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〈《四五式装輪戦車》琥珀〉

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〈《四五式装輪戦車》琥珀〉

TYPE−MOON「月姫」琥珀


 日本列島の地形的特徴を鑑みるに、現代の主力戦車がその能力を十分に発揮しえるとは考えにくい。山がちで平野の少ない起伏の大きな地形、数多い河川、そして長い海岸線。戦闘重量60トン超に達する主力戦車では橋梁の重量制限やトンネルによって、その戦略的機動力は大きく制限されざるを得ない。つまり、日本本土のみの防衛を考えるならば、快速・長距離機動力を有する装輪装甲車に対戦車能力を付加するのが理にかなっているのである。
 日本陸軍は本土防衛に最適な兵器システムとして、コストパフォーマンスに優れた装輪装甲車を選択した。その主力を成すのが、「割烹着の悪魔」または「まじかるアンバー」とも言われ、竹箒をマークとした兵部省直属教導部隊が著名な、三菱ふじょう〈《四五式装輪戦車》琥珀〉である。

 開発の端緒は、英国からの歩兵戦闘車の発注だった。英国陸軍は機動力に欠ける彼らの主力戦車を補助できる装甲車を求めており、随伴歩兵戦力の高機動化によって総合的な主戦力の強化を図ったのである。
 三菱系列の自動車メーカーである巫浄自動車は大型8輪駆動の車体でもって、英国陸軍の要望に応えた。操縦室を車体前部右側に配し、左側に機関部を置き、それより後方は戦闘室として様々な用途に適合するようなキャパシティの大きさを持っていた。25ミリ機関砲搭載の小型砲塔バージョン(〈レッド・パープル〉と呼称)と52口径100ミリ砲搭載バージョン(〈バイオレット〉と呼称)が当初から予定されていたことから、それが分かる。開発は順調に進み、姉妹車としての発表も間近だった。
 しかし、巫浄自動車は禁を破っての裏工作を暴露され、疑獄事件によって没落することになってしまった。解体された巫浄の資産を引き取ったのは親会社の三菱重工で、巫浄は「三菱ふじょう」の名で一部門となった。三菱内で有望と見なして表に出したのは〈レッド・パープル〉の方だった。歩兵戦闘車の需要が北米戦線を抱える英連邦や西合衆国で大きいからである。対して〈バイオレット〉は試験場内に止め置かれて、外部への発表はされなかった。〈バイオレット〉は識別用の白いリボンを無線アンテナにつけて狭い試験場の中を行き来するだけで、姉妹車の〈レッド・パープル〉が元気よく走り回るのを眺めるばかりであった。100ミリ砲は歩兵戦闘車には過大に過ぎると思われ、火力に対して防御力が弱体に過ぎたからだ。〈バイオレット〉は存在しないものとみなされて、三菱上層部からは無視されていた。
 後の〈《四五式装輪戦車》琥珀〉の活動の印象から、〈バイオレット〉が当初から有望視されていたとの論も見られるが、それは勘違いというべきである。夏の中国大陸で起きた突発事態が双子の姉妹に運命の変転を強いたのだ。

 1985年夏、鄭州において、撤退行動から反転して奇襲をしかけた共産軍によって国府軍が殲滅された。中華民国にとって、それは心臓に達する程の致命傷だった。日本は緊急援助でもって国府軍を支えたが、戦線は黄河流域から淮河以南にまで押し下げられており、共産軍を押し返すことは至難となっていた。ただ、クリークの発達した地域であるだけに共産軍戦車の活動が制限されたことが救いだった。そしてクリーク地帯では軽量で機動性の高い装輪装甲車が活躍を演じ、機甲戦力の主力を担った。追いつめられていた国府軍と日本は手当たり次第に活用できる車両を投入し、それが試製品であることなど気にも留めていなかった。その余裕がなかったのだ。そして三菱では試製装輪戦闘車(後の〈《四五式装輪戦車》琥珀〉)の増産に転じた。エスカレートする戦局はより火力の大きい装甲車を求めていたのである。
 戦局が落ち着いた後、日本陸軍はその戦訓に注目した。陵辱というべきコンバット・プローブンを経て、過酷ながらも豊富な戦闘経験(床上手と表現する者もいた)を獲得した三菱ふじょう試製装輪戦闘車を無視し得なくなった。それに主力戦車への懐疑論も浮上していた。北海道以外の地域で使用困難な主力戦車を整備することは正しいことだろうか。陸軍に充てられる予算は、相変わらず海軍に比べて圧倒的に少ないのである。華中での戦闘経験は陸軍に本土防衛方針の変更を強いたのだ。
 かくして1987年、〈《四五式装輪戦車》琥珀〉は制式化された。諸般の事情により制式年度を2年遡らせている。三菱が生産を担当し、英連邦ではコヴェントリーのアルヴィス・ヴィーグル社がライセンス生産することになった。
 英連邦ではアルヴィス〈アンバー〉の名で、主力戦車〈遠野《チャレンジャー》秋葉〉に随伴して、その弱体な機動力や航続力を補助する役目を担うことになった。双子の姉妹車である〈《四七式歩兵戦闘車》翡翠〉もまたアルヴィス〈ジェイド〉として、こちらは主に後方警備の任にあたっている。合衆国では既製品の輸入だけでなく、キャデラック・ゲージ社がライセンス生産をしており、海兵隊の機甲戦力の中心となっている。
 かつて活発な機動が期待されていた〈《四七式歩兵戦闘車》翡翠〉はおとなしくなって裏方に回り、〈《四五式装輪戦車》琥珀〉が前面に出ることになったのである。

