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〈君影《シャンプレン》百合奈〉

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フランス海軍航空母艦〈君影《シャンプレン》百合奈〉〈御薗《デスタン》瑠璃子〉

カクテル・ソフト「CANVAS〜セピア色のモチーフ〜」君影百合奈 御薗瑠璃子


 ヴィシー・フランスの第三次大戦における主力空母であり、ジェット機時代に対応した機動部隊用空母でもある。

建造経緯

 1935年6月18日の英独海軍協定はフランスに凄まじい衝撃を与えた。対英35%。これはフランスのそれと同等である。しかも嫌味ったらしくワーテルローで英雄ナポレオンが英独軍に敗北した日に締結。
 マジノ線を拝んで平和ボケしている場合ではない。海軍を強化せねばならない、当然空母としても〈グラーフ・ツェッペリン〉級に対抗して〈メイフェア《ジョッフル》〉級が計画、建造される。さらにPA39(PAとは航空母艦=Porte-Avionの略)として日米英空母に匹敵する艦隊空母を計画した。これが本級。
 当初は〈メイフェア《ジョッフル》〉級を一回り大きくした2万トン級とされたが資材収拾に手間取って起工はなんと1940年5月。これでは何を造るでもなくあっという間にフランス降伏とヴィシー政権発足を迎える。
 しかし英本土陥落とともに43年に返還されたブルターニュ、ボルドー地方の造船所には建造中の艦も残っており、その時英本土攻略戦による損害を受けた補填と功績によりドイツとの間に「降伏時に建造・設計されていた艦船は竣工させる」ということになった。 だから工程2%しか進んでいなかった本級も建造続行されることが出来たのだ。まあ既成事実と言ってしまえばそれまでだが……
 工程2%なら戦訓を生かして全く別艦として竣工させることも可能。海軍部内で議論が交わされた。設計はベテラン造船官のカイプ・エルモンドから新鋭のティルズ・ポアゾンに代った。シェルテン・ガヤローに推薦されて造船官となった彼はフランス人にありがちな「ネジ1本まで独自技術」ではなく、必要なら他国の分も取り入れる柔軟さを兼ね備え、ドイツ、イタリアとの部品等の融通が利くように、そして「並んだ時に違和感のないように」設計する能力を持ち、ドイツ設計陣とも関係を取りつつ設計を完了している。


その性能

 本級は艦隊用正規空母として建造されたが、特徴としては英日(後、独も)が建造した「装甲空母」に疑問を持ち、思い切って〈メイフェア《ジョッフル》〉級にあった飛行甲板の装甲を外している。理由は簡単、爆弾威力の向上に装甲がついていけないのである。たとえば250kg爆弾の急降下だと大体80ミリが必要。だが500kgだと120ミリ、1トンだと実に200ミリの装甲が必要なのである。こんな装甲を飛行甲板に施せば爆弾が降って来る前にトップヘビーで転覆してしまうだろう。超巨大空母ならともかく満載でも3万トンの本級でそれを施すのは物理学が許してくれない。よって本級の飛行甲板はスプリンター防御だけにして後は間接防御で対応する手段を取った。
 格納庫は開放式の1層だが天井が7mと高いため余裕があり、排水量に比較して比較的多数の搭載機を収納できる。
 これに〈メイフェア《ジョッフル》〉級の斜め発着艦システムを発展させた角度8度のアングルドデッキを装備し、エレベーターは飛行甲板前部中央と艦橋後部の右舷舷側に1基づつ配置。そして後部エレベーターは舷側エレベーターになっている。カタパルトはドイツ空母のそれと同型で、配置は艦首左舷とアングルドデッキに1基づつ。
 外見の特徴としては後ろに傾けた煙突と一体化した3層からなる艦橋を右舷中央に配置。備砲は半自動の10センチ高角砲と57ミリ自動砲を前後左右のスポンソンに装備している。
 こうしてデザインは決まり返還されたばかりのブレスト海軍工廠(〈御薗《デスタン》瑠璃子〉はペノエ社サン・ナゼール造船所)で再起工。途中でカナダ情勢が動いたため建造を急いで4年半で完成。ジェット機運用に必要な全ての装備と技術を兼ね備えた近代的かつ、端正な航空母艦の姿がそこにあった。
 建造続行分の2隻に加えて47年計画分の準同型艦(一回り大きい)2隻が追加されたが完成は3番艦の〈島津ラ・サール一葉〉だけだった。
 ファンディ湾海戦からノルウェー沖まで大戦を通じてほとんど両艦はペアで行動し、日本での知名度こそ低いもののドイツ空母の将兵達にとっては〈ウーラガン〉、〈アリゼ〉、〈ミステール〉、〈エタンダール〉といった彼らが最後近くまで持ち得なかった「国産艦載機」とともにまさに「先輩」たる存在だったのだ。


呪われた艦?

 計画上の2番艦だった〈御薗《デスタン》瑠璃子〉が47年8月に竣工。進水時のごたごた(後記)があって竣工が遅れた〈君影《シャンプレン》百合奈〉が翌年3月に竣工。
この時には既にドイツの米侵攻作戦「ゴールド」が動き始めていた。ヴィシー・フランスとしても(国内の反独感情を逸らすためにも)ケベックの同胞支援とフランス系合衆国人の権益を守るべく出撃準備が進む。当然最新鋭空母である両艦も飛行隊の訓練と整備におおわらわの日々が続いていた。
 そのフランス期待の両艦の雰囲気は同型艦の常というべきか対称的で、〈御薗《デスタン》瑠璃子〉が艦長以下乗員や母艦航空隊に「ドイツごときに我々は理解できるか」という誇り高さと気概を持っていたのに対し、〈君影《シャンプレン》百合奈〉側は運命論者かノストラダムスでも乗っているのでは?という意見があるくらいで万事に受け身で何か超然とした雰囲気があった。
 さらに両艦の艦長は従兄弟同士で著名な司教の家の出である。そして〈君影《シャンプレン》百合奈〉艦長トルペリア・オルベリス大佐の母が早く亡くなったために〈御薗《デスタン》瑠璃子〉艦長ベリス・ジャルディン大佐が家を継ぐ羽目になったという実に迷惑な前歴があった。挙句この二人は念の入ったことに同期でジャルディンは海軍入りしてからもどうしてもオルベリスに勝てない。揃って新鋭空母艦長に任命されて訓練を続けるがそれでも成績は〈君影《シャンプレン》百合奈〉側が上。
 そんな艦長や乗員達のいらだちの中で艦のエンブレムの話が持ち上がった。芸術と文化の国フランス。お馴染み金文字の「名誉・国家・勇気・規律」もいいが何か欲しい。ということで〈君影《シャンプレン》百合奈〉は本来君影草の花が採用される予定でエンブレムも完成したが〈御薗《デスタン》瑠璃子〉のジャルディン艦長が
「それは黒百合では?」
と何気ない意見を呟いたおかけで「黒百合」のエンブレムと勘違いされてしまった。これは後にノルトマンが気付くまでそのままとなっている。
 ジャルディンはこの時気づかなかった。本当に何気ない一言が人や艦の運命を決めることがあることを。黒百合とは呪われた花なのだ。
 確かにそう言われるのも1海里ある。〈君影《シャンプレン》百合奈〉はブレスト工廠の第2ドックで進水したがその時にドックの門扉を叩き壊している。設計変更で予想外に排水量が増えてドックが耐えきれなかったのだ。当然このドックは使用不能になり後の建艦ペースにかなりの影響を与えてしまった。悪く言えば〈君影《シャンプレン》百合奈〉は生まれるために母(ドック)を殺したとも言えるし、その事を乗員達、特に艦長ははそう感じていた。
 ただ、少し考えてみればおかしなことである。大体進水時に乗員は乗ってないし艦長予定者(正確には儀装主任)も進水後に着任する。だから艦とその乗員には全く責任がない。責任があるとすれば造船所の人間だろう。だが気にしてしまうのは世の常なのだ。それが「呪われた」などと言われた後には……


