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〈アイリ〉

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米西以三国共同開発主力戦車 〈アイリ〉/〈テルシオ〉/〈メルカバ〉

元ネタ:エスクード「ラブリー・ラブドール」/ild:001アイリ


解説

戦車の自主開発能力を喪失あるいは持たない合衆国、スペイン、イスラエルの三カ国がお互いの長所を持ちよって開発したユニークなMBT。その独特の設計から、日独伊仏などの戦車先進国からは散々な不評を浴びた。
しかし、徹底した乗員保護とファミリー化の思想を取り入れ、さらに合衆国の基礎技術、スペインの電子・素材工学、そしてイスラエルの実戦経験と、三国がそれぞれ保有する技術・思想的ノウハウを惜しげも無くつぎ込んだ事により、きわめて発展性の大きい魅力的な戦車へと進化。第四次世界大戦、湾岸戦争などでその真価を遺憾なく発揮し、それまでの悪評を覆した。

開発の経緯

1945年、ドイツの追放政策によって欧州を脱出したユダヤ人たちは、祖先の地パレスティナに移住。新国家イスラエルを建国した。対独政策上の観点から日英両国はイスラエルの後見人となり、同国はその庇護と世界に広がるユダヤ人ネットワークをフルに活用して、建国以来の数度の戦争を勝ち抜いた。
しかし、1967年の第三次中東戦争により、その環境は変化する。この戦争で、イスラエルは電撃戦に次ぐ電撃戦をもってアラブ連合軍を圧倒。シナイ半島を制圧し、ついにスエズ東岸にまでその領土を広げた。
しかし、この行動は、スエズを通過する中東産石油にその生存を託す英国の激怒を買った。英国はイスラエルに対し、武器の禁輸を通告。日本もこれに倣った。石油価格の大変動は日本にとっても死活問題だったのである。
国防上の危機に陥ったイスラエルは、ここで新たな武器供給国を探す。そうして白羽の矢が立ったのが、合衆国とスペインだった。
合衆国は国内に油田を持ち、スペインは主にベネズエラを主要な原油の供給先としている。つまり、この二国は中東石油に関する利権を持っておらず、中東諸国の石油戦略の影響も受けにくい。また、ユダヤ資本の勢力が大きい事も共通している。
イスラエルは早速米西と接触し、武器輸出に関する協定を結んだ。航空機は主に合衆国から、艦艇はスペインから購入する計画である。しかし、問題があった。陸戦兵器の不足である。
特に、イスラエルが欲していた戦車はどちらの国でも十分なものを持っていなかった。合衆国の自動車産業は先の大戦で崩壊し、スペインも戦車を自主開発するような技術はなかった。
そこで、イスラエルは米西に戦車の共同開発を申し入れた。イスラエルとしても、第三次大戦当時の戦車(例えそれが傑作であったとしても)の改造で凌ぐのには限界があると悟っていた。
そして、やはり日英製戦車を購入して運用している米西二国も、この計画には賛同を表明した。どちらも国境線で直接欧州連合勢力と対峙しており、彼らが投入してくる強大な戦車戦力に対抗できる自前の戦車を欲していたのだ。
こうして、1967年末、三国共同の新型戦車開発プロジェクトは始まったのである。


