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〈篠宮《アルザス》悠〉の変更点

+!「雷撃隊出動」
+ 戦局が目に見えて悪化していた1951年8月、ノルトマンの第一航空艦隊に編入されることになった〈君影《シャンプレン》百合奈〉〈御薗《デスタン》瑠璃子〉は護衛を連れてバルト海に到着した。間もなく〈篠宮”アルザス”悠〉を始めとする艦隊も編入された。ノルトマンにとっては懐かしい思い出、しかし浸っていられるほど戦局は楽ではない。{{br}}
+ 9月上旬、第一航空艦隊旗艦の〈橘《フォン・リヒトフォーヘン》天音〉に撮影隊が乗艦してきた。映画「雷撃隊出動」の撮影である。当時としては画期的とも言える空母からの飛行機発着艦シーン、発艦した飛行機からの撮影。〈橘《フォン・リヒトフォーヘン》天音〉の艦橋周りの構造、対空機銃の訓練、発艦するHe481に装備されたFug245/3レーダーのアンテナ、〈橘《フォン・リヒトフォーヘン》天音〉と並走する〈篠宮《アルザス》悠〉、周囲を囲む〈桜塚《シュリーフェン》恋〉と〈鷺ノ宮《ビューロー》藍〉。そして訓練弾を放つ〈エタンダール〉攻撃機・・・などを収めた資料価値の高いこの映画はDVD化もされている。{{br}}
+ さっそく〈篠宮《アルザス》悠〉が目標訓練艦となって母艦攻撃隊やT攻撃部隊の教育を施す。10センチと5.7センチ高角砲それぞれ28門づつを持つ彼女の対空砲火の威力は的確、若年搭乗員達のよい訓練対象になった。{{br}}
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+!再びの別れ
+ しかしノルトマンにとってはある意味面倒だった、ノルトマン少将よりも5つも年上、階級でも上回るマルザン中将に命令を発するのは組織秩序上の大問題だった。簡単に言えば生徒が先生に命令しているのと同じようなもの。カリブ海では司令官と参謀の立場だったからわがままを言えたが今回はそんなことは出来ない。{{br}}
+ ノルトマンとしては辛かった。マルザンやフランス側の乗員は例外はあるものの彼らの行動は極めて協力的で、食料も一緒のを分けるやり方。そして識別や対空訓練でももっぱらドイツ側が教えられる。果たしてこれでいいのか?このままだとこちらが子供扱いされかねない。対空訓練で〈橘《フォン・リヒトフォーヘン》天音〉と併走する〈篠宮《アルザス》悠〉を眺めながらノルトマン達はそう思い始めていた。
+ そうこうしていた10月10日、枢軸側の第二機動艦隊が英本土に奇襲をかけてきた。これに対しドイツ側は「タイフーン」作戦の名のもとに第二航空艦隊(フランス第一航空師団も指揮下に入っている)による夜間空襲をかけ、空母10隻、戦艦4隻を撃沈。残余の艦隊はほうほうの体で逃走中という「大戦果」を挙げた。{{br}}
+ これだけ空母を叩けば枢軸側には母艦兵力はない、戦果拡大の絶好のチャンスだ。そう判断したヒトラーは高海艦隊を投入させ、さらには第一遊撃部隊と称して〈篠宮《アルザス》悠〉らも引きぬいて追撃に参加させることになった。「空母機を作戦には使用しない」と前に説得して母艦機を引きぬいた、だから機動部隊の出撃はしばらくない。だから護衛もいらないだろう。というよりデーニッツ自身が「戦果」を疑問視していたのだ。二度目の別れ。また遠くに行ってしまうのか。「戻ってくる」という言葉を残さずに・・・{{br}}
+ そして残敵追撃と搭乗員救出と思って出かけてみれば枢軸機動部隊は健在、逆に空襲を受けそうになり慌ててフリージア諸島に避難、これで戻れるかと思えばアフリカ方面司令部に編入されて今度は「スペインの攻撃に備えるため」という理由で北アフリカへ。そして12月下旬にカサブランカに到着。とはいえ予想されたスペイン艦隊の攻撃もなくただ日々が過ぎていく。ここでアフリカ地域司令部所属の〈三梨《シャルルマーニュ》涼子〉が編入されたが、だからといってリガに戻れる訳でもない。そして1月、とりまとめた艦隊はフランス本国に移動した。目的は極めてあいまい、第二義戦力とはそういうものだ。{{br}}
