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〈アルクェイド《ティーゲル后侫屮螢絅鵐好織奪鼻

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ドイツ帝国陸軍主力戦車 将傾〈アルクェイド《ティーゲル后侫屮螢絅鵐好織奪鼻

TYPE−MOON「月姫」/「歌月十夜」アルクェイド・ブリュンスタッド/『朱い月』

概要

 世界最強の戦車にしてドイツ戦車の代名詞たる〈ティーゲル〉シリーズの最新型である。戦車の王族と讃えられ、その人気は極めて高く、敵味方を問わずファンが多い。大ドイツ帝国崩壊後には(基本的に)本国配備のみという制限がはずされて兵器市場に姿を現して注目を集め、日英仏のMBTとシェアを巡って激しく角を突き合わせている。
 制式採用は1988年12月25日。グロス・ベルリンでの披露を兼ねたパレードでは純白の冬季迷彩で現れ、その戦車にしてはやたらと爽やかな容姿で衆目を集めた。よって「白の姫」とも呼ばれる。MBT第三世代の開祖となった将狭罅劵▲襯ェイド《ティーゲル検侫屮螢絅鵐好織奪鼻咾硫良型ということができ、第3.5世代に属している。
 第3次世界大戦後、〈八車《七式中戦車》文乃〉の改良で戦車ギャップを埋めるという、悪しき伝統を繰り返していた日本陸軍は1977年の将狭罅劵▲襯ェイド《ティーゲル検侫屮螢絅鵐好織奪鼻咾僚亳修望弖發鮗け、次世代戦車開発に一層拍車がかかることになった。これにより〈蒼崎《四八式中戦車》青子〉が出現するのだが、敵方のみならず、ドイツの同盟国でも〈アルクェイド《ティーゲル后侫屮螢絅鵐好織奪鼻に対抗すべく新戦車開発に邁進している。特にフランスの敵愾心は共同開発計画が潰れただけに強く、新機軸に満ちた〈シエル〉を送り出す契機ともなっている。
 設計はスポーツ車や大衆車フォルクスワーゲンの設計で名高いポルシェ社(注1)。生産はクラウス・マッファイが主契約社となり、ヘンシェル・ヴェアテクニクが副契約社となっている。アメリカ東部連合においてはダイムラー・ベンツ傘下のクライスラー、そしてゼネラル・モータースが生産を担当している。

 〈アルクェイド《ティーゲル后侫屮螢絅鵐好織奪鼻の乗員配置はドイツの伝統に従っており、操縦手は車体前部左側に位置し、戦闘室には車長、砲手、装填手の3名が位置している。車長は砲塔内左側、砲手は車長の前に、そして装填手は砲塔内右側である。右目で照準器をのぞく砲手優先の配置なのだ。
 装甲は砲塔の前面と側面に複合装甲が施され、それ以外はスペースド・アーマーとなっている。車体についても前面に複合装甲が、側面にはやはりスペースド・アーマーが各々採用されている。そして将狭罅劵▲襯ェイド《ティーゲル検侫屮螢絅鵐好織奪鼻咾任録眥召棒擇衫った砲塔形状をしており、避弾経始を考慮する前の差罅劵▲襯ェイド《ティーゲル機侫屮螢絅鵐好織奪鼻咾慇菫諜△蠅靴燭のような印象を周囲に与え、その複合装甲の防御力に対する自信をうかがわせた。しかしドイツはなおも満足せず、将傾〈アルクェイド《ティーゲル后侫屮螢絅鵐好織奪鼻では砲塔前面に楔形をしたショト装甲を装着している。これにより〈アルクェイド《ティーゲル后侫屮螢絅鵐好織奪鼻はゴージャスなプロポーションを誇ることになり、砲塔前面は最大1000ミリに近い厚みを持って、〈シエル〉〈ナルバレック〉の放つAPFSDS弾「黒鍵」のことごとくを弾くことが可能となった。クラウス・マッファイによれば、既存のあらゆる化学・運動エネルギー弾に対する防御力があるという。砲塔側面とサイドスカートも複合装甲が追加装着されており、〈アルクェイド《ティーゲル后侫屮螢絅鵐好織奪鼻の防御力は世界屈指のものとなっている。
 エンジンは本国仕様がMTU社のMB870V型12気筒水冷ディーゼル(1600hp)で、レンク社のHSWL354トランスミッションと共にパワーパックを構成している。東部連合ではゼネラル・ダイナミック製のAV1790水冷ディーゼル(1500hp)が採用された。
 懸架装置は信頼性のあるトーション・バーが採用されている。履帯はディール社のダブル・ピン、ダブル・ロック式のものが採用されている。この足周りは優れた評価を勝ち得ており、〈アルクェイド《ティーゲル后侫屮螢絅鵐好織奪鼻の高い機動力を支えているのである。
 90年代にスウェーデン陸軍の次期MBTとして〈アルクェイド《ティーゲル后侫屮螢絅鵐好織奪鼻(滑腔砲仕様)と〈シエル〉が競合したが〈アルクェイド《ティーゲル后侫屮螢絅鵐好織奪鼻が選定されている。その選定理由の一つが良好な機動性であり、特に積雪地では競合車両より大幅に勝っていたという。
 主砲はラインメタル・ボルジヒの55口径128ミリ滑腔砲。第2世代まではライフル砲が主流だったが、将狭罎滑腔砲を採用したことから各国の第3世代戦車は滑腔砲が主流となっている。その初速は1750m/sに達し、あらゆる戦車を「肉塊」とするほどの強威力を誇った。
 ラインメタル・ボルジヒ128ミリ砲では燃焼薬莢を採用したのが大きな特徴で、薬莢に相当する部分も装薬でできており、薬室内で燃え尽きるため空薬莢が出ない。ただし閉塞のために底部だけは金属製なので、厳密には半燃焼薬莢というべきである。
 使用弾種はAPFSDS弾とHEAT−MP弾である。対戦車用の強力な爪であるAPFSDS弾DM−33は炭化タングステンを弾芯の材料としており、主にドイツ本国で用いられている。ロシアや東部連合ではDM−53が用いられているが、これは劣化ウラニウムを弾芯としており、放射能汚染の危険性が高い。これはドイツ軍がロシア、東部連合をどう考えているかを暗示しているといえる。
 〈アルクェイド《ティーゲル后侫屮螢絅鵐好織奪鼻はこれらの主砲弾を42発搭載している。この内27発は操縦手右側の弾庫に、残り15発は砲塔バスルに格納されている。
 戦闘システムは、車長用にはパノラミック照準器が装備され、砲手にオーバーライドして照準する機能を有している。これは全周旋回が可能で、視野の照準線に目標を捉えると砲および砲塔が自動的に追尾するようになっている。
 砲手用照準器は「金色の魔眼」とも呼ばれるEMES15で、可視光、赤外線、レーザー照射装置が統合されていて、照準能力は世界屈指の評価を得ており、ドイツ精密加工技術の粋といえる。「魔眼」の能力が伝統的に低いロシア戦車に対する大きなアドバンテージである。レーザー測距装置はネオジウムを使用するタイプで、金色の光線を用いて9990mまでの測定を可能としている。
 射撃統制コンピュータはFLT3で、諸国での「魔術回路」の進化に伴って本車もデジタル・コンピュータとデータ・バスの大幅な強化がなされている。さらにモジュラー型の戦車指揮/統制システム(TCCS)が装備され、部隊単位戦闘力の大幅な向上が図られた。