要求仕様

戦車を設計するに当たり、重視されるべき項目は火力、防御力、機動力である。これらは互いに相殺しあう関係にあり、全てを満たすのは難しい。
XMBTでは、最優先項目を防御力と定めた。これは、敵が常に自分たちより優勢である、と言う三国に共通する環境を考慮しての判断だった。また、陸戦における最高のエキスパートである戦車兵の損耗を避けるため、最大限乗員を保護するための機能がXMBTには与えられる事になっていた。
また、XMBTでは可能な限り将来の発展余裕を見込んで開発される事が望ましいとされた。それまでの主力戦車であるM−9J〈イタカ〉こと〈《十式中戦車》ヤマノカミ〉〈八車《七式中戦車》文乃〉や、スペインがドイツから購入していた〈レオパルト〉戦車はいずれもそうした思想を盛り込んでいる。戦車を長期にわたって使い込み、できるだけコスト・パフォーマンスを上げることはXMBTでも追求されるべき事だった。
コスト・パフォーマンス向上のもう一つの方向性としては、派生車種を多数作り、装軌車輌の多くを共通のシャーシで設計する計画があった。特に、戦車に随伴する対空車輌、装甲回収車などは同等の機動力を持っているのが望ましい。こうした派生車輌は機密保持のため、何故か服装の種類がコードネームとして与えられていた。例えば、戦車仕様は〈ドールドレス〉、装甲回収車は「ナース」、自走対空砲は「バスローブ」と言った具合である。
こうして拡大した計画は「Armored Integrated:Renaissance(機甲兵器の統合・新生)」…通称「AI:Re(アイリ)」計画と名づけられた。しかし、この計画名にはもう一つの意味があった。
主任設計者、サルマータ博士はユダヤ人だが、もとは合衆国で戦車開発に携わっていた人物であり、合衆国最後の純正戦車、〈弓塚《M46》さつき〉 の設計にも関与していた。イスラエルに帰化した後も、生まれた土地である合衆国に愛着をもっていた彼は、この計画にアメリカ(A)とイスラエル(I)による戦車の復活(Resurrection)を念願したのである。
それぞれの国の承認を受けた後、1968年には設計開始。70年には先行試作車の第一号が開発された。


特徴

〈アイリ〉シリーズでは他国の戦車にはほとんど見られないユニークな機構を採用した。エンジンを車体前部に置き、前輪で駆動するフロントエンジン・フロントドライブ(FF)方式をとったのである。これは、万が一車体前面に被弾しても、エンジンが防弾材の役割を果たして人員への被害を最小限に食い止められるようにするためのものだった。こうした形式をとったのは、他にはスウェーデンのS−タンクくらいしかない。
車体前部右側に搭載されるエンジンは、トランスミッションと一体化されたパワーパック方式で、M−7J〈グラント〉戦車…〈八車《七式中戦車》文乃〉の合衆国仕様に搭載されるテレダイン・コンチネンタル社製12気筒空冷ディーゼル。馬力は750馬力とこのクラスの戦車にしては若干不足気味である。
また、FF形式は車体の内部容積を広く取れると言う利点もあり、車体後部には大量の弾薬や乗員の飲料水、食料を積み込むスペースがあった。荷物を降ろしている場合は数人の人間を乗車させることも可能で、主に撃破された味方戦車の乗員救出などを目的としている。これらの後部スペースへの搬入、乗り込みを容易にするため、車体リアパネルには3つのハッチが取り付けられている。
この他、車体側面には燃料の軽油を充填したパイプを通し、液体の衝撃吸収性を被弾時のダメージ軽減に使う工夫もなされており、可能な限り防御力を向上させようと言う思想が見られる。
主砲はPACTO標準の105ミリ砲をイスラエル・インダストリーが改良し、射程を6000メートルまで延長させたM114で、砲弾はそれまでのものがそのまま使える。砲弾は車体内のラックに分散して収められ、標準で62発、最大で85発と同世代の戦車の中では群を抜いて多くの砲弾を携行している。機銃は主砲同軸が7.62ミリ、砲塔上部に12.7ミリが1丁ずつ、これも銃弾は10,000発以上と非常に携行弾数が多い。
この砲を載せる砲塔は、車体に対して非常に小さく、くさびのような形をしている。これは、戦車の各部分の中で、砲塔が最も被弾率が高い、と言うイスラエル軍の戦訓によるもので、装甲板を傾斜させる事による実質的装甲厚の強化も果たされている。
こうした充実した防御力・火力に対し、機動性はそれほど高くない。60トン級の重量には似つかわしくない非力なエンジンのため、外国戦車と比較して、最高時速では10キロは遅い。
しかし、〈アイリ〉シリーズはいずれも防衛を第一義に考える国の戦車であり、路上を高速で走り回るよりは自宅…陣地内を移動して敵の侵攻を食い止めるのが目的である。敵弾を弾き返しながら着実に動き回る、戦術機動性を重視した戦車、それが〈アイリ〉シリーズなのだ。
 さらに、技術的に注目すべき装備としては、「エンゲージ・カウンター(EC)」「デストラクション・ユニット・メモリー(DUM)」と呼ばれる電子装備の存在が挙げられる。ECは会敵時の彼我の状況と、その後の戦闘経過を記録する装置で、DUMは撃破した敵とその状況を記録しておく装置である。このシステムの開発はサルマータ博士の姪で、セビリア大学の助教授を務めるグリーン博士が担当した。
 この二つの装備により、〈アイリ〉シリーズはまるで兵士が経験を積むように、戦闘経験を記録し、乗員たちが最適の戦術を模索するための一助となるのである。