ノバスコシア南西沖海戦

 1946年4月に独立したケベック共和国はフランスの自治県として欧州連合に加盟、そうなるとフランスは同胞を守らねばならない。特にセント・ローレンス湾沿岸地域をなんとかしないと英国とカナダに挟まれて窒息する。既に45年のミクロン島沖海戦とそれに続くニューファンドランド上陸作戦によって北側入り口は抑えた。残るはニューブランズウィック州を中心に抵抗する英加軍(デンプシー)。これを撃滅するにはノヴァスコシア地峡を抑えて敵軍をバンクーバー側に孤立させるのがよい。かくてドイツ軍はファンディ湾から圧迫。そしてヴィシー・フランズ軍はプリンスエドワードアイランドを占領、後ニューグラスゴーに上陸して北から叩く作戦を取った。
 だが残存する米艦隊をどうするか。ワシントンD.Cやフィラデルフィアへの反応弾攻撃が計画されていたが「成功率は半々」レベルであって失敗したことを考えなければならない。独仏軍は合衆国の戦力や補給をどうすべきか頭を悩ませていた。
 だが、A10弾道弾の神懸り的幸運が合衆国軍の指揮系統をまるで脳卒中でも起こさせたかのように麻痺させ、続けて南部連合の生き残り潜水艦が放った魚雷が望外の戦果を収める。天は欧州連合に味方したのだ。
 ヴィシー・フランス陸軍はこれという妨害を受けずシャーロットタウンを占領。大西洋艦隊もカボット海峡を確保、さらにはハリファックスへの空襲をかけていた。
 この時〈君影《シャンプレン》百合奈〉は僚艦〈御薗《デスタン》瑠璃子〉と共に機動部隊を編成。ハリファックスからの攻撃隊を収容しつつ艦隊に追随していた。
 そこに突然偵察機から敵艦隊発見の報告。ほぼ同時にドイツ北米艦隊(ハイエ)から支援要請。合衆国大西洋艦隊(スコット)の巧みな戦術の前に苦戦しているらしい。
 1月に完成したばかりの〈篠宮《アルザス》悠〉に将旗を掲げるグートンは航空支援無しでの突撃を決意。夜のとばりが降りている。貴重な母艦航空隊に無理はかけたくない。
「私が行く、空母部隊はそのまま自習しなさい」
と通信した後〈ルミラ《ジャン・バール》〉と〈佐伯《クレマンソー》玲奈〉を率いて南下していった。
 この時点の欧州連合側で46センチ砲を搭載しているのは〈篠宮《アルザス》悠〉〈ルミラ《ジャン・バール》〉の2隻のみ。そして合衆国艦隊には46センチ砲はない。相手がいかに強力な「生徒」でも「先生」には勝てないと踏んでの行動である。
 残された〈御薗《デスタン》瑠璃子〉のジャルディンは〈君影《シャンプレン》百合奈〉のオルベリスに問い掛けた。
「行かないのか?」
「……」
ジャルディンは舌打ちした、はいはいこっちが決めればいいんでしょう。いつもそうやってこっちに答えを求めるパターンか。
 ジャルディンは北方にいる〈菜乃花《ベアルン》恵理〉らに警戒を任せて南下した、後から〈君影《シャンプレン》百合奈〉もきちっとついて来る。
 両艦はセーブル岬沖から戦闘機隊だけ飛ばして〈広場《バンカーヒル》まひる〉からの攻撃隊で大混乱になった戦艦部隊の撤退を援護。最強レシプロ艦戦と言われるF8Fといえども相手が最高速度700kmを超え、急降下性能に優れたMB158では楽には勝たせてもらえない、空中戦を傘に米艦隊も戦闘を打ち切って撤退。おかげで被雷によりフラフラになった〈佐伯《クレマンソー》玲奈〉をかばいつつグートン艦隊は戻ることが出来た。


第二次ウインドワード海戦

 〈君影《シャンプレン》百合奈〉〈御薗《デスタン》瑠璃子〉は北米支援の後一旦戻って航空機を補充。第1空母戦隊(マルザン)を結成、ドイツ機動部隊と合同して枢軸軍を迎え撃つこととなった。捕獲した米空母、改装空母と米国製搭載機に頼った陣営のドイツ側に対し純国産空母とダッソーMD450〈ウーラガン〉戦闘機、そしてブレゲーBr1050〈アリゼ〉攻撃機というフランス自慢(というか意地)の国産機の組み合わせはドイツ側の羨望の眼差しを受けてしかるべきものだった。かの国の空軍と海軍の対立は解消の目処すらたっていないのだから。
 パナマ攻防戦、ユカタン半島沖海戦と続き、両国機動部隊が初対決したのは49年7月のメキシコ湾海戦。この時ドイツ空母部隊(ズューデンヴォルケ)は日本第二機動艦隊(曽璽)を打破る殊勲を挙げた。だが追撃を怠り決定的勝利は逃してしまう。
 そしてマルティニーク攻防戦が始まってしばらくたった49年8月23日、フランス空母戦隊は出撃、この時は補給の関係で〈御薗《デスタン》瑠璃子〉と〈シャスルー・ローパ〉にドイツ軽空母〈イェーデ〉が加わって1つの部隊を編成。これにドイツが捕獲した合衆国の〈エセックス〉級が本隊として加わる。
 海戦は合衆国空母〈伊藤《エンタープライズ》乃絵美〉が放った攻撃隊によりフランス側が攻撃を受け、その隙にドイツ側が(攻撃を受けずに)枢軸艦隊に痛撃を与える展開になり対空巡洋艦〈進藤ド・グラースむつき〉の「ハジけた対空砲火」も実らず、〈シャスルー・ローパ〉と〈イェーデ〉の2空母が耐え切れず沈没。直援戦闘機を失った輸送船団も損害により撤退。ドイツ側の航空隊が日本空母〈緒方《瑞鶴》理奈〉を大破、撤退させたことだけが救いだった。
 海戦後、〈御薗《デスタン》瑠璃子〉のジャルディン艦長はドイツ側に突っかかった。我々は囮か?キツイ性格で有名なジャルディンの突き刺さるような言い方を受けるとドイツ側も何かしなければならない。ここで同盟関係にヒビが入ったら戦争も何もないのだから。そこでということではないが、ドイツ側から護衛の駆逐艦隊を貸そう。今回の損害の原因は対空火力の不足にある。これで少しでも損害が減らせれば。


臨時航空参謀ノルトマン

 ところで、この護衛に加わった駆逐艦の中にはノルトマンが艦長をやっている艦がいた。
なぜこんなところに……実は命令不服従のかどで艦長に追いやられていたのだ(名目上は昇進だが)。そして命令はフランス艦隊の護衛。彼ら、つまりドイツ軍人にとってみればフランス軍は「大言壮語ばかりの頼りにならない連中」であり、実際そんなことを放映している番組すらあった。
 ノルトマンはフランス語も達者でかつてフランス空母部隊とともに戦ったこともある身だからそういう偏見は弱かったのだが、親善訪問すると彼すら仰天した。
 独立した海軍航空隊、国産空母と国産機で固められた艦載機。そしてきちんとした輪形陣を組む艦隊。世界が違う。
 空母部隊司令のエタナリス・マルザン少将は早速ノルトマンに「航空参謀をやって欲しい」と要請した。ドイツ語とフランス語(イタリア語も片言なら喋れる)も使えてかつ航空戦に明るいノルトマンなら仏独両国の連絡にも役立つし、何よりその航空戦の知識は貴重だ。駆逐艦艦長なんてやってないでこちらに来ないか?マルザン自身は〈篠宮《アルザス》悠〉初代艦長という経歴はある。しかし航空戦に関しては「教育実習生」レベルであり補佐役を必要としていたのだ。
 ノルトマンは内心狂喜した、ドイツ海軍は自分を疎んで閑職に飛ばした。だがここ(フランス海軍)では自分を必要としている。彼は承諾した、そして短い間だが充実した……ずっと一緒に戦っていたかった……日々が始まる。