 以上により〈アルクェイド《ティーゲル后侫屮螢絅鵐好織奪鼻が「走攻守」のバランスが取れた戦車であることが分かる。
 しかし、帝国の崩壊までドイツは〈アルクェイド《ティーゲル后侫屮螢絅鵐好織奪鼻を輸出していない。その例外は東部連合とスウェーデンで、カエサル・ラインの向こうで太平洋条約機構軍と対峙する東部連合には強力な戦車が必須であり、質の高い鉄鉱石やタングステン鉱を産するスウェーデンの歓心を買う必要があるのである。フランスの〈シエル〉などに市場を奪われるわけにはいかないのだ。
 このことは〈アルクェイド《ティーゲル后侫屮螢絅鵐好織奪鼻がロシアを睨んで開発されたことを意味している。〈アルクェイド《ティーゲル后侫屮螢絅鵐好織奪鼻は飽くまでもロシア戦車と戦う戦車であり、日本戦車〈蒼崎《四八式中戦車》青子〉との戦いは二次的なものなのである。
 そしてドイツは輸出用として、さらに同盟国の主力戦車に充てるべく、執罅劵譽パルト〉系列の生産を続けている。第3次世界大戦中に制式化された古参の戦車ではあるものの、機動力が高く、防御力と攻撃力でもバランスのとれた能力を示した〈レオパルト〉は中戦車として評価が高く、量産に伴う調達コストの低廉さもあって長くドイツ装甲兵力の中核を成している。そして〈レオパルト〉には〈ティーゲル〉系列に注ぎ込まれた技術を用いて改良が施されており、その攻撃力は第3世代戦車群にも劣るところがない(注2)。僅かに機動力が劣るのみといえる。
 事実、ドイツ国内でも装甲戦力の全てが〈ティーゲル〉系列ではなく、30%が未だ〈レオパルト掘咾鯀備しているのである。
 しかしながらドイツ兵器の威力を宣伝するには〈レオパルト〉系列だけでは不十分な場合がある。そのような時は〈ティーゲル〉系列を装備した軍事顧問団直属部隊が敵部隊(太平洋条約機構側)を相手取る。圧倒的な攻撃力と頑強極まりない防御力で敵を潰すと直ちに本拠へ戻る。これによりドイツが肩入れする勢力はドイツ兵器の大いなる威力を知り、反対に敵方には〈ティーゲル〉系列を含むドイツ兵器の恐怖伝説が蔓延することになる。
 〈ティーゲル〉系列が著名な割に、戦場における姿を太平洋条約機構側が眼にする事が少ないのは、これに起因するのである。伝説は一人歩きし、日本に対して戦車ギャップの劣等感を与え続けた。

 〈アルクェイド《ティーゲル后侫屮螢絅鵐好織奪鼻はドイツ科学技術の粋が注ぎ込まれた戦車として世界最強の名に恥じないが、特に本国仕様のD型はこれまでの戦車と違い、世代を突き抜けた強力な武装が施されている。
 将傾罍跳燭粒梓僂錬歎燭泙任汎辰吠儿垢呂覆い發里痢⊆臻い賄吐化学砲を採用し、パワーパックはMTU社のMT880V型12気筒水冷ディーゼルである。
 ラインメタル・ボルジヒ電熱化学砲は、パルス電源からの高電圧放電によって発生するプラズマを、作動媒体と呼ばれる液体の中で起こし、瞬時に発生したガスの圧力膨張で砲弾を発射する。砲口初速が3000m/sに達し、発生エネルギーは30メガジュール弱にもなる。その強大きわまりない破壊力の前では、「不死身」を謳う〈シエル〉のモジュラー式複合装甲でも太刀打ちできず、射撃試験では心臓をえぐり出された死体のような無惨な姿をさらしている。劣化ウラニウムを充填した複合装甲を持つ〈蒼崎《四八式中戦車》青子〉だけが辛うじて耐えられると言われている。
 パワーパックのMT880は、一つ前の世代のMB870に比べて半分の排気量で同等以上の高出力(1700hp)を発揮しており、コンパクト化されたパワーパックの空いたスペースには発電ユニットと高性能コンデンサーが配置された。これにより電熱化学砲を駆動するのである。

 代々の〈アルクェイド《ティーゲル》ブリュンスタッド〉が過剰なまでの攻撃力と防御力を持つのは、「戦車殺しの戦車」であることを存在理由としているからである。その意味で対戦車戦闘、陣地突破、歩兵援護といった多様な任務をこなすべく開発された中戦車とは様相を異にしている。〈アルクェイド《ティーゲル》ブリュンスタッド〉はただひたすらに敵戦車を狩る戦車なのだ。
 それには大ドイツ帝国初代総統アドルフ・ヒトラーの意志が介在している。ヒトラーは「敵の砲弾を跳ね返し、あらゆる敵戦車を粉砕する最強の戦車」という妄想を実現すべく、ポルシェ博士に命じて様々な戦車を開発させていた。全ての〈アルクェイド《ティーゲル》ブリュンスタッド〉はヒトラーの外界を浸食する意志、つまり空想の具現化した姿といえるのだ。

注1:正式名称を「名誉工学博士フェルディナンド・ポルシェ株式会社」という。設立は1931年、ドイツ南部のシュツットガルトである。
注2:執罍膳燭話鯊にづ磴烹隠娃汽潺衙ぁ複味毅院砲鮖ち、ドイツ主力戦車として初めてディーゼル・エンジンを搭載した。B型〈レオパルト供咾亘づ磴覆匹鮹羔装甲にして対戦車ミサイルに対抗し、70口径の105ミリ砲を搭載している。後に複合装甲や爆発反応装甲ユニットを後付にして防御力を高めている。C型〈レオパルト掘咾亙9臍甲による箱形の砲塔に44口径128ミリ滑腔砲を搭載している。これは執罍揃燭豊将狭罎遼づ磴鮑椶惨垢┐燭發里任△襦
湾岸戦争においてイラク軍は一般師団にはB型〈レオパルト供咾髻大統領警護隊タワカルナ機械化師団にはC型〈レオパルト掘咾鯀備していた。