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+!出撃
+ 1月23日昼、マルザン部隊はボルドー湾に到着。この時始めて正式な命令書が電信室に送られてきた。合同艦隊とともにケフィラビクに突入するという簡単明瞭なものだった。突入時間から逆算するとぼんやりとはしていられない、目的地はアイスランドにあり、通過すべきはノース海峡なのだから。しかしケフィラビクとかアイリッシュ海とかの詳細な知識も資料も無く、そもそも高海艦隊や合同艦隊と協同訓練はおろか打ち合わせもしてない。だからといって無線で聞くことも出来ない。憤慨するランスロー艦長や幕僚達にマルザン提督は「ただ一途に本分を尽くせ。文句は冥王の前であらためて聞く」と叱咤した。{{br}}
+ 憤慨するのはわかる、今まで第一航空艦隊とやってきた共同訓練が全て無駄になるのだ、だが愚痴や弁解を言っている時間はない、命令を受けた以上遂行しなければ。{{br}}
+ 23日午後、ロリアン沖に到着したマルザン部隊は待機しているタンカーから燃料を・・・が、タンカーが来なかった。仕方ないので駆逐艦は〈篠宮《アルザス》悠〉から燃料を分けてもらった。どこまでも第二義、つまり「サブキャラ」に近い扱いか。乗員の一部からは不満が出てくるのは仕方ない、実際問題マルザンだって不満を抱えているのだから{{br}}
+それでも第一遊撃部隊は合同艦隊を追ってノース海峡を目指す。幸いにして空襲も潜水艦の襲撃も全くなく、追いつくのも時間の問題となっていた。{{br}}
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+!突入
+ 1月24日2300分、合同艦隊は闇夜を突いてセント・ジョーンズ海峡に入った。このまま進めばノース海峡には翌日0300分頃に到着する。{{br}}
+ この時、クメッツの北米艦隊は以下の編成になっていた。{{br}}
+ 戦艦:〈双葉《フォン・モルトケ》涼子〉(旗艦)〈岩倉《ツオルンドルフ》夏姫〉{{br}}
+ 軽空母:〈愛沢《ライン》ともみ〉{{br}}
+ 装甲艦:〈桜橋《ロートリンゲン》涼香〉{{br}}
+ 軽巡洋艦:〈佐久間《マインツ》晴姫〉〈ポンメルン〉{{br}}
+ 駆逐艦:〈志摩《Z20》紀子〉〈神塚《Z25》ユキ〉、他に4隻{{br}}
+そしてこの後につくグートンのフランス本国艦隊は{{br}}
+ 戦列艦:〈佐伯《クレマンソー》玲奈〉(旗艦)〈持田《ガスコーニュ》祥子〉〈ブルゴーニュ〉〈ラングドック〉{{br}}
+ 軽空母:〈雛咲《パンルヴェ》祭里〉{{br}}
+ 重巡洋艦:〈サン・ルイ〉〈ゴーロワ〉〈アルジェリー〉〈デュプレクス〉{{br}}
+ 軽巡洋艦:〈明石《シャトールノー》達郎〉〈ジョルジュ・レイグ〉〈エミール・ベルタン〉〈ラ・ガリソニエール〉{{br}}
+ 駆逐艦:〈佐伯《ランドンタブル》正義〉、他に11隻{{br}}
+ 戦艦6隻を中心とする打撃力は一見した限り、高海艦隊のそれを上回る。だが二人の司令官の思考が「合同」を名ばかりのものにしかねない状態だった。{{br}}
+ オスカル・クメッツ大将はフランス艦隊を頭痛の種としか思っていなかった。カリブの経験から彼はフランス艦隊を信用できない存在とみていた。そもそもマルティニーク島攻防戦にズルズルと引きこんだのはどこの国だ。{{br}}
+ 対してピエール・グートン中将は(階級と年齢がクメッツより下だから)一応彼の指揮下にはあったが、内心は失望していた。面子ばかり立ててこちらの行動を掣肘し、せっかくのカリブ海でのチャンスを潰したのはどこの国だ。{{br}}