試験運用

完成した〈アイリ〉シリーズの試作車輌は合衆国領内で各種試験を行う事になった。北西部の冬の極寒から、ロッキーの山々、メキシコ湾岸の湿地帯、カリフォルニアの砂漠と変化に富んだ気候と地形を持つ合衆国はこうした試験には最適の環境だった。
試験は最初から苦難の連続だった。まず、燃費が悪く、航続距離は予定の半分以下…7分の3ほどの数値しか出ていない。整備に熟達した人間が多いと言う理由で選ばれた〈八車《七式中戦車》文乃〉用のサスペンションも、60トンに達する車重のために故障が続出した。
最初から重点的に考えられていただけあって、防御力は高く、〈八車《七式中戦車》文乃〉の100ミリ砲を300メートル以下の至近距離から弾いて見せたが、それでも補えない走行性能の予想以上の低さは、戦場での機動性にすら不安を持たせるものだった。
サルマータ博士は「機動性なんぞ最初から重視しとらんかったんだから、トランスポーターでも使ってなんとかせい」と言い放って開き直っていたが、相次ぐクレームに根負けして、足回りの改良を行い、また燃料タンクの増設やエンジンの改良によって燃費問題も解決した。
しかし、その後持ち上がったのはECとDUMの不具合である。電子部品が熱に弱く、戦闘中に熱がこもってくると、誤作動を起こすのだ。覚えのない経験が1500バイトも記録されているのを見て電子装備担当のスペイン技術者が首をかしげる光景も見られている。
当時合衆国やスペインの電子部品産業は弱体で、日本製が最良、次が英国と言う時代だったから、関係者はECとDMUの改良のため、高価な日本製部品を購入するための金策に走り回った。中には怪しげな薬の実験台になって金を調達した強者もいると言う。
こうしてECとDUMの不具合を克服した〈アイリ〉シリーズは72年に制式化され、イスラエルでは「神の乗物」を意味する〈メルカバ〉、スペインではかつて欧州を制した大方形陣から名をとった〈テルシオ〉と名づけられた。これに対し、合衆国では計画名そのままの〈アイリ〉を制式名として採用した。
当初はプロジェクトの合衆国側代表だったエイブラムス将軍や、三次大戦の大反攻作戦〈オーヴァーロード〉の英雄、ウォーカー中将の名を制式名に押す声もあったのだが、それはいつか作られるであろう合衆国純正戦車の登場まで取っておこう、と言う判断からこのような命名がなされたのである。

  • 合衆国陸軍第37戦車大隊に配備された、〈アイリ〉部隊配備第一号車。側面に描かれた雷雲のマークと”THUNDERBOLT”の文字は、エイブラムス中将が現役時代に搭乗していた戦車に描かれていた物である。 