朱い月

 事の発端はヒトラーの発言だった。1934年初頭、クンメルスドルフでの装甲部隊の機動演習を見学してのことである。
「戦車の敵は何か」
 ハインツ・グデーリアンは直ちに答えた。戦車の敵は戦車です、と。ヒトラーは満足した。グデーリアンの、高初速砲を備えた軽戦車ZW(後の傾羸鐚屐砲卑愧橡い鯣えて銃座制圧を主任務とする中戦車BW(後の弦羸鐚屐砲領昭圓鯊靴┐觜汁曚鮹里辰討い燭らだ。
 しかし参謀本部や兵器局はそれを理解し得ず、ヒトラーは傾羸鐚屬粒発遅延と50ミリ砲の搭載を参謀本部が不要とはねつけたことを知った。ドイツだけが戦車を持っていると思っているのか、戦車砲と装甲は互いに強化され続け、戦車は際限なく巨大化するのだ!このヒトラーの言は全く正しく、後の独ソ戦や対日戦を予言したものとなった。
 そしてヒトラーは一つの思いつきを得た(注1)。参謀本部がZWの改良を拒むならば、対重戦車戦闘専門の戦車を新たに開発すれば良いではないか。ヒトラーは兵器局長リース将軍に攻撃防御戦車開発を指示した。1936年である。これが〈アルクェイド《ティーゲル》ブリュンスタッド〉の源流となる。
 この攻撃防御戦車開発計画は、フランスのシャール2C、3C/Dを対抗目標としたもので、主砲は初速650m/sの75ミリ砲を装備するものだった。弦羸鐚屬謀觝椶気譴臣史た鳩燭箸楼磴Α⊃卦開発の長砲身砲が考えられていた。主要部の装甲は20ミリ以上とされていたが、車体重量は30トンと見積もられていた。
 同年11月にクルップへ75ミリ砲装備の砲塔開発要求が発せられ、続いてヘンシェルに30トン級戦車の車体開発が要求された。これにDW(突破車)の秘匿呼称が付与された。
 ヘンシェルではDW1とDW2と呼ばれる二種類の車体を製作したが、その姿は弦羸鐚屬粒搬臠任箸いΔ發里如▲劵肇蕁爾亘足できなかった。ヒトラーの思い描く「究極の戦車」には全く及ばない欠陥品だからだ。
 1939年10月に、DWはVK3001(H)と計画呼称が改められ、ヘンシェルは転輪配置を片側7枚のオーバーラップ式にした試験車両を出している。ヒトラーは試験にあたった兵士の訴えた、オーバーラップ式配置での交換の煩雑さや泥濘の詰まり易さに耳を傾けている。同時にクルップの砲塔も発展性が無いと判断し、これも中止となった。
 また1939年末にポルシェに対しても戦車開発要求が出され、VK3001(P)としてスタートした。しかし、これも電気駆動方式に起因する問題が解決できず、計画自体が中止となっている。
 1940年、VK3001はさらに、より強力な火砲を積めるように重量増加が図られてVK3601へと発展した。この時の主砲に想定されていたのは75口径75ミリ口径漸減砲(ゲルリッヒ砲)だったが、タングステンを輸入に頼るドイツでは砲弾の大量生産に問題がありすぎ、これも計画中止とあいなった。

 相次ぐ失敗にヒトラーは怒り、焦った。ドイツは東にソ連、西にフランスという大敵を抱えており、下手をすればドイツは東西から挟撃されて滅びかねない。それは地勢上のドイツの宿命であり、故にドイツ民族は世界からの圧力で消去させられかねないのだ。それを防ぐには強力な戦車でもって敵戦車を潰さねばならない!
 さらにフランス侵攻作戦は勝利に終わったとはいえ、ドイツの主力戦車(と見なしたがっていた)傾羸鐚屬シャールやマチルダといった強力な装甲を持つ戦車に歯が立たなかった。よって、1941年5月26日の会議において、さらに重装甲かつ一層強力な火力を備える新型戦車開発を求めた。秘匿名称は「朱い月(ローテ・モーント)」。ベルヒテスガルテンの山荘から眺めた月が、朱に染まっていたことにちなむという。
 これがVK4501であり、〈アルクェイド《ティーゲル》ブリュンスタッド〉に発展することとなる。開発要求はヘンシェルとポルシェ両社に出された。ヒトラーはドイツ技術の粋を込めるよう要求していた。この頃にはT34/76の衝撃がドイツ軍を揺るがしていた。急がねばならない。
 そして試験の結果、ヘンシェルの車体VK4501(H)(VK3601の拡大版)に高い評価が与えられたがヒトラーは不満だった。ヘンシェルがオーバーラップ式の転輪配置を改めなかったからだ。兵士が扱いにくい兵器を送り出すのは本末転倒と、ヒトラーは考えていたのである。これによりVK4501はヘンシェル案とポルシェ案の折衷となった。砲塔と足周りはポルシェで、車体自体はヘンシェルである。
 1941年8月7日、VK4501は差羸鐚屐劵▲襯ェイド《ティーゲル》ブリュンスタッド〉と命名された。角張った砲塔、太く長く突き出した主砲、小山のような車体は、全てヒトラーの趣味に合致した。これならばソ連戦車どもを破砕できよう。後にリンツに作られた総統大本営が「ティーゲルシャンツェ(虎の巣)」と名付けられたのは、差羸鐚屬僕獲茲垢襪箸泙埜世錣譴燭曚匹任△襦それ程、〈アルクェイド《ティーゲル》ブリュンスタッド〉はヒトラーの望んだ戦車そのものだったのだ。