+ これを迎え撃つべく松田千秋中将の日本第一艦隊はクルー湾から出撃、以下の布陣を敷き、ノース海峡の「罠」の口を閉じようとしていた。{{br}}
+ 戦艦:〈澤田《信濃》真紀子〉(旗艦)〈高瀬《大和》瑞希〉〈宮内《伊吹》レミィ〉〈宮内《鞍馬》ジョージ〉{{br}}
+   〈神津《ニューハンプシャー》麻美〉〈長谷部《高千穂》彩〉〈新城《穂高》さおり〉{{br}}
+ 装甲巡洋艦:〈大庭《白根》詠美〉〈千堂〉〈九品仏〉〈七瀬《ハワイ》留美〉{{br}}
+ 駆逐艦:22隻{{br}}
+ 46センチ砲戦艦5隻を始めとする砲撃力なら合同艦隊を凌ぐ、だが松田は編成を見て嘆いていた。「巡洋艦」がいないのだ。元々日本は巡洋艦が少ない上に補充は大柄な装甲巡洋艦ばかり、とうとう「ひょうたん」のような編成になってしまったのだ。{{br}}
+ 10隻以上の巡洋艦を擁する合同艦隊との接近夜戦に持ちこまれたら振りまわされた挙句に大損害は免れない。だから彼らは対艦噴進弾を搭載した駆逐艦に先制攻撃させる方法を選んだ。そうやって巡洋艦以下の艦艇を削り、次の砲戦に対して優位を保つ。{{br}}
+ そのためには戦艦部隊の護衛が一時的に無くなってもかまわない。〈大庭《白根》詠美〉に座乗する杉浦矩朗少将には「したぼく」と呼ばれる装甲巡洋艦と駆逐艦からなる遊撃隊を引き連れて南下させ、自らはノース海峡を塞ぐように東に向った。後は哨戒機(九式長距離陸上警戒管制機/富嶽改)の報告待ちだ。海軍を見限った連中(統合航空軍)に頼らないといけないのは多少癪に障るが。{{br}}
+ さて一方の合同艦隊、風が雲を払い、月が輝き、艦隊が淡く存在を表す。そして哨戒機からの電波が増幅する。発見されたと判断したクメッツは射撃を命じた。瞬殺するか追い払わないと位置がバレる。
+ 「対空射撃を命じろ、短時間ならレーダーの発振も大丈夫だろう」{{br}}
+ 外周の駆逐艦が対空射撃を始めたのはグートンにも見えた。しかもレーダー射撃で。{{br}}
+ 「何がしたいんだ?」{{br}}
+ ダメだ、あのドイツ人は。マルタでイタリア人が半年前に失敗したことを真似している。学習能力というものがないのか。彼はすぐに「対空戦闘用意!」を通信させた。次に来るのはミサイルの一斉攻撃だ。敵はこちらを見つけたんだから。{{br}}
+ 「またフランス人め!」{{br}}
+ フランス側の通信が一挙に増大し、対空陣形をとったことにクメッツはうめいた。せっかく電波発振を最小限度にとどめたのにあんな派手にやったらバレるではないか!{{br}}
+ いや、完全にバレていた。哨戒機はわざと電波を出して合同艦隊を誘ったのだ。{{br}}
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+!射撃
+ 「ポチ、撃ち方始め!」{{br}}
+ 0320分、〈大庭《白根》詠美〉に座乗する杉浦の命令一過、一斉に十式誘導弾が発射された。その数138発。{{br}}
+ 去年7月のマルタ沖海戦で使われたタイプよりも一層完成度が高く、能力が上がった対艦誘導弾はほとんど音速で敵艦に突進、あらゆる妨害を突破して48発が命中した。{{br}}
+まず前衛にいた〈Z62〉が直撃により内部から捻じ曲がるように沈没していく。続けて〈双葉《フォン・モルトケ》涼子〉に5発、〈佐伯《クレマンソー》玲奈〉に3発が命中。だが「戦艦」としてはこの新兵器に耐えぬいた。マルタ沖でイタリア戦艦が身をもって証明したように、複合装甲化され、空間を取れる「幅」のある戦艦では噴進弾だけでは沈めることはできない。ノース海峡でも結果は同じだった。しかし「戦艦」としての基本機能以外・・・レーダーのような脆弱物は使い物にならなくなり、主砲以外の構造物は燃え上がってしまった。装甲と「幅」を持てない巡洋艦以下の艦艇はいわずもがな。航空機ならぬ対艦ミサイルを「ナンパ」(撃墜)しようとした〈明石《シャトールノー》達郎〉が失敗して大火災に包まれ、〈ポンメルン〉が真っ二つに折れて轟沈している。{{br}}