酷評

いよいよ制式化され、世界に向けて発表された〈アイリ〉であったが、日英独仏などの戦車先進国の評価は、一様に冷笑または嘲笑であった。いわく、「戦車の擬似品を使った自慰行為」「戦車もどきにいれこむ愚行」…確かに、FF駆動、大重量と低い最高速度、大きな車体など、どれも戦車の常識から外れた存在だった。被弾径始を重視した、低く構えた車体と楔形の小型砲塔が生み出すラインは美しいが、それだけの、格好だけの戦車だと断じたのである。
おまけに、開発に参加した三国は、いずれも戦車の後進国だった。イスラエルもスペインもまともな自動車産業を持ったことは無いし、合衆国のそれはとっくに滅亡。今はダイムラーやフォルクスワーゲンに吸収されている。そんな連中が組んで戦車が作れるはずが無い。せいぜい、「戦車のようなもの」で自分を慰める程度のことしかできないだろう…各国の担当者はその程度に考えていたのである。
この評価を聞いたプロジェクトの若手将校や技術者たちは悔しがったが、タル将軍やサルマータ博士、エイブラムス中将といった責任者たちは気にも留めていなかった。言いたい奴には言わせておけばいい。〈アイリ〉が…自分たちの「娘」が役立たずなはずがないことは、自分たちが一番よく知っているのだから。
外部の雑音にかまわず、プロジェクトは次の段階…ファミリー化の可能性追及に乗り出した。既に戦車回収車〈ナース〉、自走対空機関砲〈バスローブ〉などは完成し、実用テストも済んでいたが、より多くの派生形を作り、コストを下げなければ短期間の大量導入は難しい。
いくつかの派生型が検討され、装甲を削って軽量化した海兵隊仕様〈セーラー〉、機関砲装備の小型砲塔を搭載し、後部スペースを拡大して兵員を搭乗させるようにした装甲歩兵戦闘車仕様〈ブレザー〉などが開発され、各種のテストを開始した。これらのテスト結果が良好なら、さらに新たな派生型が作られることになる。


初陣

〈アイリ〉シリーズが制式化され、最初の生産ロット分が三国に引き渡された直後、早くも彼女が初陣を飾る時が来た。73年に勃発した第四次中東戦争である。
10月6日、エジプト軍がスエズを渡河し、シナイ半島のイスラエル占領地域へ侵攻した。当時のイスラエル軍機甲部隊は中東最強を誇り、〈八車《七式中戦車》文乃〉の改良型〈ベングリオン〉を擁してこれを迎撃したが、襲い掛かってきたのはドイツから輸出用の〈レオパルト〉戦車と新型の対戦車ミサイルを導入して面目を一新したエジプト軍精鋭部隊の猛攻だった。
対戦車ミサイルのアウトレンジ攻撃で大損害を被ったイスラエル軍は、戦車戦のキル・レシオでは優勢ながらも、数に勝るエジプト軍の前に後退を余儀なくされる。さらに、ゴラン高原ではシリア軍が第三次中東戦争の停戦ラインを突破。イスラエル勢力圏への侵攻を開始した。
この危機的状況に、イスラエル軍は編成したばかりの〈メルカバ〉装備部隊による迎撃を決定。ゴラン高原戦線にペレド准将率いる機甲師団を投入した。
「戦車もどき」と呼ばれていた〈メルカバ〉の登場は、戦意に燃えるシリア軍に脅威を感じさせるものではなかった。しかし、防衛陣地に入った〈メルカバ〉はシリア軍の〈レオパルト〉の攻撃に耐えつつ砲撃を繰り返し、次々にシリア軍戦車を撃破していった。砲弾の多さと、後部ハッチによる補給の容易さが〈メルカバ〉に長時間の戦闘継続能力を与え、シリア軍の攻勢を退けたのである。
10日までに停戦ラインを越えたシリア軍を壊滅させたイスラエル軍は反攻に転じ、11日にシリア領内へ侵攻。アラブ側はイラク、ヨルダン、サウジアラビアが立て続けに参戦し、イスラエル軍との激戦を展開したが、イスラエル軍はシリアの首都ダマスカスを長距離砲で攻撃できる位置を確保したまま防御に転じた。
ここでも〈メルカバ〉は前線に居座り、補給を受けながら戦闘を継続。まるで、コードがコンセントに刺さった状態の電気器具のように尽きることのない戦闘力を見せつけた。その後、19日までに戦闘はほぼ終結したが、イスラエル軍戦車部隊はアラブ連合軍の損失1100両に対し、損失250両と4:1以上のキル・レシオをマーク。特に〈メルカバ〉の損害は20両足らずだった。
この戦争で〈アイリ〉シリーズの有効性が証明されたことにより、世界はこのユニークな戦車を一躍有力なMBTの一つとして数えることになる。それは同じ戦車を運用する合衆国とスペインにも大きな自信を与えるものだった。なぜなら、ECとDUMによる経験の収集は彼らにも利益を与えるものだからである。