中部大西洋海戦

 1949年10月上旬、マルティニーク攻防戦が激化していたこの時点の両軍空母はドイツ(ズューデンヴォルケ)側が〈高井《エーリヒ・レーヴェンハルト》さやか〉〈篠原《アトランティカ》美樹子〉〈端本チーニョ久美子〉(伊空母)となっていた。元南部連合所属で「未亡人」ともいえる〈端本チーニョ久美子〉はイタリア空母といっても3万トン近い有力な空母である。ちなみにドイツが戦力化した捕獲米空母と「ヘルプ」にやってきた軽空母達は輸送支援に回っており間に合わない。これに〈君影《シャンプレン》百合奈〉〈御薗《デスタン》瑠璃子〉〈菜乃花《ベアルン》恵理〉からなるフランス空母戦隊(マルザン)が加わる。
 対して枢軸機動艦隊(柳本)は正規空母だけでも8隻、さらに合衆国第37任務部隊(スプレイグ)や英日合同機動部隊(*注1)「Honey Bee」(バイアン)を含めると計13隻にも達していた。ただしそれは帳簿上での存在で〈森川《雲龍》由騎〉級からなる第2機動艦隊(城島)は7月のメキシコ湾海戦の痛手から立ち直っておらず〈長森《大鳳》瑞佳〉級の〈城戸《神鳳》芳晴〉と軽空母〈折原《吉野》浩平〉は急遽南大西洋に派遣されることになったため(*注2)実質の戦力はかなり低下していた。
 さらにマルティニークへの支援もやらなければならない枢軸側に残ったのは〈長森《大鳳》瑞佳〉〈里村《海鳳》茜〉〈リアン〉(柳本)〈伊藤《エンタープライズ》乃絵美〉〈鳴瀬《ランドルフ》健一〉(スプレイグ)の5隻、これを2部隊に分けて行動させていた。
 10月18日、連合側陸軍の総攻撃が延期され、続けて22日突如〈菜乃花《ベアルン》恵理〉が機関故障を起こして脱落、貴重な母艦を戦わずに失ってしまった。
 追い打ちをかけるかのように23日の総攻撃は失敗。なんとかして陸軍の支援をせねばならない。連合側は焦っていた。
 25日、マルティニークに対する航空攻撃のためにマルザンは艦隊を南下させ、ズューデンヴェルゲもその東方約100海里を南下していた。堅実な彼は〈桜塚《シュリーフェン》恋〉〈鷺ノ宮《ビューロー》藍〉らを前衛として60海里前に出し、不意打ちに備えた。
 26日0050分、偵察機を何度も放ちながら南下していたズューデンヴォルケ部隊は突然敵飛行艇(実は〈銀河〉)の爆撃を受けた。これはたたごとではない。慌てたズューデンヴォルケ部隊は反転して24ノットで北上を始めた。マルザンはこれに呼応して0200分に反転。〈君影《シャンプレン》百合奈〉には真新しい軍服に着替えたノルトマンがいる。
 0450分、〈高井《エーリヒ・レーヴェンハルト》さやか〉からの索敵機は敵空母部隊を発見。位置は南東約200海里。先制攻撃には絶好の好機だ。即座に攻撃隊に発進が命じられ0525分に第一次攻撃隊が発艦した。勢力はF9F〈パンター〉とAM1〈モーラー〉。続けて〈神楽坂《MC207R》潤〉とFw190Tからなる第二次攻撃隊が準備されていた。
 編成が複雑なのは空母が独伊混成なのとジェット機とセミ・ジェット機との性能差の問題である。そこに0550分、雲間から索敵にやってきた〈流星改〉が突如急降下、〈篠原《アトランティカ》美樹子〉に爆弾が命中。後部に被爆した彼女は着艦が不可能になり、あるだけの艦載機を発艦させた後に撤退。それにもめげず第二次攻撃隊は0625分に発艦していく。
 このことはマルザン部隊にも伝わった。ただし距離が敵から310海里もある。躊躇するマルザンやオルベリス艦長にノルトマンは言い放った。
 「全速で距離を詰めましょう」
 二人は了解した。全速の33ノットで〈君影《シャンプレン》百合奈〉は護衛の駆逐艦やら巡洋艦、しまいには僚艦の〈御薗《デスタン》瑠璃子〉までおっぽり出して艦隊の先頭に立った。上空では直援機が舞い、甲板では攻撃隊の発艦準備が懸命に進められていく。
 しばらく進んだ時、レーダーが大型機(B50)を捕らえた。まだ敵空母は遠く爆撃を受けたらエライ事になる。この危機をどう乗り越えるか?マルザンの声が響いた。
「航空参謀!」
 ノルトマンは即答した。
「発着甲板の飛行機を上空に退避させましょう」
 発艦、着艦させる手間を惜しんでるとミッドウェーの日本海軍のようになってしまう。少数の大型機なら多数の敵機を観たら撤退するしかない。その通り雰囲気に押されたのかB50は去っていった。
 遠くから先制攻撃をかけるのではなく、自ら率先して危地に飛びこんで行く。艦には攻撃精神がみなぎっていた。やれば出来るではないか。少なくとも「呪われた艦」なんて大嘘だな……とノルトマンは思った。
 そうやっている間にも敵味方の戦いは進む、ズューデンヴォルケ部隊に〈長森《大鳳》瑞佳〉〈里村《海鳳》茜〉から飛び立った〈蒼電改〉と〈流星改〉が襲いかかってきたのだ。まず前衛部隊に殺到した日本空母機は〈日野森プリンツ・オイゲン美奈〉を大破させ、他艦にも損害を与えた。
続けて本隊の両空母にも英米空母からの攻撃隊が殺到。それぞれを狙って突っ込む攻撃隊だったが両者の運命は対称的だった。護衛が駆逐艦4隻だけの〈高井《エーリヒ・レーヴェンハルト》さやか〉は英攻撃隊による6発の命中弾により飛行甲板をやられて空母としては「閉店」。対して〈端本《チーニョ》久美子〉に向った合衆国攻撃隊は悲惨だった。よりにもよって護衛にはあの「女王様」〈柴崎《ルクレツィア・ロマーニ》彩音〉を始めとして巡洋艦4隻、駆逐艦6隻がついていたのだ。容赦も手抜きもない彼女達の自動砲の強大な弾幕の前に攻撃隊は次々に粉砕され、そのおかげで〈端本《チーニョ》久美子〉は無傷で空襲を終えた。
 空襲後、自艦の損傷を見たズューデンヴォルケは迷ったが「まだ全速で走れるし、対空砲も使えます」と嘆願するクラスマン艦長に対して「貴重な空母を大切にしろ!」と跳ね除けた参謀長の意見を要れ、マルザンに残存する〈端本《チーニョ》久美子〉(カヴァリーノが移乗)の指揮と航空戦の継続を命じ、一旦北上した。
 一方連合側第一次攻撃隊の方は〈長森《大鳳》瑞佳〉をSC500徹甲爆弾で大破、〈里村《海鳳》茜〉にも魚雷をぶつけたが武運の強い両艦はそれに耐えぬき、逆に攻撃隊の6割以上(ほとんどがベテラン搭乗員)を叩き落している。
 続けて連合側第二次攻撃隊は合衆国空母部隊に殺到。大部分は〈伊藤《エンタープライズ》乃絵美〉に突っ込んでいく。やはり有名な「ヒロイン」を沈めたいのはどこも同じ。だが大改装によって〈伊藤《エンタープライズ》乃絵美〉はもはやか弱い存在ではなかった。右に左に突っかかる攻撃隊を充実した対空兵器と相変わらずの操艦技術でかわしきり、逆に攻撃隊の6割を無念の海に叩き落とす。なよなよしたどっちつかずのエンジンジェット戦闘雷撃機(〈神楽坂《MC207R》潤〉)に撃沈されるほど〈伊藤《エンタープライズ》乃絵美〉は弱いヒロインではない(*注3)
 だが彼女ほど運も人気もない〈鳴瀬《ランドルフ》健一〉が煙突に直撃弾、さらには爆弾の誘爆によってのた打ち回る。このあたりは運命というところだろうか?
 0714分、いよいよマルザン部隊の攻撃隊が発艦していく。入れ替わりに〈高井《エーリヒ・レーヴェンハルト》さやか〉から出た攻撃隊がポツリポリツと戻ってきた。この中にいたF9Fを操るシェルナー大尉が第二次攻撃隊を束ねて出撃した。
 さて、〈君影《シャンプレン》百合奈〉から発艦した第一次攻撃隊は日本艦隊を襲い、枢軸側で唯一無傷だった〈リアン〉にも直撃弾を浴びせた上、〈里村《海鳳》茜〉を炎上、〈椎名《浪速》ゆうひ〉の艦橋に命中弾を叩きつける(*注4)戦果を挙げた。先に〈長森《大鳳》瑞佳〉を大破させられた上、さらに残りの全空母が損傷した日本側はよろよろと北上していく。
 こうしている間にも〈君影《シャンプレン》百合奈〉は駆逐艦3隻を引き連れただけで南方に突き進んでいた。こんなほとんど「裸」の状態は大胆を超えて無謀、しかも回りには敵がいるかも知れないのに。だがそんなことを誰も突っ込まなかった。
続けてフランス側からの第二次攻撃隊。元々火災に包まれていた〈鳴瀬《ランドルフ》健一〉は魚雷1本と爆弾を浴びてほとんど航行不能、爆弾2発を受けた〈伊藤《エンタープライズ》乃絵美〉は見事なダメコン能力を発揮して沈没は防いだが、搭載機がなくなってしまってはどうしようもない。〈鳴瀬《ランドルフ》健一〉に出来るだけ護衛をつけてよたよたと撤退していく。
 報告を受けたマルザンは自問した、相手への損害は大きい、だがまだ敵空母は沈んではいない。そして……
「航空参謀、何機使えるか診て来て下さい」
ノルトマンは格納庫に降りて調べた。使えるのはドイツ、イタリアのも含めて攻撃機4、戦闘機9機。誠実な彼は嘘偽りなく報告した。
「第三次攻撃隊を出すべきか?」
マルザンからの難しい質問だ。だがノルトマンは即答した
「出しましょう」
 そして戦闘機6機、攻撃機4機からなる最後の攻撃隊が1450分に出撃した。敵も味方も他にもう攻撃隊は残っていない。この大海戦でたった1つの攻撃兵力がドイツのヨーネン少佐率いる4機に過ぎないのだ。敵味方合わせて数万はいるだろう将兵の誰も及ばない偉大な「力」。
 出来るなら代ってやりたい、そうノルトマンは想った。頼むぞヨーネン、そして搭乗員達。生きて還ってくれ。そして彼らは突撃した。全弾命中。大火災を起こし断末魔の様相を呈する〈鳴瀬《ランドルフ》健一〉を残し(*注5)、そして……
「ヨーネン少佐は飛んでいるか……それは良かった」
マルザンの一言。ノルトマンは国家の枠を超え思いやれる彼に尊敬の念を抱いていた。そして夜は更け攻撃は終った。だがまだ敵が残っている。「推定」が「確定」に代わるまで戦いは終らないのだ。
 27日早朝、〈端本《チーニョ》久美子〉と会合しまたようやく追いついた〈御薗《デスタン》瑠璃子〉も加えた混成部隊は索敵機を出したがついに〈伊藤《エンタープライズ》乃絵美〉を発見できずやむなく撤退。この時ノルトマンは不眠不休で〈端本《チーニョ》久美子〉から艦隊の指揮を執り、航空戦を戦いぬいたカヴァリーノと短い間だが話をしている。空母というヒロインは単独では戦うほどの力はない。バランスのとれた艦隊編成とよく訓練された搭乗員こそが勝利に導くということを。 
 この戦いは中部大西洋海戦と呼ばれるが、いつも高飛車な合衆国の宣伝放送が「この日ほど悲惨な海軍記念日を迎えるとは想わなかった」と言わざるを得ないほどであり、戦闘に参加した枢軸空母はことごとく損傷したが、それでも枢軸側はこの海戦の「見えない勝利」を理解していた。そう、この戦いで欧州連合側はベテラン搭乗員をことごとく失い、。航空部隊は散り散りになってしまったのだ。

#注1:書類上では王立海軍に所属(よって司令官は英側から)するが、「英本土奪回までの間」臨時に日本側の指揮を受ける部隊。
#注2:南大西洋で通商遊撃戦をしている夜の鬼(フランス第1戦列艦隊)撃滅のため。
#注3:同艦に爆弾を命中させた攻撃隊長フェラーリン少佐はは「〈ノエル〉は燃えている。〈ノエル〉は燃えている。撃沈確実!」と通信したが、カヴァリーノは「そんなセリフは女もフネもモノにしてから言え!」と即答している。
#注4:この損傷自体は軽いものだったが、主砲電路の一部を損傷していたことを見落としていたため、後の第4次ウインドワード海戦で主砲電路が故障、〈柴崎《ルクレツィア・ロマーニ》彩音〉に滅多打ちにされる要因になっている。
#注5:〈鳴瀬《ランドルフ》健一〉は総員退艦した後、駆逐艦で曳航しようとしたがドイツ北米艦隊カリブ支隊(ハイエ)が巡洋艦や駆逐艦で追撃、彼女に最終的な止めを刺している。