+ 合同艦隊は不幸で不運で悲惨だった、多分世界の海戦史上最も不幸な艦隊ではないだろうか?しかもこれはまだ前座に過ぎない。本当の不幸はこれからやって来る。{{br}}
+ 0330分、松田は「撃ち方始め」を命じ、射撃データに基づいて複数の艦が連動して同じ目標を射撃する統一管制射撃を始めた。{{br}}
+ 〈澤田《信濃》真紀子〉〈高瀬《大和》瑞希〉は先頭艦を相手取り、〈宮内《伊吹》レミィ〉〈宮内《鞍馬》ジョージ〉は2番艦に、〈神津《ニューハンプシャー》麻美〉は3番艦に対して単艦で射撃、そして〈長谷部《高千穂》彩〉〈新城《穂高》さおり〉が4番艦を受け持つ 。最後に対艦噴進弾を撃ち終えた遊撃部隊はは駆逐艦とともに突撃、その他の艦を狙う。全艦が消焔火薬と超重量弾を用い、一挙に敵艦隊に大打撃を与える腹積もりだ。{{br}}
+ 〈双葉《フォン・モルトケ》涼子〉を24本の水柱が覆い、7万トンの巨体に震動が走る。クメッツは焦った。ミサイルを食らった上に味方艦隊はまだ1発も撃っていない。それなのにこの有様か。敵はどこだ。射撃データはまだか。だが射撃しようにも「眼鏡」たるレーダー等がなければどうしようもない。
+ だがまだ彼女は幸運な方だった。〈岩倉《ツオルンドルフ》夏姫〉の方は16発の初弾のうち4発が命中している。「ハンター」と呼ばれた〈宮内《伊吹》レミィ〉の戦闘能力はより正確に彼女を射抜き、煙突部と中央部から火災を発生させている。{{br}}
+ さらに不運だったのが〈持田《ガスコーニュ》祥子〉で、〈長谷部《高千穂》彩〉からの命中は2発だった。しかし艦尾のほとんど同じ場所に直撃したからたまらない。〈持田《ガスコーニュ》祥子〉に実質80センチ砲が当たったような衝撃が走り、艦尾部分が瞬時に粉砕された。さらに〈新城《穂高》さおり〉が放った40センチ砲弾がまんべんなく命中、一挙に火の玉に包まれる。{{br}}
+ クメッツは愕然とした、馬鹿な。このままでは日本海海戦のロシア艦隊になってしまう。だが彼が身の不運を嘆く時間は残されていなかった。現実の厳しさを叩きこむかのように〈澤田《信濃》真紀子〉〈高瀬《大和》瑞希〉からの斉射が8発の命中弾とともに〈双葉《フォン・モルトケ》涼子〉、そして彼を粉砕した。{{br}}
+ 一方のグートンはこの時点では幸運だった。彼にはまだ「やむをえん、閃光を目標にして撃て!」と命じ、〈佐伯《クレマンソー》玲奈〉に2回の斉射をさせる時間があったのだから。だが〈神津《ニューハンプシャー》麻美〉の5斉射目が命中、続けて目標を変えたを含めた他戦艦による一斉射撃をまともにくらって主砲以下をほとんど叩き壊されてしまった。{{br}}
+ 「もう走れないな、ケフィラビク突入は無理だよ。不可能だよ、這ってもダメだよ」{{br}}
+戦意を失ったグートン中将はソーシーヌ艦長に相談するように言った。{{br}}
+「本艦は戦闘艦艇です、我々は船乗りです、1門でも、1発でも撃てる限り、最後まで戦いましょう」{{br}}
+ ソーシーヌは強く言った。「失敗よりは死」が彼のモットーだ。{{br}}
+「しかしこんな状態でどうやって突入するんだ!」{{br}}
+「このままおめおめと帰れますか!体当たりしてでも敵に一矢を報いねば!」{{br}}
+ その瞬間、艦橋を砲弾が貫き、司令部と艦首脳を一瞬のうちに葬り去った。もはや北上する理由も意思も能力はない。0357分、砲術長が指揮を執りつつ彼女は反転、6ノットで南下を始めた。{{br}}
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