 車体のサイズは全長7.4メートル、幅3メートル。戦闘重量は25トンである。防弾能力は正面装甲が20ミリ機関砲弾の直撃に耐え、その他の部位は12.7ミリ機関銃弾に耐えることができる。100ミリ砲の攻撃力に比して装甲がいかにも弱体ではあるが、100ミリ砲の直撃に耐えるようにするとすれば40トン級の車体となってしまい、肝心の速度や航続力を失うことになってしまう。要するに「攻めでは強いが受けに弱い」わけである。
 100ミリ砲の威力は強く、熟達した砲手と装填手ならばバースト射撃の連続コンボ技で敵を圧倒する。共産軍の歩兵戦闘車(伊〈《CA47》エリス〉の無断ライセンス生産)に対しては、受け身を取る暇など与えない、極悪な速射のコンボで叩きのめした。
 装甲強化には装甲パッケージを後付けすることで対応している。一つは爆発反応装甲タイルを車体や砲塔に張り付けるもので、ラケッテン・パンツァー・ビュクゼRPzB54の直撃から完全に守ることが可能である。もう一つは2.5センチの防弾装甲板を砲塔の周りに取り付けたパッシブ・アーマーである。
 パワーパックは出力520hpの三菱8ZG水冷V型8気筒ターボチャージド・ディーゼルとアイシン製オートマチック・トランスミッション(前進5速、後進2速)である。この組み合わせにより、〈《四五式装輪戦車》琥珀〉は最高速度105キロ、最大航続距離800キロの機動性能を発揮している。
 足周りには地雷対策として2本のプロペラ・シャフトをH型に伸ばして左右のタイヤを個別に駆動している。従って8個のタイヤには、それぞれに対応するディファレンシャル・ギヤがついている。サスペンションはマクファーソン油気圧懸架方式で、8輪独立懸架となっている。
 なお、駆動方式は8輪駆動だけでなく6輪駆動に切り替えることができる。さらにタイヤには空気圧調整システムも備えられている。これにより装軌車両より高い不整地走行能力を持つことになった。
 日本製鋼製52口径100ミリ砲は、〈八車《七式中戦車》文乃〉系列と同じ徹甲弾を発射することができる。搭載弾数は40発。車体後部に搭載している24発を下ろせば、完全武装の兵士4名を収容することが可能である。
 もちろん化学薬物戦に備えた防備も完備している。各地の紛争で小規模とはいえ、使用が確認されているからである。与圧式の対薬物装備は「キチガイナスビ」と呼ばれている。
 なお、〈《四五式装輪戦車》琥珀〉を治安警察の暴徒鎮圧用装備として購入する国も多く、「赤弾」、「青弾」といった催涙弾、ガス弾でもって自国民を飼い慣らしている。
 これら化学薬物戦は反則すれすれの技であり、国際的には表だっての使用を禁じられている。外交戦の経験を積んで策士となった日本にとっては、その制限をかいくぐるのは赤子の手をひねるようなものとなっている。

 恐ろしい程の力を誇る主力戦車達が跋扈する世界にあって、〈《四五式装輪戦車》琥珀〉はあくまでもサブと見なされていた。しかし日独間の冷戦が終結した世界では、日独の統制を離れた中小国間で武力衝突が頻発した。その低強度紛争では(中東と中国大陸を除いて)大規模な戦車戦が発生することはなく、自動車に簡易な装甲や武装を施した装甲車が主力を努めている。主力戦車が咆吼をあげる大戦車戦は1999年の湾岸紛争が最後となった。
 21世紀は先進各国では軍縮が進み、軍事予算もまた緊縮が進んでいる。そこで求められる作戦運用ドクトリンは緊急展開による迅速な対応である。主力戦車達は重量が過大であり、また高価に過ぎた。となれば、装輪装甲車の持つ、運用コストの安さ(装軌車両の3分の1)、空輸に適した展開能力、トランスポーターを必要としない戦略機動能力は極めて魅力的であり、ニーズは高まった。大陸でぞろぞろと列をなす歩兵を引き連れた経験を持つ〈《四五式装輪戦車》琥珀〉はまさに最適だった。
 ここにいたり、〈《四五式装輪戦車》琥珀〉〈《四七式歩兵戦闘車》翡翠〉とセットという立場を脱して「真のヒロイン」となったのである。

要目

  • 全長 7.85m
  • 全高 2.74m
  • 全幅 2.95m
  • 戦闘重量 25トン
  • 発動機 三菱8ZG水冷V型8気筒ターボチャージド・ディーゼル
    • 出力 520hp
  • 最高速度 105km/h
  • 航続距離 800km
  • 武装
    • 火砲 100ミリ砲×1(L52)
    • 銃器 7.7ミリ機関銃×2
  • 乗員4名