別れ、そして……

 中部大西洋海戦の後、航空隊再建のためにフランス空母部隊は一時本国に戻った。この時間を利用して〈君影《シャンプレン》百合奈〉は艦橋上部に横長のカチューシャ型対空レーダーを装備し、飛行甲板後部を少し拡大する工事を行っている。
マルザンはしばらく〈篠宮《アルザス》悠〉に旗艦を移していた。ノルトマンもこれといってどうするということもないので臨時航空参謀のまま彼女に間借りすることになる。しかし50年2月、マルティニーク島完全占領の勢いにのった枢軸軍がダカールに上陸するのではないかという危機感(及びドイツからの警告)から、フランスは〈篠宮《アルザス》悠〉らを防衛のために派遣することになったからだ。この時フランス側の些細な伝達ミスから〈篠宮《アルザス》悠〉のダカール派遣を知らなかったノルトマンは「裏切られた」と落胆している。
 さてゲーリングの要請の元、艦載機を陸揚げして空軍部隊に協力したバハマ沖航空戦は貴重な艦載機パイロットを消耗させ、さらに再建する時間もそこそこに秋にはバミューダ島攻防戦、ここを占領されると大西洋の制海権が奪回されかねない。
 だがフランス空母部隊は戦局を変える程の戦力にならない。なぜなら飛行機を補充するのにわざわざ本国から持ってこなければならないのだ。現地調達のドイツ側と違って全て国産機だからフランス本国でしか製造できない。
 結果、空母は本国からの航空機輸送も兼任する羽目となり、バミューダを巡る一連の海戦では〈御薗《デスタン》瑠璃子〉がフランス艦隊の「空母部隊部長」としてドイツ空母部隊と共同行動をとることになった。 
 フランス大西洋艦隊は巡洋艦や駆逐艦、後半では〈佐伯《クレマンソー》玲奈〉や〈持田《ガスコーニュ》祥子〉まで通信一本で呼び出して作った防空陣形は枢軸軍攻撃隊を全く寄せ付けず、「攻略不可能」と枢軸側に唸らせるほどの防空力を発揮している。
 ならばとばかり枢軸側はドイツ空母側に攻撃の重点を絞ったためドイツ側は次々と損害を被ることとなった。ドイツ空母は1隻に駆逐艦3〜4隻しか護衛をつけない。防空能力を過信したことと共倒れを防ぐためと言われているが、集中攻撃を食らえば「沈めてください」と言っているのと同じだ。
 さらに悪いことは重なるもので英日軍によるスエズ奪回作戦を迎撃するためにイタリア艦隊が地中海に戻される。これにより枢軸側との戦力差が更に開いてしまった。伊艦隊と対戦する英艦隊は元々カリブ海にいない(太平洋・インド洋で船団護衛をやっていた)のだから連合側にとって全く割の合わない戦力減である。
 
 
 !船団秘匿名称「学園祭」 そうこうしていた50年10月、フィラデルフィアにいたドイツ北米艦隊(クメッツ)は枢軸側に占領されたアイスランドやキューバを補給している枢軸側船団への攻撃許可をしきりに求めていた。だがドイツの軍事力の象徴たる〈皆瀬《フォン・ヒンデンブルク》葵〉をニューヨーク沖で失った衝撃はヒトラーの艦隊保全主義を一層強いものにし、改装工事を行っている〈木ノ下《フォン・ファルケンハイン》貴子〉が到着するまで待てとか、ダカール防衛に出向いたフランス艦隊と合同すべきだと理由を色々つけて出撃許可を出さなかった。しかし黙って眺めている程彼等は臆病者ではない。
 レイキャビク向け船団を攻撃、枢軸側補給に大打撃を与えるとともに士気向上にも繋がる作戦が立案された。幸いこの船団には主力艦の護衛はない。護衛空母をどうにか出来れば後は砲撃でカタが付く。「主力艦を出し渋る」総統が何か言いそうだが「巡洋戦艦は巡洋艦=補助艦艇であって戦艦=主力艦ではない」と都合よく言い訳して押し通すことにした(*注5)
 作戦は2段階に分かれる。主力は「巡洋戦艦」〈桜塚《シュリーフェン》恋〉〈鷺ノ宮《ビューロー》藍〉、これに〈君影《シャンプレン》百合奈〉がつく。北米艦隊に残っている改装空母の〈愛沢《ライン》ともみ〉はジェット機を運用するには無理があるためフランス艦隊から捻出してもらったのだ。第1段階は空母からの航空攻撃によって一時的な制空権を奪取。その後高速で巡洋戦艦が襲撃して船団を潰滅させる。
 この後部隊は分離、〈鷺ノ宮《ビューロー》藍〉はロンドン民政管区に向い同地の騒乱に圧力をかける。〈桜塚《シュリーフェン》恋〉〈君影《シャンプレン》百合奈〉はキューバにとんぼ返りしてグアンタナモを奇襲。基地と(いれば)船団を破砕する。これが第2段階。大西洋をまたにかけた作戦が幕を開ける。
 1950年10月16日午前、トリニダードからアイスランドに向う補給船団……秘匿名称「学園祭」A船団と呼ばれた……は二重反転プロペラの哨戒機(〈アリゼ〉)の接触を受け、続けて〈ウーラガン〉戦闘機が飛んで来た。船団側は慌てて〈安土〉級護衛空母から疾風を飛ばし、〈ウーラガン〉に空戦を挑む。だが所詮レシプロ疾風ではジェット疾風(〈ウーラガン〉=疾風の意味)には勝てない。
 そして空戦の後いよいよ主役たる〈桜塚《シュリーフェン》恋〉〈鷺ノ宮《ビューロー》藍〉が船団に突っ込み学園祭のアイドルのように船団を引っ掻き回す。護衛駆逐艦もなんとか食いつこうとするが所詮「眼中にない連中」、ことごとく弾き返されただ蹂躙に任せるのみ。援護はどうした、日本艦隊はどうした、
 彼等は何をしていたかというと、〈君影《シャンプレン》百合奈〉、それに護衛の〈東雲ギッシャン深月〉らの方を攻撃していたのである。機動部隊からの攻撃隊に加えて護衛空母搭載機までが一斉にこっちにやってきた。とにかく店で声をかけられた時のように敵機を「応対」していくしかない。直援の〈ウーラガン〉が迎撃するが敵機の数が多い。こうなると各艦の対空砲火と操艦術が頼りだ。
 景気良く対空砲火を打ち上げていた〈東雲ギッシャン深月〉が魚雷を受けて艦尾がめくれあがる損害はあったものの、ほぼ無傷で済んだ〈君影《シャンプレン》百合奈〉は南下、〈桜塚《シュリーフェン》恋〉と合流。さてグアンタナモへ向おうとしたがそこでいきなり〈君影《シャンプレン》百合奈〉は機関故障を起こして航行不能になってしまった。至近弾の影響なのかそれとも15万馬力近くを2軸で吸収するタービンや減速歯車に負担がかかったのか。
理由はともかく大西洋のド真中で倒れられたことには変わりない。彼女は〈牧原《ラントレピード》勇気〉の護衛のもとノーフォークに曳航され、残された〈桜塚《シュリーフェン》恋〉は実質単艦でグアンタナモに殴りこむ羽目に陥ってしまった。その後の彼女の戦いは〈桜塚《シュリーフェン》恋〉の項に譲る。
 さて、〈君影《シャンプレン》百合奈〉はノーフォークのドックで3ヶ月に渡る修理を受けたが、至近弾の損傷はともかく機関等にこれという故障は見られずドイツ技術陣を困惑させていた。部品等の交換や点検をしてはみたもののなぜか故障する。
「本艦は、呪われていますから」
 トルペリア・オルベリス艦長はそんな事を言っていたが、確かにそうかも知れないと両国海軍当局は思い始めていた。いっそ機関を全交換するか?だがそんな暇があるような戦局ではない。バミューダ沖海戦でドイツ正規空母がいなくなった今、欧州連合で艦隊空母として使えるのは他に〈御薗《デスタン》瑠璃子〉しか残っていないのである。
 幸いというべきか、〈君影《シャンプレン》百合奈〉は「日常生活に支障がない」程には活動できるとこまでは治っていたため、「とてとて」という奇妙な推進機音の問題を残しながら艦隊行動を続けている。