課題と成長

しかし、まったく問題がなかったわけではない。ドイツ製の成型炸薬弾頭を用いた対戦車ミサイルは〈アイリ〉シリーズの重装甲にも有効であったし、パンツァーシュレッケなどの歩兵が運用する肩撃ち式ロケット弾も脅威だった。
また、当初よりもずいぶんマシになったとはいえ、相変わらず航続距離は短く、イスラエル側の反攻作戦時にも燃料切れによる進撃停止の危機が何度か存在した。こうした第四次中東戦争の教訓を糧に、プロジェクトは戦車仕様のアップデートに乗り出す。
その結果、中空装甲とイスラエルが新たに開発したリアクティブ・アーマー(爆発反応装甲)を組み合わせて防御力を向上させた戦車仕様の第二バージョン、コードネーム〈メイドサーバント〉が開発される。これはそれぞれの国でM1A1〈アイリ〉、〈テルシオ〉2、〈メルカバ〉Mk-2の名で採用された。
リアクティブ・アーマーは火薬を仕込んだ追加装甲で成型炸薬弾のジェット噴流を逸らすもので、後に多くの国々で安価な対戦車ミサイル対策として採用されることになる。三国では戦車だけでなく、主力兵員輸送車の〈橘《M-113》弓音〉などにもこの機構を応用している。
また、敵歩兵への対策として、車内から発射できる60ミリ迫撃砲が装備されたほか、機銃も増設され、市街戦への対応能力が増した。これらのアップデートの結果は1982年のイスラエルによるレバノン侵攻で実戦を潜り、その有効性が確認されている。
派生形も増え、海兵隊仕様にやはり同様のアップデートを施した〈スイムウェア〉、自走対戦車ミサイル〈クイーン〉などが開発されたほか、第四次中東戦争でイスラエルがアラブ側の情報収集に失敗して奇襲を許した教訓から、電子作戦車仕様の〈バニーガール〉、強行偵察車仕様の〈キャット〉が開発されている。
航続距離の不足に対しては、早急な改善は難しいとして、大型の戦車輸送車が開発された。コードネームを〈モーターバイク〉とされたこの戦車輸送車は、搭載した戦車に外部から動力を供給する能力を持ち、移動中に会敵した場合でも迅速に戦車を起動させる事が可能になった。