 〈アルクェイド《ティーゲル》ブリュンスタッド〉の初陣は1942年10月の北アフリカとなった。東部戦線は〈アルクェイド《ティーゲル》ブリュンスタッド〉が投入される前にモスクワが陥落し、ソ連軍の東方への撤退により事実上終結していたからである。
 そして1942年11月中旬、ソ連軍は冬季攻勢に出た。それはスターリングラードからミチュリンスク、リャザンを経て最終的にモスクワを奪還することを目的としていた。モスクワに交通線が集中する交通体系を利用して、ドイツを上回る大戦力の集中を図ったのだ。
 ソ連軍の進撃は快調だった。ドイツは英本土侵攻を継続中で、東部戦線に割ける戦力は少なかったのである。しかしソ連軍の前に〈アルクェイド《ティーゲル》ブリュンスタッド〉が立ちはだかった。
 第502、503の重戦車大隊を基幹戦力とするカンプグルッペが機動防御を展開し、88ミリ砲はT34を引き裂き続け、ソ連軍はおびただしい出血を強要されてリャザン前面で進撃が停止した。
 そうこうしている内に冬は過ぎ、ドイツは戦力を再度東部戦線へと振り向け始めた。スターリンはやむなく撤退を命じたが、彼の命脈は尽きることになった。相次ぐ敗戦はスターリンの指導能力に疑問符をつけさせ、軍部の若手将校達の憤懣が頂点に達したのである。彼らはトハチェフスキーの薫陶を受けたジューコフらの弟子であり、ソ連機械化戦力の中核を担っていた。ドイツ軍の電撃戦術に対応できるだけの経験と指揮能力を得た彼らだったが、スターリンの変わらない突撃命令と死守命令に愛想が尽きたのだ。
 1943年夏、暫定首都スターリングラードにてスターリンとベリヤは共に爆殺され、軍部を監視していたチェキストらも次々と逮捕され、または殺されていった。次いで若手将校達はロシアの復活を宣言し、ドイツの手の及ばぬウラル山脈東方へ軍を率いて移動していった。
 ここにロシア二十七派閥が成立する(注2)。集団指導体制の元でロシアの復活を謳った将校達だが、強力なリーダーに欠けた状態であり、必然的に軍閥化が進行したのである。
 その1派閥に、ミハイル・ロア・バルダムヨォンが率いるロア派がある。ロアはウラル西麓アカシャを拠点として二十七派閥に属さない勢力を糾合し、たちまちの内に強大な軍閥へと成長した。ロア派の軍事力は強く、二十七派閥最大の戦力を持つ黒姫派の攻撃を跳ね返したほどだった。
 ロアの軍閥が急成長を遂げた背景には、ミハイル・ロアのあげた巨大な戦果があるからである。それは〈アルクェイド《ティーゲル》ブリュンスタッド〉を墜とした、というものだった。

 1943年の初頭、銀の月が冴える夜、雪原は月の光を浴びて花畑のようにも見えた。ロア少佐は月に雲がかかって暗闇となったのを機に戦線に大規模な煙幕を張った。次にドイツ軍無線の周波数に合わせて妨害電波を流してドイツ軍の連携を絶った。そしてドイツ軍が混乱に陥ったのを見済まし、ボルガ・ドイツ人の部下に命じてドイツ語で偽の命令を流したのである。このためにドイツ軍の暗号書をあらかじめ奪取しておいた。
 ロアの前にいた第503重戦車大隊は偽の命令とも気づかずに移動し、「敵」と遭遇した。「敵」との遭遇を伝える無電が飛び交い、混乱が広がる中で交わす砲火は激烈なものとなって、夜が明けるまで止むことがなかった。
 そして朝になって第503重戦車大隊は真相に気づいた。彼らは友軍と戦っていたのである。戦場には隣接した戦区の国防軍部隊に属する戦車の残骸が広がり、歩兵らの死体が散らばって、雪の大地は血にまみれていた。
 正気に返った〈アルクェイド《ティーゲル》ブリュンスタッド〉部隊が絶望に天を仰いでいた頃、望みを果たしたロアは高笑いしつつ戦線を脱出していた。
 この事件を知ったヒトラーは青ざめた顔で処置をさせた。既にロシアの放送が、ドイツ軍が友軍と相打った事件を世界中に報道していたのである。ドイツ国家宣伝省はすぐさま反対報道をおこない、差罅劵▲襯ェイド《ティーゲル》ブリュンスタッド〉という戦車も無ければ、第503重戦車大隊も存在しない、全てはソ連の自作自演であると、全力をあげて否定した。つまりヒトラーは未曾有の事件を引き起こした〈アルクェイド《ティーゲル》ブリュンスタッド〉ごと、全てを封印したのだ。
 事件の当事者である武装SS隊員らはSS特別裁判において極刑が求刑され、最終的に自殺を強要されていった。重戦車大隊も全て解体させられた。〈アルクェイド《ティーゲル》ブリュンスタッド〉も持ち出せないよう、保管庫に千本の鎖で固定され、鋳潰されるか腐り果てるままとされた。このため残存する〈アルクェイド《ティーゲル》ブリュンスタッド〉は10両に満たず、状態の良いものは無い。
 そしてドイツはロアを執拗に狙うことになる。独自の装甲戦力たる重戦車大隊を潰された武装SSだけでなく、国防軍もまた師団司令部を同士討ちで失い、重要な打撃戦力をロアに奪われたからである(注3)。

 かくてロアとドイツの抗争は続く。ロアはロシア内での軍閥間の抗争に勝ち続けて最大勢力を形成するまでになった。ドイツではヒトラーが第3次世界大戦において、劣等人種の戦車にドイツの戦車が敗北することが許せず、珊罅劵譟璽凜А咫↓執罅劵譽パルト〉、醜罅劵疋薀奪悒鵝咾紡海「究極の戦車(ウルティマ・アイン)」の開発をポルシェに命じた。これをVK4502と称する。
 最晩年にあったポルシェ博士は息子のフェリーらに設計を任せ、自身は全体のまとめをおこなった。それにより出現したのが捷羸鐚屐劵▲襯ェイド《ティーゲル供侫屮螢絅鵐好織奪鼻咾任△襦
 捷罅劵▲襯ェイド《ティーゲル供侫屮螢絅鵐好織奪鼻咾蝋況睥蓮∨標耄蓮機動力を高い次元でまとめあげた戦車となった。主砲は70口径という長砲身の105ミリ砲。装甲は最大250ミリ厚で、避弾経始を考慮した背の低い砲塔は中空装甲を取り入れている。足周りは横置きトーションバーで片側7枚の大型転輪。エンジンは熟成の進んだダイムラー・ベンツ製水冷ディーゼルで1000hpに達する。重量は63トンにもなった。機動力で〈レーヴェ〉、〈ドラッヘン〉を凌駕し、防御力は〈レオパルト〉を凌ぎ、攻撃力でも発射速度の遅い〈レーヴェ〉を上回る本車は、第1世代MBTの一つの完成形だった。
 クンメルスドルフで〈アルクェイド《ティーゲル供侫屮螢絅鵐好織奪鼻咾鮓たヒトラーは狂喜し、これこそ戦車だ、と叫んだと言われる。ヒトラーの空想は遂に具現化したのだ。
 直ちに〈アルクェイド《ティーゲル供侫屮螢絅鵐好織奪鼻咾藁婿困飽椶気譟日英米枢軸軍のヨーロッパ上陸に備えるべく、イル・ド・フランスとピカルディを中心に配備された。
 もし日英米枢軸軍が英本土奪回に続いてフランス奪回をおこなった場合、〈オド〉と〈アルクェイド《ティーゲル供侫屮螢絅鵐好織奪鼻咾正面から激突し、フランス北部が廃墟と化すほどの激戦になったと思われる。しかし仮定は仮定のままに終わり、ヒトラーは〈アルクェイド《ティーゲル供侫屮螢絅鵐好織奪鼻咾寮錣い鮓ることなく、1952年7月20日、現世から消滅した。