#注5:ドイツの巡洋戦艦は正式には「大巡洋艦」と分類されていた。


作戦

 1951年夏、連合側は大西洋と地中海の制海権を失い、ヨーロッパ大陸沿岸まで枢軸機動部隊がやってきて空襲する状況になっていた。これに対してヒトラーは好機を見て戦力を集中し、これをもって敵機動部隊と輸送船団を撃滅する国防計画を承認。ノルトマンが司令官となった新編成の第一航空艦隊が結成、この艦隊にはフランス艦隊も加わることになった。「ドイツは一人じゃ生きていけない」というマルザンの言葉もあったが、裏ではヴィシー・フランスが裏切るのではないかというヒトラーの疑心暗鬼もあったのだ。酷いことを言えば体のよい人質のようなものである。
 だが10月10日、日本第二機動艦隊が英本土を空襲。これに対して航空機を一挙集中して敵艦隊を潰滅させるタイフーン作戦が発動された。航空機が足らないためノルトマンに「もう空母を使う作戦はない」と説得して艦載機を取り上げてまでの戦果は空母10隻、戦艦4隻撃沈、敵艦隊は撤退中という凄まじいものだった。
 これに気をよくしたヒトラーは高海艦隊に追撃を命令、そればかりか第一航空艦隊護衛の第一遊撃戦隊(マルザン)を取り上げてしまった。あまりのことにノルトマンは落胆し、「悪性の風邪で絶対安静」という理由で寝こんでしまった。もっともジャルディンあたりは「怖気ついたのか」「どうせ仮病でしょう」と呆れていたが。
 それでも時代は彼を必要としている、妻や友人の看病が実って病の癒えたノルトマンのもと、再び訓練が開始された。とにかく時間も燃料もない。そして指揮権の問題は解決されていない、ドイツ側は指揮官クラスがみんな若い。そもそもノルトマンよりもオルベリスやジャルディンの方が「先輩」なのである。相変わらず「特別な艦ですから」とか「呪われていますから」というオルベリス少将(艦長兼任)と〈君影《シャンプレン》百合奈〉乗員、あるいは「ドイツのやり方にはついていけない」とばかりに対立しがちな〈御薗《デスタン》瑠璃子〉のジャルディン少将。ノルトマンにとっては頭の痛い日々が続く。


真実

 そんな12月のある日、ノルトマンは〈君影《シャンプレン》百合奈〉を訪問した。相変わらずなんとなしに艦内の雰囲気が重い。ドイツ人の下で戦うことに対する重さ……ではなく、自艦の運命を呪われたものと判断した重さだ。とにかくこれをどうにかしないと完全な戦力発揮はできない。
 ふとノルトマンは艦橋にある黒百合のエンブレムを見た……そして気がついた。
「呪われてなんかいない」
 交流の傍ら、オルベリスから花についての知識を学んでいたノルトマンは気付いた、このエンブレムは黒百合ではなく君影草(鈴蘭の別名)だということに。
 なんのことはない、僅かな勘違いと噂が雪玉のように膨らんでこんな状況にまでなっていたのだ。乗員そのものが信じ込めばそれは機関も妙なことになる。
 すぐにノルトマンは乗員を集めて訓示した、貴方達は呪われてなんかいない。そして我々ドイツ人を信じてくれ。
 「全てを預けます」
 ゆっくりとオルベリスは言った。


出撃

 1952年1月13日、一旦本国に戻って航空機を搭載した〈君影《シャンプレン》百合奈〉〈御薗《デスタン》瑠璃子〉〈島津《ラ・サール》一葉〉を連れてリガに到着した。〈島津《ラ・サール》一葉〉はなんと駆逐艦へのタンカー代り。なぜかというとこの時搭載機は戦闘機がダッソーMD452〈ミステール〉、攻撃機がブレゲーBr1080〈エタンダール〉に更新されていた(*注6)。他国機と比較しても全く遜色のないこのコンビは文字通りフランス期待の決戦機だった。
 たがいかんせん数が揃わない。全部かき集めても合わせても約60機しかないのだ。空母だけあっても搭載機がないのではどうしようもない、攻撃には使えない〈アリゼ〉を〈島津《ラ・サール》一葉〉に譲って留守番させ、〈君影《シャンプレン》百合奈〉〈御薗《デスタン》瑠璃子〉が出撃することとなった。
 そして勢ぞろいした第一航空艦隊は出動準備を急いだ。着艦する自信がない飛行機は艀から空母にクレーンで積みこむ。訓練時間と訓練燃料が稼げないとはいえ惨めとしか言いようがない光景だった。だがもう時間はない。
 戻ってこない第一遊撃部隊の代わりの護衛としてはフランスのハンター・キラー部隊である第31戦隊(ド・ラフォンド)が編入された。この部隊とノルトマン艦隊は初顔合わせでもちろん合同訓練などしたこともない。そういう悪条件ばかりの艦隊ではあったが、それでも誰も気落ちなどしていなかった。指揮官たるノルトマンを信頼し、命を預けていたからだ。
 18日夕刻、ノルトマンは全指揮官を集めて作戦内容を公表した。
 「欧州連合海軍は25日を期してその総力を挙げた作戦を開始する、作戦名は『北の暴風』」
 続けてヴァーテル参謀長が作成計画の説明をする「機動部隊をノルウェー北方に策引し、好機を見て撃滅せよ」と。そして身じろぎもせずに聞いていたド・ラフォンドがノルトマンに目礼した。
 「面白い、ひとつ、壮烈にやりますか」
 笑うものはいなかった。誰もが任務の困難さを理解したからだ。
 22日、それぞれの想いを秘めて、第一航空艦隊は出撃、対潜警戒のために第31戦隊の〈三好《ダンケルク》育〉と護衛駆逐艦が分離、前方掃討をしつつバルト海を進む。
 24日0100分、スカラゲック海峡入り口にいた合衆国潜水艦〈タング〉と〈デース〉がノルトマン艦隊を発見。だが速度を上げるノルトマン艦隊に着いていけず振りきられてしまう。知らず知らずのうちに敵潜水艦を振りきったノルトマン艦隊は夜明けとともに各空母に割り当てられた索敵機が敵艦隊を探すべく散っていった。
 0730分、第五航空艦隊索敵機が第二機動艦隊を発見、直ちに全力攻撃に移る。ノルトマン艦隊もこれを受信、攻撃隊の即時出撃を求めるヴァーテル参謀長達に対してノルトマンは何も言わず首を振った。空軍機は艦型や位置を間違えやすいという戦訓があるからだ。こちらからも索敵機を出してしっかりと確認するべきだ。勝負は一度しかない。繰り返しもやり直しも許されない。
 0830分、総計約300機にも及ぶ第五航空艦隊の航空総攻撃が始まった。だが第二機動艦隊のぶ厚い防空陣の前に片端から叩き落されていく。3任務群を分散して攻撃した上に攻撃の基本である「集中」がまともに出来ない錬度では新型機で固めた枢軸戦闘機達のいい的になる運命しかなく、直援機を分散させるという「戦果」だけ僅かな救いだった。
 第五航空艦隊が苦戦する中、ノルトマン艦隊が送り出した索敵機のうちの一機が1105分、第二機動艦隊を発見。距離は170海里。敵に発見されるべき艦隊が、敵を先に発見したのだ。先制シュートのチャンス。蹴れば一点を入れることができるかも知れない。そしてたとえ点が入らなくとも敵はこちらに気付いてくれる。
 1230分、いよいよノルトマンは攻撃隊発艦を命令を発動、旗艦〈橘《フォン・リヒトホーフェン》天音〉のマストに戦闘旗が翻り、母艦7隻は風上に立ち次々と攻撃隊を発艦させていく。He481とTa483戦闘機、Me462攻撃機、そして〈君影《シャンプレン》百合奈〉〈御薗《デスタン》瑠璃子〉からの〈ミステール〉と〈エタンダール〉。編隊を整えると南西の空に機影を没していく。全部合わせて170機。すぐにノルトマンは自艦隊の位置を知らせるとともに攻撃隊出撃の報を全軍に打電した。これで敵機動部隊(と、自艦隊)の所在は全軍に明らかになる。
 この電報は高海艦隊旗艦〈木ノ下《フォン・ファルケンハイン》貴子〉も受信した。しかしなぜかチリアックス司令部の元には届けられていない。こんな大事な通信を総指揮官が知らなかった……齟齬はここから始まっていたのである。
 それは後の話として、発艦時間等の関係上、3グループに分かれた攻撃隊は大林直卒の第二機動艦隊・第21群に一路突き進んでいた。この時ノルトマンは攻撃隊に戦闘終了後はノルウェーの基地に行くように命じていたという。どのみちこっちの空母は攻撃を受けることは間違いない。そうすると「戻ってきた時には母艦がない」という可能性だってあるのだ。北の海で朽ち果てるよりも味方基地での再起を目指せ。
 第一陣28機(〈《ドクトル・エッケナー》コリン〉〈鈴原《エムス》琴美〉から)こそ迎撃機に足止めを食らわされたが、最大の機数を擁する第二陣〈橘《フォン・リヒトホーフェン》天音〉〈美咲《ヘルマン・ゲーリング》彩〉〈七城《ヴェーゼル》柚子〉からの106機が突撃をかけてきた。ヴィンター中佐が指揮するHe481が直援機を巧く分散させ、その隙を突いてドライザックを抱えたMe462が突入。ここまでよかった。だが枢軸側対空砲火は北の澄んだ空を弾幕の集中豪雨に代え、次々にMe462を叩き落す。幸運にもドライザックを放った機も目標に誘導電波を当て続ける必要性からくる大欠陥……当てるには敵前を真っ直ぐ飛ばないとならない……によって機関砲の餌食になった。
 だが〈リアン〉が撃墜したMe462のドライザックは主を失ったが彼女のレーダー電波に誘導されて一直線に艦橋上部に激突、脆いレーダーをほとんど叩き壊し、ドライザックを抱えたままのMe462に体当たりされた〈江藤《白鳳》結花〉はハリケーン・バウを折り曲げられて19ノットに速度が落ちてしまった。
 命中2発。ドイツ機動部隊による最後の攻撃隊の成果がこれである。枢軸軍の対空砲火はここまで凄まじくなっていたのだ。そして第三陣がやってくる。フランス側の飛行隊長イースト少佐率いる〈ミステール〉20機、〈エタンダール〉16機だ。眼下にはドイツ側の攻撃により炎上している空母が2隻いる。しかも敵の直援機はドイツ側の攻撃の影響で分散している。チャンスではないか。〈ミステール〉が対空砲火を逸らすように機動し、その隙を〈エタンダール〉が突いて突入していく。
 イースト飛行隊長の発想は正しかった、だが20キロ範囲に突っ込むためには16機の攻撃隊は余りに少なかった。〈長森《大鳳》瑞佳〉の艦尾に至近弾をぶつけたイースト少佐機以外は戦果もなく、結局帰還できたのは僅かに12機にしか過ぎない。
 しかしまだ敵はいた、フランス攻撃隊を追い払ってやれやれとなった1338分、低い雲を突き破ってただ1機〈エタンダール〉が急降下してきた。全艦艇のレーダーも戦闘機も気付かなかった。その機体は〈七瀬〉〈広瀬〉〈シェフィールド〉の激しい対空砲火をもろともせず〈折原《吉野》浩平〉目掛けてエグゾセを放つ。完全な奇襲。武勲に輝く「ばかばか艦」もこれまでか……しかし必死の対空砲火の影響かエグゾセが僅かに進路を変え……〈折原《吉野》浩平〉に一番近い位置にいた〈シェフィールド〉に直撃。450キロの弾頭と残存燃料によって彼女は瞬時に炎上。すぐに〈七瀬〉〈広瀬〉と応援の駆逐艦による消火作業が開始された。しかし残存燃料の火災は手がつけられず1350分、弾火薬庫に火が回った〈シェフィールド〉は大爆発を起こし、〈七瀬〉に破片で巻き添えを食らわしながら二つに折れて沈没していった。
 ひとしきり終った後、大林は自艦隊の状況を尋ねた。
「損害は?」
〈江藤《白鳳》結花〉と〈リアン〉がいずれも小破。〈シェフィールド〉沈没。〈七瀬〉が巻き添えを食らって死傷者多数。
「また英国人からどやされそうですな」
 牟田口参謀長の言葉に大林も同意した。ああまったくだ。損害は全て「HONEY BEE」こと英国機動部隊(オンスロー)から出ている。英国人は口が悪いから精神的損害がたまったものではない。この海戦が終ったら胃の装甲を強化しないとならないな。大林は苦笑した。
「敵機動部隊の位置はどうか?」
「判明しておりません」
 索敵機を出せるだけ出せ、敵の母艦兵力からするとまた攻撃される可能性は高い。ただでさえこっちは先制攻撃を受けている。つまり我々にイニシアチブはないということだ。
 ……さすがの大林末雄も敵空母がほとんど艦載機を持たないとは思ってもみなかった。日本海軍で一、二を争う航空戦の専門家である彼にとってみれば戦艦は制空権がなければ何も出来ないフネであり、多数の航空機を操る空母こそ主敵であると認識していた。後に彼は批判されるが、別に彼でなくとも7隻もの空母部隊を囮に使うなどいう発想が出てこないのは仕方ないだろう。常識とは恐ろしい。
 ノルトマン側も落胆に暮れていた。何せ134機(+仏36機)出して帰ってきたのは30機程(他に基地に下りたのも少々)
 ここまで敵側の防空能力が凄まじいとは、だが戦いは始まったばかりだ。我々はこれからかつてない攻撃を受けることになるだろう。ここにいる7隻の空母を「ヒロイン」として考える日本人は文字通り攻略のために何も惜しまない。我々が叩き潰されるのが先か、高海艦隊や合同艦隊がレイキャヴィクに届くのが先か。