危機と更なる進化

こうした改良や、周囲の環境整備に伴い、急速に戦闘能力を成長、進化させつづけてきた〈アイリ〉シリーズであったが、80年代後半に入り、ある理由から深刻な危機を迎えることになった。それは、またしても電子機器のトラブルだった。EC、DUMの性能が、複雑化・強化された〈アイリ〉シリーズに追いつかなくなってきたのである。行動中にいきなり電子部品が焼けてしまい、行動不能に陥ったり、貴重な情報を喪失するケースが相次いで、三国の戦車戦力は危険な状態に陥った。
完全コンピュータ化による情報機能の強化がその最適の解決策であったが、それには開発、および既存車両への装備ともに莫大な費用が必要とされた。そこで、プロジェクトでは〈アイリ〉シリーズの輸出を計画する。
〈カジュアル〉と呼称される輸出仕様は3種類あり、〈メイドサーバント〉を原型としたベーシックなA型、〈スイムウェア〉をベースにした活発な高機動タイプのB型、〈ドールドレス〉をベースにしたおとなしめのC型である。世界のMBTの中では数少ないコンバット・プローブンを経験している〈アイリ〉をベースにしているだけあって販売実績は満足すべきものとなり、中南米やロシア、アフリカなど高価な日英欧の主力戦車を買えない地域にかなりの数が売却された。
しかしこの間、本家である米西以での〈アイリ〉シリーズの運用は停止状態となり、三国では古い既存の戦車や装甲車の近代化でこれを乗り切った。イスラエルが開発した〈八車《七式中戦車》文乃〉の近代化キット〈サブラ〉や、鹵獲したアラブ連合軍の〈レオパルト〉の近代化キット〈マガフ〉は米西両国に供与され、大きな成功を収めている。
こうした〈カジュアル〉や改装キットのセールスで予想以上の資金を調達できたプロジェクトでは、EC、DUMの完全コンピュータ化と共に、2回目のアップデートを計画した。
スペインが中心となって88年の春に計画を提出したことから、〈プリマヴェール(春の女神)〉と呼称されることになった戦車仕様のVer3(M1A2〈アイリ〉/〈テルシオ〉3/〈メルカバ〉Mk-3)では、主砲をPACTO(太平洋条約機構)標準の127ミリ滑腔砲に換装すると共に、砲塔と車体前部に複合モジュール装甲を装備した。このモジュールはスペインの最新の素材・冶金工学の成果で、詳細は不明ながら他国の複合装甲に劣らない防御力を有しているとされる。またエンジンを1200馬力級に強化して機動性を向上させた。
注目すべきは電子装備で、完全コンピュータ化により、射撃統制装置をMdYAGレーザー・レンジファインダーと連動する西以共同開発のマタドールMk-2ATT(自動目標追尾装置)に交換した。これは一度照準した敵を砲塔が自動的に旋回して照準しつづけると言う装置で、走行しながらの射撃精度が格段に向上している。日本の〈蒼崎《四八式中戦車》青子〉 も同様の装置を搭載している。
このVer3〈プリマヴェール〉によって、〈アイリ〉シリーズは内容的にもドイツの〈アルクェイド《ティーゲル后侫屮螢絅鵐好織奪鼻 シリーズやフランスの〈シエル〉に肩を並べる存在となった。もっとも、相変わらず「大した事のない戦車」と言うイメージを払拭するにはいたっていなかったが…