 第3次世界大戦は1952年8月15日に休戦を迎え、〈アルクェイド《ティーゲル供侫屮螢絅鵐好織奪鼻咾魯Ε薀訐鐇へと移動した。日本の極秘援助を受けたロアが支配地域を拡大し、自らの名のもとにロシアを統一すべく西方へ進撃を開始していたのだ(注4)。
 休戦後、ドイツはイタリア、フランス、フィンランド、ハンガリーなどの同盟軍と共に、本国に残っていた精鋭を直ちに東方に振り向けた。そしてモーデル帝国軍総司令直率の下、5個装甲集団は撤退と機動防御を繰り返しつつロアと諸派の連合軍をゴーリキーまで引きずり出し、攻勢限界点に達したと見るや大反撃にでた。結果ロアと諸派連合はドイツ軍とその同盟軍の重囲下に落ちた。ロシア軍は莫大な損害を出しつつも脱出し、その混乱の最中にミハイル・ロアは戦死している(注5)。指揮系統を失ったロシア軍は完全に戦闘力を失い、ゴーリキーからカザンまでの間に延々と屍を並べる結果となったのである。ロシアが攻勢能力を回復するには長い時間が必要であった。
 この時、〈アルクェイド《ティーゲル供侫屮螢絅鵐好織奪鼻咾魯僖鵐張 次Εイルでロシア軍のT55を引き裂き、蹂躙した。その獰猛な戦闘力はロシア兵を恐怖させ、ロシア軍大潰走の一因となっている。
 翌1953年の冬には「アインナッシュ」作戦が発動された。ドイツの支配領域はウラル山脈東麓にまで広がり、ウラル戦線は一安を得た。しかしロアの戦死により壊滅したと思われていたロア派は新たな指導者(ロアの名を襲名した)を立てて復活していたのである。アカシャを失ったロア派は決まった本拠を持たずに流浪し、他派閥に雇われて戦う傭兵集団と化していた。そして初代指導者を殺したドイツ軍、中でもロアの司令部に榴弾を叩き込んだ〈アルクェイド《ティーゲル供侫屮螢絅鵐好織奪鼻咾鯏┿襪掘⊆郊垢棒錣い鯆んだ。

 ドイツ軍とロア派軍の青史に記載されない闇の戦いは1995年までに17度に及ぶ。ロア派軍はドイツ人東方植民市を死都と化さしめ、ドイツ軍は代々のロアを処刑していった。幾たび処刑しても復活するロアのしぶとさは、いつしかロア派を蛇派と呼ばしめることになった。脱皮する蛇は不死であり転生の象徴でもあった。実にロア派にふさわしい名前である。
 この執拗に続く紛争でドイツは国力を消耗していく。ヨーロッパ・ロシアの資源はドイツにとって必要不可欠なだけに、維持運営にかかる費用の増大は質の悪い失血症にかかったようなものだった。
 ドイツ経済はヨーロッパ統一市場の恩恵を受けて発展したものの、国境線紛争と反応弾戦争の準備による巨大な軍備負担にドイツ帝国は喘いだ。そして発展した経済は政治の枠組みを越えた活動を欲し、抑制しようとする政府と激しい葛藤を演じていた。かくしてドイツ国内の矛盾は強まり、第三代総統ラインハルト・ハイドリヒの警察政治も相まって活力を失っていったのである(注6)。

 ドイツとロシアの宿命的な戦いにおいて、ロシアはT34の強力な後継戦車を送り出す。ドイツもまた、執罅劵譽パルト〉を強化し、最新の技術を盛り込んだ〈ティーゲル〉シリーズを作り上げる。その競争は果てしもなく続き、将傾罍跳〈アルクェイド《ティーゲル后侫屮螢絅鵐好織奪鼻という「吸血姫」を生み出した。
 ヒトラーの宿命への足掻きが、ドイツとロシアとの終わりのない戦争状況を作り出したのである。

注1:天に近いベルヒテスガルテンで、月を眺めながら思いついたと伝記作家は伝える。
注2:各軍閥はロシア正教という紐帯で結びつく緩やかな連合体を形成し、宗教上ローマ・カソリックとは激しい対立関係にある。軍閥は往時には二十七もの数を数えたが、幾多の抗争により半減した。ロア派は早期に壊滅して傭兵集団となり、ために二十七派閥に数えられていない。全軍閥は表向きドイツ憎しで連帯しているが、ドイツと気脈を通じている宝石派、イタリアとのコネクションを維持している王冠派、フランスと協同しつつ他派閥を滅ぼしての統一を目論む片刃派、外に無関心で支配地域に立てこもっている千年錠派、資源採掘や工業などの商売に注力して経済力に優れた人形派、ロシア太平洋艦隊を押さえて日本との関わりが深いスミレ派と、それぞれに方針が異なり対立が続いている。最大の支配領域を持つ白翼派がロシア連邦代表を努めているが、実質的には白騎派と黒騎派、魔犬派を従える黒姫派が最強の軍事力を持っており、その発言力は大きい。
注3:〈アルクェイド《ティーゲル》ブリュンスタッド〉が廃止されたことの副産物として更罅劵僖鵐謄襦咾寮源困班隊配備が軌道に乗ったので、実際には国防軍の損害は少なかった。〈アルクェイド《ティーゲル》ブリュンスタッド〉は高価な兵器であり、それ1台で更罎覆蕕丕押ィ蟻罅↓傾罎覆蕕丕蛎羂幣紊鮃愼できた。
注4:国場首相が反応弾による安全保障をミハイル・ロアに確約したと言われるが、日本政府は公式に否定している。しかし日本がロアに対して相当規模の援助をおこなったのは確かなことであり、ロアの進軍によってドイツが英本土守備軍へ増援を送り込む余裕がなくなったことも確かである。つまり国場はロアよりも悪辣だったわけである。
注5:ロアに敗れた黒姫派を始めとする二十七派閥は、ロアを滅ぼすことでドイツと合意に達していたとする説もある。他派の軍が包囲されたロアの司令部を救おうとしなかったことからも、その辺りの事情がうかがえる。
注6:ハイドリヒが心筋梗塞により倒れた後、総統代行となったクルト・ワルトハイムが情報解放や経済改革を実行しようとするも、党内基盤の弱さと守旧派の抵抗にあって改革は進まなかった。1995年勃発の第4次世界大戦は、国境紛争一挙に片づけて経済復興の時間を稼ごうとしたドイツの動きに端を発する。