#注6:〈ミステール〉は〈ウーラガン〉を後退翼にし、各部を改良したもの、エンジンはSNECNA社製アター101D-3(推力3100kg)を搭載。
 〈エタンダール〉は双発ジェット攻撃機シュド・エストSO4050〈ボートゥール〉の海軍タイプ。〈ミステール〉と同じエンジンを2基搭載し、MM21エグゾセ対艦ミサイル(ドライザックIのフランス改良版)や偵察ポッド、爆弾等を搭載できる。


反撃開始

 1420分、大林は攻撃隊を放ってきた。3任務群合わせると12隻にもなる史上最大の空母部隊だが、第一次攻撃隊は直卒する5空母から出撃させた。それでも総計207機。これだけでもノルトマン艦隊の全力攻撃兵力を超える。ただし後述するように目標艦隊が二つに分かれているため126機と81機に分散したが。
 守る側に立ったノルトマン艦隊は当然のごとく輪形陣をとった。この時艦隊はドイツ艦で構成されたの第一群、南東に10km離れてフランス艦で構成される第二群に分かれている。各艦は迎撃戦闘機を発艦、突撃してくる攻撃隊に備える。まずはヴィンターが率いるTa483が劣勢ながらマルセイユらの奮闘によって敵編隊を削る。その報告を戦闘艦橋で受けつつノルトマンは思考を巡らせた。
 ……敵側の近接信管とレーダー射撃は我が方にかなりの打撃を与えた。たがこちらも同じものを持っている。むしろ高性能の15センチ自動砲を持つ〈カノーネ〉級がある分だけこちらが有利。が、
「Z77、沈没」
不思議な顔して「どういうことでしよう?」と言いたげな通信参謀にノルトマンは答えた。
「奴等、外周から崩して我々を裸にする気だ」
輪形陣の外周から崩していくやり方は兵力が十二分にないと出来ない。それが出来るということは……我々はどこまで耐えきれるんだ?
 続けて攻撃隊が狙いをつけたのは半ば被害担当艦のような立場の〈鈴原《エムス》琴美〉。予想通りというかなんというか集中攻撃を受けた彼女はたちまち炎に包まれる。
 一方オルベリス……というより実質ジャルディンが束ねる第二群は第一群の通信を受ける前から防空行動に出た。まず〈三好《ダンケルク》育〉が主砲を最大仰角でVT信管付き対空榴弾をぶっ放す。それに慌てた日本機は散開。これを上空で待機していたログロアン少佐が率いる〈ミステール〉が追う。数が少なくとも敵が分散していれば有効な打撃を与えられるのだ。
 それを潜り抜けた攻撃隊は次々と誘導魚雷や誘導弾を放つ。対してジャルディンは即座に命令を出した。
 「チャフ、フレア発射」「対空、対魚雷ロケット弾発射」
各艦に装備されたダゲMk1チャフ/フレア発射機から高温の光弾とチャフが放たれる。 続けて主砲が前だけなので対空砲に遠慮せずに元気に撃てる〈三好《ダンケルク》育〉が信管0秒で榴弾を発射し、対空ロケット弾が通り過ぎる機体に炎のプレゼントを贈りつける。さらには艦後部に装備された対魚雷ロケット弾(散弾発射機)が水中に突っ込み、次々に誘導弾や魚雷を弾き返していく。
「どうなっているんだ!」
攻撃隊隊長の小瀬本少佐が叫ぶ。無理も無い。日本が開発した新兵器達がほとんど通用しないのだ。それどころか花火大会を思わせるロケット弾幕に突っ込んで塗装が燃える機が続出している。これでは飛行機は持っても脆弱な誘導装置が持たない。
「見えているよ、その攻撃は」
 高速で飛んでくる誘導弾はチャフで妨害しつつ空中に壁を作って炸裂させる。赤外線誘導滑空爆弾はフレアで妨害、そして誘導魚雷は速度が遅い上に音に反応するから艦尾に大音響の出る散弾発射器で対応しつつ振りきる。
 ジャルディンは戦果に満足しつつ思った。北西にいる第一群は苦戦している、ただこちらもそうそう上手くはいかない。どこまで騙せるかだ。オルベリスは知ってるだろうが。
 2回の空襲が終り、夜のとばりが降りつつある中でノルトマンは冷徹な計算をした、失ったのは〈Z77〉〈Z79〉。大火災を起こしている〈鈴原《エムス》琴美〉はもう持つまい。他に〈ブレスラウ〉〈桜塚《シュリーフェン》恋〉小破。フランス側はどうにか切りぬけたらしい。
 幸いにして北の海は日が短い。なんとか今日を生き延びることが出来た。後は明日だ。明日さえ凌げばこの作戦は成功する。
 対して大林はこれまでの戦果を総合してみた、夕方から攻撃した北方部隊(第一航空艦隊)は空母機動部隊、しかも先制攻撃をかけてきた。南方部隊(合同艦隊)はクルー湾から出撃した第一艦隊で対応できるだろう。そして中央部隊(高海艦隊)はアイスランドからの長距離攻撃を受けて反転した。彼は行動半径の大きな機動部隊を継続して攻撃することを艦隊に告げた。もちろんこの時彼(というか枢軸側の誰もが)は高海艦隊が再反転して北上を開始したことを知らなかった。
 そして彼はもう1つの命令を下す。速度が落ちた〈江藤《白鳳》結花〉と航空管制能力を失った〈リアン〉に駆逐艦をつけてアイスランドに戻すことにしたのだ。両艦艦長は猛反対したが、彼としては地中海で半壊した英艦隊にまた損害を食らってもらいたくなかったのである。だがこの「親心」が後にとんでもない結果を生むことになろうとは……