そして、未来へ

1995年、〈アイリ〉シリーズは開発以来最大の戦闘を経験することになる。第四次世界大戦の勃発…北米戦線における大規模な地上戦である。
奇襲攻撃を加えたGETTO(欧州連合)軍は各地でPACTO軍の防衛線を突破した。合衆国領内ではドイツ軍と東部連合軍が〈アルクェイド《ティーゲル后侫屮螢絅鵐好織奪鼻 を先頭に立て、中西部の大平原を西に向かって進撃していた。その前に立ちはだかったのは、100キロ近い戦略的後退の後に反撃体制を整えた合衆国軍のM1A2〈アイリ〉の群れだった。強固な防衛陣地にこもった彼女たちは投影面積の小さい主砲塔だけを地上に露出し、127ミリ砲をつるべ打ちした。
世界屈指の防御力を持つ、と言われる〈アルクェイド《ティーゲル后侫屮螢絅鵐好織奪鼻 と言えどこの猛攻には耐え切れず、次々に屍を晒すことになる。輸出用で性能が低い(といっても第三世代戦車級ではあるが)〈レオパルト〉ならともかく、絶対の自信を持っていた〈アルクェイド《ティーゲルV》ブリュンスタッド〉が「戦車もどき」ごときに撃破された事は独東両国にとって驚愕すべき出来事だった。
また、夜間戦闘能力の高さも意外なものだった。戦車先進国と呼ばれる日英独仏の戦車群も夜こそを戦場とするかのような夜間戦闘能力の高さを誇っているが、〈アイリ〉シリーズにとってもそれは同じ事で、合衆国陸軍の夜戦能力をロシア並みと侮って夜間に攻勢をかけたGETTO軍は逆に大損害を受けている。これについて合衆国陸軍のある戦車指揮官は「夜のご奉仕では負けられない」とコメントしている。
大戦後半になると息切れの目立ってきたGETTO軍をミシシッピーに叩き落すべくPACTO軍は反撃に転じ、前進を開始した。その先鋒には〈アイリ〉シリーズの姿があった。戦車の〈プリマヴェール〉だけでなく、装甲歩兵戦闘車〈ブレザー〉や対空戦車〈メイデン〉など、シャーシを共有する車両も多数投入され、怒涛のように迫ってくる〈アイリ〉シリーズの姿に、GETTO軍将兵は自分たちの持つ「戦車」と言う兵器のイメージや思想とはまったく異なったルールの存在を見出して混乱することになる。
1996年、第四次世界大戦は休戦を迎えた。〈アイリ〉シリーズとGETTO軍戦車の損害交換比率は、1.25:1とやや〈アイリ〉シリーズに不利であったが、それでも戦前の予想からをはるかに超える健闘であり、第二線級の戦車と言うイメージはついに覆されたのだった。
第四次大戦終結からそれほど時をおかずして、冷戦体制は崩壊する。しかし、それでも尽きることのない紛争地帯を抱える〈アイリ〉プロジェクト参加三国ではシリーズの更なる進化を目指した改良が続けられている。
現在、戦車仕様の最新バージョンとされている〈ウェディングドレス〉では、主砲にTAASイスラエル・インダストリーズと合衆国ユナイテッド・ディフェンス社の共同開発による140ミリ滑腔砲の装備が決定しており、エンジンも一挙に1700馬力級に強化されるなど、攻撃力・機動性共に申し分のない戦車を目指した改良が施されている。〈アイリ〉シリーズがより優れた戦車を目指して続ける発展の道は、今後もまだ途切れることなく続きそうである。


要目

〈ドールドレス〉…M1〈アイリ〉/〈テルシオ〉1/〈メルカバ〉Mk-1

  • 全長:    8.63m
  • 車体長:  7.60m
  • 全幅:    3.70m
  • 全高:    2.64m
  • 全備重量: 57.0t
  • 乗員:    4名
  • エンジン:  テレダイン・コンチネンタルAVDS-1790-2A4ストロークV型12気筒空冷ディーゼル
  • 最大出力: 750hp/2,400rpm
  • 最大速度: 46km/h
  • 懸架方式: トーション・バー
  • 航続距離: 320km
  • 武装
    • 51口径105mmライフル砲M68×1 (62〜85発)
    • 12.7mm機銃M-1×1(3,500発)
    • 7.62mm機関銃FN-MAG×3 (10,000発)



〈メイドサーバント〉…M1A1〈アイリ〉/〈テルシオ〉2/〈メルカバ〉Mk-2

  • 全長:    8.63m
  • 車体長:  7.60m
  • 全幅:    3.70m
  • 全高:    2.64m
  • 全備重量: 58.0t
  • 乗員:    4名
  • エンジン:  テレダイン・コンチネンタルAVDS-1790-5A4ストロークV型12気筒空冷ディーゼル
  • 最大出力: 908hp/2,400rpm
  • 最大速度: 58km/h
  • 懸架方式: トーション・バー
  • 航続距離: 470km
  • 武装
    • 51口径105mmライフル砲M68×1 (62〜85発)
    • 12.7mm機銃M-1×1(3,500発)
    • 7.62mm機銃FN-MAG×3 (10,000発)
    • 60mm軽迫撃砲M140×1(30発)