月世界

 ヴィリィは乗車〈モールデアー(殺人鬼)〉を疾駆させていた。後方にはもうもうたる雪煙があがっている。雲一つ無い満月の夜である。敵に遠くから発見されるであろう。軍事的には極めてまずい行為だった。
 しかしヴィリィは構わずに全速で疾走させた。援軍が近づいていることを知れば敵が撤退するかも知れないからだ。であればエルンスト・ブルンシュタットを救うことが出来る。
 1996年1月31日。厳寒のロシア東部、サマーラ。月は蒼く冴え凍っている。

 第4次世界大戦を自ら起こしたドイツだったが、先制攻撃の衝撃を凌がれると苦境に陥り始めていた。ドイツの経済力は北米とロシアの二正面戦争を維持できないほどに衰弱していたのである。ドイツ銀行総裁ティートマイヤーの努力にも関わらず、ドイツは資金繰りに苦労している。超大国ドイツの凋落は明らかとなっていた。
 そしてウラル戦線においてもドイツは後退局面に入っていた。帝国軍総司令部(OKR)はアルハンゲリスク、アストラハンを結ぶA−A線の西側への撤退をウラル派遣軍に指示した。ボルガ以東を放棄するというのである。しかしボルガ以東にもドイツ人が数多く植民している。ドイツ国防軍は極寒の中、市民を守りつつ撤退するという困難な闘いを強いられていた。

 サマーラはウラルへと続く鉄道(ウファ方面)とカザフへ延びる鉄道(オレンブルク方面)の結節点に位置し、ボルガ川とサマーラ川との合流する場所でもあるという、交通の要衝である。そして反攻に転じたロシア軍の攻勢正面の一つでもあった。
 その要衝サマーラを守っているのは、通称を朱い月中隊という軍司令部直属装甲中隊と装甲擲弾兵の中隊からなる、疲弊し尽くしたカンプグルッペである。朱い月中隊指揮官エルンスト・ブルンシュタットの手持ちの戦力はD型〈ティーゲル后咾2台と、〈マルダー〉が4台にまで減少していた。
 彼らの前には、8年の準備期間を経て攻勢を開始した蛇派の軍勢が展開している。実に18度目の挑戦だった。
 そしてOKRはサマーラ橋頭堡の死守を朱い月中隊に命じていた。軍と市民の後退渡河が完了した1月31日になっても、ブルンシュタットは持ち場を離れていない。ボルガに架かる最後の橋も爆破していない。
 ロアを倒すつもりなのでしょう、とフランス・ウラル派遣軍機甲部隊の中隊長にしてヴィリィの戦車学校時代の先輩が語った。橋を爆破しないのは、ロアの本隊を自分のところまで誘導するためなんです。
 カソックに似た黒い戦車搭乗服に身を包んだ黒髪黒眼の先輩は、さらに続けて言った。今のままでは、エルンストはロアに返り討ちに遭うでしょう。彼の戦力はごくわずかなものですから。
 だからこそ、ヴィリィはアンダーソン中尉に願ってブルンシュタットの応援に駆けつけようとしている。戦うことしか知らない、世の中には楽しいことが多くあることを知らない彼を救わずにはいられないのだ。
 年齢のよくわからないエルンスト・ブルンシュタットの顔を、ヴィリィは思い起こしていた。金髪碧眼の端正な顔。しかし若いように見えて時にはひどく疲労したようにも見えていた。
 一週間たてば増援が来ます。支隊を失ったロアの本隊を包囲するには十分な数ですが、それでは駄目なのでしょう?
 ええ、とヴィリィはうなずいた。今すぐ助けなければ意味がありませんから。
 仕方ありませんね、お付き合いしましょう、と先輩は苦笑していた。〈シエル〉戦車2両を自ら率いている。

 ヴィリィ・ベリンジャー少尉が所属するレーザー装甲車実験中隊(指揮官トマス・アンダーソン中尉)は朱い月中隊のカンプグルッペへの増援としてウラルへ派遣されていた。1995年の10月だった。
 クンメルスドルフでの実験で、将傾罍跳拭劵謄ーゲル后咾鮗嶌椒譟璽供爾任發辰峠充景割したことが評価されたためである。
 不興を買ったのか、それとも感銘を受けたからなのかは不明だが、モノになるかどうか未だ不明な新式機材を前線に送り込むというのは、いささか不透明な事態ではあった。
 しかし、レーザー装甲車実験中隊は朱い月中隊と共に赫々たる戦果をあげた。装輪装甲偵察車〈ルクス〉にガス・ダイナミック・レーザー砲塔を搭載した〈モールデアー〉は機動性に優れており、敵正面を〈ティーゲル后咾飽きつけ、その背後を〈モールデアー〉が襲うという戦術で混沌派首領フォワブロ・ロワインの護衛部隊魔獣隊を殲滅し、フォワブロ・ロワインをも抹殺することが出来た。
 混沌派の主力戦車T80の全自動対戦車ミサイル・ジャマー〈クールトー〉によって実験中隊はかなりの損害を受けたが、それ以上にGDレーザーが戦車を解体できることを実証できたのだった。
 さらに白翼派の煽動で混沌派などがドイツ軍打倒に動きだし、しかし黒姫派は動いていない事が判明したのである。そしてロアが8年もの歳月をかけて浸透攻撃の準備をしていることも。
 これらの情報を得たOKRはウラル戦線の背後の連絡線を攪乱されることを恐れ、ロアの本格的蜂起が始まる前にボルガ以西への撤退を決めたのである。もっとも、その頃にはロアの浸透によるドイツ人植民市の死都化が進行していたのではあるが(親衛隊では第5階梯といっていた)。
 フレブ・ザ・フレブ、クロフ・ザ・クロフ(パンにはパンを、血には血を)。死都と化した街の建物の壁には復讐の詩句が大書されていた。ロア軍は裸に剥いたドイツ人女性を戦車に縛り付けている。
 そして実験中隊はブルンシュタットの指揮の下で、増援されてきたフランス機甲中隊と共にウラル西麓の植民市ドライ・ブリューエンを拠点として巡回を続け、ロアの支隊を潰していった。ブルンシュタットはフランス部隊指揮官とは極めつけに仲が悪かったが、ロアを倒すという一点だけで協調している。手足をもぎ取られたロアは、最後には本隊を投入してくるだろうとのブルンシュタットの読みであった。
 その読みは当たり、軍司令部の指示で市民を守りながらサマーラまで後退したとき、遂にロアの本隊が出現したのである。