戦局逆転

 日付が1952年1月24日から1月25日に変わる前、クメッツとグートンの独仏合同艦隊はアイリッシュ海に入った。そのままノース海峡を抜ければアイスランドまで一直線。だが罠の口を閉じるべく待ちうけていたのは第一艦隊。彼女達の対艦誘導弾とレーダー管制射撃の前に戦艦部隊はほぼ全滅、続けてやってきた第1遊撃部隊は実質何も出来ずに撤退。残余の艦艇はほうほうの体であちこちの港に転がり込んでいく。
 「合同艦隊全滅、〈佐伯《クレマンソー》玲奈〉大破炎上」
 チリアックスもノルトマンも第1遊撃部隊からの通信文を聞いて絶句した。そんな馬鹿な。北の暴風作戦で最大の勢力を持つ合同艦隊がほぼ全滅だと?
 重い雰囲気を残したまま朝を迎え、ノルトマンは機動部隊の持っている航空機のうち、Me462と〈エタンダール〉をノルウェーの基地に向わせた。全滅覚悟の空母にいる必要はない、攻撃機には基地からの再度の奮戦を行うチャンスがある。イースト少佐が率いるこの小編隊は名残惜しそうに何度も艦隊上空を旋回した後、
「幸運を祈ります」
と残して南東に消えていった。艦隊に残るのは戦闘機のみ。そして0650分、敵索敵機発見の報告。間違い無い。敵は我々を追撃し、叩き潰そうとしている。ノルトマンはすぐに全艦隊にこのことを送信した。
「敵艦上機の接触を受けつつあり」
 確かに犠牲としては大きいが、それだけの価値はある。だがこの通信文もチリアックスには届かなかった。
 なぜならチリアックス艦隊は予想外の敵である〈江藤《白鳳》結花〉〈リアン〉と駆逐艦からなる小艦隊と0634分に接触、戦闘を開始していたからだ。必死に抵抗する駆逐隊をホウキでなぎ払うかのように〈木ノ下フォン・ファルケンハイン貴子〉の46センチ砲が火を吹く。戦闘力のほとんどない空母と駆逐艦、対するはドイツ最強の戦艦部隊。余りに異様かつ絶望的な戦闘に駆逐艦隊を率いる寺内正道少将は叫んだ。
「戦艦が……戦艦が、そこにいるんだ、馬鹿野郎!」
 いや、空母もそこにいた、僚艦〈リアン〉の被弾を目の当たりにした〈江藤《白鳳》結花〉が反転、15センチ砲で応戦してきたのだ。続けて水雷艇〈神岸〉を放って近づいてきた〈日野森《プリンツ・オイゲン》美奈〉に魚雷を食らわせ、飛び蹴りか魔法でも食らったかのように飛び出してきた艦載機がしつこく妨害を繰り返す。
 この異様な状況に狼狽した大西洋艦隊司令部(草鹿)は緊急電を打った、しかも平文で。「第二機動艦隊はいずこにありや。全世界はこれを知らんと欲す」
 瞬間、第二機動艦隊司令長官・大林末雄中将は切れた。落ちついた人間程切れたら怖いという。彼がまさにそれ。全ての自負を吹き飛ばされ、〈長森《大鳳》瑞佳〉の艦橋が爆発するのではないかと思えるくらいに怒り狂った。
 牟田口参謀長が「おやめなさい!しっかりなさい!」と抑えつけてなんとか収めた後、彼はすぐに命令を出した。軍法会議は避けられないだろう。だがその前にやる事がある。
「敵機動部隊を攻撃せよ」
 単純明快な命令だった、やる事は同じだ。敵艦隊全てを沈めるまで戦う。大林は腹を決めた。責任は自分一人が背負えばいい。腹でも首でも切ってやる。
 一方のノルトマン艦隊側はというと、高海艦隊からの「敵空母轟沈」(当然誤報)との入電に士気は湧き上がっていた。戦艦部隊がにっくき敵空母を叩き潰している。我々の犠牲は無駄ではない、これで士気が上がらずどうする。
 0817分、第二機動艦隊からの第一次攻撃隊225機(通算では第三次)が突撃。次の犠牲者となったのは〈《ドクトル・エッケナー》コリン〉。タイピングのような砲火を撃ってはいるが被弾により統制射撃ができない。行き当たりばったりの対空砲火では敵機は防げない。たちまち直撃弾を浴びて内部から打ち砕かれていく。
 枢軸側の第三次攻撃が終わった時、〈《ドクトル・エッケナー》コリン〉は沈んだ。確かに打撃としては大きい、だが真に大きな打撃は〈橘《フォン・リヒトホーフェン》天音〉が食らった最初の直撃弾で通信設備が破壊されたことだった。旗艦変更を具申する艦長や参謀に対して頑として彼女から動かなかったノルトマンは、このため「攻撃を受けつつあり」を送信できない致命的ミスを犯すことになったのだ。
 当の高海艦隊は逃走空母を追いつつレイキャビクへの道を進んでいた。しかし彼女達に新たな攻撃隊が襲いかかる。第1機動艦隊(村上)からの艦載機が遠距離攻撃を開始したのだ。彼等は母艦に戻る必要はなかった、アイスランドの飛行場にでも降りればよかったのである。たまりかねた高海艦隊は0826分、ついに反転、攻撃してきた敵機動艦隊(もちろん幻)を攻撃すべく南下していく。
 そう、この時点でノルトマン艦隊の戦いは実質終っていたのである。後はいかにして第2機動艦隊の追撃を振り切って港に戻るかであった。しかし情報の伝達漏れ、掌握不足は破滅への道を進ませることになる。


破滅への道

 0958分からの207機による第4次空襲。今度は今までとは逆に第二群を主敵と定め、152機が第二群側に向ってきた。
「来たか」
 対空ロケット弾と妨害兵器はまだ使える。被害も大したことはない、第二群は再び防空態勢を整えた。だが再出撃してきた小瀬本少佐率いる日本攻撃隊は戦い方を変えた、誘導魚雷も誘導爆弾も信管を切って普通の爆弾と魚雷にして叩きつけて来たのだ。これならフレアやチャフに反応することもないし、弾幕で誤作動することもない。
 当然レーダー管制とVT信管による弾幕を張って対抗するフランス側。だが小瀬本少佐を始めとする攻撃隊は横滑りや細かい機動でこれを次々に避けていく。いかなVT信管といえども「砲塔を敵に向けて」射撃しなければ当たらない。機動性を生かして敵の照準を外せばなかなか撃墜されないものである。ただしこの戦術にはベテラン搭乗員の確かな「腕」が必要。そしてベテラン搭乗員は日本には数多く残っていた。下手な小細工無しで戦い抜けるだけの技量を持った搭乗員を。
 こうなると相手になる方は破滅するしかない、外周にいた〈イフィジェニ〉がまずこれを食らった。ロケット弾を景気良く放っていたところに爆弾が命中。行き足が止まったところに魚雷2本が命中して一挙に傾斜。5230トン、15センチ連装自動砲3基を持つ通報巡洋艦はあっという間に転覆してしまった。続けざまに護衛駆逐艦〈オエリット〉〈ローゼ〉が爆弾をもろに食らって紅蓮の炎に包まれる。所詮は1802トンの護衛駆逐艦。13センチ連装自動砲3基と対空ロケット弾による対空火力は強いが防御は弱い。一旦崩されると脆いものだ。
 隊長たる小瀬本機に対しても激しい対空砲火が打ち上げられる。だがマーシャル沖からの大ベテランの彼にとってはこの程度何でもなかった。右に左に芸術的にかわしながら爆弾を投下。〈御薗《デスタン》瑠璃子〉の飛行甲板を貫通して格納庫で炸裂した。
 「くっ……」
 敵側のあまりに見事な機動と爆風を眺めながらジャルディンは嘆息するしかなかった、こちらの戦術を打破れる程の搭乗員をこれだけ用意できるとは。だが感心させてくれる余裕はなかった。一斉に投下された6発の爆弾と4本の魚雷のうち2発が左舷スポンソンと艦橋後部で炸裂。じりじりと〈御薗《デスタン》瑠璃子〉を追い詰めていく。他艦も対空砲火で援護しているがあまりにも敵の腕前が良過ぎる。誘導弾がない今、彼等は真の実力を発揮していた。
 〈君影《シャンプレン》百合奈〉のオルベリスは必死にあがくジャルディンと違って運命を悟っていた。好きなようにすればいい。それが運命なのだから。だが悟ったものの強みか、〈御薗《デスタン》瑠璃子〉が直撃弾を食らって火災を起こしていた時にも彼女には攻撃は当たらなかった。
 しかしそれも終りの時が来る、1043分、魚雷がまともに艦首に直撃、17ノットに速度が落ちたところに艦尾に深々と魚雷が命中、左舷舵とスクリューを失った上に後部機関室で炸裂しため1115分には航行不能になってしまった。
 1118分、満足したかのように敵機は去り、第4次攻撃は終った。第二群は実質1回の攻撃で艦隊としての体を失っていた。ノルトマンは第二群に第一群への合流命令を出すとともに〈三好ダンケルク育〉に対して〈君影《シャンプレン》百合奈〉の曳航準備を命じた。一方〈御薗《デスタン》瑠璃子〉は〈ナイアド〉に守られつつ北方に向う。
 1245分、ノルトマンから「〈君影《シャンプレン》百合奈〉を曳航、リガに向え」という命令が〈三好ダンケルク育〉に届いた。ちょっと待て。ここはどこだと想っているんだ。空襲がいつ始まるかわからないし、途中に敵がうようよする北海を空母を引っ張って戻れと?
 そんな中でも第二機動艦隊の空襲は続く、第五次攻撃で〈美咲《ヘルマン・ゲーリング》彩〉が沈没。そして止めを刺すかのように1430分、大挙して第六次攻撃隊がやってきた。連続出撃と損害で稼働機が激減した日本機にかわってギルクリスト大尉が率いる合衆国攻撃機が主力だ。動けなくなっている〈君影《シャンプレン》百合奈〉を素早く飛び越え、24ノットでなおも北方に航行する〈橘《フォン・リヒトホーフェン》天音〉と〈七城《ヴェーゼル》柚子〉を狙って攻撃をしかける。左右からの爆雷撃、対艦誘導弾と滑空爆弾、回避不可能な攻撃が彼女に引導を渡した。文字通り弾丸を打ち尽くすまで戦い抜いた〈橘《フォン・リヒトホーフェン》天音〉は総員退官命令を出した後ゆっくりと沈没していく(*注7)
 まもなく〈七城《ヴェーゼル》柚子〉も多数の至近弾のために浸水、遅れてやってきた攻撃隊の雷撃で航行不能になった。ずっと練習空母で初の実戦参加がこの戦いという彼女が最後まで戦った空母になるとは世の中皮肉なものだ。
 1526分、〈七城《ヴェーゼル》柚子〉が沈没、そして1611分に〈橘《フォン・リヒトホーフェン》天音〉が沈没。これによりノルトマン艦隊の空母は停止して悪戦苦闘している〈君影《シャンプレン》百合奈〉のみとなった。もはや艦隊はバラバラに近く、〈桜塚《シュリーフェン》恋〉に乗り換えたノルトマンには「艦隊を連れ返る」という困難な任務が残されていた。そして彼は知らなかったが護衛部隊から抽出編成された第24群(城)が追撃をかけているのだ。時間はない。