〈プリマヴェール〉…M1A2〈アイリ〉/〈テルシオ〉3/〈メルカバ〉Mk-3

  • 全長:    9.87m
  • 車体長:  7.60m
  • 全幅:    3.72m
  • 全高:    2.66m
  • 全備重量: 62.0t
  • 乗員:    4名
  • エンジン:  テレダイン・コンチネンタルAVDS-1790-9AR4ストロークV型12気筒空冷ターボ・ディーゼル
  • 最大出力: 1,200hp/2,400rpm
  • 最大速度: 60km/h
  • 懸架方式: トーション・バー
  • 航続距離: 500km
  • 武装
    • 55口径127mm滑腔砲MG251×1 (48〜62発)
    • 12.7mm機銃M-1×1(3,500発)
    • 7.62mm機関銃FN-MAG×3 (10,000発)
    • 60mm軽迫撃砲M140×1(30発)



その他の主要なバージョン

〈ブレザー〉…装甲歩兵専用車仕様

  • 全長:    7.60m
  • 車体長:  7.60m
  • 全幅:    3.72m
  • 全高:    2.66m
  • 全備重量: 35.0t
  • 乗員:    3名+歩兵10名
  • エンジン:  テレダイン・コンチネンタルAVDS-1790-2A4ストロークV型12気筒空冷ディーゼル
  • 最大出力: 750hp/2,400rpm
  • 最大速度: 55km/h
  • 懸架方式: トーション・バー
  • 航続距離: 500km
  • 武装
    • ブッシュマスター25mm機関砲×1(2,000発) 
    • 12.7mm機銃M-1×1(3,500発)
    • TOW対戦車ミサイルランチャー×2(10発)



〈メイデン〉…ブレイザー自走戦術防空システム仕様

  • 全長:    7.60m
  • 車体長:  7.60m
  • 全幅:    3.72m
  • 全高:    2.66m
  • 全備重量: 28.0t
  • 乗員:    4名
  • エンジン:  テレダイン・コンチネンタルAVDS-1790-2A4ストロークV型12気筒空冷ディーゼル
  • 最大出力: 750hp/2,400rpm
  • 最大速度: 55km/h
  • 懸架方式: トーション・バー
  • 航続距離: 500km
  • 武装:    
    • M-6120mmバルカン砲×1(3000発)
    • スティンガー対空ミサイルランチャー×2(16発)



〈アイリ〉シリーズのコードネームと各バージョン

  • 〈ドールドレス〉戦車仕様Ver1
  • 〈セーラー〉海兵隊仕様
  • 〈ブレザー〉歩兵戦闘車仕様
  • 〈バスローブ〉自走対空機関砲仕様
  • 〈ナース〉戦車回収車仕様
  • 〈メイド〉戦車仕様Ver2
  • 〈スポーツウェア〉対空戦車(M-61バルカン型)
  • 〈クイーン〉対戦車ミサイル仕様
  • 〈スイムウェア〉海兵隊仕様Ver2
  • 〈チャイナドレス〉対中国輸出仕様
  • 〈メイデン〉対空戦車(ブレイザー砲塔型)
  • 〈キャット〉電子情報車仕様
  • 〈バニーガール〉偵察戦闘車仕様
  • 〈プリマヴェール〉戦車仕様Ver3
  • 〈Yシャツ〉装甲弾薬補給車仕様
  • 〈カジュアル〉A〜C型輸出仕様
  • 〈ウェディングドレス〉戦車仕様Ver4