 月は満月。
 煌々とそそぐ月の明かりが、夜の市街を照らしあげている。
「……それにしても今夜は明るいですね。これでは闇に紛れて忍び込むのが難しいです。…月の明るい夜は好きですが、今日だけは別物ですね」
 はあ、と先輩が溜息をついた。
 ぎり、と歯ぎしりをする。脳髄が狂いそうだった。
「ベリンジャー君?」
「…何もかも死にやすそうで、まるで月の荒野にいるみたいだ」
 市街に入る前に一旦停止した。
「ベリンジャーくん、ここでお別れです」
 唐突に先輩はそう語りかけてきた。
「ここからは一人で行ってください。私たちは別行動をとりますから」
「……わかった。ありがとう先輩」
「武運を祈っています」
 2台の〈シエル〉戦車は黒い影のように市街へと消えていった。
「さあ………行くか」
 ヴィリィは〈モールデアー〉を市街に駆け込ませた。操縦手のマティアス、砲手のヘルベルト、副操縦手ハインツも無言である。
 サマーラの市街は重砲とロケット弾により完膚無きまでに破壊されていた。まるで嵐が荒れ狂ったかのようである。事実、鋼鉄の暴風が荒れ狂ったのだ。
 途中で朱い月2号車のウェーバー軍曹らと出会った。橋の向こう側で履帯に被弾し、弾薬を撃ち尽くして脱出してきたという。中隊長は援護のために橋を守っているとのことだった。軍曹達を車に載せて案内をしてもらった。
 瓦礫の街を通り抜けて角を曲がり、大河ボルガにかかる橋が見える。
 そこが、終着だった。

 橋の中程よりこちら側に冬季迷彩を施したブルンシュタットの1号車がいる。ロア軍は橋の向こうである。凄まじい数の残骸が積み上げられていた。ロア軍が橋の強行突破を図り、その度に朱い月1に撃破されたものである。
 1月の厳寒の中、ボルガ川は半ば凍り付き、架橋作業は事実上不可能となっている。ロア軍がボルガ以西へ進出するにはどうあっても橋を制圧しなければならないのだ。
「大尉殿!」
 ヴィリィはハッチを開けて車長席から伸び上がり、無線でエルンストに声を掛けた。
「来るな!」
 しかしエルンスト・ブルンシュタットは拒絶した。
「何故です!」
 答えたのはブルンシュタットではなかった。
「ひどいな。せっかくやってきた仲間を拒絶するとはね。一緒に死んでくれると言う、彼の好意ぐらい、受けてやってもいいだろうに」
 くっくっく、と愉快げに当代のロアがのどの奥で笑う声が、ヴィリィの無線にも聞こえてきた。
 エルンスト・ブルンシュタットは何も言わない。電熱化学砲の砲身を橋の向こうに向けたまま、朱い月1のエンジン音が苦しげに喘いでいるだけだった。
 オットー(燃料)が足りないのだ、とヴィリィは気づいた。最後のオットーを振り絞ってコンデンサーに大電流を流し込んでいるのだ。
「………なるほど、ようやく覚悟を決めたわけか。ブルンシュタット!」
 ロアは指揮車両をゆっくりと橋の中程へ進めさせた。
「いやいや、大したモノだよ。仲間を逃がすために、私とここで差し違えることにしたらしい。だがね。かつてのドイツ軍ならば恐ろしくもあったが、今はただの烏合の衆だ。………全く、墜ちたものだね。まあ、初代のロアの罠にひっかかった間抜けどもの子孫では致し方あるまいが」
「黙れ!」
 エルンストの声が無線に響く。
 朱い月1のエンジン音は、止まっていた。
「ぬっ!?」
 ロアの足が止まった。
 …………ドン、と。
 大気を割るような音がした。
 音速の10倍もの速度を与えられた砲弾はプラズマの尾を引いて突進し、ロアの指揮車両を貫くと同時に爆発した。指揮車両は瞬時にして粉砕された。