託すもの、託されるもの

 その頃ド・ラフォンドの〈三好《ダンケルク》育〉と〈東雲《ギッシャン》深月〉はもっと悪戦苦闘していた、ぽつぽつと攻撃してくる敵機を避けながら曳航準備をするのは実質不可能に近い。ならばとばかり〈君影《シャンプレン》百合奈〉に接艦して移乗させようとするが空襲下ではいかんともしがたくついに1540分、一旦北上してノルトマン艦隊と合流を図ることにした。
 そして1625分、急速北上する第24任務群は〈君影《シャンプレン》百合奈〉を視界にとらえ、〈椎名浪速ゆうひ〉が砲撃を開始。対して〈君影《シャンプレン》百合奈〉も健気に応戦するが10センチ高角砲は敵艦には届かない。
 一方の〈三好《ダンケルク》育〉艦内では論争が始まっていた。被弾による損傷は無視できない、燃料も少ない。だが我々は動けない〈君影《シャンプレン》百合奈〉を置いてきてしまった。たとえ彼女が沈没していたとしてもそれを確認しなければ任務を果たしたことにはならない。
「騎士の情けだ、引き返そう、〈君影《シャンプレン》百合奈〉のところへ……」
 ド・ラフォンドは決断した、将兵全てが賛成した。燃料も損害も関係ない、我々は味方を救いにいくのだ。小艦隊は全速で南下していく
 「距離24000に敵艦あり、複数」
 「砲撃戦用意!」
 艦長の声が響き、〈三好《ダンケルク》育〉の38センチ砲が目標に向けて旋回する。〈東雲《ギッシャン》深月〉と〈前田《ル・テリブル》健一〉〈ロソリス〉〈セリシア〉〈コスモス〉が散開。それぞれ雷撃準備に入った。
 一方日本側、砲弾を受けて火災に包まれる〈君影《シャンプレン》百合奈〉に対し、機動艦隊の参謀からは「〈君影《シャンプレン》百合奈〉を戦利品として曳航できないか?」などと言ってきていた。それに対して〈椎名《浪速》ゆうひ〉の城英一郎中将はいい思いはしていなかった、もし歴史がちょっとでも狂って自分があの艦の艦長だったらどうするだろう?やはりああやって絶望的に反撃するのだろうか……
 「駆逐艦に雷撃させろ、彼女をもう苦しめるな」
 いくら敵とはいえ、彼には動けないものをなぶり殺しにするのは余りにも気が引けた。楽に沈めてやろう。が、その瞬間水平線の向こうから弾丸が飛んできた。何者だ?
 近寄るにつれて状況を確認した〈三好《ダンケルク》育〉のド・ラフォンドは攻撃を命じ……る必要もなかった、動けない空母を集団でなぶり殺しか。今までの対空戦闘のうっぷんと怒りが乗り移った砲弾が放たれる。これで当たらなかったら世の中おかしい。
 そして次の瞬間、〈椎名《浪速》ゆうひ〉に大衝撃が走った。38センチ砲弾が「すね蹴り」のように艦首近くに炸裂したのだ。
 「……イタリア人のか!」
 正解。〈三好《ダンケルク》育〉は主砲の33センチ4連装砲塔を〈涼原《インペロ》千晴〉の38センチ3連装砲塔と交換していたのだ。
 艦首に穴を空けられてあたふたしている〈椎名《浪速》ゆうひ〉を尻目に〈三好《ダンケルク》育〉は軽快なフットワークを生かして〈槙村《愛鷹》愛〉に目標を移す。とにかく敵に打撃を与えて時間を稼がないとならない。割りこんできた〈鷹城《摩耶》唯子〉に対しては〈東雲《ギッシャン》深月〉が全火器を無闇やたらと撃ち返す。弾着も何もあったものではない。〈鷹城摩耶唯子〉は何を避けていいのかわからなくなって距離をとるため下がった。それをみてあたふたする駆逐艦群に〈前田《ル・テリブル》健一〉〈ロソリス〉で殴りこんで魚雷を撃ちこむ。あわてて散開する駆逐艦。
 その隙を突いて〈セリシア〉が〈君影《シャンプレン》百合奈〉に近づいて乗員の移乗を開始した。約1600人の人間を乗員190人の護衛駆逐艦に詰め込むのは離れ業が必要だがそんなことは言ってられない。途中から〈コスモス〉も加わって鈴なりに乗員を詰め込んだ。
「行きましょう」
 6B53戦闘機隊長のログロアン少佐がオルベリスに問いかけた。半分壊れた艦橋には既にこの二人しか残っていない。
「乗員は?」
「〈セリシア〉に託しました、さあ運命を超えましょう」
 これは『逃げ』ではない、「親」たる存在である艦は沈む(既にキングストン弁を開いている)が「子供」である乗員はそれを受け継ぎ生きなければならない。そうログロアンは言いたげだった。艦上戦闘機パイロットとして86機を落とし、そして今日も生き抜いた彼が。
 1655分、〈君影《シャンプレン》百合奈〉は自沈。しかし乗員は戦死者を除きほとんどが救出された。呪われた艦と呼ばれた〈君影《シャンプレン》百合奈〉は最後に自らの乗員を生かすことによってその運命を払った……のではないだろうか。
 こうなると本当に長居は無用、半ばパニックになっている敵艦隊を尻目にド・ラフォンド艦隊は全速で北上。1920分、南下するノルトマンの残存艦隊と合流した。さすがに両艦隊とも損害が激しい。だが彼らは生き抜くことに成功した。
 1月26日午前、残存艦隊は基地から再出撃したイースト少佐率いる航空隊の護衛の元、トロンハイムに到着。結局残ったのは〈桜塚《シュリーフェン》恋〉〈鷺ノ宮《ビューロー》藍〉〈三好《ダンケルク》育〉〈東雲《ギッシャン》深月〉〈ザールブリュッケン〉と駆逐艦6隻。彼女達にはまたそれぞれの運命が待っていた(*注8)


報い

 話しを戻して25日2130分、〈御薗《デスタン》瑠璃子〉は沈没した艦の乗員を乗せた〈ナイアド〉とともに南下していた。なぜこうなったかというと1140分、ジャルディンに高海艦隊の反転、撤退が報告されていたのだ。半分戦意を喪失した艦にとってはとどめの一撃といえよう。我々の犠牲は何だったんだ?馬鹿だ、我々は。だからこうして分離して戻っているのだ。
 そう自問し、自嘲していると衝撃が走った。散開していた日本潜水艦が誘導魚雷を撃ったのだ。右舷に直撃した魚雷はボイラーを破壊したが火災も起こらず、なんとか航行だけはできる。
「大丈夫だ、8ノットならまだ走れる、リガに戻れるぞ」
 ジャルディンはそう艦内を元気づけた。だが一緒についてきた〈ナイアド〉が沈みかけている。このままほっておく訳にはいかない。だが敵潜水艦はまだいる。ここで止まってしまえば撃たれるに決まっている。そしてその結果は……言う必要がどこにある。
 だがジャルディンは〈御薗《デスタン》瑠璃子〉を停止させて救助にかかった。ボートが降ろされて救出が始まる。
が、現実は厳しかった。最悪の運命が来た。停止した〈御薗《デスタン》瑠璃子〉に向って魚雷が迫り、そして4本が深々と命中した。
 「報いか……」
 沈み行く〈御薗《デスタン》瑠璃子〉でジャルディンは思った。逃げていたのは結局こっち、そして呪われていたのもこっちだったのか。ようやく気付いた。遅すぎたな。
 2330分、〈御薗《デスタン》瑠璃子〉は沈没。「攻略不能」と呼ばれた彼女は確かに航空攻撃では沈まなかった。だが最後は忘れ去られるように海底に消えていったのである。
 
#注7:ノルトマン自身は最後まで残るつもりだったが、艦長によって艦橋から追い出されて〈桜塚《シュリーフェン》恋〉に移乗している。
#注8:〈桜塚《シュリーフェン》恋〉〈鷺ノ宮《ビューロー》藍〉は結局トロンハイムで着底している。


要目

  • 基準排水量 27307トン 
  • 満載排水量 32780トン
  • 全長 265.2メートル 
  • 全幅 31.7メートル 
  • 喫水 8.6メートル
  • 飛行甲板 270.2メートル×51.2メートル(最大幅)
  • 格納庫/1段:171×27×7メートル(長さ×幅×天井高)
  • 主機 ラトー・ブルターニュ・タービン2基/2軸
  • 主缶 アンドレ缶4基
  • 出力 146000馬力 速力 33ノット
  • 航続力 18ノットで7000海里
  • 兵装 
    • 45口径10センチ連装高角砲4基
    • 60口径5.7センチ連装高角砲8基
    • 60口径37ミリ機銃28基
  • 装甲 艦橋85ミリ、舷側76ミリ
  • 搭載機 52機

同型艦