンバラでの日英軍の抵抗は、すでに限界となりつつあった。すでに日本遣英艦隊は、放棄される予定であるスカパ・フローへと退避しようとしていた。
 その地獄の中で、〈高屋敷《Fa223》末莉〉飛行隊も、ついに終焉を迎えようとしていた。彼女達はヘリのVTOL機能を最大に生かし、住民をスコットランド北部や艦隊へと必死に輸送を続けていたのだ。現在はすでに稼動機はなく、少女達にも死傷者があいついでいる。しかし、彼女達は撤退命令を受け入れなかった。もはや彼女達の居場所はココだけだった。「High mansion family」戦闘団とともに戦ったこの国だけが。
 とはいえ、彼女達の努力も終わりが近づきつつあった。独軍が包囲を押し潰さんと攻勢に出れば、死に体に近い状態の飛行隊に抵抗は出来るはずもない。ユダヤ人である彼女達をゲシュタポも容赦しないだろう。それは数時間後に予告された暗黒の未来だった。
 そしてドイツ軍の攻勢が開始された。その主力はSS戦車旅団“千夜一夜”。スコルツェニーの第600SS降下猟兵大隊を中心にされた、ドイツ・ブリテン方面軍SS第1戦車軍団の最精鋭にして切り札。新鋭のパンテルを先頭に押し立てて、“千夜一夜”旅団は市街を蹂躙し始めた。まるで、どこかの世界での鬱憤を晴らすように。
 だがその時―――
 突如として空から何かが飛来した。それはエジンバラ中心部へと突進していた“千夜一夜”旅団の鼻先に落下し――そしてパンテルを獄炎の中に叩き込む。3インチロケット砲弾の攻撃。その執拗な攻撃は“千夜一夜”旅団をその理解不能な名前にふさわしい、最貧部隊に立ち戻らせた。少女達は紅蓮の中、虚ろな顔で空を見上げた。
 そこには、彼女の見知った者たちがいた。

 かくして〈高屋敷《Fa223》末莉〉は最後の稼動機でもってエジンバラを脱出した。その護衛には、4連装機銃を破壊されながらも飛行する英国戦闘機、謎の左右非対称ジェット機、そして〈高屋敷《Fa223》末莉?〉で泣きじゃくる少女達を抱きしめる、1人の大尉がついていた。眼科には紅蓮のような炎を上げるエジンバラとグラスゴー。その中で消滅しつつあるハイ・マンション基地。だが彼らは振り向かなかった。彼らは学んでいたからだ。悲しみさえも、途を照らすことを。
 そう、あの廃れた最貧戦闘団―――「High mansion family(高屋敷家)」で。

■エピローグ

 1952年、レイキャヴィク、
 そこには無数の船舶がたむろしていた。巨大な戦艦。空母、巡洋艦駆逐艦……そして輸送船。なによりも大切な輸送船。彼らは数時間度、南へ向かって旅立つ。失われた祖国――ハーケンクロイツが翻る英国へ。
 そのなかの一隻の甲板で、一団の少女達がいた。彼女達は司令官の号令によって散り散りとなり、甲板上に整列してある兵器へと飛びついていった。エンジン始動。空気を切り裂くローター音が、寒空に響き渡る。甲板には「七生報国」「忠君愛国」など、意味のわからないのぼりがはためいている。
 「ここまで、来たんですね……」
 「ああ、ようやくたどり着いた」
 甲板ではその少女たちを二人の人物が眺めていた。ブルークビレッジ大尉と元魔女飛行隊の女性だった。彼らはこの輸送船に乗って、英本土奪還を果たす予定だった。
 英本土陥落の年、エジンバラを脱出した「High mansion family」戦闘団はカナダへと脱出。そこで帰還に向けて、それぞれの分野で行動を開始した。
 〈高屋敷《Fa223》末莉〉飛行隊は、その部隊拡張に努力した。回転翼機という兵器は「High mansion family」戦闘団の英本土での苦闘によって既に未知の「使い方がわからない」兵器ではなくなっていたからだ。英国は少女達の犠牲によってようやくそのメリットとデメリットを認識した。
 そして、10年―――
 「High mansion family」戦闘団は、今こうして、一同に会した。祖国奪還と「家族計画」の再興を目指して。
 「しかし、こんなことになるなんてね」
 「どういうことですか?」
 「君らが使っていた兵器が、こんなにも……に、なるなんてね」
 「皆さんのおかげですよ。あの懐かしき最貧戦闘団の」
 かつて少女だった女性は笑った。彼らの目の前には、甲板から発艦していく、無数の――そして多数の種類の――日英米製回転翼機があった。無論、その始祖たるロシア生まれの〈高屋敷《Fa223》末莉〉も。
 スピーカーから船団指揮官の声が響き渡った
 「僧院傾聴!これより本船団は,ドイツ海空軍の抵抗を撥ね退け、祖国英本土を奪還する。長くつらい戦いとなる。だが、“祖国の興廃”はこの一戦にかかっている。かならず勝ってくれ!以上!」
 「船団に出撃命令!対潜部隊はレイキャヴィク湾周辺の掃討を開始せよ!」
 続いて、彼らの上空の対潜回転翼機達が盛大な音響を立てながら出撃していく。それを見ながら、彼女はつぶやいた。
 「また……あの基地でみんなで戦えればいいですね……」
 「きっと出来るさ」大尉は頷いた。「そこに家があって、そこに人がいるなら――俺達は同じ戦闘団で、家族なんだから」
 彼女は再度微笑んだ。少女のような、そして母親のような微笑だった。
 〈高屋敷《Fa223》末莉〉はそんな二人の背景として、甲板上で静かに揺れ続けていた。

〈高屋敷《Fa223》末莉〉性能諸元
ローター直径 12.00m
胴体長 12.25m
全高 4.36m
空虚重量 3.1トン
全備重量 5.0トン
最大速度 175km/h
巡航速度 120km/h
垂直上昇率 330m/分
実用上昇限度 4800m
航続距離 700km(増槽つき)