 決着がついたかに見えたが、それで終わらなかった。
 橋の入り口付近にいたT80が動きだして咆吼がほとばしった。放たれた砲弾が朱い月1の砲塔基部に命中して、〈ティーゲル后咾鬚△辰気蠅汎鵑弔吠断した。砲塔が橋のこちら側の方に弾き飛ばされてきた。
「あぶない、あぶない」
 おどけたようなロアの声が無線から聞こえた。指揮車両にいるかのように見せかけて、ロアは後方の戦車から指揮を取っていたのだ。
「エルンスト!」
「中隊長!」
 ヴィリィは車から飛び降りた。ウェーバー軍曹もまた砲塔の残骸へ駆け寄っていった。
 きゃらきゃら、と履帯の軋む音が聞こえる。散開した随伴歩兵の1個分隊がアヴトマットを構えてヴィリィとウェーバーに照準をつけた。MG42を抱えて激発しそうなウェーバーを、ヴィリィはそっと押さえた。
「ゲルマンスキー。最後の祈りは終わったかい?」
 ヴィリィは、自らの敵を見据えた。T80のコマンダーズ・ハッチから、長髪の随分若く見える男が上半身を出していた。この男がミハイル・ロア・バルダムヨォンなのだ。
 月明かりの中でヴィリィとロアは向かい合った。
 ロアは朱い月1がいた場所にいる。その後ろには戦車、装甲車が連なって移動を始めていた。
「……ああ、終わった。終わっちまった」
「そうか、どうだね。諸君らはすでに魔女の鍋の中にいる。全滅は時間の問題だ。命を無駄にしてはいけない。我々は諸君達を同志として暖かく迎えよう。…その手始めに隠れているフランス人どもの相手をして貰うことになるが」
「………ところで、一つ聞きたいことがある」
「何だ。手短に頼むよ。我々は忙しいのだ」
「………お前の立っている場所はどこだ?」
「…なに?」
「ヘルベルト!中央の爆破点を狙え!」
 ヴィリィは携帯無線に叫んだ。同時に〈モールデアー〉から大出力のGDレーザーが放たれ、橋に仕込まれていた爆破点を正確に突いた。
 大音響と共に橋梁が中央から瓦解し、爆発が連鎖していった。橋桁が半ば凍り付いたボルガの水面に落ちて氷を叩き割る。車両もろともに落ちた兵士らは絶叫をあげて絶命していく。
 完全な不意打ちだったらしく、ロアは崩壊に巻き込まれ、護衛の随伴歩兵もろとも瓦礫に潰されながら落ちていった。
 ブルンシュタットが死守していた橋には、その戦いぶりから爆破用火薬が仕掛けられていないと、ロアは思いこんでいたのだ。
 目の前から向こうすべて、橋は崩れ落ちた。
「莫迦な、莫迦な、莫迦な………!!」
 しかしロアは落ちた場所が河原だったため一命をとりとめていた。下半身を乗っていた戦車に潰されているにも関わらず、である。大した生命力だった。
 ヴィリィは〈ティーゲル后咾遼づ磴鬟ΕА璽弌七柿發蕕貿い擦董⊆分は河原に急いだ。
「キッ、キキ、キ、サマ………………!!」
 ロアは血を吐きながら絶叫した。拳銃を取り出そうとしている。
「…全く、生き汚いな」
 パン、とヴィリィはワルサーの拳銃弾を放った。紙を貫くような感覚。その感触が『死』だ。
「あ!」
 短く叫んでロアは動かなくなった。ヴィリィは溜息をついて、堤防へあがろうとロアに背を向けた。だが、ロアは動きを再開した。
「…マ、マダッ!マダオワラン!」
「!」
 ヴィリィが振り向いて拳銃を放つより、ロアの方が速かった。
 そのロアの身体を、杭のように長大な砲弾が串刺しにし、そして一瞬にしてバラバラに断ち切った。
「大丈夫ですか、ベリンジャーくん。撃たれませんでしたか」
 先輩の戦車が堤防にいた。先輩は倒れ込んだヴィリィに心配そうに声を掛けている。もう1両は川の向こう側に砲撃を加えていた。
「…ありがとう、先輩」
 ヴィリィは感謝の言葉を言って起きあがり、エルンスト・ブルンシュタットを埋葬するために堤防へ上がった。

 数年が経ち、ヴィリィはサマーラを再訪した。エルンスト・ブルンシュタットの墓に詣でるためである。
 戦争は休戦となり、ベルリンでの市街戦を経てナチ党支配体制が崩れた。大ドイツ帝国はすでになく、ドイツ連邦共和国として新たに発足した。帝国時代の各管区は各々独立し、ユトレヒト大管区からベルギー、ネーデルランド、ルクセンブルクのベネルクス三国が復活し、ノルウェー、デンマーク、ポーランド、チェコ、セルビア、ギリシャといった国々も復活している。
 旧ロシア地区では、祖父の代から住み着いているドイツ人も多いために単純にロシア民族の共和国が復活するというわけには行かず、ウクライナと旧バルト三国が独立した他は、クリミア州(旧ゴーテン大管区)、ベロルシア州(旧オストラント大管区)、サンクト・ペテルブルク州、バルバロッサ・ロシア州としてドイツ本国と連邦国家を成している。但し、この先もドイツと連邦を組み続けるかどうかは不透明だった。
 ウラル山脈とボルガ川に挟まれた地域はロシア領となり、ロシア人の再植民が進んでいる。同時に、残った軍閥間での領土配分を巡って内紛が激化しているらしい。カフカスもまた諸民族間の紛争が起こり始めていた。冷戦の終わりは、新たな混乱の始まりだったのである。
 エルンスト・ブルンシュタットの墓はドイツとロシアの新たな国境となったボルガ川の堤防近くにあった。クルツ・ウェーバーらと共に作った墓は喬木の下にある。エルンストの遺骸を埋葬した箇所に石を立て、石に名前と生年月日と死亡日付を刻み込んだ。
 その喬木は青々と葉を茂らせている。木はさらに高くなり、過ぎた年月を感じさせた。枝に止まった小鳥が啼いている。
 墓の前に立って………かつて、エルンスト・ブルンシュタットが懺悔ともつかないことを語っていたのを思い出した。
「言わないでいたことがある。私の曾祖父ヴォルフガング・ブルンシュタットSS大尉は第503重戦車大隊にいたんだ。………そうだ、あの重戦車大隊だよ。ロアの奸計に引っかかり友軍を全滅させた事件、ブルンシュタット事件の当事者なのだ」
 だから、プロイセン貴族でもないのに自らを縛っていたのだ。
 枷は重く、咎は深く、縛鎖は荊の冠。
 戦うこと以外は考えない。曾祖父の汚辱を雪ぐために懸命だったのだ。
 ヴィリィの背後に、1台のメルセデスが止まった。
 だが、まだあったのだ。総統ハイドリヒの排除を狙った事件に、エルンストの父エミール・ブルンシュタット中将が連なったと見られたのだ。証拠が出てこなかったために軍籍剥奪と投獄だけで済んだものの、親族連座法(ジッペンハフト)によれば国家反逆罪を犯した者の家族は自動的に罪に問われる。エルンストが逮捕されなかったのは前線にいたからである。
 本来ならば装甲旅団の中核にいるはずの練達の指揮官が、独立部隊として補給の少ない前線に放り出されていたのには、それだけの理由があった。彼は父の汚名をも雪がねばならなかったのだ。
 ヴィリィは頭を垂れて祈りを捧げた。
 その彼にメルセデスから降りた老人が声を掛けた。墓参りを日課とし、そしてヴィリィを見かけたので声を掛けたようである。下半身が不自由らしく、車椅子に座って、使用人の中年の婦人に付き添われていた。
「失礼だが、君はヴィリィ君かね」
 ヴィリィと、エルンストの父エミールは手を握りあった。
 小鳥が飛び立ち、枝が、ざっ、と鳴った。


【要目】C型(括弧内はD型)

  • 全長 11.6m(11.97m)
  • 車体長 7.72m
  • 全高 2.78m(2.64m)
  • 全幅 3.7m
  • 戦闘重量 59トン(62トン)
  • 発動機
    • MTU MB870V型12気筒水冷ディーゼル
    • GD AV1790水冷ディーゼル 東部連合仕様(MTU MT880V型12気筒水冷ディーゼル)
  • 出力 1600hp(1700hp)
  • 最高速度 72km/h(71km/h)
  • 航続距離 550km(400km)
  • 懸架方式 トーションバー
  • 武装
    • 128ミリ滑腔砲×1(128ミリ電熱化学砲×1)
    • 7.9ミリ機関銃×2
  • 乗員 4名